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黒い白鳥  作者: ツァイト・ツァラトゥストラ
2/10

第一夢

「お兄ちゃん!起きろー!」

「んん…。」

「うおおおおお!てりゃ!」

ボスン。

「ぐはっ!」

「起きた?」

目を開けると、俺の腹の上に妹が乗っていた。

「…。紅音(アカネ)。その起こし方やめろって言ったよな?」

「だって、お兄ちゃんが起きないのが悪いんじゃん」

「毎朝、(あばら)が折れてるんだけど?」

「まあ、お兄ちゃんのねぼすけが治るまで、私はやり続けるかもね〜」

紅音は言いながら、俺の部屋を出ていった。

「はぁ。マジかよあいつ…。そのうち死ぬぞ?…。それにしても、今日はいつも見る夢が今日は現実感が凄かったような…?それに、今日はいつもと人が違った…。何でだ?」

ベッドの掛け布団を直しながら、俺はそう呟いた。

部屋を出る時に時計を見ると、午前7時だった。


2階の俺の部屋から、1階のリビングに行くと、もう既にみんなが起きていたようだ。

黒衛(クロエ)。遅かったね。今日は転入の手続きがある筈だけど、何してたの?」

母さんが聞いてきた。

「何でもないよ。ベッドが俺を離さなかっただけだよ」

「クロ(にい)何言ってんの?」

「冗談だよ。蒼惟(アオイ)

俺の家族は父、母、12歳の双子の紅音と蒼惟、18歳の姉、そして16歳の俺の6人家族だ。姉は前の街の大学に進学して、1人暮らしのため、今は家にいない。父も、既に仕事に行ったようだ。

「早くしないと、転入できなくなっちゃうよ?」

「それはお前もだろ。蒼惟。何ボーッとテレビ見てんだ」

テレビを見ると、

『昨夜、色音(しきね)市上空で、大規模な爆発が起こりました。死傷者は今のところいない模様です。政府はこの事件に関し、空爆も視野に入れ警察と共に捜査を進めています。』

色音市は俺達が住む街だ。

「爆発…だなんて、気が付かなかったな…」

「そうね。母さんも気付かなかったわ」

爆発…。大規模なら、みんな寝ていても気づくと思うのだが…。

時計を見ると、午前8時。学校の登校時間は8時30分までだ。

「…。ヤベ!もうこんな時間じゃん!紅音、蒼惟、行くぞ!」

「待って、お兄ちゃん!」「クロ兄!」

「あなたはこれから、寮での生活になるんだから、家でゆっくりして行けばいいのに…」

「遅れる方がまずい!」

「気を付けて行ってらっしゃい」

「「「行ってきます!」」」

3人の声が響き渡った。



学校までは走っていった。紅音は俺に担がれ、蒼惟は横を平然と並走している。

「蒼惟…。はぁはぁ。どんだけ…、体力…、あるんだよ…」

「これが普通。クロ兄が無いだけ」

「ああ…、そうなのか…?…。というか…、紅音降りろ…!お前は体力が無さすぎだ!」

呼吸が普通の状態に戻った。

「いやいや。9歳のか弱い女の子だよ?これくらい普通だって」

「人の腹に飛んでくる奴が何言ってる…!」

「茶番はこれ位にして…。クロ兄。どこに行けば良いの?」

「ああ。えーと、広いな…。とりあえず、先に初等部に行くか…。地図地図…」

あった。電子掲示板なのか。さすが国立だな。それによると、校門からまっすぐ北に600m程進んでいけば初等部に着くらしい。


「600mくらい歩けよ!」

紅音はまた担がれていた。

「蒼惟は先に走っていくな!」

「だってクロ兄が遅いから…」

「紅音担いでんの!しょうがないだろ!」

「お兄ちゃん、早くして!」

誰のせいだよ!

心の中でそう叫びつつ、俺達は初等部の2号館の中に入って行った。

俺達が転入するのは『国立色音学園』。この学園には『幼少部』から『大学部』まであり、学園生活を満喫していれば、エスカレーターで行けるという、夢のような学園だ。この学園は、様々な能力を持った人が優先的に入学、転入出来るという制度がある。例えば、サッカーが上手だとか、歌が上手いだとか、勉強がかなり出来るだとかそういう能力だ。特に、俺達にはそんないい能力はないと思うが、多分親のツテで入れたのだろう。

