別れと出会う
【世界編 別れと出会う】
西の町の人々は、集まってくる同胞を渋々ながら受け入れる。
しかし他の種族に対しては、徹底抗戦を持ってでも追い出しにかかる。
他の種族は、この町が安全であると知ると、武力で奪おうとする。
「あの羊皮紙には、何らかの目的で異世界から呼ばれたとありましたが・・」
「その目的が分からないと、何ともしようがないのよねぇ・・」
愚かにも安全地帯を求めて、お互いに傷つけ合う四種族。
「あんな事をしている余裕なんてないのにねぇ・・」
「少なくとも、アザゼルさんだったモノの目的が・・」
二人の視線が、突如現れた血色のジャイアントのリッチを捉える。
争う人々の中に、アザゼルだったモノは漆黒の槍を放つ。
四種族は散り散りとなって逃げ惑うが、アザゼルだったモノは後を追う事無く立ち去る。
「やれやれ・・。争いは収まったけど犠牲者は増えたわねぇ・・」
「でも直接死に至る人たちは、まだ一人もいない様ですが・・」
漆黒の槍を放ったのは、今回はたった一発のみ。
「何となくだけど、目的が分かったかも・・」
「あの人らしいと言えば、あの人らしい・・」
ウハーとセッチは羊皮紙を持って、自分の陣営の代表に事のあらましを伝える。
「何を戯言を。そんな訳あるか!」
他の種族にも、無抵抗の意思表示して羊皮紙の話の内容を伝える。
「人間どもの言う事など信用できるか!」
全く耳を傾けず、四種族で争っては、犠牲者を増やす。
更にアザゼルだったモノによる犠牲者が増えていく。
二人は根気強く説得のために、何度も四種族の中を巡る。
繰り返される四種族の争いと、アザゼルだったモノによる強襲。
傷つき倒れる仲間と、串刺しにされる仲間が増え、種族間で争う力が奪われる。
何時しか、なし崩し的に四種族が、アザゼルだったモノに共闘する形になる。
四種族揃って自分に向かってくるのを見ると、戸惑うかの様な行動を見せる。
「剣や槍、斧でダメージを受けているのか?」
「弓が当たる・・のか?」
「魔法が効いているのか?」
アザゼルだったモノは、四種族の攻撃を嫌うかのように、大量の黒い靄と共に消える。
「勝った・・いや、逃げた?」
「何故?」
四種族はアザゼルだったモノとの戦いの結果に戸惑う。
その機会にウハーとセッチは、再び精力的に四種族を回る。
「もしこの羊皮紙に書かれている事が事実なら・・、共闘すべきなのか・・」
「人間の言う事など信用できん・・が、事実共闘で追い返せてはいる・・」
ウハーとセッチの言葉がほんの少しずつ届き、四種族が拙いながらも共闘を始める。
「誰かは知らぬが、あれを異世界より召喚した者は余計な事を・・」
しぶしぶ共闘する種族間の胸中を図り知ることは、誰にも出来ない。
ただ共闘も回を重ねる毎に連携が高まり、アザゼルだったモノを確実に追い返していく。
しかしながら決定的なダメージを与える火力が不足していた。
セッチはウハーと一緒に、四種族の説得に当たる傍ら、二人の居る森を往復する。
「アザゼルさんは?」
「「いいえ、まだ・・」」
居ない事が分かっていても、二人に隠すために確認をする。
「そう・・。ウハーさんの方も、まだアザゼルさんに出会えていないのよ。加えて全世界規模で混乱が起きていて、にっちもさっちもいかない状況だし」
「「そうですか・・」」
「悪いけど、このまま二人には、この森で待機ね。私は継続して、西の町とこの森の橋渡しをするわ」
「「分かりました」」
ウォックとズウェイトに、今のアザゼルの姿を見せないで済むように仕向ける。
森での待機をお願いされた二人は、常に安全を配慮しながら森を探索する。
