ギルドの依頼を受ける
【人間編 ギルドの依頼を受ける】
魔族にして友であるスミナユテと別れを告げ、教えられた通りの方向に進むと街道に出る。
街道を進みながら町を目指し、日が暮れれば野宿の支度をして夜を明かす。
再び歩みを始め、太陽が高く上った昼過ぎには、遥か遠くに城壁の様な物が見えてくる。
「あれが友スミナユテの言っていた、この辺りで一番大きな町か?」
町に着いた喜びよりも、町に入れるかどうかの悩みが尽きない。
「ふむ、どうやって町の中に入れば良いのか・・」
スミナユテは言っていた、呪いがあると町に入れない可能性あると。
近づけば近づく程、人の目につきやすくなり警戒されてしまう。
どうしようかと思案していると、元来た道を振り返れば、かなり先のほうに人間の一団を感知する。
まずはダメ元で彼らに相談を持ちかけてみようと、来た道を慌てずゆっくりと戻るが、近づくとどうも一団の様子が変化した。
「何だ?」
20名ほどが武器で持って荷車を囲んでいる。
荷車の周囲には、数人が倒れており、どうやら怪我をしている様子だ。
「これはモンスターに襲われているのか?」
気配を消して近づくと、一人残った人物と周囲の人間たちの会話が聞こえてくる。
「残念だったな。安い護衛を頼むからだ」
その声につられる様に、周囲の人間たちもゲラゲラと下卑た笑いをする。
「最初から大人しく荷物を置いていけば、命ぐらいは助かったのによ」
これが野盗と呼ばれている人間なのだろう。
倒れているのが護衛と呼ばれる人間で、抵抗虚しく敗れたようだ。
「(人間同士で・・? 同族を襲っているのか? むっ!? 手当てが必要か? 時間はあまりないな)」
手近に転がっている石を数個拾い上げ、野盗たちに投擲する。
「何だ!?」
突然周りの仲間たちが、血を流して倒れて行く姿に驚く。
こちらに気付くまで投擲を続けるが、面白い様に野盗の数を減らして行く。
「あそこから石を投げている奴が居るぞ! 殺せ!」
残った野盗の殆どが、アザゼルに向かって襲いかかる。
落ち着いて背負った大剣を構え、あっという間に打ち倒していく。
「・・馬鹿な!? な、何なんだこいつは?」
アザゼルに向かっていた仲間が一瞬で全て倒されると、驚愕の表情で呟く。
そして逃げる間もなく猛突進で踏み込まれ、全員が地べたに這いつくばる事になる。
傷つき倒れている人間たちを見て、命の火を保っている者たちの手当てをする。
自分の出来る事を済ませると、改めて商人に事情を確認する。
「何も聞かず倒してしまったが・・、彼らは?」
「野盗たちです!」
「ふむ。倒しても良かったのだな?」
「も、勿論です! 殺しても殺し足りません!」
商人は顔を真っ赤にして、どれほどの恐怖と怒りと悔しさだったかを訴える。
しかしアザゼルとしては、野盗にも事情があり、簡単に善悪で割り切ってはいけないのではないかと考えていた。
あくまでもどちらの側に立つかの違いでしかなく、今は商人側に居るだけなのだ。
「野盗はどうする?」
事情が分からなかったため、殺さないように心がけていた。
「町まで近いですし、殺さずに連れて行きましょう」
野盗を後ろ手で縛り、一列になる様に全員の首をロープで縛る。
誰かが何かをすれば、全員の首が絞まる仕組みだ。
残念ながら護衛たちの殆どは命を落としていたため、その場で弔う。
急ぎ町へと向かい、まだ日が高い内に町へ到着する事が出来た。
「すまないが、此処までだ」
「何故ですか?」
城門の傍まで来ると、商人に話しかける。
「そもそも身分を証明する物が無いのだ。冒険者登録と言うのをしようと思っているが。
それに・・」
そう言うと、左の小手を外し、封印の影響と思われる痣を見せる。
「大丈夫ですよ。私と一緒にいけば」
痣を一目見て理解すると、頷いて無理やり城門の方へ引っ張っていく。
商人は城門の衛兵に事の次第を話すと、衛兵は急いで仲間に伝え慌ただしくなる。
「・・えっ!?」
アザゼルと商人とその商隊は、そのまますんなりと町の中に入れたのである。
「一体、どう手品なのだ?」
「私の雇った護衛の一人だと話しただけですよ」
