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 ーー王子誕生から3年が経過した。

 メルガは頭の上に大きな籠を抱えて商店街を歩いていた。籠の中には買ったばかりの新鮮な野菜が山ほど入っている。おかげでさっきから転びそうになっては路店の大人たちに心配させている。

「わっ…!」

 誰かにぶつかったのだろう。メルガは籠を持ったままバランスを崩しそうになった。

「ほら、無理しちゃダメよ。全部転がっていっちゃったらどうするの」

 ティーフィーはメルガの籠を上からひょいと持ち上げると元来た道を戻り始める。

「お…お姉ちゃん。」

「帰りましょ、ステアが待ってるわ。」

「うん。」

 ティーフィーはメルガの頭をなでると持っていた白い花を髪にさしてやった。

「もう、お姉ちゃん!子供扱いしないでよ。メルガだってもう7歳なんだよ。」

「はいはい、私にとっては充分子供よ。」

 そう言って歩き出すティーフィーの長く伸びた亜麻色の髪はメルガと同じ花で飾ってあった。

「ステア。」

「お姉ちゃ〜ん。」

 メルガは家に着くなりステアの胸に飛び込んでいった。

「はは、お帰りなさい。姉様、メルガ。」

「ステアの敬語はどうやっても抜けないわね。」

 ティーフィーが野菜の籠を置きながらそう言うとステアは恥ずかしそうに髪をいじった。

「今更もうやめて下さいよ、姉様。」

 ステアは離れようとしないメルガを自分からはがして椅子に座らせてやると、もう一度ティーフィーに向き直って口を開いた。

「それはそうと姉様、最近ここら辺でも噂になっているんですよ。近いうちに王が最後の謁見を開くと。」

「お父様が…?」

「ええ。詳しいことは分かりませんが…。私としては名も知らぬ弟が気がかりというものでしょうか。」

 ステアはいいながら遥か彼方にいる王子を思ってか窓の外を見上げた。ティーフィーもつられて外をみると、黙って話を聞いていたメルガが突然立ち上がってティーフィーの背中に飛びついた。

「ちょっとなに?メルガ。」

「私弟の名前知ってるよ。エデンっていうの!」

「「!?」」

 妹の思いもよらぬ発言に姉二人は思わず顔を見合わせた。

「それ本当なの、メルガ!」

 ティーフィーがメルガを下ろしてそう聞くとメルガは何か嬉しそうに昨日あったことを話し始めた。

「あのね〜、昨日メルガのこと知ってる王宮の召使に会ったの。それでー、…王様がもう長くないってことと、王様が死んじゃったらこれからどうするのかってことで問題になってるんだって教えてもらったの。その時に、エデン王子は、6歳になるまでは即位できないんだって言ってて、。」

 メルガはこれで終わりとばかりに首を傾げて見せた。

「姉様…。」

「6歳まで即位できない?むしろ、そんなに小さくても即位できてしまうの!?」

「姉様!」

 ティーフィーは小さく首を振って呟いた。

「エデン…」


 その晩は久しぶりに雨漏りが心配になる程の大雨が降った。


「ーああ。本当だよ。つっても、ここからじゃ遠すぎる。歩いたら軽く2日はかかるし、馬車はそんなに数がないからなぁ。俺たちはいけねぇよ。」

「…そうですか。ありがとうございます。」

「…ありがとうございます」

 ティーフィーとステアは軽くお辞儀をしてその場から離れようとした。

「待て、お嬢ちゃんたち。行きてぇんなら店の馬車を貸してやるよ。それでも間に合うかは分からねぇが…。」

「…いいんですか?」「いいの!?」

 ティーフィーの背中から飛び降りたメルガがステアをすり抜けておじさんに突進する。ステアは慌ててメルガを引き剥がすとあやまった。

「すみません、妹です…」

「いいの!?やった!弟に会える〜!!」

 ステアはメルガの口をふさごうとするが、路店のおじさんの耳にはしっかり届いただろう。

「弟?」

「王都に父と弟が居るんです。この子はそっちの方が楽しみにしていて…。」

「そうかそうか。それなら馬車を貸しても損はないな。」

 おじさんは元気よく笑うと、店の脇にある大きな馬車を指差した。

 それを見たステアは少し顔を曇らせた。

「…おいくらでしょうか。」

「そうね。」

 メルガを背負い直したティーフィーもステアの横に並んで馬車を見上げた。

「無料でいいよ。近所の友達に本を貸してあげるくらいのノリでさ。」

 ティーフィーとステアはぱぁっと顔を輝かせてお互いを見やった。

「「ありがとうございます!」」「やったー!」

「それじゃ、明日の朝にでも取りにおいで。操縦はうちのものを乗せてやろう。」

「いえ、遠慮させていただきます。操縦なら私も出来るので。」

 間一髪入れずにそう言うとステアは姉の手を引いて歩き出した。

 ティーフィーは慌てて振り返ってもう一度お礼を言うと、ステアのツインテールの片方を引っ張った。

「あんな言い方しなくてもいいじゃない。」

「…ごめんなさい。つい」

「いいのよ、それに、頼りにしてるわ。」

 ステアは、その言葉に若干照れながら髪をひとしきりいじった後、ティーフィーに肩車されて楽しそうに笑っているメルガをみて一言呟いた。

「代わりましょうか。」

 しかしティーフィーは軽く手を振るとステアを追い越して走り出した。

「あは、あはははっ、たーのしぃ〜!」

 メルガね笑い声とティーフィーの素直な笑顔にステアもふっと微笑んだ。

「姉様!さっきはありがとうございました、メルガが弟とか言った時はバレるかと…。」

「ああ、それ。メルガ!今度はそんなこと言ったらダメよ。」

「はぁーい!きゃはははっ」

 二人の姉妹を追いかけながらステアは心から思った。

『この笑顔がずっと続きますように』

「ずっと笑って過ごせたらいいな!」


 三人の髪が風に揺れる。


 これは三人の少女の物語。


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