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異形の冒険者  作者: まる
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ダンジョンに潜る

【人間編 ダンジョンに潜る】


戦闘職協会の職員から、自分でも分かっているアドバイスをいただく。


「アザゼルさん。もう少しガッと言った方が良いですよ、ガッと!」

「分かって入るのだが・・」


護衛に関しては、先の商人から時折、指名依頼を受けるので問題ない。

しかし討伐に関しては、何時も取りっぱぐれているのである。


「依頼と言うのは早い者勝ちなんですから」

「うむ・・」


どうしても他の皆を押しのけてまで、依頼を得ようと言う気持ちにならない。


そうなると常時依頼の討伐や、この間の様な情報の不完全な物とならざろう得ない。

周囲の皆から、絶対に先走るなと言われつつも受諾して、解決に至ってしまう。


正しい事をしながらも、怒られると言う悪循環である。


「それならば、目先を変えてダンジョンに行かれてはどうですか? 行かれた事がないのなら、一階か二階層で戻るのであれば、お一人でも難しくはないかと思いますが」

「ダンジョン・・、なる程」


ランクEから受けられる様になる依頼には、護衛とダンジョンがある。


確かに、護衛と討伐をこなしているのだから、ダンジョンに潜っても良いだろう。


「うむ。ダンジョンに行ってみよう」

「では、先ず近場のダンジョンからご紹介します」


協会の職員から、西の町から一番近いダンジョンを教えてもらう。




そのままギルドに行って、ダンジョンに行く事を告げる。


「ウハー殿、そろそろダンジョンに潜ろうと思う」

「分かりました。どの程度の期間でしょうか?」

「無理せず、1日で切り上げようと考えている」


いきなり数日間もと言えば、絶対にお小言があると確信しての答え。

ウハーもやっと出来の悪い兄弟が、真っ当な方向に進んでいると目頭が熱くなる。


「一番近いダンジョンなら、徒歩で1日程、準備で1日、潜るのが1日と、予備日を考えて、5日程でしょうか?」

「その予定だ」


ダンジョンの傍には、ダンジョンに来る人を当て込んだ村が出来ている。

下手な護衛や、遠距離の討伐より、長期に及んでも、確実に補給が可能で安心である。


「ご武運を」

「うむ」


最初からこっちにしておけば良かったと、お互いつくづく後悔した事は胸に仕舞っておく。






この世界のダンジョンは、微妙な立場で成り立っている。


そもそもダンジョンに潜らなくてはいけない理由が存在しないのだ。

モンスターを間引かなくてもモンスターは溢れださない。生命や生活に直結しない。


では、何故ダンジョンに潜るのか。そのメリットは?