何て事はありませんと言う風に、笑顔で答えてくる。
「そうか・・、感謝する」
「この道を真っ直ぐ進むと、町の中心部に出ます。そこで一番大きい建物が町役場です」
「ふむ、そうなのか」
「町役場には、ハローワークがあります」
「ハローワークとは?」
スミナユテから学んだ事の中でも、その様な言葉は無かった。
「公共職業安定所の事で、先ずそこへ行って身分証明書を交付してもらって下さい」
「身分証明は、冒険者登録でするのではないのか?」
もしかしたら制度が変わったのかもしれないと尋ねる。
「ハローワークの無い、地方何かはそう言う所が多いですね」
「なる程、場所場所によって手順が違うのか」
「細かい話は、実際に職員に聞いてみるのが一番です」
「尤もだ」
人口や環境など、色々な条件に適した形に変化するのは当然だろう。
「私は荷物を商会に届けてから、護衛たちの事を報告してきます」
「分かった。大変世話になった感謝する」
各々向かうべき場所へと散っていく。
教えられた通りに町役場に行き、ハローワークへと向かう。
目に着いた受付に居た女性職員に声をかける。
「少し時間を貰えるか?」
「ようこそ。西の町のハローワークへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
自分の変わった姿にも物怖じする事無く、相談に乗ってくれる。
「訳合って村を飛び出してきたのだが、身分を証明する物が無く冒険者登録をしようと思って来たのだが、そう言った物がないと聞いて・・」
「分かりました。この町の住人と言う事で登録いたします」
全く疑いも無く、自分の身分証明書の作成を請け負ってくれる。
逆に町の安全は守られるのだろうかと思ってしまう程だ。
「こちらの用紙に必要事項をご記入下さい」
そう言うと、作成に必要な情報を書くための用紙を渡される。
「もしも、読み書きが出来なければ代筆致しますので」
「大丈夫だ」
後ろで控えている人々のために場所を空け、他の机で記入し、書き上がると再び受付に向かう。
「アザゼル様ですね? 記入漏れは・・無い様ですね。証明書が作成されるまで、これからの事をご説明させていただきます」
どうぞ、と椅子を勧められる。
「基本的には生れた村や町で、身分証明ができます」
「そうだったのか」
「そのために冒険者登録と言う制度はありません」
「・・はぁ!?」
思わず裏返った声をあげてしまう。
「諸事情により身分証明書が無い方は、どの町や村でも住人となる事で作成が可能です」
「・・そうなのか?」
「ただ小さい村は閉鎖的な所が多く、住人として迎え入れてくれる事は少ないですが」
「そうか・・、この町に来れて良かった。感謝している」
「いえいえ」
この仕事に就いていて、この様に問題が解決され感謝されるのは嬉しいのか笑顔である。
「ハローワークは本来、皆様に職業を斡旋する場所です」
「職業を・・斡旋?」
「はい。同じ職業の方の集まりや団体をギルドと呼びます。ご本人の能力や適性を鑑みて、適切なギルドをご紹介するのです」
「例えばどのようなギルドが?」
職業団体として、どのような物があるのか興味が惹かれる。
「分かりやすい物であれば、退役兵士による傭兵ギルド、魔法使いの団体である魔術師ギルド、武器や防具を作る鍛冶ギルドですね」
「沢山のギルドが有るのだな」
「この他にも、地域や村々毎の特色を持った船舶ギルドや鉱山ギルド、狩人ギルドがあり、場所によっては有るギルド無いギルドが存在します」
「ふむふむ、当然だな」
地域や環境、場所によって、必要となる職業が変わるのだから、ギルドもそれに合わせた物になると言う事なのだろう。
「では私の場合には、どのようなギルドとなるだろうか?」
当然の事ながら、自分の才能や適性に会った職業を探さなくてはならない。
「アザゼル様は何が特技の様な物はありますが?」
「いや、正直何もない」
「殆どのギルドは、要経験者となっております。そうなりますと、冒険者ギルドしかありません」
ここでやっと、冒険者と言う言葉が出てくる。
