協会の依頼を受ける
【人間編 協会の依頼を受ける】
ギルドの受付嬢であるウハーは言っていた、協会の朝は忙しいと。
昼過ぎの時間であれば、向こうも手薄だろうし、色々と聞ける時間があるのではないかと教えられた。
協会には2種類があり、一つは町の中の依頼を管轄する生産職協会、もう一つは町の外の依頼を管轄する戦闘職協会。
仕事や依頼によっては、どちらの協会にもかぶる物があり、お互いが離れた建物であると効率が悪い。
二つの協会は隣り合わせの建物であったが、お互いのエントランスを一つに繋げて、共有のスペースを作り出していた。
入口から入ると、左右向かい合わせで、それぞれの協会の受付窓口があり、正面中央に総合窓口がある。
アザゼルは真っ直ぐにある、総合受付へと向かう。
「失礼。少し伺いたい事があるのだが?」
「ようこそ。生産職および戦闘職協会へ」
アザゼルが建物に入った瞬間、外見でザワリとした空気が一瞬あったが、それ以降は全くと言って良い程、普通に扱われる。
「(うむ。この町は外見についてとやかく言わないのだろうか?)」
行った先々の反応を思い返すと、呪いや恐れと言った感情は殆ど感じられなかった。
向こうが普通の対応をしてくるので、こちらも気にせず普通の対応をする。
「依頼とランクについて知りたいのだが」
「分かりました。身分証明書をお預かりしてもよろしいですか?」
「ああ」
プレートを受付嬢に渡す。
「アザゼル様。職業は冒険者、間違いありませんか?」
「その通りで、間違いない」
説明の前にいくつか質問しながら、確認してくる。
「ハローワークと協会、ギルドの違いはご存知ですが?」
「うむ、大体の事は聞いている」
「ではご質問の事だけ、お答えしますね」
そう言うと、プレートを返してくれる。
「先ず依頼からですが、依頼の形には4種類あります」
「ん? そうなのか?」
アザゼルは驚いて、目をパチクリとさせる。
「ギルドの依頼は、斡旋依頼と言って、ギルドから仕事を命じられます」
「それは知っている」
「協会には、普通、常時、緊急、指名の4種類の形があります」
「どの様な違いがあるのか?」
この後説明する予定だったのだが、アザゼルの先走りに嫌な顔一つせず話を続ける。
「普通依頼とは、その日の内に集められた依頼を、翌朝にそこの掲示板に張り出し、早い者勝ちで依頼を自らで獲得します」
「今まで聞いてきた方法だ」
ウハーからも聞いていた方法である。
「常時依頼とは、薬草だったり、食材や素材だったり、繁殖率の高い野獣やモンスターや害獣などの討伐など、常に必要とされる依頼の事です」
「ふむふむ」
人間が生きていく上で、必要となる物は常時依頼となり易いと言う事だ。
「緊急依頼ですが、先程の繁殖率の高いモンスターの群れが発見された場合や、命の危機や村や町に甚大な被害が出る場合など早期対応の必要となるケースの依頼です」
「なる程」
わざわざ問題になる事を、先延ばしにしている訳には行くまい。
「最後の指名依頼ですが、依頼主から直接指名して、仕事をお願いする場合です」
「その様な事があり得るのか?」
「当然ですが依頼主の信頼を勝ち得る事が必須条件でしょう。コツコツと地道な努力の賜物だったり、一発ドーンと大仕事など、依頼主によって違いますがね」
依頼主も人間であり、価値観が違うのだから当り前であろう。
「二つ目のご質問のランクですが、Gから始まりAと上がって行きます。Aの更に上と言うのも存在します。誰でも、例え貴族や王族、大金持ちでも必ずランクGからのスタートとなります」
「承知した」
念のためウハーから聞いた事を確認する。
「ランクというのは、パーティを組んだり、仕事を任せられるかの指針だったと思うが?」
「その通りです。第三者である協会によって、その人の実力を証明しています」
ランクと言うのは、とても公平で分かりやすい仕組みだ。
「依頼書には、職業とランクが書かれており、それ以外の方は受ける事が出来ません。誰でも可となっていれば、職業やランクに関わらず誰でも受けられます」
「例えば?」
「先程の話と重複しますが、常時依頼の薬草集めが代表的な物でしょう」
「ふむふむ」
薬草集めが、今のアザゼルが受けられそうな依頼となるだろう。
「依頼をこなして、きちんと達成すれば、ランクが上がっていきます」
「良く分かった。ギルドで夕方に依頼を確認して、無ければ翌朝に協会で依頼を得ると言う事で間違いないか?」
「はい、そうなります」
「説明に感謝する」
受付嬢に礼を言って、協会の建物を後にする。
「何はともあれ、明日の朝は必ず協会の方に顔を出すようにしよう」
拠点とした宿へ戻る道すがら、今後のスケジュールを独りごちる。
ギルドと協会の話から、依頼は朝一番で張り出され、早い者勝ちである。
ならばと朝食の始まる前の時間から協会へ行ってみると、既に行列が出来ていた。
自分が並んだ後にも、次々と並んで行く。
「自分に合った良い依頼のために、皆やっている事だったか」
少し考えれば当たり前でだろう。
しかし何時から並んでいるのだろうか?