正しく金銀財宝、品質の高い武器や防具、素材などの欲を満たす物の入手である。


「(この世界のダンジョンは、他種族の争いの矛先を逸らすためでは?)」


ダンジョンの立ち位置の話を聞いた時、この世界の管理者の目的をそう推測した。




当然リターンが大きい分、リスクも大きい。


リポップが比較的早いモンスターやボス、自力脱出な上に、セーフティエリア無しである。


厳しく難しすぎれば見向きもされないが、脱出系アイテム、攻略階への移動アイテム、結界アイテムがボスクラスからドロップする。

更にはマジックバック系に、素材剥ぎをしなくても良い様に、アイテムのドロップ式などと優遇もされている上に、宝箱はダンジョンボスのリポップと一緒に復活するのである。


この様ないろいろな事情が重なって、ダンジョンは常に繁盛しているのだ。




ダンジョンの傍の村には、ダンジョンに挑む人々を当て込んで賑わっている。


ダンジョンからモンスターは出てこない上に、常に戦闘職が居て村も守られる。

宿屋、道具屋、武器屋、防具屋などの需要も高く、協会やギルドの支部さえある。


西の町の協会やギルドで情報集めをすると、どの階のボスを倒しただの、どんなアイテムがドロップしただの、リアルタイムで情報が手に入る。


着いたその日は休養、翌日を情報集めや準備に当て、次の朝すぐにダンジョンに入る。

ウハーとの約束は1日と限られているためである。


護衛で一緒になった人たちから、ランクBに匹敵すると言わしめる人間の器というハイスペック。

魔族のスミナユテの訓練と、彼からもらった装備に、『倉庫』魔法という無限の収納。

天使の残滓の一つである索敵能力。


これらがあれば、一日で潜れる範囲に敵など居ない。

その気になれば、一日でダンジョンをクリアする事の可能だろう。






ダンジョンのモンスターは、割と早い周期でリポップするため死骸は煙と消える。


モンスターを倒した場合、必ず何らかのドロップがある。

殆どが貨幣などだが、1割がアイテム、1割が宝箱という比率である。


通路の所々に宝箱が設置されているが、空の宝箱がリセットされるのはダンジョンボスがリポップするタイミングとの話だった。


「(ん? これは一体?)」


索敵能力で気付いたのだが、トラップでは無く純粋に壁の中に宝箱が埋まっていた。

何らかの仕掛けであれば、盗賊職が気付くだろうが、これではどうにもなるまい。


「(壁を壊すしかないが・・)」


言葉通り壁を壊して、四か所に散らばっていた宝箱を開けてみた所、マジックバックに大剣、自分の痣を隠すのに適した小手やブーツが入っていた。


「(一階の、誰も気づかない壁の中から・・。まるで自分のために?)」


確かにマジックバックは必要と感じていたし、スミナユテの装備の予備は必要だ。


「(おかしい・・。1階では4つもあったのに、2階では1個も無い)」


1階のモンスターを物ともせず、2階を探索して気付いた事だ。

まるで1階で取ることを前提にしているかのように。


「(この世界に壁の中を探知できる能力が存在するのか? しかも開けた人に必要なアイテムが出るような宝箱?)」


あまりにも都合の良すぎる解釈に、首を振ってダンジョンを先に進んでいく。


行く手を阻むモンスターやフロアボスに対して、無人の野をゆくが如く歩みを勧める。


「(ふむ、エリアボスも問題ないな。スミナユテとの特訓がここで生かされてきたな)」


特訓の成果を噛みしめながら、10階層ごとのエリアボスを一撃で沈める。


「(まだ時間もあり、脱出アイテムもある。もう少し進むか・・)」


20階層のエリアボスも相手にならなかった。


「(ここまで、壁の中に宝箱は無し。まだ時間的余裕もあるか)」


