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異形の冒険者  作者: まる
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ランクアップする

【人間編 ランクアップする】


人は時として、自分の考えに固執するあまり、前に進めない事がある。

元天使で人間ではないが、アザゼルもその一人?であった。


「アザゼルさん? 何時まで薬草採取をされているのですか?」

「何か問題が?」


協会で何時もの様に、薬草の常時依頼の報告をしていた時の事である。


「いいえ、問題が有るわけではないのですが・・。以前にランクEに上がる方法を説明しましたが、覚えていらっしゃいますか?」

「うむ、勿論」




時間を遡る事、2週間ほど前の話し・・


「アザゼルさん。本日の依頼報告を持って、ランクFとなります」

「む? 特に何かをしたとは思えないのだが?」


日々の生活は、ギルドの依頼と協会の資料に埋もれていた記憶しかない。

拠って、戦闘職協会の依頼を果たした訳ではなく、何故ランクアップするのか分からない。


「協会に来られた時は、必ず薬草採取の依頼をこなされていましたよ」

「まあ、それ位はしたが・・。それでランクアップになるのか?」


薬草採取も大切な依頼ではあるが、町の周辺で安全で確実にこなせる。

そんな事でランクアップするとは、思いもしなかったのである。


「実の所、ランクGとFの差と言うのは、殆どありません」

「そうなのか? 逆に、どの様な違いがあるのか?」

「ランクGは登録したてで、依頼を受けた事が無いか、数回こなした程度になります」

「ふむふむ」

「真面目に依頼をこなしていれば、この人は信頼が出来ると言う証明で、誰でもランクFになる事が出来ます」

「そうだったのか」


この人物に仕事を任せられるかどうかという判断が、ランクGとFの違いなのだ。


「差が無いと申しましたが、受けられる依頼も殆ど変りません」

「ふむふむ」

「しかしランクEに上がるためには、いくつか条件があります」

「どの様な条件が?」


率先してランクアップをしたい訳ではないが、条件があるならば聞いておくべきだろう。


「ランクEからは、ダンジョンに入れるようになったり、護衛などの仕事もあり、戦闘の経験が必要となります」

「と言う事は、討伐や食材、素材集めの依頼をこなす必要があると?」

「その通りです」

「うむ、承知した」


協会の職員の言わんとする事を理解して、取り組む事を了承する。




少し前の協会の職員の言葉を思い出し、うんうんと頷いているアザゼル。


「分かっていて、ずっと薬草採取の依頼をこなされているのですか?」

「うむ・・。なかなか資料に目を通しきれなくてな」

「全ての資料を調べ終わるまで、薬草採取をされるつもりですか?」

「その予定だが?」


協会の職員は、カクンと首を落としてから溜息を吐く。

未だかつて、資料と戦う冒険者は見たことがなかった。


「アザゼルさん、確かに情報を集める事は大切です」

「そう思う」

「しかし実体験や経験といった、生きた情報も重要とお話しした事がありましたよね?」

「確かに。覚えている」


ここからが大切ですと言わんばかりに、一つ咳払いをする。


「一つの事に拘るのも大切ですが、バランスと言うのも大切です」

「バランス・・」

「調べた事と、実際とは比べてどうなのか? 同じなら構わないでしょうが、違えば資料の補完が出来ます」

「なる程、尤もだ」

「その積み重ねによって、資料の見方や使い方、活かし方も変わるかもしれません」

「ふむ、そうかもしれん」


アザゼルは、職員の諭すような言葉を深く考える。


机の上の資料を眺めているだけでは、何も生まれないかもしれない。

少しずつ自分の経験という肥しを、与える事も大切だろう。


「承知した。戦闘を含む依頼も受けてみよう」

「そうされると良いですよ」


協会の職員に懇々と説得され、いざ戦闘にと考えて行動を開始する。




戦闘が必要な常時依頼には、大きく分けて3種類存在する。