「少し尋ねたいのだが? 何時から並んでいるのか?」
前に並んでいる人に声をかけると、振り返った顔がギョッとするが、親切に教えてくれる。
「ルールがあってな、朝一番の時を知らせる鐘が鳴るまで宿を出ちゃいけねぇんだ」
「どうして、その様なルールが?」
「ん? 前日から並ぶ馬鹿が後を絶たず、並びながら酒盛りして、近所から苦情が出て、協会としてルールを作ったんだとさ」
誰よりも良い依頼をと考えるのは、誰しも同じ事。
早い者勝ちとはいえ、迷惑をかけてはよろしくない。
「では、協会の建物よりも遠い宿に止まっている者は不利ではないのか?」
「その代りに宿代が安かったり、食事の量が多かったりする」
上手く出来ている。有利不利は宿代などの金額やサービスに現れるのだ。
「そうか。ご教授、感謝する」
しばらくして、協会の扉が開かれると、ダダッと人々が雪崩れ込んでいく。
中に入って見ると、戦闘職に7割、生産職に2割と散っていく。
残り1割は、建物の中で、更に列を作っている。
事情の知らないアザゼルは、突き飛ばされ、体当たりを受け、あれよあれよと床に這いつくばる事になる。
やがてムクリと起き上がると、今は誰もいない総合受付の所に一旦退避する。
興味深く、エントランスの中をゆっくりと見回して行く。
所々で依頼の取り合いになってしまったのか、怒声罵声が飛び交っている。
感心しながら見ていると、いつの間にか人々は、建物内の列を残して散ってしまった。
「如何でしたか?」
「素晴らしいの一言に尽きる」
ウンウンと頷いていると、昨日の職員が声をかけてくる。
「とても活気があって良い」
「そうですか・・。普通はあの状況を殺気立っていると称されますけどね」
アザゼルの言葉に、職員が苦笑いを浮かべる。
「幾つか聞いても良いかな?」
「どうぞ」
忙しいだろうに、にこやかに答えてくれる。
「生産職と戦闘職では、かなり人の差があった」
「こればかりは仕方がありませんね。特色の差と言う事になります」
「特色と言うと?」
「アザゼル様の所属している、冒険者ギルドで受ける依頼を除くと、町の中で出来る依頼と言うのは限られてくるのですよ」
失せ物探しや、ドブさらい以外では、どの様な仕事があるのか気になる。
「例えば、どの様な物だろうか?」
「代表的なものと言えば、薬やポーション作りで、錬金術師の専売特許です。あとは武器や防具への付与は魔術師、病院のヘルプの神官や治療師といった専門性が高い依頼となります」
「なる程」
必要とされる能力があり、その職業についている人が必要になると言う訳だ。
「その場合だと、協会が不要では無いのか?」
冒険者ギルドに直接持ち込まれる依頼があるのだから、他のギルドに直接持ち込めば良い。
「成り立ちから言えば、町の人々からの依頼の取り纏めとして協会が設立され、のちに専門職の細々としたギルドが設立されました」
「協会がギルドに変わったのではないのか? 何故、協会が残っているのだろうか?」
「理由は三つあります」
「どの様な?」
「一つ目はランクです。協会は国の機関の一つであり、どの町へ行っても通用します」
「ふむ」
確かに地域性の高いギルドではなく、世界共通のランクは信頼の元になる。
「二つ目は自由度です」
「確かに」
協会の依頼は強制ではなく、やりたい事を自分で選べる。
「三つ目は、複数のギルドに加入できないという点です」
「待って欲しい。複数のギルドに加入できないのか?」
そんな事は初耳である。
「ご存じないのは無理も無い事です」
「どうしてだろうか?」
「お気を悪くされないで下さい。冒険者ギルドだからです」
「何故、冒険者ギルドだと説明が無いのか?」
まるで他のギルドでは、きちんと説明がなされている様だ。
「他のギルドは・・、特技や才能、経験を必要としまして。それ以外の方が冒険者ギルドとなりますので・・」
「つまりは、どのギルドからも必要とされないと言う事か?」
冒険者ギルドは、才能、技術、特技などが無いものが付く職業である。
他のギルドに移るには、ギルドに適した能力の開花が必要なのだ。
「はい・・」
少し・・いや、かなり言い難そうにしている。
「勿論、ランクが上がれば、他のギルドから声がかかり、その際に説明があるとは思いますが・・」
「基本、冒険者ギルドから移籍する事が出来ないのだな」
「はい・・」