30階層のエリアボスを倒した辺りで、帰還を考える。


「(そろそろ時間も無い。戻れる所まで自力で戻ってみるか)」


既にリポップしているフロアボス、エリアボスを瞬殺しながら地上へと戻る。


「(ふむ。宝箱は復活していないか・・)」


1階層まで戻ると、壁は修復されていたが、宝箱の中身はリセットされていなかった。




ダンジョンの町の協会では、ダンジョン産のアイテムを求める依頼が数多くある。

しかしその多くは掲示板に残されたままだ。


理由は期限がある事と、そのアイテムが必ずしも入手できないからである。

ダンジョンから戻った後、依頼と手持ちのアイテムを見比べるのが一般的である。


アザゼルも依頼と手持ちのアイテムを見比べ、幾つか依頼を剥がして持っていく。


宝石や素材採取の依頼の多くは、更に深い階層の物ばかりあった。

しかし低層階であっても、常に需要がある物もある。


「本当によろしいのですか?」

「頼む」

「畏まりました」


例えば脱出アイテムや階層への戻りアイテム、結界アイテム、マジックバック系である。


「脱出の石の依頼が5件、11階層への戻り石の依頼が1件、セーフティエリア発生石の依頼が1件、間違いありませんか?」


当然これらの物は自分手使うために保存しておいた方が良い物である。

故に報酬も割高となっている。


「構わない」


ダンジョンの町で、幾つかの依頼を達成させて西の町へと戻る。






先ず戦闘職協会へと向かい、残っていた素材採取の依頼と所持品を見比べ、依頼を達成させる。


「随分とランクの高いアイテムを手に入れられましたね」

「運が良かったのだと思う」


アザゼルのランクはEであるが、持ってきたアイテムはランクCに匹敵する。

協会の職員は、きっと良いパーティと巡り合えたのだろう位に思っていた。


結果としては華々しいが、ぶっちゃけお金で解決できる依頼でもある。


「一つお聞きしたい」

「どの様な事でしょうか?」

「思う所があって、あちらこちらを巡って見たいと考えている」


魔族スミナユテとの約束と、言葉を果たすためであった。


「分かります。世界を見ると言う憧れ・・」

「そんな感じだ」


勘違いで夢見心地の職員に、肯定も否定もしない。


「それで、ご相談とは?」

「うむ。ランクがどのくらいであれば、世界を回れる物だろうか?」

「観光ではなく、戦闘職としてと言う事ですよね?」

「そうだ」

「各町で重宝がられるのは、ランクCからです」

「どうしてか?」


高ランカーであれば重宝がられるのは分かるが、ランクCからと言う理由は何だろうか。


「ランクCに上がる条件が、主要な全ての町で、依頼を10回達成すると言う物があり、かなりの信頼を得られているからです」

「なる程」

「またランクDでも拠点以外の2つの町で、依頼を達成していると言う条件がありますので仕事は困らないかと思いますが、ランクCの方が確実でしょう」

「分かった、感謝する」


必要な情報を得ると、礼を言ってギルドへと向かう。






ギルドの受付嬢のウハーに、ランクアップのために各町を回る事を告げる。


「ランクDになるため、各町の依頼を受けに行こうと思う」

「分かりました。どの町へ行かれるか一報下さい」

「うむ」

「あと他の町へ移る際にも、報告に戻って下さい。その際に可能なら、ギルドの依頼を受けていただければ助かります」


ランクアップを控えているのに、ギルドの依頼を強制する訳にはいかない。

ギルドの依頼優先とは言え、その辺の配慮は心がけている。


「で、いつから旅に出る予定ですか?」

「分からん」

「・・・・・」


ビキッ!