今日も今日とて一通り見周りが終わると、木箱の置かれた場所に戻ってくる。
「アザゼル様・・、大丈夫かな・・」
「私たちの事探しているのかな・・」
ズウェイトが、アザゼルへと書かれた木の箱をポコポコと叩く。
ふと違和感に気付き、ウォックが声を上げる。
「ズウェイトちゃん!」
「何? どうしたの、ウォック姉さん!?」
「もう一度、もう一度箱を叩いて」
ウォックの獣人としての高い聴力が何かを捉え、同じ事をする様ズウェイトに指示する。
「はい」
ポコポコ
「・・箱の下に何か・・、空洞みたいのがあるみたい」
「えっ!?」
木箱はアザゼルさんや、自分たちの目印であり、動かす事は考えても見なかった。
二人は頷き木箱を退かしてみると、明らかに人工の石が敷いてあった。
「これは・・」
「もしかしてアザゼルさん、この中に?」
「いや、それはないと思うわ。木箱や中の羊皮紙はアザゼルさん宛だったし、アザゼルさん自身じゃ蓋した後に木箱はおけないもの」
「そっか・・」
石を軽く叩くと、中は空洞のような音が帰ってくる。
「この下に何かあるわね」
「どうしましょうか?」
「ちょっとだけ中を覗いてみましょう」
「はい」
石の蓋は思っていたよりも軽く、一人でも簡単に動かす事が出来た。
蓋の先は階段となっていた。
二人は入り口を出来る限りカモフラージュして、カンテラを点け中へと入って行く。
「ここは・・?」
「地下室・・かしら?」
10段ほど階段を下りた先には、貯蔵用の小さな地下室がある。
更に階段の向かいには扉が取り付けられていた。
「行って・・、見る?」
「扉だけ・・開けてみます?」
木製の扉には鍵は無い様で、扉を引き中を見ると、更に階段が続いていた。
「降りちゃう・・?」
「行っちゃ・・いますか?」
二人はちょっといたずらっ子の表情を浮かべ頷く。
階段を下りると、そこはダンジョンの様相を呈している。
「ダンジョンとは・・違うみだいだけど」
「似ている物を、わざわざ地下に作る理由は何でしょうか」
一階層しかなく、宝箱もモンスターもいなかった。
「ちょっとガッカリね」
「アザゼルさんの訓練スペースかもしれませんね」
「それはあるかも・・」
アザゼルと、友人の魔族との関係を想像して笑顔が零れる。
何故か・・、ふと・・、二人の視線が・・、壁に注がれる・・
「ねぇ・・、ズウェイトちゃん?」
「ウォック姉さんも・・?」
既視感・・、全てのダンジョンの一階層の宝箱のある壁・・
ダンジョンとは違うならと、壁を叩いて中に空洞があるか確認する。
「・・空洞がありそう」
「どうして!? 私たちのために用意されている様な・・」
ズウェイトが叫ぶと、ウォックは羊皮紙の言葉を思い出す。
「万が一の備え・・」
「・・アザゼルさんを、異世界から呼び出した目的ね」
「もしかしたら、魔族のお友達がアザゼルさんを呼んだ?」
「その可能性はあるわね・・」
二人は壁を崩して見ると、すぐに空洞が現れ、一抱えの宝箱が置かれている。
「ドワーフ族のために、って書いてあるわね」
「・・・」
「ちょ、ちょっとズウェイトちゃん!?」
問答無用でズウェイトが宝箱を開ける。罠があろうが無かろうかお構いなしだ。
宝箱はすんなりと開き、宝箱の大きさからはあり得ない両手斧が現れ空中に浮く。
残りの空洞を調べ、壁を壊し、種族が指定された宝箱を見つける。
一つはエルフのためにと書かれた宝箱から弓。
一つは獣人のためにと書かれた爪装備。
一つは人間のためにと書かれた槍。
奇しくも他のダンジョンと同じ4つ・・