「冒険者登録と言う制度が無いと言っていたが、この冒険者ギルドに登録すると言う事ではないのか?」
「正確には違います。ギルドに参加するには、身分証明が必要となります。何らかの特技や才能、経験があれば、選べる職業は冒険者ギルドだけではありません」
「ふむ・・」
スミナユテが得ていた情報は、この辺りがゴチャゴチャだったのだろう。
「ちなみに冒険者ギルドとは、どの様なギルドか?」
「そうですね・・、一言で言えば、あらゆる依頼をこなすギルドですね」
「分かった。冒険者ギルドに参加しようと思う」
他のギルドも見てみたいが、今の自分に付ける職業が冒険者であるなら仕方ない。
「丁度、身分証明書が出来上がりましたので、お渡しいたします」
掌ほどの大きさの、四角い金属性のプレートに、名前や年齢、出身地など、先程紙に書いた情報が掘り込まれている。
「冒険者ギルドの場所は、こちらになります」
町の地図を広げて、現在地とギルドのある場所を指示して教えてくれる。
「ありがとう、感謝する」
「いいえ。また分からない事がありましたら、何時でもご利用下さい」
職員に礼を言って役場を出ると、先程別れたはずの商人が待っていた。
「お待ちしていました」
「待つ? 何か約束していただろうか?」
商人に問うと、にっこりと微笑んでから、懐から皮袋を出す。
「これは?」
「捕えた野盗に対する報奨金と、些少ですが助けていただいたお礼です」
「お礼は分かるが・・、報奨金とは?」
「野盗には指名手配の懸賞金と、指名手配になっていない野盗を捕まえた際の報奨金の二通りがあります」
指名手配は死体でも良いが、その他は生け捕りで無くてはならない等の決まりを教わる。
「その様な仕組みがあるのか・・。しかし良いのか貰ってしまって?」
「ええ。貴方様のお陰で助かったのは事実ですから」
「ならば遠慮なく受け取ろう」
スミナユテから預かったお金がどれほどの価値か分からないが、一人で生活するためには、どの程度の金額であれ、受け取っておくべきと考える。
「これから先も何かのご縁があれば、ご一緒出来る事を楽しみにしています」
「恩は忘れぬ。何かあれば声をかけてくれ」
2人は再会の時を期待して、別れを告げる。
アザゼルは再び一人となり、教えられた通りに冒険者ギルドへと足を向ける。
扉を開けると、自分をちらりと一瞥した一人しかいない受付の女性の所へ行く。
「ギルドに加入したいのだが?」
「畏まりました。身分証明書を」
神をお団子にした女性は顔すら挙げず事務処理をしたまま手を出す。
先程作ったばかりのプレートを掌の上に乗せる。
アザゼルはここでも不思議に感じる、自分の姿に何の関心を示さない事を。
「冒険者ギルドについて説明します」
ここでやっと彼女は、態度とは裏腹に優しげな眼差しを持つ整った顔を挙げる。
「頼む」
ここからはスミナユテの情報には無かったため、非常に大切である。
「冒険者ギルドとは・・、食い詰めた者たちのセーフティネットです」
「・・えっ!?」
「何でもやる事を挑戦と言って、冒険者を名乗っていますがその程度です」
「・・・むぅ」
とても・・、とてもシビアなお言葉である。
「ただし高ランカーになれば、相応に優遇されますので頑張って下さい」
「・・努力しよう」
まあどの様な仕事であれ、初心者や新人の下積み期間は厳しい物だ。
「冒険者ギルドの仕事の説明をします」
「うむ、頼む」
「仕事は依頼と言う形で受けます。依頼はギルドと協会の二か所で受けられます」
「協会とは?」
依頼を受ける事の出来る協会とやらが、全く分からない。
「そこからですか・・、まあ良いでしょう。協会には二種類あります」
「むっ? ちょっと待・・」
「最後まで黙って聞く!」
「う、うむ・・すまない」
ギルドの受付嬢に、一括されてしまう。
「二種類と言うのは、町の中の依頼を取りまとめる生産職協会、町の外の依頼を取りまとめる戦闘職協会です」
「・・そうか」
依頼の住み分けの様である。確かに最後まで聞けば分かる。
それにしてもハローワークの職員と、対応がかなり違う気がするのだが?