一つ目は討伐。

繁殖率が高く、畑や家畜、人までも襲う野獣やモンスターの討伐である。


二つ目は素材採取。

武器や防具、アイテムに必要な素材を持つ野獣やモンスターを倒して得る事。

素材に傷が多ければ値が下がるので、かなりの熟練した技が必要となる。


三つ目は食材採取。

主に町の人々の腹に収まる肉類を得る事である。




アザゼルは、協会の職員が奥義と称した食物連鎖から、依頼の重複がある事に気付いていた。


例えば、鳥系の野獣やモンスターは、肉や卵と言った食材を集める依頼がある。

矢などに使う羽を素材として求める依頼がある。

片や料理人ギルドや肉屋ギルド、片や狩人ギルドや武器やギルドからの依頼である。


他にもネズミ系や兎系の野獣やモンスターは、繁殖力も高く畑を荒らすと言う事で、討伐の常時依頼が存在する。

同時に肉は食材として集める、常時依頼が存在する。


黙っていればいい物を、馬鹿正直に協会の職員に話してしまう。


「流石資料と睨めっこしているだけの事はありますね。これこそが協会の裏ワザ、一粒で二度おいしいです」


皆知ってて当然と言わんばかりの回答であった。


「これに奥義である食物連鎖がバッチリ決まると、途轍もない破壊力となります」

「確かにそうだろう」


しきりに頷いては感心していた。

が、そう簡単に上手い事行くはずが無い事を、すぐに骨身に沁みる事になる。






そもそも協会に来る人々は全員が全員、当然の如くそれを知っている。

誰からか教わるのではなく、依頼をこなし、ランクを上げる内に自然と分かるのだ。


依頼は早い者勝ちであるが、協会の奥義や裏ワザを狙って最初に無くなっていく。

モタモタしていれば依頼は受けられず、常時依頼だけでは、微妙に成立しない。




協会の職員の言う、奥義と裏ワザのコンビネーションの例を見てみよう。


ちなみに、奥義や裏ワザというのは存在せず、アザゼルをからかっただけである。

確かに法則は存在するのだが、そのようなネーミングは存在しない。


町から少し離れた草原に、割と値の張る薬草が生息している。

その薬草を好む鳥が存在する。この鳥からは肉や卵や、羽が得られる。

この鳥を獲物とする野獣やモンスターの中に、高値で取引される毛皮を持つ猫系のモンスターがいる。


これらの依頼は当然人気が有り、あっという間に取られてしまうのだ。


そこでアザゼルは考えた。

自分には魔族のスミナユテから貰った『倉庫』がある。

先に素材や食材を確保して置き、依頼を手にした時のために備えて置けるのではないかと。




依頼を受けたと想定して、馬鹿正直に流れ通りに奥義と裏ワザのコンビに取り組む。


しかし馬鹿正直にやると、まずこの奥義の9割9部は薬草だけしか取れない。


気配を殺して、採取をするしながら索敵するが、かなりの遠距離でしか見つけられない。

はっきり言えば・・、別の場所と言っても良く、近づく気配すら無い。


「動物たちの野生のカンというか、生存本能は素晴らしい物だ」


うんうんと頷きながら、少し斜め上に感心したりしていた頃もあった。


残り1部でやっと鳥が一匹程度で、食材の卵など夢である。

ましてや猫系のモンスターなど、夢のまた夢の話であった。




「奥義と言うだけあって、中々上手くいかない物だ。一体どうすれば・・」


一匹得られた取りを見つめて思い付く。


「獲物が此処に居るぞと、宣伝してやればいいのではないか?」


戦闘職協会に所属している者は、誰でも知っている。

あまりにも危険な行為なため、そんな馬鹿な事はしないと言う方法・・


鳥を血抜きしながらの状態で、鳥をぶら下げておく。


獲物の解体作業と言うのは本来、出来るだけ短時間で終わらせ、即時撤収が原則である。


しばらくすると、索敵に一匹、二匹と近づいて来る反応がある。


「そうか・・。やはりこう言う事だった」


やがて、十匹、二十匹と増えてくると疑問が湧いて来る。


「・・のか?」


既に一人では手に負えない程の、野獣やモンスターに囲まれる。


目的の猫系もいるのだが、犬系、狼系、熊系までいる。


「匂いの届く範囲全てを引き寄せているのか。しかも依頼の無いモノまで」


