第二夢
「はじめまして。『私立色音学園・高等部』校長補佐の霰野です。どうぞよろしく」
「はじめ…まして」
(美人な女性だなぁー…。できる女って感じがすごい…)
霰野は20代中盤くらいの女性だった。
「では、こちらに」
初等部の廊下を歩き出した。
「白鳥さん。あなたはスマホをお持ちでしょうか?」
「え、ええ。持ってますが…」
「先程聞いたと思いますが、この学園では通常のスマホは使えないんですよ。なので、学園側が用意したものに変えてもらっているんですが、白鳥さんは変えるのは大丈夫でしょうか」
「はい。大丈夫です。先程、妹のを見ていましたが、特別、危険なこともなさそうなので」
「妹…。二人いらっしゃいましたね」
「そうですね。双子の姉妹です」
「双子…。見た感じ、性格は全然違いそうでしたね」
「あー。そう見えますか…。まあ、実際そうなんですがね」
初等部2号館を出た。
「初等部から高等部までは1kmほどありますので」
「1km…。どんだけ広いんだ…」
「学園全体の敷地面積が約295000㎡ですからね」
「でかい…のか?」
「それなりには大きいはずです」
その後、霰野さんは学校の施設や部活などについて教えてくれた。
「ここが高等部の2号館です」
「初等部のよりも大きいんですね」
「それはそうでしょう。初等部と同じ規模…あるいはより小さいと、初等部、あるいは幼少部になってしまいますからね」
(それもそうか…)
「では、生徒会室へ案内いたします」
「生徒会室?校長室じゃないんですか」
「ええ。大体、生徒の事情は生徒会の役目です」
生徒会室は2階の最端にあった。
「篳篥生徒会長。白鳥さんをお連れしました」
生徒会室の中には、背の高いメガネのクールな男性がいた。
「ああ。ありがとうございます。ここから先は生徒会の役目ですので、お帰りいただいて結構です」
「では。失礼します」
霰野が生徒会室から出ていった。生徒会室の中には生徒会長と呼ばれた男性と俺だけだ。
「さて。君が白鳥黒衛だな?」
「そうですが…」
「私は高等部生徒会長の篳篥奏だ。よろしく」
手を差し出してきた。
「よろしく…お願いします」
握り返し、挨拶をした。
「早速だが、姫川。書類持ってこい」
「分かりました」
姫川と呼ばれた女性が初等部と同様に奥の部屋へと消えていった。
「先ほどの彼女は姫川鼓美。高等部生徒副会長だ」
「…生徒会には何人いるんですか?」
「生徒会長の私。生徒副会長の姫川。書記の荒谷と響。会計の出雲の5人だな」
「一人だけ名前で呼んでましたね」
「響か?彼は私の弟だからな」
「きょ、兄弟揃って生徒会ですか…!」
「珍しいか?」
(どっちも優秀ってことだよな…。うちの兄妹とは真反対だな)
「生徒会長。持ってきました」
「ああ。ありがとう。白鳥は初等部で妹の転入手続きをしてきたらしいな」
「え、ええ。そうです」
「なら、話が早い。やることは全く一緒だ」
ということで、書類に
『白鳥黒衛 16歳 男 県立憲律高等学校出身』
と書き、学校側が用意したスマホに情報を読み込み…。そこから先は割愛だ。
「これで白鳥。君の転入は完了した。君の転入を生徒会長として歓迎しよう」
「ありがとうございます」
「ところで白鳥。なぜ君が転入出来たか、分かるか?」
「さあ…?空きがあったからじゃないんですか?」
奏が頭を振った。
「違う。白鳥。君はこの学園が特殊なものだと知らないのか?」
「能力が特出している人を優先的に入れる…でしたっけ」
「そうだ。なら、君には能力がある。ということになるな。君自身は分かっているか?」
「いや…。自分に特別、すごい能力があるとは思っていませんから」
「ほう。そうか。なら…」
言い終わる前に奏は俺に向かって回し蹴りを繰り出してきた。
「っぶね!」
「避けられるじゃないか」
(なんだ…?今の感覚…。既視感?)
「教えてやる。君の能力は、『見た夢を正夢にすることが出来る』だ。私の蹴りを避けることが出来たのは夢で見たからだろう」
「な、なんで俺でも知らないことを知っているんですか…?」
「それは私の能力が『見た相手の特出したものを見抜く』というものだからだ」
「能力って…。そういう『能力』なんですか?」
「勿論、運動ができるなどといった能力を持っている人間の方が、この学園は多いが、私達のような俗に言う『異能力』だとか『超能力』だとかを持っている人間もいるんだ。君が配属される、Bクラスにはそういった人が多い」
「じゃあ、妹達も何かあるんですか?」
「いや、彼女らには何も無いだろう。運動が出来る、勉強がかなり出来る。そういうのだと思う。詳しいことは知らないがな」
確かに、蒼惟は運動神経抜群だし、紅音は勉強がかなり出来る。俺には何も無いものかと思っていた。
「まあ、今は転入手続きのために来てもらっただけだから、あまり長くは話さないようにしよう。何かあればこのスマホで私を呼び出してくれればいい」
「は、はあ。では、俺はこれで失礼します」
「外にBクラスの担任がいるはずだ。その人について行け」
「ありがとうございます」
生徒会室を出ると、女性が立っていた。先ほどの霰野さんとは違った雰囲気のできる女感がある。
「高等部1-B担任の指宿夕夏だ」
「あなたが担任ですか。担当教科は…」
「化学だ」
「そうですか…」
即答だったな…。
「じゃあついて来い。全教室、1号館にある。まあ、ものの数分で着くさ」
そう言って指宿先生は廊下を歩き出した。
「特別教室も1号館なんですか?」
「いや。特別教室は3,4号館だ。音楽室、美術室などの芸術系のものは3。科学室などの通常授業で使うようなものは4にある。…あそこが1号館だ」
指宿先生が指さした方を見ると、
「こりゃまたでかい建物だなー」
「そうだな。普通の高校よりは大きいだろう」
俺達は2号館を出、1号館へと入っていった。
「1年の学級は10クラス全て1階にある。それ以上の階には2,3年の学級がある」
Jクラスの横を通る時に中を見ると、不良のような輩が沢山いた。
「あのー、先生。この学校のクラス分けって…」
「Jを見てしまったか。思っている通りだろう。Jがゴミの掃き溜め。Aは優秀。そういうカーストになっている」
「それ、変動することってあるんですか?」
「何か特出したものを持ち、且成績優秀なら、個人で上がることが出来る」
「クラスで上がることは…」
「ほとんど無理だが、一応そういったものはある。スマホを見てみろ」
Bクラスの前で止まり、先程渡されたスマホを見た。
「学生証を出してみろ」
学生証…。ホーム画面の左上にあった。
「そこの中央少し下に数字が書いてあるだろう」
150000ynm。なんだこれ?
「それはエノム。学園内通貨だな。高等部から入学した人には100000ynmが最初から入金されている。お前は転入生だからプラス50000だ。1ynmにつき、1円の価値がある」
「すげえ大金…」
「そのエノムは学園内にあるどんなものでも買える。例外はあるがな。ここまで説明すれば分かるだろう。これで分からないのならば、C…いや、Dに落ちてもらう」
「理解しましたよ…」
「ほう?説明したまえ」
「大金積み上げて買えばいいんですよね?クラスを」
「まあ、そうだな。さっきのは冗談だが、説明出来なかったらどうしようかと思っていた」
「やべぇ。笑えねぇ」
「ハハハ。そうか。まあ、いい」
そう言いながら先生はBクラスへと入っていった。
「ついて来い」