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…………

「フィーちゃん、スープそっちに持って行ってくれる?」

「はいはーい。」

小さな家の中がスープの温かい匂いでいっぱいになる。先に食卓についていたメルガは、まちきれない様子でスプーンとフォークをカタカタと鳴らした。

「こらこら、メルガ、食器で音を立てないの。」

ティーフィーがメルガのフォークを取り上げるとメルガは不満そうに頬を膨らませた。

そんな様子を見ていたこの家の婦人は楽しそうに笑い声をあげると首をかしげるティーフィーに向けてこう言った。

「フィーちゃんはいいお姉さんね、ステアちゃんは何でもできちゃうし。」

「そんなことありませんよ。」

ステアは突然の自分に向けられた言葉に戸惑いながら照れ隠しに残り2つのスープをカウンターに押し上げた。

何でもというのは、あながち間違いではないだろう。雨漏りのする日には何も言われてないのに、どこからか調達してきた木材を屋根に打ち付けて何てことなく直してしまったし、食材が足りないと呟けば、釣りに出かけて魚を山ほど持ってきた。それどころか、わけのわからない商売で、お小遣いを何倍にも膨れ上がらせたことだってあった。この間は町でひったくりを捕まえてちょっとした騒ぎになっていた。現に習ったこともないはずの料理を難なくこなしているのだから、これはもう、一つの才能だ。

ティーフィーはステアがひったくりを捕まえた時のことを思い出して苦笑いを浮かべた。

あの時はひやひやしたものだ。なんていったってここはあのエメラニア王国の中なのだ。王宮から離れてはいるが、王国兵士に顔見知りがいたらばれてしまう。

なんの意味もなくスプーンをしゃぶっているメルガの口からスプーンを抜き取って軽く注意したあともティーフィーの回想は続いた。

この家に置いてもらってからもうすぐ一年がたつ。

王宮から走って逃げたあとも3日ほど歩き続けて国の端の地域までたどり着いた。自分たちの髪飾りや装飾品を売ればそれなりにお金になったから、食料はなんとか調達できた。メルガはつかれてステアに背負われていることが多かったが、ステアは大丈夫と言って代わろうとはしなかった。そういえば、この家に来た時もステアはメルガを背負っていた。私もつかれて足が棒のようになっていたから、妹たちには言葉をかけるくらいしかできなかったが、今思えば、ステアも私のことを気遣ってくれていたのだ。

「ごめんね、ステア。」

「え?」

ステアは食器を並べる手を止めて振り返った。

「あー、いや、いつもありがとう。」

「…私は、したいことをしてるだけですから。」

ステアは顔を背けて、いつものつぶやくような声でそう言った。

「そーかそーか。」

ティーフィーは、なんだか妹の頭を撫でてやりたくなった。

ティーフィー、メルガに加えて、ステアと、この家の婦人デミスが席に着くと全員で手を合わせた。

「「「「いただきます。」」」」

「ほらー、フィーちゃんもたくさん食べなよ。育ち盛りなんだから。」

「もうそんなに伸びないですよ。」

デミスはティーフィーの取り皿に肉や野菜をながしこむと、自分も育ち盛りの子供のようにもぐもぐと食べ始めた。

ティーフィーが自分の皿の山盛り状態を見つめてため息をつくと、ステアはティーフィーをたっぷり見つめた後呟いた。

「姉様はもう少し成長したほうがいいと思います。」

「私ももっとせいちょーする!」

デミスは、そんな子供たちの様子に思わず笑みをこぼした。一年前の自分の様子からは想像できなかったのだ。60を過ぎてから夫を亡くし、生きてきく意味を見失いそうな時、この子たちがやってきた。帰る場所がないと言っている子供を放り出すことなどできないと言う理由で受け入れたが、今となってみるとこうして笑っていられるのはこの子たちのおかげだと心から思えた。一番年上の子はフィリスと名乗った。見るに年はたったの10歳ほどだが、しっかり妹のことを考えていた。うちの家の扉を叩いての第一声が、「私の̀妹をかくまってもらえないでしょうか。」だったもんな…。

「…何ですか?」

デミスはティーフィー(フィリス)から目を離すとなんでもない、といった風に手を振った。

「ちょっと考え事をしてただけだよ。フィリスちゃん。」

「…っっ、、」

ティーフィーは少し喉を詰まらせて水で野菜を流し込んだ。

メルガは不思議そうに目を瞬かせ、ステアは「そうでした…。」

と密かに呟いた。

「「?」」

「「なんでもないです」」



世間は王子誕生のニュースで賑わっていた。

王女たちはこれでこの国も安泰かと胸をなでおろすが、今度は別の、悲しい事実が待っていた。

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