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異形の冒険者  作者: まる
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お泊りをしてみる

【人間編 お泊まりをしてみる】


ギルドでの倉庫整理の依頼をこなし、報告をするために冒険者ギルドへと戻る。


「ご苦労様でした。明日は協会の方へどうぞ」

「分かった」


翌朝、協会へ行く事にする。


「まずは常時依頼で遠距離の採取や、討伐を探してみよう」


残念ながらこの時は、希望する遠距離の討伐の常時依頼は見当たらなかった。


厳しいようだが討伐の常時依頼は、町に直接被害が無ければ問題無しとされてしまう。

依頼を出さなければならない村々には、貧しくてじっと耐えるだけという事も多い。


「遠距離となると薬草には、色々と種類が増える物だ」


その場所でしか採取できない薬草があり、珍重される物がいくつか存在する。


「薬草も何種類か、ついでに採取出来る依頼というのがあるのだな」


遠距離の薬草を目的にすると、所々で別の薬草がありそうな場所を通る事が分かる。

感心している見ているが、ウハーの言葉と、資料室の時間が生きているのだ。


「ランクEで受けられる依頼で、場所がある程度限定される薬草を中心に、組み合わせてみよう」


シュミレーションして、自分なりのコースを考える。




ギルドに戻り、ウハーに遠距離の薬草採取の依頼の話をしようとする。


「協会の依頼で、10日ほど町を離れる」

「・・どのような依頼ですか?」


・・10日?何言ってんだこいつと、その目は間違いなく言っていた。


「採取の・・」

「却下です」

「まだ途中なのだが・・、何故か?」

「何故? 理由って事ですか? はははははは・・」


ウハーもこんな日が来て欲しくはないと思った、正にその日が来てしまったための高笑いである。

周りの職員がドン引きする程のカラ笑いをしてから問う。


「アザゼルさん、野宿をした事は?」

「無いが?」

「それが理由です」


そう言うと、ざっと乱暴に書き連ねて、一枚の紙を手渡す。


「これは?」

「野宿をするのに必要となる物です。当然これに日数分の水と食糧が加わります」


アザゼルは、手渡された紙をマジマジと見つめる。


「近場の薬草、食材、素材採取と、討伐を含め、最低でも2泊3日をして下さい。あくまでも近場ですよ。よ・ろ・し・い・ですか?」

「分かった」


何時ものように素直に了承し、道具を揃えに町の中へ出て行く。




一通り買い求め宿に戻ると、自分の手を見て考える。


「人間の身体には、飲食や休息が必要だが、私の身体は異様に見えるか。ましてや、この異様な容姿をしていては特に目立つな」


人間の器・・。

周囲の魔力や諸元素を自然に取り込み、最適化や修復、再生をするため、その様な物は一切不要となる。


自嘲気味の笑みを浮かべる。


「少なくとも人間らしく振舞うために、助言は全て受け入れておくべきか」


購入してきた物を見て、依頼をこなすため町を出るパーティが、結構な荷物を持っていたが、それでも最小限度を、全員に分担させているのだろう。


「確かに2日から3日分の水や食料を一人で運ぶだけなら未だしも、長期間は難しいし、戦闘にも影響してしまう」


魔族のスミナユテに施してもらった『倉庫』魔法は、更に自分を特殊化させてしまう。




買い物を済ませた事を、ウハーにわざわざ報告に行く。


「買い物をして、ウハー殿の助言の意味が分かった」

「そうですか・・。丁度良い所に戻ってきてくれました。依頼をお願いできますか?」


明日は協会の方に行くように言っていただけに、一応下手にでてのお願いである。