アザゼルの手には大剣が握られ、既に十数匹のが地に倒れ伏していた。


「うむ・・。何をどこで間違えたのか?」


呟きながらも、襲ってくる野獣やモンスターを次々と打ち倒していく。

流石に不味いと感じて、次々に『倉庫』に投げ込んでいく。


寄って来たモノたちを一通り片付けると、急いで町へと戻っていく。




協会では、まず薬草の依頼達成の報告を済ませる。


その後で鳥一匹とそれを餌に釣られて来た、数十匹の色とりどりの野獣やモンスターの買い取りを、引き攣った笑顔の職員に頼む事になった。






明日の依頼の確認のため、ギルドに戻った際に、ウハーに自分がやらかしてしまった一連の事を話す。


「貴方は馬鹿ですか? と言うか、良く生きて戻れましたね」」


冷たい視線で、辛らつな言葉が浴びせられる。

どうやら自分はやってはいけない事を行い、奇跡的に生きて帰って来たらしい。


「血抜き後の対応が不味かったのだろうか? 他に何かあるのか?」

「はぁ・・。これだけの経験をして、まだ分からないとは。馬鹿正直すぎますね」


これ見よがしに溜息を吐く。


「まず血抜き後の対応は、アザゼルさんの仰るとおり最悪の手順で、貴方だけではなく他の人たちにも迷惑がかかるので、今後やらないように」

「うむ、承知した」


きっちりと危険行為に釘をさした後、もう一つの方を教える。


「それからもう一つ。良いですか? 逆なんですよ、逆」

「逆・・、とは?」


ウハーの言っている事が、今一理解できない。


「協会の職員が、奥義とか裏ワザとか馬鹿な事を言っている様ですが、依頼を果たす上で、また身を守る上でも食物連鎖を考える事は重要でしょう」

「うむ、そう思う。危険回避し、複数の依頼をこなせるのだから合理的だ」

「ここまで理解できていながら、まだ分からない事が理解に苦しみます」

「どう言う事か?」

「逆と言いましたよね? 何故、貴方は格下の仕事に合わせるのですか?」

「格下の仕事・・? 言っている意味が・・」


アザゼルは益々分からなくなる。


「はぁー。良いですか? 薬草から、それを好む草食動物、その草食動物を狩る肉食動物や野獣、モンスター。この考え方は格下からの考え方です」


分かりますか?と言う顔で確かめる。


「ある野獣は獲物のいる所に集まり、その獲物のいる所には薬草があると言うのが、格上からの考え方です」

「・・・ ・・・ えっ!?」


ここまで説明されて、自分のやってきた事の間違いに気づく。


「格下の仕事で、格上の仕事を得ようなど愚の骨頂、馬鹿の証明です。格上の仕事で、格下の仕事のおこずかいを稼ぐ、これが食物連鎖と一石二鳥の上手なこなし方です」


そこまで説明すると、目の前に居たアザゼルが忽然と消えている。


「ん?」


カウンターの下を覗き込むと、両手両膝をついて、ガックリと項垂れているのが見えた。


アザゼルは骨身に、協会職員の『生きた情報も重要』の意味を理解した。


「よくよく反省して下さい」


ウハーはそう言うと、自分の業務に戻ってしまう。






その様なやり取りを経ても、折れる事もめげる事も不貞腐れる事も無く、ギルドと協会の依頼を熱心にこなす。


ランクEになるには、バランス良く依頼を達成して居れば良い。

アザゼルもいつの間にか、ランクEに上がる事になった。


「アザゼルさん。ランクFになってから、薬草や素材、食材の採取、害獣やモンスターの討伐が、規定回数を越えました」

「そうか」


感慨も無く、頷くだけである。


「つきましては本日付で、ランクEとなります」

「うむ、感謝する」

「ランクFとランクEでは、大きく変わってきますので、説明いたします」

「頼む」


椅子を勧められ、座って話す事になる。


「幾つか大きな違いがありまして、一つは時間という概念が存在します」

「時間?」

「はい。何時何時までに何々を持ってくるや、ランクEから可能な護衛と言う仕事は、長時間拘束されるなど、時間という考え方が入ってきます」

「確かに。今まではその様な事は無かった」


今までの何時でも良いなどと、悠長な事を言っていられなくなる様だ。