「何なんですか! アザゼル様は駒じゃありません!」
ウォックはズウェイトの言わんとする事を理解する。
人のなせる業では無い。
種族間で争う者たちを危惧した、何者かが仕組んだのだろう。
それらの武器をそのまま放置して、ズウェイトは地下室から飛び出す。
「きゃっ!?」
「えっ!?」
ズウェイトが顔を出した先には、セッチが覗きこもうとしていた。
「どうしたの? って言うか何この穴は?」
「セッチ様!」
ズウェイトに抱きつかれセッチは一緒に転がり、後から来たウォックが難しい顔をする。
アザゼルやセッチを待っている時間、森の探索をして木箱の下に空洞を見つけた事。
空洞には地下室や、ダンジョンの様な空間があった事。
これらは何者かが、アザゼルのために仕組んでいた可能性を告げる。
「なる程ねぇ・・。確かにアザゼルさんを呼んだ張本人の隠した物か」
「「はい」」
地下室を三人で確認した後、再び羊皮紙の束をペラペラと捲る。
「ならば二人にも、本当の事を伝えておく必要があるわね」
「本当の・・」
「・・事ですか?」
アザゼルさんの変貌と、全世界の厄災について話をウォックとズウェイトに聞かせる。
「どうして・・、アザゼル様・・」
「やはり、こうなる事を予想していたんですね。お友達は・・」
「ただ最悪の事態を招いたのは、この世界に住む全種族の責任ではあるわ」
セッチは溜息を吐くと、地下に入り武器をマジックバックへとしまっていく。
「セッチ様・・」
「・・悔しくないのですか!?」
「ウォックちゃん、ズウェイトちゃん、アザゼルさんを休ませてあげましょう?」
自分の事よりも人の事を思い、優しく、一生懸命で馬鹿正直・・
「「・・はい!」」
彼の苦しみを取り去れるのは、鍵を託された自分たちだけと言うことを理解する。
意思持つ者たちの総戦力と、届けられた神器によりアザゼルだったモノは、漆黒のローブは切り裂かれ、漆黒の冠は砕かれ、血色の身体は簡単に壊される。
全てをはぎ取られた後、アザゼルが姿を現す。
四つの神器は意思あるかの如く、アザゼルをその場に封印する。
「「「「お休みなさい、アザゼルさん」」」」
ウハー、セッチ、ウォック、ズウェイトに見守られながら・・
アザゼルが封印と共に黒い槍は消え失せ、串刺しされていた人々は解放される。
衰弱はしていたが、特に命に別条はなかった。
アザゼルが封印された場所は、四種族により厳重に管理される。
時折、ウハーとセッチ、奴隷の首輪の無いウォックとズウェイトがその場を訪れる。
−Bar 堕天使−
磨きに磨き抜かれたカウンターで、上司と部下が酒を酌み交わす。
「しっかし、あんまり後味が良いモンじゃねぇなぁ・・、分かっていたとは言えよぉ?」
「そうでしょうか?」
「ん? お前さん、元とは言え同胞だぞ? 心は痛まんのか?」
上司は部下である女性管理者の言葉を聞き咎める。
「あのまま彼を人間として落としていれば、後悔のみ・・だったのでは? 少なくとも彼は贖罪の機会が与えられましたよ?」
「魔王となって、人を苦しめ、傷つける事がか?」
「違いますか?」
上司の質問に、質問で答える。
酒を喉に流し込み、しばしの沈黙の中で思いを巡らせる。
「・・やっぱり、あいつは救われてねぇ様な気がするんだが?」
「そうでしょうか?」
「同じやり取りを繰り返している気もするが・・、何でそう思う?」
「単なる封印ですよ?」
フフフっと意味ありげな笑みを浮かべる部下。
「・・まさか、お前!?」
「当然条件を満たせは封印は解けちゃいますし、誰でも破れますが? もしかしたら時間経過で・・」