「何の準備もしていない」

「き・ま・っ・て・か・ら、話を持って来ていただけると助かります」


こめかみに血管を浮き上がらせて、一言一言区切って、言って聞かせる。


「分かった」


全くウハーの怒りには気付かず、真面目な顔で頷いていた。






人間には、食事や休息が必要で、セーフティエリアの無いダンジョンをソロで入ろうとすれば、ランクEであれば、精々2階から3階層が限度であろう。


これらを打ち破る能力が、アザゼルの封印である人間の器となる。


それでも人間らしく目立たず振舞うために、常にアイテムは各種取り揃えている。


『倉庫』を隠すために、これ見よがしにマジックバックを身に付ける。

まあマジックバックは空で、取り出す振りをして『倉庫』から出しているのだが。


「(うむ・・、宝箱が復活している様だ)」


索敵能力で周囲を確認すると、壁の中に宝箱を発見する。


「(ダンジョンボスが倒されたとの情報が有った。リポップするタイミングで宝箱の中身がリセットされるのは間違いない様だ)」


再び壁を壊して、中の宝箱を開けてみる。


「(むっ!? マジックバック? 小手にブーツに大剣・・。出る物は同じなのか?)」


若干性能や材質、付与された能力に違いはあるが、種類としては同じ物であった。

そうなると、先の自分の考えは若干違うかもと思い始める。






しばらくの間、依頼をこなす日々を過ごすと、協会の職員から聞かれる。


「ランクアップのために、他の町を回らないのですか?」

「そのための資金を準備している所だ」

「ふむふむ」


旅をするにはどうしても呂銀がかかり、そう簡単にはいかないのだ。


ちなみに本人は通貨の価値を良く分かっていないが、ダンジョンでの稼ぎは、世界中を回るには十分な資金があった。


ここで職員は、アザゼルがガッといける様に炊きつける。


「それでしたら、他の町へ向かう商隊の護衛をやると良いですよ」

「他の町へ・・? 護衛・・?」


考えてみれば当然である。何も近場を回るだけが商売では無い。

自分を指名依頼してくれる商人も、西の砦へ荷を運んでいた。


「ランクアップを考えている人は、その辺りも見込んで依頼を探しています」

「なる程、尤もだ」

「ただ王都に関しましては、行きは良いのですが・・」

「ん? 何か?」


協会の職員は、言い淀みながらも注意点を教えてくれる。


「王都は大きく仕事も多い分、戦闘職の人たちも多くて、仕事の取り合いが激しいです」

「そうか」

「あと東の町は、王都を越えた先ですので、時間的に勿体ない物があります」

「ふむ。となれば北か南と言う事になるか」

「はい」


ランクCになるなら未だしも、ランクDでは無駄が多いと思われる。


「助言に感謝する。もう少し呂銀を貯めたら行ってみよう」

「必ずですよ? ガッとですよガッと!」


一人に肩入れするのは良くないが、あまりに慎ましすぎるのを歯痒く見ていた。

何時ものように物静かに礼を言う姿を見て、思わず活を入れてしまう。






既に意味をなさなくなった呂銀集めだが、アザゼルは尚心配して依頼に精を出す。

ダンジョンの採取依頼の報酬や、素材の買い取りは割と高いので、特に護衛や討伐が無ければダンジョンへ行く。


西の町の近くにあるダンジョンは、何も一つだけでは無い。


他のダンジョンにも潜って見たのだが、1階層にのみ壁の中に宝箱を見つける。

そして宝箱の中身から出てくるアイテムの種類は、いつも同じだった。


「(誰かにやってもらう・・、訳にもいかぬか)」


ソロである自分に、これ以上確かめる事は出来ない。

とは言え、行きずりの誰かに頼むと言うのも、どうかと思ってしまう。


ダンジョンの摩訶不思議さを噛みしめながら、ひたすら深く深く潜っていく。

人間の振りをして、でも休息も食事もとらず。


全てのダンジョンで共通なのは、ダンジョンボスを倒した場合だけ、自動的にダンジョンから脱出できるゲートが開く仕組みであった。


アザゼルは潜る度に、そうやってアイテムを使わずにダンジョンから出て来ていた。






ギルドの依頼を受ける時に、ウハーから不思議そうに聞かれる。


「ランクアップのために、他の町へ行くと言う話はどうなりましたか?」


別に町から離れて欲しい訳ではないが、ギルドメンバーの収入向上には大切である。


「今準備をしている」

「この間もそう仰いましたよね。何の準備ですか?」

「呂銀だ」

「ああー・・・ん?」


確かに他の町を回るにはお金がかかるのは事実だと思った瞬間、おかしな事に気付く。


「アザゼルさん? この町に来た時に、野盗を捕まえた報奨金がありましたよね?」

「有ったが、それが?」


確かに安い依頼ばかりをこなしているとはいえ、そう易々と無くなる額では無かった。


「何かに使われましたか?」

「野宿のセットなどに」

「そうですか・・、っ!? 身分証明書をお借りしても!?」

「構わないが」


ウハーは、アザゼルの身分証明書を引っ手繰る。

ぼったくりと言う言葉が頭に浮かぶ。


「(まさか・・。もっとしっかり教えるべきでした!)」


身分証明書には、銀行ギルドの機能、つまりお金の出し入れの機能が付いている。


正規の金額で納得させ、引き落としの際に何十倍何百倍の金額を、手数料とか言って無断で一緒に下ろしてしまうと言う事件が時折発生していた。

使いこなしている人物には無理だが、新人などはこの手の犯罪に引っ掛かかり易い。


ウハーの目が、額面を左から右へと追いかける、桁を数えるかのように。

・・額面が少なければ、その様な視線は必要ない。


今までの依頼達成の報酬と、過去数回分のダンジョンの素材の代金・・

ウハーは知らないが、更に『倉庫』には数回分の未換金の素材群・・


「・・アザゼルさん?」

「何か?」

「私をからかって・・、楽しいですか?」

「言っている意味が分からないが?」


分かっている、本当に分かっている。

彼がそのような事をする人間では無い事を。


ちょっと、ほんのちょっとだけ、常識が人からズレているだけなのだ。

ではこの怒りを何処にぶつけるべきなのか・・


「アザゼルさん?」

「何か?」

「ちょっとお話をしましょうか?」

「是非も無い」


何故かアザゼルは正座をさせられて、ウハーから貨幣の価値と銀行ギルドについて、みっちりと教え込まれる事になる。





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