「構わない」


アザゼルは、そんな気遣いを全く気付かず依頼を受ける事を了承する。


ウハーは、実の所かなり立腹していた。


野宿をした事のない奴が、いきなり10日間の薬草採取だと? 馬鹿か、と。

反省しろと、しばらくの間依頼を押し付け、協会の方の依頼に携わる事が出来なくさせる。


尤もアザゼルとしても、色々な事を考えるのにちょうど良かった。






仕事から戻ったギルドマスターが、部屋に戻り際にウハーに問いかける。


「そう言えば、仮面の・・新人、どうしてる?」

「きっちりと依頼をこなしています」

「はぁー、やっぱり協会の方?」

「いいえ。ギルドの依頼がある間は、協会の依頼に手を出していない様です」

「はへぇ!?」


意外な発言だったのか、ギルマスの声が裏返る。


「・・・生活で来ているのか?」

「さあ?」


生活の主体者は本人であって、ギルドが把握すべき事では無い。


「今までの奴は協会の依頼だけで、ギルドに見向きもしなかったはず・・」

「それが普通です」


そもそも雑用故に仕方が無いのだが、冒険者ギルドの依頼料は安い。

生活優先となれば、協会の方の依頼へ皆流れていく。


尤もかっこいいとか、間抜けな発言をして早死にする奴も多いが・・


「やっぱり生活は厳しいんじゃ・・。もしかして犯罪に手を染めている?」

「だから、さあ? とお答えしました」


ここまで一切顔を上げる事無くの、冷ややかな対応である。


ちなみにウハーは、彼が犯罪? ちゃんちゃらおかしいと思っていた。

なら私はあんな苦労をしない、と考えて、そこだけは彼を信頼している。


「ま、まぁ、ギルドとして犯罪はいけないから、チョット調べてみようかね?」


ウハーに尋ねる様な、心持ち疑問形で聞いてみる。


「ご随意に」


やはりつっけんどんな反応を返す。

犯罪に巻き込まれている可能性は否定できないので、ギルマスに一任する事にした。






一週間程ギルドの依頼をこなし、「依頼はありません」と許可?のお言葉を貰える。


そしてアザゼルは、3泊程の野宿をやってみて分かった事がある。


非常に水の占める割合が多いのだ。

協会やギルドで聞き、大体の量を導き出し、持って行けば殆どが水なのだ。


「これが現実の・・」


更に依頼をこなせば、持ち帰るものが当然出てくる。長期保管方法も知らなくてはならない。

野宿をすればするほど、自分により必要な物が分かってくる。


ギルドの依頼をこなし、荷物の調節をしながら、野宿の日数を延ばしていく。

結局は荷物の量から、一人なら5日程度が限界であった。


これは荷物を持って歩くだけであり、いざ戦闘となったら如何ともし難い。


途中で水や食糧の補給できるポイントを確認する必要がある。

それが分かっただけでも、人間として演じるために感謝であった。




ギルドに寄った際、ウハーに礼を述べる。


「この間は、ありがとう。感謝する」

「どういたしまして?」


何の礼か分からないが、視線を向ける事無く応える。


「一つ尋ねたいことがあるのだが?」

「何でしょう?」


やはり自分の仕事を続けながらである。


「5日以上の野宿の場合は、やはりパーティの活動が良いのか? しかし結局の所、パーティでも荷物は増えると思えるのだが・・」

「・・・」


アザゼルの言葉に、手が止まり、目がクワッと見開かれ、ガバッと体を跳ね上げる。


「ま、まさか・・、いや・・、そんな・・」


自分の目の前に立つ人物は、間違いなく、馬鹿正直に、ウハーの言葉を実践したのだ。

半分・・いや、9割は嫌がらせのつもりで言ったのだが・・

買い物自体は必要な事なのだが、普通はその時点で気が付くのではないだろうか?