2号館は、職員室や校長室、特別教室などがある建物だった。

奥に進んでいくと、校長室の前に感じのいい男の人が立っていた。

白鳥(しらとり)様でしょうか?」

「はい。そうです」

(わたくし)、初等部校長補佐の雨崎(あまざき)と申します。…さ、どうぞ中へ」

「はい」

ドアをノックし、

「失礼します」

中に入ると、the校長室といったような感じだった。

「ようこそ。色音学園へ」

そう中にいた60代中盤くらいの男性が言った。

「私は、初等部校長の晴山(はれやま)(すぐる)と申します。さて、早速ですが、転入手続きを始めましょうか。雨崎さん。書類持ってきて下さい」

「かしこまりました」

そう言って雨崎は、校長席の向かって右側にあるドアの中へと消えていった。

「さて。雨崎が戻ってくるまで。白鳥さん。妹さんはスマートフォンはお持ちでしょうか?」

「…蒼惟は持ってますけど、紅音は持ってません」

「そうですか。この学園では、スマートフォンは必需品なんですよ。では蒼惟さん。あなたのスマートフォンを出して頂けますか?」

「はい」

蒼惟が青いスマホを取り出した。

「貸して頂けますか?」

蒼惟がスマホを晴山に渡した。

「白鳥さん。一応、蒼惟さんの保護者として聞きますが、このスマートフォンのデータを移行しても構いませんか?」

「?何のために?」

「学園内でこれは使えないんですよ。なので、入学時に皆さんはこちらのものにデータを移行、或いは登録していただいているんです」

どういう事だ?そのまま使えばいいのに。

「このスマートフォンには、学生証、その学生のクラスの全員の名簿及びアドレス、その他諸々が登録されるんです」

「変えなくてはいけないんですか?」

「そうですねぇ。変えないという方もいましたが、その方は随分と苦労されているようですよ」

俺は蒼惟を見た。蒼惟も俺の方を見ていたようだ。その何も考えていないような顔の奥で、何かを訴えかけていた。

そうだ。蒼惟は前の学校で友達があまりいなかった。そういう不安因子は取り除いていこうとしているのか。

「分かりました。学園側のものに変えます」

「承知しました。紅音さんのものも用意いたします」

晴山は立ち上がり、雨崎が消えていった部屋へと行った。

「お兄ちゃん。この学校、面倒だね」

「そういうことを言うもんじゃない」

「クロ兄。面倒」

「俺が面倒のように聞こえるぞ…」

「何ですぐに承認しなかったの」

「それは、もし、悪用されたら困るからだ」

「校長というものが、悪用するはずない」

「さあ、どうだろうね。世の中にはそんなクソみたいな教師は巨万(ごまん)といるんだ」

「白鳥様。この書類に記入してください」

雨崎が部屋から出てきながら言った。

「分かりました」

書類は『初等部転入手続き』と書かれたものだった。

「ここに、本人の名前と年齢、性別、出身校を書いてください」

『白鳥紅音 12歳 女 県立憲律(けんりつ)小学校出身』

『白鳥蒼惟 12歳 女 県立憲律小学校出身』

「これでいいですか?」

「はい。ありがとうございます」

「雨崎さん。終わりましたか?」

部屋から出てきていた晴山が雨崎にそう問うた。

「はい。あとは晴山校長の役目のみです」

「では、白鳥…紅音さん。蒼惟さん。これがあなた方の情報を保存するスマートフォンです」

赤と青のスマホを晴山は持っていた。

「そのスマートフォンに情報を登録しますので、先程書いた書類に、『AR』というアプリケーションを開き、スマートフォンのカメラを向けてください」

「こ、こう…ですか?」

「そうです。読み込みましたね。終了です。何か間違っている部分がないか確認してください」

2人のスマホを見た。そこにはサイトの新規登録画面のようなものが写っていて、そこの欄にそれぞれ、書類にさっき書いた情報が書いてあった。

「どっちも無いです」

「そうですか。白鳥さんは時が綺麗でしたからね」

「はは。そうですかね」

照れるじゃないか。

「では、紅音さんはこれで終了です。蒼惟さんの方はデータの移行がありますので、少々お待ちください」

そう言うと晴山は、校長机の引き出しの中から、機械を取り出した。

「この右側の赤い所に前の物を。左側の青い所に学校側の物を装着してください」

双方に蒼惟は装着した。

その後、晴山は中央にあるボタンを押した。

「これで完了です。大規模なやり方ですが、これが伝統なので…」

蒼惟が学校側のスマホをみると、

「すごい。データが移ってる」

「あの機械で、か。すごいな」

「では。これで転入手続きは終了です。改めまして、『私立最神学園』はあなた方のお二方の転入を歓迎いたします。それでは、教室へ案内いたしますので、雨崎さんについて行ってください」

「お兄ちゃん、バイバーイ!」

「クロ兄。また後でね」

「うん。後で」

「お兄様の方は高等部に、あちらにいらっしゃる高等部校長補佐の霰野(あられの)が案内いたしますので。霰野さんよろしくお願いします」

「承知しました」

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