職員のせいでは無いのに、申し訳なさそうに話してくれる。
「話は分かった。では複数のギルドに参加できない理由は何か?」
「ギルドの斡旋依頼を複数同時にこなせますか?」
「・・・なる程、無理だろうな」
冒険者ギルドしか知らないが、毎夕ギルドで依頼が与えられるのだから、短時間でこなせる依頼でなければ難しい。
しかし、何時もその様な依頼があるはずもない。
職員も分かっていただけましたか?と目で訴えてくる。
「三番目の複数のギルドに登録できないと、二番目の理由に大きく関わってきます」
「やりたい事が出来る自由度か・・」
「例えば錬金術師ギルドで、日々薬やポーション作りの仕事を斡旋されていたとします」
「ふむふむ」
「直に薬草が生えている所を見たい、薬の元となる薬草は自分の手でと考えた場合・・」
「協会の依頼を受けつつ、自分の分の薬草をと言うのも、一つの手段ではあるな」
自分の仕事へのこだわりの表れと言えるだろうし、趣味と実益を兼ねる場合もある。
協会職員の話に納得すると、もう一つの疑問について聞いてみる。
「もう一つ。建物の中に列があったのだが?」
「ああ。キャンセル待ちですね」
「キャンセル待ちとは?」
朝早く速くから、何のキャンセルを待つのであろうか?
「先程の混雑の中では、希望の依頼に書かれた職業やランクを一瞬で見極めるのは至難の業です」
「そう思う」
「どうしてもお手付きが発生しまうのです」
「お手付き・・、間違えて依頼書を取ってしまうと言う事だな」
少しでも良い依頼をと考える状況では仕方あるまい。
「ペナルティはありませんが、一旦回収されキャンセル待ちへと回されます。間違えた方は、掲示板に残された依頼か、キャンセル待ちの列に並ぶしかありません」
残された依頼では、満足できる物が残っているかどうか・・
これ自体がペナルティと呼べるであろう。
「キャンセル待ちも、取り合いになれば、またお手付きが出ないか?」
「ご安心下さい。キャンセル待ちの方は、一人ひとりじっくりと依頼を吟味できます」
「おお、それは良く考えられている」
協会の良く考えられたシステムに、ひたすら感心する限りである。
「今頃訪れる者もいる様だが?」
「常時依頼か、残っている依頼の確認でしょうね」
特に休養日であれば、金額の変更や納品単位の変更が無いかなど、依頼書から分かる情報の入手との事だ。
一通り話を聞いた後、思い切ってこれからの事を相談してみる。
「最後にもう一つ」
「何でしょうか?」
「初めて依頼を受けるのだが、お勧めはあるだろうか?」
「そうですね・・。協会の奥義を授けましょう」
「奥義とは・・。構わないのか、教えてしまって」
「いずれ分かりますし・・、アザゼル様が危険回避する上でも大切かと」
「・・危険?」
奥義と危険という相反する様な言葉に、眉をひそめる。
「順番にお話ししますね」
「頼む」
「先ず最初にお勧めするのが、薬草採取の依頼となります」
「何故?」
「薬草の種類にもよりますが、大抵は町の周囲に自生しておりますので、危険が少ないからです」
「なる程・・、先程も危険と言っていたようだが?」
町の周囲に居れば安全であろう、しかし危険回避と言っていたはずだ。
「人間に役に立つ草と言うのは、他の動物にも役に立つようです」
「ふむふむ」
「更にその様な動物を獲物とする、肉食系の野獣やモンスターもいます」
「おお、それで危険と言われるのか」
「その通りです」
薬草を求める動物たち、それを狙う野獣やモンスターと言う図式が成り立つ。
「それが奥義か」
「いいえ、違います」
「えっ!?」
一人で納得しようとするアザゼルに、職員が釘を刺してくる。
「実はその図式通りの依頼が、別々に存在します。それらの依頼をうまく組み合わせる事、これが戦闘職協会の奥義、食物連鎖となります」
「・・おお」
感動のあまり、パチパチと拍手をする。
「協会で依頼を受ける際には、薬草や食材集めの依頼や、間引きと言った討伐依頼を受ける際には、同時にこなせる依頼が無いか、探して見る事をお勧めします」
「承知した」
「忘れないで下さい。食物連鎖はあくまでも自分の身を守る保険でしかありません。情報も常に更新されている訳ではありませんし、状況や環境に依って日々変わります。ご自分の目で肌で感じて、決して無理な依頼を受けて、命を無駄にしないで下さい」