「そう言う事かよ・・」
「私だって同胞に幸あれと願います」
ゆっくりとグラスを傾ける。
自分とは別の姿が浮かぶグラスを、何時ものように磨く店員 Mephistopheles には優しい笑みが浮かんでいた。
封印の地・・嘗ての魔王が封じられた場所。
一般の人の立ち入りが禁止され、四種族の監視があったのは、既に遠い過去の話。
人々の記憶が薄れ、忘れ去られ、草原の中の単なる記念碑となっている。
訪れる人が居なくなって久しいその場所に、一人横たわる人物がいた。
「・・・ここは? 封印が解けた?」
目を開け起き上がり、自分の身体を見ると、以前と変わらない紋様が見て取れる。
ふと、目の前を一抱えありそうな大きさの蟻が行ったり来たりしているのに気付く。
前に来てはジッと彼を見つめ、少し進んで付いてこないと戻ってくるを繰り返す。
敵意は感じられない、寧ろ何かを訴えかけるかのような・・
「・・ついて来いと?」
蟻の後を追いかけ始めると、進んでは立ち留まり振り返りを繰り返す。
ちゃんと付いてきているかを確認しながら進んでいる様子。
森の中に導かれると、懐かしい小屋へと案内される。
「・・ここは、スミナユテ殿の小屋・・か?」
蟻は玄関に着くと、煙のように消えてしまう。
玄関を開けて中に入ると、中には魔族が横たわっていた。
「スミナユテ・・殿、なのか?」
「アザゼル・・、で良いのかな?」
「スミナユテ殿、その姿は!?」
手足はぼろぼろに崩れ、目と思しき所はヒビが入っている。
「魔族の雄が幾ら長生きとはいえ、寿命はあるんだよ? 最低限の生命維持に全てを回して、君との再会できるチャンスに賭けていたんだ」
「何故、そのような無茶を?」
「勿論、君が封じられてからの事を伝えるためにね」
自らのやりたい事を捨て、無駄死にの覚悟で再会に賭けたと言う。
「悪いけど時間がない。本当に・・」
「すまない、話を聞こう」
自分のために捨てようとする命を無駄にさせる訳にはいかない。
彼の口から、アザゼルが封印されてからの世界について、小屋に籠るまでの話を聞く。
「仮初の和平?」
「そう・・、四種族の闘いが、君を蘇らせるって言う恐怖によるね」
体験した人々が死しても、後世には伝えられており見かけ上は仲良くしているらしい。
四種族の条約で、奴隷の解放と禁止が含まれた事も知る。
「では、封印が解けたのは?」
「流石に原因は分からない。和平の最中に、この小屋に籠ってしまったからね」
アザゼルが居た時代より、かなりの時間が過ぎてしまっているとの事。
「それから、この小屋には地下室があってね。君が使えそうな物を置いてあるから、好きに使うと良い」
「何から何まで・・、感謝する」
「さて・・と」
そう言うと、魔族スミナユテの手足や目が再生し始める。
「こ、これは・・一体!?」
「君に伝える事は伝えたから、残りの人生を謳歌する事にしよう。まずは君の力がどの程度か、確かめさせてもらうよ?」
多分にこやかな笑みを浮かべ、アザゼルを外に誘う。
アザゼルは地下室に入り、服と装備を取り出し身に着ける。
森で集めた花の束を持って、スミナユテの墓に手向ける。
既に寿命の費えた身体を、無理やり生き永らえさせてからの最後の再生、当然元の時間に戻せば・・
「スミナユテ殿、遺言を果たす事にする」
彼は言っていた・・
この小屋に籠ってから、どの位の年月が過ぎたか分からないと。
後は君自身の目で、世界がどうなったか確かめて欲しいと。
「必ず、報告に戻ろう」
スミナユテの墓に約束をすると、アザゼルは新しい世界へと旅立って行く。