「ギルドの依頼は、こちらの方で人選して依頼を渡しますのが拒否権はありません
ギルドに登録する以上、ギルドの依頼を優先でやってもらいます」
「尤もだ」
冒険者と言う職業に就く以上、当然の措置だろう。
「協会の依頼は、それぞれの協会に設置されている掲示板に張り出されている依頼から、自分に合った依頼を選びます」
「なる程」
「詳しくは協会の方で聞いていただければと思いますが、協会の依頼にはギルドの指定があるものは、そのギルドしか受けられません。特にギルドの指定が無い、もしくは誰でも可と言う依頼は問題ありません」
「その様な仕組みになっているのか」
事細かなルールがあるようなので、協会に行って確認すべきだろう。
「ギルドも協会も、依頼は一日分を纏めます。協会は翌朝に張り出され早い者勝ちです」
「ふむ」
「ギルドでは夕方に依頼を指示します。ギルドの依頼が無ければ、次の朝協会に行って依頼を受けると言う流れです」
人間はこの繰り返しで、日々暮らしているのだ。
「今日は夕方まで何すれば?」
「・・拠点となる宿を見つけたり、町でも探索されたらいかがですか?」
「確かに、それは必要だ」
この町に来たばかりなのだ、何も分からない事ばかりである。
「どの様な宿屋が良いのだろうか? この町の何処を見ておけば良いのか?」
受付嬢はこれ見よがしに溜息を吐く。
「・・此処がお勧めです」
それでも丁寧に必要な事を教えてくれる。
「ありがとう。では夕方に、もう一度伺おう」
「期待せず、待っています」
「ん? 期待・・せず?」
「独り言です、お気になさらずに」
何か引っかかるものを感じ、首を捻りながらギルドを出て行く。
アザゼルと入れ違いに、一人の男性が入ってくる。
「ただいまぁ、ウハーちゃん」
「お帰りなさい、ギルドマスター」
「何か変わった事はあった?」
「期待の新人が加入しましたよ」
一切顔を上げず、ウハーと呼ばれた受付嬢は、事務仕事に専念しながら受け答えをする。
「・・なんか棘のある言い方だね?」
「誰が好んで、ドブさらいと言った仕事をやりたがりますか?」
「それが我が、冒険者ギルドの仕事だからねぇ」
セーフティネット・・。聞こえは良いが、何らかの雇用が必要である。
未就労者対策のため、町から資金援助を受けて設立したギルドが冒険者ギルド、通称雑用ギルドである。
通称通り主に雑用一般が基本で、誰もやりたがらない仕事を請け負う。
メンバーは夕方に顔なんか出さず、協会の方の依頼で済ませてしまう。
では溜まった依頼はどうなるか。
裏側でギルドマスターを始め、職員が交代で肩代わりする。
「なら賭けましょうか?」
「えっ!?」
やっと顔を上げたと思えば、表情にはとても危険な笑顔が浮かんでいる。
「私は来ない方に賭けます。何なら1年分の給金でも構いませんが」
「・・そんなの勝負にならないよ」
ギルドマスター自身も当然の事ながら、現状を正確に理解している。
しかし二人の賭けは、良い方で裏切られる形となった。
「何故、戻ってきたんですか?」
「む? 夕方に戻る約束だったはずだが?」
受付の女性は、何やら不思議な物を見るような目つきである。
「・・では、この依頼を行っていただきます」
「分かった」
依頼はペット探し、期限は早急且つ見つかるまで、依頼金は子供のおこずかい程度であった。
依頼の内容や注意点を聞いた後、そのままペット探しに出かけるアザゼル。
「もう帰って来ないでしょう」
後姿を見つめながら溜息を吐くと原本を取り出し、依頼の複製を作成する。
当然の事ながら、他のギルド職員に頼むために。
ペット探し・・ 労力と報酬額が合わない依頼の一つである。
労力の点で言えば、捜索範囲の広さ、相手が動き逃げ隠れる。何より生け捕り。
報酬の面では、子供のおこずかいに毛が生えた程度が良い所。
これで誰がやりたがるだろうか?