「また仕事の種類には、先程の護衛や調査と言った物や、モンスターの基地とも言えるダンジョンに入る事が出来ます」

「護衛は他の町などへ荷物を運ぶ商人を、守る仕事と言う事で良いのか?」

「依頼主は商人だけではありませんが、概ねその通りです」


かなりの時間、拘束されるだろう。

そうなると見た目も重要か・・。ふと鎧に隠れている痣を思い起こす。


「調査とは、何処に何があるかを調べれば良いのか?」

「勿論おっしゃる調査だけの事もありますが、多くの場合、調査と討伐がセットです」

「当たり前ではないのか?」

「依頼では、野獣だと思ったらモンスターだった、単独だと思ったら群れだったと言った事が往々にしてあります」

「なる程、それは危険だ」


得られた情報に沿った準備では不足だったでは、命にかかわってしまう。


「尤も依頼に関しても、それを見越して一つ上のランクにしたり、高額だったりします」

「そうなのか」

「当然見合わない、実力とそぐわない依頼も存在しますので、その場合にはきちんと調査報告をしていただければ、依頼の失敗とはなりません」

「それが調査か・・。しかし解決していないのだろう?」

「はい。得られた情報を更新した上で、受けていただける方を待つしかありません」


厳しい様だが命がけの仕事である以上、仕方が無いのだろう。


「最後にダンジョンですが・・」

「ダンジョンに何か問題があるのか?」

「当然モンスターの巣窟ですから、色々問題が存在します」


目の前にあるダンジョンにモンスターがいると思えば、不安の一つ二つ当然だろう。


「モンスターが、ダンジョンから溢れてくるのか?」

「いえいえ。そんな恐ろしい事はありませんよ」

「そうなのか?」


この世界に存在するダンジョンは、モンスターを外に出さない仕組みのようだ。


「ダンジョンの1階層目の標準的なモンスターが、ランクE相当です」

「それでランクEから、ダンジョンに入れるようになると言う訳か」

「その通りです。そして10階毎でモンスターのランクが1アップします。またフロアにもボス、10階ごとにもボスが存在しています」

「ダンジョンに関して、何かルールはあるのか?」

「ルールと言いますと?」

「ダンジョンコアを壊してはいけないとか」

「ダンジョン・・コア? それは何ですか?」


先ほどと同様に、ダンジョンを管理する仕組みの一つ、コアと言う概念が無い様だ。


「そう・・ダンジョンボスと言われるのか? ボスや守護者を殺してはいけないとか」

「ああ、ダンジョンボスですか。ダンジョンでは、どのようなモンスターも最大1週間程度でリポップします。どんどん倒していただいて結構です」

「承知した」

「ただ注意がありまして」

「どのような?」

「ボスを倒し過ぎると、階層が深くなり、より強いボスが生まれます」

「ならばボスは倒さない方が良いのでは?」


モンスターを間引くためならば、弱い方が良いに決まっている。


「より良いアイテムを得られるようになりますので、どんどん倒して下さい」

「そうか・・」


命よりも貴重な品などない。それでも金のために命を投げ出してしまう。

人間の欲の深さの様な物を垣間見てしまう。


先ほどのコアと同様、他の世界のダンジョンと比べてしまい、違いを確認してしまう。


「ダンジョンに関して尋ねたいのだが?」

「どのような事でしょうか?」

「ダンジョンの中に安全地帯・・、モンスターに襲われず休憩できる所はあるか?」

「うーん、そのような物の存在は、聞いた事がありませんね」


良くあるセーフティエリアなどは、この世界のダンジョンには無いようだ。


「そうか。ではもう一つ」

「何でしょうか?」

「ダンジョンからの脱出方法は?」

「自力脱出となります。身の丈を考えず深く潜り過ぎると、途中で力尽き、死に直結しますから注意して下さい」

「そうか・・」


そして戻りの事を考えるのであれば、なかなか深くは潜れないだろう。

そう簡単には、ダンジョンボスへ行き着かない仕組みと思われる。


「ただダンジョンボスたちから、脱出アイテムや結界アイテムが得られます。アイテムショップなどで売られることもありますが、かなり高額です」

