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異形の冒険者  作者: まる
31/36

他種族に出会う

【世界編 他種族に出会う】


人間たちはエルフ族との戦いに備え、幾重にも策を講じていた。


城を持たない他種族との戦争に、わざわざ城砦兵器である石投げ器を作ったのである。

そして燃えやすい油と、もう一つ・・。


何十台と言う石投げ器を見ても、遠目に見るエルフたちにはさっぱり分からなかった。


満タンの油を壊れやすい樽に詰めて、昼夜問わず投げ続ける。

火を遣わないエルフたちに、臭いとは言え、何故森に水を撒くのか理解できなかった。


火系の魔法で一気に森林火災を発生させ、継続的に油と火系の魔法を放ち続ける。


「おのれ、汚らわしい人間どもめ!」

「くそぉ、燃える水とは・・」


エルフたちも反撃に出たいが、業火の壁に阻まれ思うようにはいかない。

怒れるエルフたちは、長老以下総戦力を持って人間軍の壊滅させる。


「精霊の加護は未だ失われてはおらぬ。精霊神王は戦さに関わっていないのだろう。ならば神聖な森を焼いた罪は、命を持って償ってもらおう!」


精霊王や無数の精霊による風の精霊魔法で、人間の軍は殲滅させられる。

その後、水の精霊魔法を使える者たちにより、森林火災の消火にあたる。


見た目は完全な人間軍の敗戦であった。




国王への戦果の報告は、異様な雰囲気であった。


「陛下。策の通り、兵士の殆どが死んだ様にございます」

「そうか。良くやった」


自軍の兵士が死んだのに、歓迎する国王など居るはずがない。

報告する軍幹部と一緒に喜び合っている状況は以上だ。


それもその筈・・


「これでドワーフどもから呪いを受けた者たちの、厄介払いが出来ましたな」


悪魔の如き所業・・


ドワーフに呪いをかけられた者たちを見殺しにすれば、兵の士気はダダ下がりである。

下手をすれば反乱や離反も考えられる。


既に先のドワーフとの大敗で、呪われた者を除いて軍の強化を行ってきた。


ドワーフにやられた兵士たちに、恨みをエルフで晴らせと死地に向かわせたのである。


「丁度良いタイミングで、エルフどもが西の砦に仕掛けてくれた物よ。大義名分が出来た上に、不要な者の処分、一石二鳥じゃ」


西の大森林の一部とはいえ焼失させる事が出来た。


焼け跡は開拓地としてどんどん広げていけば良い。

森は非常にゆっくりとしか回復しない。


森の番人として森に暮らすエルフ族には、大きな痛手であろう。


ドワーフに呪いを受けた者も、殆ど殉死している。

欲深い人間が次に狙うのは、再びドワーフに他ならない。






エルフ族でも、同様に話し合いの場が持たれていた。


「長老。森がかなり焼かれてしまった」

「あまりの業火に手を拱いていたとはいえ」


森が癒されるにはかなりの時間を要する。


その間に人間たちは、開拓で薄皮を剥ぐように、少しずつ森を削って行くだろう。


「どうしたら良いか・・、長老」


打って出るのは簡単である。


しかし森と言う盾を捨て、精霊と言う剣だけで戦えば、どれほどの被害が出るか。

人間の住んでいる地域に深く入れば入る程、その傾向が強くなる。


「人間側も多くの被害があった。すぐには次の戦は起こらんだろう」

「しかし長老・・」

「下手に攻めて、精霊の加護を失う訳にはいかん。まずは精霊神王をお迎えしなくては」

「それもまた難しい・・」


人間と接触を絶ってきたつけが、ここにきて影響している。

アザゼルを探すと言う先の西の砦の司令官の件が、今回の戦の切っ掛けなのだから。