アザゼルは、事前に与えられた情報を整理する。
「原則ペットは役場で登録し、指定の首輪を付け、野良と違う事を証明する。種類と性別、色、体の大きさ、年齢は飼い主から分かっている。」
腕を組み、左手を顎を撫でながら考え込む。
「見つからない場合は毎日ギルドに報告・・か」
確かにギルドでも飼い主としても、進捗は知りたいだろう。
「はたして封印された状態で、どれ程の索敵能力があるのか・・」
与えられた条件での索敵は厳しく、困難が予想される。
「これを日常的にこなしている人間とは、何と自己鍛錬の怠らない種族であろうか」
ちょっとした誤解から、妙な関心をしてしまう。
アザゼルの持つ索敵能力の使い方には、何通りか方法が存在している。
一つ目は、一方向にひたすら索敵範囲を伸ばす物で、一番遠距離まで探知が可能である。
二つ目は、自分を中心として、同一円上を同時に探知する物で、探知距離が一番短い。
応用として、一方向の索敵を、一定時間で360度探知する方法もある。
それぞれには一長一短あるが、どの様な道具も使い方次第である。
「先ずは同一円上で、どの程度カバーできるか試してみよう」
独りごちると、索敵を開始する。
「ふむ。ほぼ町全体はカバーできる様だな」
町を囲む城壁ギリギリまで索敵範囲に入っていた。
「此処から条件付けを行っていこう。最初は種類から」
索敵はあたかも目の前に映し出されているかのように見える。
かなりの数の点として表示されていた。
「続けて、性別、首輪の有無、色、大きさ・・」
性別と首輪では大きく減ったが、色と大きさでは左程変わらなかった。
とは言え最終的に対象は、ほんの数匹まで絞り込まれる。
「あとは一匹一匹の首輪にある番号を確認すればいいんだな」
一点一点を追跡し、ペットを無事に捕まえる事が出来た。
ウハーと呼ばれた受付嬢は、扉の開く音にチラッと視線を送る。
依頼を達成した職員の誰かが、帰って来たのだろうと確認の意味で。
次の瞬間、脳の中で戻ってきた人物が一致すると、ガバッと身を起こし立ち上がる。
「そ、そんな馬鹿な・・!?」
目の前にはペットを抱えたアザゼルが立っていた。
依頼を指示してから、左程時間が立っている訳ではない。
「戻ってくるなんて・・」
ストンと椅子に腰かけると、思わず本音が漏れ出てしまう。
「これで間違いないと思うが?」
アザゼルがペットであろう動物を、ウハーに渡す。
「わ、分かりました・・」
ペットに付けられた首輪の番号と、特徴から間違いない事を確認する。
「お疲れさまでした。報酬になります」
アザゼルは初めての自分の稼ぎに、猛烈に感動して笑みが零れる。
「まだ時間がありますので、次の依頼をお願いします」
嫌な顔一つせず、その依頼を受け取る。
ウハーはその様子を変な物を見るかの様に、アザゼルを見つめてしまう。
異様な外見では無く、内面・・、心の内を見透かすように。
「ペット探し・・か」
ウハーは無意識にイラっとしたのか、似たような依頼を渡してしまっていた。
「(不味い!?)」
アザゼルの呟きを聞いて内心焦る。
幾らイラっとしたとして言葉や態度に出てしまっても、似たような依頼を渡すのはギルド職員として公平性に欠ける。
それならば言葉は態度は良いのかという問題は、この際置いておいて。
アザゼルは嫌がらせとは全く思わず、こなせた仕事だからもう一回程度に考えていた。