「ふむ」

「基本は自分たちで警戒しながら休憩を取り、帰りの余力を残しながらダンジョンを進むと言う形になるでしょう」

「情報に感謝する」


より良いアイテム、貴重な品々、得られる金銭、しかし休みなしの自力脱出と戦闘。


「(この世界の管理者は、他種族の戦争を抑制の一つと考えて、ダンジョンを作ったのではないか?)」


ダンジョンから得られた情報から、その様な思いが脳裏を過る。


「他に質問などはありますか?」

「いや特に無い」


掛けられた言葉に、アザゼルは我に返る。


「長期間に及ぶ依頼が増えますので、不在時のルールを所属のギルドでご確認下さい」

「分かった」


ギルド毎の取り決めまで、流石に協会では把握できないのだろう。


礼を言って協会を出ると、その足で自分の冒険者ギルドへと向かう。






ギルドに戻ると、嫌そうな顔のウハーを捕まえて、協会での出来事を相談する。


「失敗しました。ギルマスと賭けをしておくべきでした」

「ギルマス? 賭け?」

「お気になさらずに。こちらの話です」

「はぁ・・」


何やら首を捻っているが、それ以上は何も聞いてこない所はありがたい。


「で、何でしたっけ?」

「ああ。長期不在の際はどうしたら良い?」

「そうでしたね。町を離れる前に必ず、ギルドへ連絡下さい。その間の貴方へ回す仕事を、他の人に割り振れますから」

「分かった。必ずそのようにしよう」


その様に答えるアザゼルを、不思議な物を見る様に見つめてくる。


「何か?」

「いいえ。あまりにも(馬鹿)正直に受け止めたので、逆に心配になっただけです」

「心配してくれて・・、感謝する?」


褒められているのか、貶されているのか、今一判りにくかったので首を傾げる。


その間にもウハーは、自分の仕事に戻ってしまっていた。


「まだ話の続きが」

「・・何です?」


少しキレ気味に聞いて来る。


「ランクEから、護衛やダンジョンと言う仕事が増える。どれから取り組んだら良いと思うか?」

「・・さあ? 個人的に興味のある方や、依頼に詳しい協会に聞いたらどうです?」

「なる程、尤もだ」


うんうんと頷き納得すると、再び協会へと向かっていく。


「まったく、人に聞く事ですか。分からない事を尋ねる素直さ、正直さというのは美徳の一つでしょうが、あれでは・・」


嫌な思いが頭に浮かび、迷惑と言う言葉を飲み込む。


「分からない事が出る度に、何回でもギルドと協会を往復するつもりじゃあ?」


悪い思いをうち消す様に頭を振るが、手が震えペンが進まない。


「その都度、私たちは世話を焼く必要が出てくる?」


ブルっと思わず身を震わせて、アザゼルが出て行った方角を見てしまう。




似たような事を協会の職員も、再び舞い戻ったアザゼルを見て思ったり思わなかったり。


「護衛や調査、ダンジョン探索のどちらがお勧め・・ですか?」


何でこんな事まで聞いて来るのかと、笑顔の下では思っていた。

本音を言わせて貰えば、好きにして下さいである。


「うむ」

「そうですね。調査は専門的な能力が必要な場合もありますので、しばらくは避けた方が良いと思います」

「分かった」


その上依頼主の悩みを調査だけと割り切れないと、後々自分の首を絞めてしまうと言う。


「ダンジョンは自分のペースで探索が可能です」

「ふむふむ」

「先程言いましたが、ダンジョン内の休息や自力脱出を考えると、ソロは危険です」

「そうか・・」

「ただこれは、ランクEより可能となる依頼の多くが長期に及ぶ物が増えるのに合わせて、野宿の機会も増えるので同じ事でしょう」

「なる程」


この辺りから普通の人間たちは、パーティを組み始めるのだろう。


「逆に護衛の場合は、必ずと言って良い程、メインのパーティが存在します。追加で募集を行う際には、ソロでも可能な場合があります」

「そうか」


どちらの場合にも、メリットとデメリットが存在する。


「お勧めとしましては、遠距離の採取や討伐、護衛、ダンジョンの順で取り組まれるのが良いと思います」

「どうしてか聞いても?」

「まず、アザゼルさんは野宿をする様な依頼を受けた事が無いからです。野宿を体験せずに、護衛やダンジョンは避けるべきでしょう」