「ん? どうかしたのか?」


その声を合図に、ストンと椅子へ腰を下ろす。


「はぁ・・」


盛大に溜息を吐くと、自分の過ちを十二分に理解した。


「そこまで体験されたなら良いでしょう」

「何の事だ?」


このままでは彼は、自分で答えを見つけ出す、気付くのは無理だろうと判断する。


「アザゼルさん、お金ありますか?」

「お金・・? どうだろうか」

「所持金と相談の上となりますが、アザゼルさんには二つお勧めします」

「ふむ? 何を・・」

「良いから最後まで黙って聞く!」

「うむ」


ちょっと前にも、似たような出来事があった事を思い出す。


「モンスターから得られるアイテムに、魔石と言う物があるのはご存知ですか?」

「無論、知っている」

「結構。この魔石は加工され、様々な疑似魔法に転用できます」

「疑似魔法?」

「魔法と似たような、火を起こす、水を出すと言った事が出来ます」

「ほお! そのような事が。素晴らしい技術だ」

「魔石の大きさや質によって、価格や性能も違いますし、使い捨てや数回使用、場合によっては半永久的に使えます」

「ふむふむ」


魔石の加工技術に感心している。


「もう一つは、生活魔法です」

「生活魔法?」

「旅先で使う程度の簡単な魔法のセットで、魔力0以外であれば、誰でも習得できます」

「なる程、その様な魔法が存在するのか」


これまた感心している。他人事みたいに・・


ビキッ!