「確か・・、エルフ似の奴隷が居ったな?」

「はい」

「風の精霊たちを使って、接触を試みる」

「なる程、畏まりました」

「我らが名を知らぬ子・・、裏切り者の子・・。忌々しい」


その日から、ズウェイトの元に精霊の伝令が訪れるようになる。






東の草原の部分と山脈の間にある荒れ地を進むと、くぼ地に遊牧民のテントが見える。


「あそこだ」


四人は獣人である彼の部族が、今の居住地としている場所に到着する。


「特殊な事情って・・、こう言う事だったのね」

「これは・・」

「信じられない・・」

「・・本当です」


彼の言う特殊な事情を目の当たりにして、四人はただ茫然と眺めるしか出来なかった。


獣人・・

ドワーフ・・

エルフ・・

人間・・


数は少ないながらも、一緒に暮らしている。

特殊な事情・・他種族が共存している村であった。


「これは一体・・」

「驚いたか?」


呆然と紡ぎ出したアザゼルの言葉に、嬉しそうに獣人が応える。


「俺たちは、他の種族との共存を目指しているんだ」

「それって、凄い事じゃない!」

「と、偉そうなことを言ったけど、最初の頃は他種族に興味を持つ者同士の単なる集まりだったんだよ」

「へぇー」

「で、噂が噂を呼んで、今じゃあこうやって村にまでなってるのさ」

「ふむふむ」

「しかし村とは言え、他種族が暮らす村を、誰も何処も受け入れてくれなくてな・・」


当然である。他種族がいがみ合っている現状で、奴隷でも無く平等に暮らす村をどの種族が良しとするか。


「今の村長をやってるドワーフが、自分たちの種族は無関心が多い。暮らしは厳しいかも知れんが、山脈や荒地に行ってみないか、と提案してくれて、此処に居住しているんだ」

「苦労してるのね」

「ああ。日々の糧を得るためにルールがあるけど、それぞれの種族の得意とする分野で、様々な物を手に入れるんだ」

「ふーん、上手くいってそうじゃない」


一種族だけでは手に入らない物が、容易とはいかないまでも手に入るだろう。


「そうじゃないんだ・・」

「もしかして、ボスを倒してくれと繋がっているのかしら?」

「ああ。当初はこの村の獣人も受け入れてくれるボスだったけど、代替わりをする毎に良くない方になっていっちまって、今じゃあオレは偽物と呼ばれる始末だ」

「偽物って?」

「他の種族と交わっている獣人族を、そう呼んでるのさ」


ボスに寄って群の方針が、ガラッと変わる事が多い。


「今のボスを倒せば、変わったボスによって方針が変わることを期待していると?」

「そうだ」


この獣人は頭が悪すぎる。

アザゼルが獣人で、群れのボスに成り代わるのであれば別であるが、人間では意味がない上に、より悪くなる、もしくは次の次で戻る可能性が分かっていない。



「ボスを倒す依頼を受けても良い・・」

「ちょ、ちょっと」


セッチが慌てるが、続くアザゼルの言葉に安心する。


「・・が、何か変わるのか? 本当に? これから先ずっと」

「そ、それは・・」

「貴方がどんな気持ちかは全部分かるとは言わないけど、もう少し考えた方が良いわ」


アザゼルとセッチに諌められて、意気消沈する獣人。

この考えは彼一人の独断だろう、村の考えとしてはあまりにも短絡するぎる。






彼の案内に続き、村の中へ入り村長であるドワーフの元へと向かう。


「わざわざこんな辺鄙な土地へ来る物好きが居るとはな」

「この獣人の依頼の詳細を聞くためにね」

「依頼・・じゃと?」


アザゼル達がこの村に来た理由を告げると、村長のドワーフが激昂する。


「このぉ・・馬鹿者が!!」


ごごぉーん!