「なる程、尤もだ」


丁寧に職員のお勧めの理由を教えてくれる。





アザゼルの前の人物が、協会の職員の貼り付けられた笑顔から、ウハーのうんざりした顔に変わる。


「それで今度は何の用ですか?」


余程、協会の方で良い事があったのか満面の笑みを浮かべている。


「うむ。協会の方で色々な事を聞けたので、ギルドの依頼を確認しようと」


驚きである。まだギルドの方の依頼をこなしてくれると言う。


ぺらぺらと調べて、倉庫への荷物の搬出入の依頼を渡す。


「そうですね・・。ギルドからもランクEのお祝いを差し上げましょう」

「感謝する」

「物ではなく、情報ですが」

「十分だ」


今まで依頼を通して感じてきた事は、情報の大切さである。


「ランクEからの依頼は長期間に及びます」

「うむ」

「依頼を受ける際には、何を持って終了となるか確認して下さい」

「・・終了? 依頼の? 普通に・・」

「最後まで話を聞く!」

「ぬっ・・、すまない」


以前にも同じような事で怒られたので、すぐに黙って話を聞く。


「何をどうしたら、その依頼が終了するのかを確認。書いて無ければ依頼を受諾する前に、協会の職員に確認。協会が依頼主に聞けと言えば、依頼主に確認するまで受けない。依頼主がはぐらかして、明確な答えが得られなければ・・」


指を折りながら、依頼終了の条件を確認する順番を上げ、意識を引き付けるように一呼吸置く。


「得られなければ?」

「その依頼を決して受けない様に」

「何故?」


依頼を受けてはいけないと言うが、理由が分からない。


「貴方もペット探しの依頼を行いましたね?」

「ああ、かなり大変な依頼だと思う」

「それを世界規模でやるはめになりますよ? しかも既に存在しないペットの」

「むっ? それは一体・・」

「町には城壁があり、出て行かないという前提になっています。外に逃げ出したペットは、探し出し様がありません」

「確かに」


この先の世界の何処かに居ますでは、探し出す事は無理だろう。

肉食系の動物に捕まれば、もはや探し出すことは不可能である。


「ギルドでも、この点はしっかりと確認していますが、万が一の可能性があり、期限が設けられています」

「知らなかった」


依頼書には無かった、何らかの条件がギルド側で管理されていたのかもしれない。


「もしかして毎日の報告とは?」

「ん? そうですよ。この人には難しいと判断すれば、別の人間を割り当て、一定期間探して見つからなければ、町の外へ逃げ出した可能性があると依頼主に報告します」

「なる程、その様な仕組みだったのか」


ギルド側で、働きやすい様に調整をしてくれていた訳だ。


「村からの依頼と言うのは、その点があやふやの場合が多いのです」

「何故だろうか?」

「依頼主が、状況をきちんと把握できていないからです」

「そこを把握するのが、協会では無いのか?」


ギルドでやっている事を、協会ではやっていないと言う事になる。


「ギルドも協会も、あくまでも依頼主との橋渡し的な役割なだけです。町の中での依頼は、自分も住んでいますので、力を入れて処理しています」

「それでは村の依頼と言うのは?」

「町から遠く離れた村の事は手が回らない、もしかしたら手を抜いている職員も居ると言う事です」


職員の町への愛着や仕事への熱意。これもその人その人の価値観であろうか・・


「分かった。依頼の終了条件は、必ず確認する様にしよう」

「そうして下さい」


自分にとばっちりが来ない様にという言葉は飲みこむ。


「それからもう一つ」

「まだ何か?」

「協会の職員が言ったかどうか分かりませんが・・」

「うむ?」

「くれぐれも、依頼主の泣き落としには注意して下さい」

「それは・・」

「自分の首を絞める事になります」

「・・善処しよう」


自分の教えられる事を教えてしまうと、ウハーは自分の仕事に戻る。


アザゼルも、受け取った依頼の終了条件を含め、よくよく内容を確認する。





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