「助言、感謝する」
頭を深く深く下げ感謝を伝えると、依頼が張り出されている掲示板へと足を向ける。
残されている依頼を見ているだけで、色々な事が分かってくる。
「ふむ。確かに採取、素材、食材から、討伐と言った依頼が別々か」
一つ一つの情報を見る限り、繋がりがある様には見えない。
隠れた食物連鎖があると言う事だろう。
「しかし、依頼によって情報に差がある様に見えるが?」
薬草の名前だけしかない依頼もあれば、モンスターの特徴や注意点まで、事細かく書かれている依頼が存在していた。
アザゼルは知らない事であったが、これには二つの理由があった。
一つは情報はお金になるのだ。
黙っていれば自分の収入アップにつながり、必要としている誰かには売る事も出来る。
もっとも皆のために、快く情報を公開する者もいる。
もう一つは、職員の意識である。
同じ仕事をするでも、給料以上のサービスをする者もいれば、給料分だけと考える者もいるし、給料泥棒と呼ばれる者のレベルもある。
人それぞれの考え方や価値観に基づいて行動しているにすぎない。
「そう言えば受付の女性も言っていたが、情報は常に最新では無いと」
きっと情報の整理や更新が、追いついていないのだと良い方に捉える。
「自分の目で確かめながら行動せよ、との助言もあったが・・」
素人の自分が色々考えても解決できまいと、場所や薬草の情報がはっきりしている薬草採取から始めてみる事にする。
衛兵に挨拶をして、城門から外に出て、城壁に沿ってゆっくりと回って見る。
依頼書に書かれた情報と、手にした薬草の特徴が一致する事を確認しながら採取すると、城壁を一周する頃には、20本程の薬草が手に入る。
「ふむ。この薬草はこの様な感じなのだな」
町の周囲には、畑もあれば森も草原もある。
色々な物をバランス良く得るために、考えられて開拓されている様だ。
「環境や人口に応じて、よくよく考えての事なのだろう。そして多種多様な環境は、危険度も増すと言う訳か」
少しでも値の張る薬草をと思えば、深い草原の中や、薄暗い森に分け入る必要がある。
「それ故に、薬草採取と言った仕事が存在するのだな」
良い方に自己完結しながら、うんうんと感慨深く頷いている。
「どの様な仕事でも、準備は必要だ」
その様に呟くと、規定数の薬草を集めて協会へ戻る。
依頼の報告と一緒に、町周辺の動植物の情報を教えて欲しいと告げる。
「こちらへどうぞ」
にこやかな笑顔で女性職員が案内してくれたのは、協会の資料室であった。
「新旧の情報が混在していますが、お探しの物はこちらにありますよ」
「・・・」
膨大な資料が納められた棚を教えてくれる。
多くの戦闘職は経験と勘と言って憚らず、あまり利用されていないとの事だ。
「持ち出しや、勝手な情報の追加、資料の整理は禁止です。まあ一声かけていただければ、是非とも整理はお願いしたい所です」
「・・承知した」
整理、未整理含めた膨大な資料の山に、呆然とするしかなかった。
ウハーは、昼過ぎに戻って来たアザゼルを見て唖然とする。
「常時依頼すら無かったのですか?」
そんな事はあり得ない、と思いつつも聞いてしまう。
「いいや。薬草採取の依頼は達成した」
「貴方は馬鹿ですか!? 常時依頼は何回でも何本何個でも構わないんですよ!」
ギルドに戻ってくるのは嬉しいはずなのに、戻らない様に助言してしまう。
「うむ、知っている。依頼書をきちんと読んだからな」
「知っていて・・」
あんぐりと口を開けてしまう。
ダメだ・・。今まで出会った人種と全く違う。
ただアザゼルは、膨大な資料とどのように格闘するか悩み、一旦ギルドに戻っただけだった。
「どうしますか? まだ時間がありますから依頼を受けますか?」
「うむ、受けよう」
簡潔に即答し、頷く。
「・・どうぞ」
仕事の内容は、ドブさらいであった。
誰もが嫌がる仕事をあえて押し付ける。
「確かに」
依頼書の内容に不明な所が無い事を確認して、現場へと向かう。
「これで懲りるでしょう」
ギルドから出て行って欲しくないと思いながら、嫌な仕事を押し付ける。
アザゼルが出て行った扉をちら見して、自分の仕事へと戻る。
下水道は、町や村を作る段階できちんと整備計画がなされている。
魔法で浄化され、農業用水などに使われるのである。
では何故、ドブ掃除なる物が存在するのであろうか?