「ぐごぉっ!?」


獣人は脳天に拳骨、ドワーフのぶっとい腕から繰り出された雷に悶絶している。


「すまない旅の人。命を軽んじる様な依頼を出してしまって」

「いいや構わない。必要であれば助けよう」


頭を下げる村長に、アザゼルは依頼を受けるのが吝かでは無い事を告げる。


「ありがたいと言いたい所じゃが、ボスは常に変わる。今のボスを倒しても良くなる保証はない。いや、かえって悪くなる可能性が高い」

「そう思う」

「その辺りも織り込み済みで、我らはここで暮らして居る。こやつは興味半分でこの村に居る様なもんで、この村のルールを誤解しておる節がある」

「ルール・・? そう言えば、そんな事言っていたわね」

「まあ、それは・・な?」


部外者には簡単に説明できない事もあるだろう。


「じゃあ話は変わるけど・・」


ルールの話に関わるかもしれないと思いながらも、セッチが切り出す。


「何じゃ?」

「新たな住人を受け入れてもらえるのかしら?」

「ん? 住みたいのか? こんな辺境の、厳しい生活の村に? そんな物好きが居るなら構わんがな」


アザゼルが、ウォックとズウェイトを村長のドワーフの前に出す。


「この二人を受け入れて欲しい」

「・・奴隷のようじゃが?」

「解放したい」


その言葉に村長の眉が跳ねる。


「どう言う事じゃ?」


アザゼルとセッチが2人との出会いから、今までの出来事を掻い摘んで話す。

ウォックとズウェイトも、二人を補足するように話を付け足す。


「折角の奴隷を解放するとは、何とも奇特な人間たちじゃわい」


口は些か悪いが、顔に浮かぶ表情にはとても優しいものがある。


「お前さんたちが来たいと言うなら、何時でも来ると良い。歓迎しよう」

「感謝する」


ドワーフの村長に礼を言うと、ウォックとズウェイトに話しかける。


「ウォック殿、ズウェイト殿、奴隷から解放された後の場所が見つかった。ここに住むのか、他の場所をまだ探すのか考えると良い」

「分かりました」

「ありがとうございます」


アザゼルと村長に礼を言うが、ズウェイトの表情は浮かない。


「あのぉ・・、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」


ズウェイトが、村長に恐る恐ると言った感じで話しかける。


「うむ? 何か聞きたい事があるのか?」

「先程、エルフの住む森の事で話があったかと思いますが・・」

「覚えておるよ。それが?」

「最近、風の精霊を使って、そのエルフたちが私たちと連絡を取りたがっています」

「えっ!? それ本当?」


ズウェイトの言葉に、セッチが驚く。


「セッチ様、黙っていてごめんなさい。でも、あまり関わりたくないと思っていて・・」

「それで、連絡の件が何か?」

「呼びかけの中に、名を知らぬズウェイトよ、とあるのですが、何かご存じありませんか?」

「流石に種族ごとの風習やしきたりと言った物までは・・」


他種族が暮らす村の村長とはいえ、細やかな他の種族の慣習までは知り得まい。


「そう・・ですか」

「まあ、村にはエルフ族の者もおるから、聞いてみるが良いだろう」


アホな事をしでかした獣人の若者のケツを蹴って、呼びに行かせる。

しばらくしてエルフの女性が連れられて来る。


「村長、どうされましたか?」

「忙しい所すまんな。この娘の質問に答えてもらえんか?」

「分かりました。何を聞きたいのかしら?」


ズウェイトは、村長に話した事を繰り返し話をする。


「名を知らぬズウェイトよ・・ですか。・・もしかして」


難しい顔をして、一つの考えに行きついた様だ。


「何かご存じなのですか!」

「落ち着きなさい」

「何故呼び出しているかまでは分かりませんが、ちょっと気になる事が・・」


同族と喧嘩別れをした後に、しつこく呼び出されイライラしていたのだろう。

少し荒ぶるズウェイトを宥めるセッチ。


「エルフ族は長寿故に、子を成し難い種族です」

「はい」

「そのため新しい命の誕生は、エルフの民の全体の喜びであり、全ての民で、真っ先にその名を覚える程です」

「聞いた事があります」


エルフの女性は、ドワーフの村長の方をちらりと見つめる。


「以前、エルフの夫婦がこの村に来たいと言う話がありました」

「そう言えば、そんな話があったが、確か・・」


ハッとした表情で、頷くエルフの女性を見る。