「では行ってくる」
「・・お気を付けて」
ウハーは、すぐに戻ってくるような気がする。
その通りにアザゼルは前回の経験をフル活用して、更に短時間で捕まえて戻って来る。
冒険者ギルドも鬼では無く、ウハーのミスはあくまでも感情的な物である。
毎日雑用ばかりでは無く、協会の方の依頼を受けられるように配慮する。
とは言えギルドマスターや職員が肩代わりしていた依頼の殆どが、アザゼルによって片付いていったのは事実である。
「アザゼルさん。ギルドの依頼はありませんので、明日は協会の依頼を受けて下さい」
「分かった。申し訳ないが受け方を教えてもらえるか?」
「・・えっ!?」
勝手に協会の方に行って依頼を受けるだろうと思って、教えてはいなかった。
確かに毎日、ギルドに来て依頼を受けていた事を思い出す。
「協会の方の依頼を受けた事が無い?」
自分の手落ちではあるのだが、思わず聞いてしまう。
「ああ。冒険者ギルドで仕事を斡旋してくれるからな」
何て奇特な人なのだろうと思う。
もしかして知恵に遅れがあるのかもしれない。
周りの言う事を、素直に受け取ってしまうのだ。
美徳と言えるだろうが、あくまでも分別があってこそである。
「今更ですが、簡単に説明します」
「頼む」
仕方無く、協会の依頼の受け方を説明する。
「二つの協会の存在は覚えていますか?」
「勿論、生産職と戦闘職だ」
「協会とギルドの依頼の違いは覚えていますか?」
「勿論、朝一早い者勝ちと夕方必ず確認する」
「結構です」
何とも冷たい対応にも拘らず、一言一句聞き逃さない様に懸命に耳を澄ます。
「協会では、職業によって受けられる職業と言うのが存在します」
「聞いている」
「更に職業のランクによっても受けられる依頼、受けられない依頼があります」
「何故だ? そもそもランクとは?」
「極端な例ですが、戦った事の無い人に、ドラゴンを倒せと言う依頼は果たせますか?」
「無理だと思う」
「その人がどの程度の依頼を果たせるか、という目安がランクです」
「うむ、合理的だ」
職業の熟練度や能力に合った仕事を提供するシステムに感心する。
「ギルドでは職員から依頼が指定されますので、ランクは不用でした。
身贔屓と言われないためにも、ギルドではランク付けをしていないのが実情です」
「なる程」
公正明大、実にすばらしい事である。
「しかし協会と言う第三者による立場であれば、公平にランク付けも可能でしょうし、信頼も保証されます」
「そう思う」
「またパーティと言って、他の職業の人と一緒に仕事をしたりする場合、この人はこの依頼を受けさせても大丈夫かという指針にもなるでしょう」
「そのような役割を持つのが、ランクと言う訳か」
「その通りです。ランクアップの方法は、協会の方で聞いて下さい」
「分かった。明日は協会の方に顔を出すようにしよう」
「前にも言いましたが、依頼は朝一番で張り出されます。今日の内に協会で色々聞いておいた方が良いと思います」
「なる程。その助言に従おう」
そう言うとアザゼルはウハーに礼を言って、協会へと向かっていく
「・・久しぶりね、こんな説明したの」
ウハーは感慨深く頷いていた。
「でも・・、協会の方が良いと分かれば、二度と顔を出さないでしょうね」
少しさびしい気持ちで、溜息を吐く。