ウハーのこめかみに、血管が浮かび上がる。


「何、他人事のように言っていんですか! あなたの事です、あ・な・たの!」

「おおぉ!?」


お勧めと言っておいたのに、全く理解されていなかった。


「アザゼルさん、貴方が荷物の事で悩んでいるので、アドバイスしたんです!」

「ふむ、そうだったのか? 感謝する」


深々と礼をしているが、その姿そのものが馬鹿にされている気さえする。


「魔石や生活魔法は、何処に行けば手に入るのだろうか?」

「道具屋に行けば魔石は手に入ります」

「なる程」


超が付く程の高級品であれば、アクセサリーとして装飾品となるらしい。


「生活魔法は魔法使いギルド経由で、教えてもらえる人を紹介してもらえます」

「魔法は学校では無いのか・・」

「学校? ああ、魔法学院の事ですか。あれは能力向上のための機関です。あくまでも、より強力な魔法を使えるように訓練するだけの」

「そうか」


魔法一つとっても、世界の環境や生活様式によっても変わってくる。


「どちらが良いのか?」

「そうですね・・。どうしても使い捨て感のある魔石はコストがかかります。初期投資はかかりますが、生活魔法を最初に身に付けられると良いでしょう」

「検討しよう」

「生活魔法なら、私でも教えられますが」

「そうなのか?」


アザゼルの頭の中には、ウハーに教えてもらうと言う考えで一杯になる。


「それから水の運搬で苦労したので分かると思いますが、重い荷物を抱えて戦えると思いますか?」

「無理だ」

「沢山の荷物を抱えているのは、ポーターという人々です」

「ポーター?」

「戦闘に参加しない、荷物を運ぶだけの人々です」

「なる程」


戦闘する人と、荷物を運ぶ人を分けているのであれば合理的である。


「そう言う意味では、ソロで活動する人は少ないでしょう」

「そうか・・」

「まあ、これもお金の事になりますが、あとはマジックバック類でしょうか?」

「マジックバック!?」


もしや特異な『倉庫』と同等のアイテムなのかもしれないと食いつく。


ウハーとしては、聞きなれない言葉に驚いた物と誤解する。


「結構なお値段しますから、ご存じないと思いますが」

「どの様な物なのか?」

「見た目は普通の背負い袋と同じなのですが、容量が段違いで、重さも変わらず、形も変わらない優れ物です」


これは良い事を聞いた、出来るだけ早く入手する様にしようと心に誓う。


「これから入るダンジョンで、稀に手に入る事もある様です」

「その情報には、とても感謝する」


そう言うと背負い袋から、取り出す振りをしながら、問題の『倉庫』からお金の入った皮袋を取り出す。


「これで生活魔法を教えて欲しい」

「・・・このお金、どうされたのですか?」


袋の中を覗き込むとギルドの依頼をメインにやっていれば、一生お目にかからない金額が見える。


「困っていたら、恵んでくれた」

「そんな奇特な人がいますか!」


どんなに苦労をさせられて、お馬鹿な姿を見せられても・・、断言する。

絶対に彼は、自ら犯罪には手を染めない。


となれば・・、知らず知らずに犯罪に巻き込まれている可能性が大きい。

めんどくさい奴ではあるが、決して嫌いでも憎い訳でもない。


何らかの犯罪に巻き込まれているなら、一秒でも早く対処すべきだ。


「その時の状況を出来るだけ詳しく・・、いやちょっと待ってて!」


万が一を考え、ギルドマスターに同席してもらった方が良いと考える。


別室にアザゼルを閉じ込め、ギルマスを直ぐに呼びに行く。




数刻後 −


ぶん、どん、ガシャーン!


ウハーは咄嗟に目の前にあった皮袋を投げつけ、アザゼルの顔にぶつける。

中身の硬貨が、ものの見事に撒き散らされ、硬貨の音が響き渡る。


「ぎゃっはっはっはっはぁぁ・・、ウハーの早とちりかよ。腹イテェ」


町に来る前、商隊を野盗から守った時のお礼と、報奨金を貰った話を聞く。


ギルドマスターに大笑いをされ、あまりの恥ずかしさで、顔を真っ赤にして涙を浮かべる。


「・・・・」

「言葉が足りなかったのか? 済まない」

「フンッ!」


後日どんなにお願いしても、ウハーは生活魔法を教えてくれなくなってしまった。

相当恥ずかしくて悔しかったのだろう。


ひたすら謝りお願いを続けて、やっとの事で生活魔法を教えてもらう事になる。


その際に、ギルマスがギョッとする程の高額をふっ掛けたウハーもウハーなのだが、それを快諾するアザゼルもアザゼルであった。







やっとの事で魔石や生活魔法を手に入れての野宿は、練習とは言え食材や素材の採取はスムーズに出来てしまっていた。


これならば本格的な遠距離の依頼も受けられるだろうと判断する。


「依頼はありません。明日は協会の方へ」

「分かった。まず長距離の採取や討伐を探し、無ければ護衛の依頼があれば受けるつもりだ」


アザゼルの簡単な予定を、思わず聞き咎めてしまったウハー。


「その順番は、協会からお聞きに?」

「そうだが。何か?」


面倒なアドバイスは避けたいと思うが・・。なんやかんやでウハーも良い人である。


「出来れば護衛の依頼から探した方が良いでしょう」

「何故?」


アザゼルとしては協会から、ソロで出来る順番と聞いていたのだが。


「協会の職員が気を遣ったんですよ」

「どう言う事だ?」

「護衛と言うのは、ソロと言うのは嫌がられます。会ったその瞬間から、連携が取れる人など居ません」

「そうだろうな」

「会ったその瞬間と言う事は・・、第一印象、つまり見た目も大きく関わってきます」

「・・なる程」


アザゼルは自分の出で立ちを見下ろす。


「ソロでも良いと言う護衛の依頼は、既にメインのパーティが決まっていて、護衛の人数を増やしたい場合が多いです」

「そう言えば、そんな事を聞いたような・・」

「ソロでも可の護衛の依頼は真っ先に受けて、無ければ討伐、採取の順が良いでしょう。特に採取は遠距離でも、常時依頼としてあるくらいですから」

「分かった、感謝する」


ウハーの助言を胸に、翌朝、協会の方へと出向いていく。





依頼を一つ一つ見ていけば、護衛は確かにソロでも良いと言う依頼は少ない。

それは採取でも討伐であっても状況は変わらないが、まだ実力が物を言うので依頼はある。


「ソロと言うのは難しいのか・・、しかし今の姿では・・」


考えさせられる。一人で生きると言うことの難しさ厳しさを。


何よりも、全世界の罪を背負った自分には・・特に。





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