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「メルガ、離れないでね。」

 3人は、いつものように市場にお使いに出かけると、いつもより少し多い品目の書かれたリストを広げて目を輝かせていた。

「マルガリーノさんのお店はもう少し北よ。今日は少し遠くまで行けるわね。」

 ティーフィーが北を示してにっこり笑うと、ステアも頷いた。メルガはますます目を輝かせてステアの腕にしがみついた。

「王子さまが生まれたお祝いなんだって!」

「ちょっとメルガ…あんまりぶら下がらないで下さい。」

 ステアがメルガを叱る様に身をかがめていると、丁度歩いて来た背の高い男がぶつかって来た。

「あ、すみません!」

 ステアは慌てて振り返って頭を下げたが、男の方はまるで気にしてないというように

「良いって良いって。」

 と手を振ると、一緒にいた若い女と再び会話を始めた。

「でさー、王妃様、今朝亡くなったんだって。」

「ヘぇー。」

「なんかさ、王子様産んでから体調悪かったのが悪化してアッサリ死んじゃったらしい。」

「へぇー、可哀想…。」

 メルガは不思議そうにステアを見ていたが、ステアは違った。

「ちょっと!今の話本当ですか!」

 ステアはすごい勢いで引き返すと男の肩を掴んで大きく揺らした。

 …嘘だと言って。嘘だって。冗談だよって。

 お願い…。

 しかし、ステアの祈りはあっさり打ち砕かれた。

「本当、だけど…。王都に住んでる友達がさ、今朝1番で、、王都が大騒ぎになってるって。なんなの?お前。」

 男は不思議そうな顔でステアを見つめたが、連れの女が「行こ。」と手を引くとあっさり去って行った。

 ステアはしゃがみこんでいた。


 お母様が、亡くなった。


「どうしたの?お姉ぇちゃん。」

 メルガがステアの服を引っ張ると、ステアは涙の滲んだ目で、力なく微笑んだ。


 一方、ティーフィーは、はぐれた二人を探して、元来た場所を、右往左往していた。

「もー!どこ行ったのよあの二人!」

 思わず手に持っていたリストを握りしめると、丁度市場のおじさんから声がかかった。

「お嬢ちゃんフィリスちゃんだよね?」

「え?…はい。」

 嫌な予感がする…。

 ティーフィーがおじさんに近づくと、彼はひどく焦った様子で次の言葉を発した。

「デミスさんが亡くなったそうだよ。ここのところ体を悪くしていてねぇ。知ってるかい?」

「…お嬢ちゃん?」

 ティーフィーは力の入りすぎた口を震わせながら、無理やり動かすと、やっとの事で声を発した。

「…知ってます。今日は。おつかいを頼まれて…うっ…嘘、ですよね…?」

 顔を上げたティーフィーの表情に、もう希望はなかった。もう、長くないなんて知ってたはずなのに。。

 1秒でも長く一緒にいれば良かったんだ。ただ、後悔の念がティーフィーを包んだ。

「とにかく、早く家に戻るといい。」

「はいっ…」

 ティーフィーは走り出した。


 ステアは走っていた、メルガを抱いて。

 早く、早く姉様に伝えなきゃ。

 早く、この事を…。

 市場を出て、通りを抜け、やがて迫って来たデミスの家を見て、ステアとメルガは目を疑った、。

「…まさか、そんなっ…ことって。。」

「…お姉ちゃん、あれ、何、みんな、怖い顔。」

 喪服。縁のある人が亡くなった際に葬儀で着用する。ここ、エメラニア王国では土葬のため土色か黒色の正装と決められている。

 そんなものを着た人がデミスの家に集まっている。中には、何度か家に遊びに来た人もいたから、ステアにはすぐに分かった。


 これは、デミスの葬式だ。


「ステア!メルガ!」

 遠くからティーフィーの呼ぶ声がきこえる。

「姉様!」

「お姉ぇーちゃーん!」

 ティーフィーは二人に近づくと涙で滲んだ目を潤ませながら、安心したように息をついた。

「良かった、心配してたよ。」

「姉様っ、姉様、、あの!ね…」

 ステアが家に目を向けながらそう言うとティーフィーは小さく首を振って口を開いた。

「デミスさんが亡くなったって聞いて戻って来たんだ。」

「姉様!!」

「ステア…?」

 ステアは首を振りながら姉の胸に飛び込むと耐えきれずに泣きだした。

「お母様がぁ…お母様が、、死んじゃった…のに、ぅっ、うぇぇ…デミスさんまで…姉様…どうしたら、良いの…?」

 メルガは、見慣れない姉の様子に戸惑っているようだった。ただ、どうしようもなく悲しいの事実だと言うことは理解できた。

 そっか。いなくなっちゃったんだ。お姉ちゃんが泣いてる…。

「うぇえええぇぇぇえんん…」

「ちょっとメルガ!ステア、どういうこと!お母さんが死んだってどういうことよ!」

 ティーフィーは高ぶっていく気持ちを抑えられずに吐き出した。

「お母様が、、死んだって聞いて…姉様に伝えなきゃって思って、ぅぅ…そしたら、、」

「な…によそれ…っ、、」

 とうとう三人共泣き出して、デミスの兄という男がなだめに来た。


 …

「妹の遺言で、妹のものは全て君たちに預けることにする。あの家を…これからも大事にしてくれるかい?」

 口を開いたのはティーフィーだった。

「大事に…します。デミスさんと一緒に、、暮らしてたままに…。」

「そうですね。泣いてちゃ…ダメですよね?」

「は、は…ステアの敬語が戻ってきた。」

 ティーフィーもステアも目尻に残った涙の粒を拭って、精一杯微笑んだ。

「それじゃあ、よろしく頼むよ。僕はイル・デミス。隣町に住んでるから、何かあったらいつでも頼ってくれ。」

 イルはそう言うとメルガの顔を布で拭いてやって弱々しく笑った。


「兄妹を大切にな!」


 こうして、三人は共に過ごしてきた大事な大人を一度になくした。だが、デミスの遺言《フィリス、ステア、メルガの三人は私の子供も同然だ。私の遺産はこの子たちのものだ》によって彼女たちはこの家に住み続けることができた。

 三人は嘆き悲しんだが、これを期に、時を大切に、強く生きることを心に決めた。


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