浄化できない砂などは、どうしても溜まっていき定期的に取る必要がある。
浄化槽は何段階かに分かれており、綺麗な方からごみを取り出して行く。
当たり前の事だが、汚い浄化槽の方が異物は多い。
全ての浄化槽のごみを取り除き、ギルドに戻る。
依頼書の注意書きに、必ず裏口へとなっていたので、裏口へと回り、汚れと匂いを可能な限り洗い流す。
音を聞きつけたウハーは顔を出すと、変な事をしているアザゼルを見咎める。
「アザゼルさん? 貴方は装備をしたままドブさらいをして、尚も装備をしたまま洗うって・・。何をしているのですか?」
「気にせずに」
「・・気にせずにって。ちゃんと洗わないと匂いが残るんです」
少々無理やり装備を外しにかかる。
アザゼルは、成すがままに任せる。
「っ!?」
片方の小手を外して、中から現れた痣・・、文字にも見える模様に動きが止まる。
それも一瞬で、全ての装備と仮面を外してしまう。
「体はご自分で。装備はこちらでやります」
「感謝する」
2人の間に沈黙の時間が流れる。
装備を洗い流し終ると、適当にぶら下げ、水気を切り、ぼろ布で拭き乾かす。
「あとはご自分で」
「感謝する」
再び礼を言うと、ウハーはそのまま建物の中に戻ってしまう。
アザゼルは身支度を整えると、依頼の報告に中に入る。
「ご苦労様でした」
余計な事を言わず、聞かず報酬を渡す。
「明日の分をやってもらいましたので、明日も協会の方へ」
「分かった」
一礼をすると、ギルドから出て行く。
アザゼルがギルドを出てから暫くして、ウハーは顔を上げる。
「呪い・・かしら? 見せたくも無いし、見られたくも無いわね」
あの手の痣は・・、忌み嫌われると聞いた事がある。
そして触れられたくも無いし、良い思い出も無いのだろう。
「馬鹿なのでは無く、居場所を失わないための処世術かしらね・・」
意識的か無意識か分からないが、今までの彼の態度を思い返す。
アザゼルの一片を、思わず垣間見てしまった事に溜息を吐く。
アザゼルは宿に戻ると、溜息を吐きこれからの事を考える。
「痣の件は遅かれ早かれ、気付かれる恐れはあった。隠していた事は事実だし、何か言われれば・・謝るしかあるまい」
あざの事に関しては、相手の出方待ちである。
「資料室の存在は大きい。これから依頼をどの様にこなすべきか・・」
『命を無駄にしないで下さい』との協会の職員の言葉が思い出される。
「命を無駄にするな。日々刻々と状況は変わっていると・・。単に依頼をこなすのではなく、生きた情報を増やしながら取り組むべきか」
ふとランクの存在意義を思い出す。
「日々の積み重ねの結果、ランクアップに繋がるのであった。とても良く出来たシステムなのだ」
ランクアップのために、日々苦しんでいる人達から恨まれそうなシステムの開発者である。
彼らが聞けば涙を流して喜び感謝する言葉で、うんうんと頷いて自己完結してしまう。
アザゼルは、他の人とは比較にならない程、ゆっくりと依頼をこなしながらランクアップしていくのだった。