「正に風の精霊の便りで、身重のため森でしばらく子育てをしてからとなりました」

「・・・えっ?」

「他種族を暮らすと、大森林のエルフと袂を分っていましたから・・」

「そうじゃのぉ・・、名の知られぬエルフの事と言う事になるか・・」


二人の言葉に、ズウェイトが茫然と尋ねる。


「それは、私のお父さんとお母さん・・ですか?」

「流石にそこまでは、分かりません」


ズウェイトの両親は既に無くなっており、確かめようもないが、話の流れからすれば可能性は大きい。


ウォックにしても、ズウェイトにしても、物心ついた時は奴隷だった。

彼女たち自身、どうして奴隷になったかは全く分からなかった。


「そう・・、ですか」


もう少しで自分のルーツが分かる所だっただけに、ズウェイトの落胆は大きい。

ただもしかしたら自分の両親が、この村を目指していた可能性が分かっただけでも、かなりの成果と言える。


「村長、しばらくこの村に厄介になってもいいかしら?」

「是非も無い。歓迎しよう」


色々な事が一遍に起こったのだから、少し冷静になる時間が必要だとセッチは考えたのだ。



「しかし歓迎と言いながらも、この村は衣食住が厳しい。歓迎会を開いてやるどころか、食べ物も寝泊まりのテントも自前で頼みたい」


周囲を敵に囲まれ、荒地と言う獲物も農耕も適さない地では仕方がない。

細々と日々の暮らしをしていくだけで、精一杯なのだろう。


それでも彼らは、他種族と暮らす事を選んでいるのだ。


「構わない」


これから住むかもしれない村の本当の姿が見えるのだから、こちらが歓迎である。




村長に礼を言うと一旦別れて、自分たちの宿営準備をして話し合いの時間を持つ。


「奴隷の解放の後は、少なくともこの村で何とかなるだろう」

「そうね。とても厳しい生活かもしれないけど、自分自身のための生活よ」

「「はい・・」」


二人ともあまりの突然の出来事に、混乱している様子が見て取れる。


「しばらくこの村に滞在するから、ゆっくり見て考えなさい」

「「分かりました」」


実は彼女たちの胸に去来するのは、アザゼルとセッチとの別れが迫っている事であった。






大陸の東側の草原。最大の群のボスが代替わりしようとしていた。


ドサッと言う音と共に地面に倒れたのは、ボスの方であった。


「・・俺の・・負けだ」

「ふん」


新しいボスは、敗者に目もくれない。


ボス同士の決闘は殺し合い。逆に生かしておく必要がない。


「さて最初は・・」

「あの村に手を出すのはやめておけ。何の益も無い・・、その上・・」

「はん! 敗者の言葉に耳を傾ける馬鹿が、何処に居るよ?」


身動きが出来ない先代のボスを足蹴にする。


あの村とは、ドワーフが村長である他種族が共に暮らす村に他ならない。


「そう言やぁ、あの偽物帰って来ないな・・、とうとう死んだか?」


村に手を出さない約状として、先代以前から奴隷の如く使えていた獣人を思い出す。


「ならば丁度いいか。皆! 最初の仕事は、偽物の住んでいた村を潰す!」


ドワーフは鈍いが、頑強な上、半端無い攻撃力を持っている。

また他種族が手を組むと、戦略の幅が一気に広がる。


ならば・・


「奇襲をかけるぞ! 偽物の痕跡一つ残らねぇ様に、徹底的に破壊し殺せ!」

「「「おう!」」」


強者には絶対服従とは言え、ボスになったばかり。

群やテリトリーから大幅に長期間離れる訳にはいかない。

しかし結束を強めるためには、どうしても生贄が必要だ。


殲滅部隊を組織して、その任に当たらせる。


「さあ! 狩りの始まりだ!」


他種族の村へ、獣人族による攻撃が始められる。






村の様子を見ながら暮らすため、ウォックとズウェイトは村に残る事が確定している。

セッチは民俗学の学者として、これ程の環境はないため、当然村に残ると言い張った。

アザゼル一人、自分たちの食料を得に別行動をする事になる。


それぞれが行動を移す前に、村長のドワーフより村のルールの説明を受ける事になった。


「この村に住む者たちには、守ってもらわねばならないルールがいくつか存在する」

「普通そうよね。で、どんなルールなのかしら?」


特殊な環境な村だ。かなり厳格なルールが存在する事が考えられる。


「この村は、住民一人ひとりが助け合わなければやっていけん」

「そりゃあ、尤もよね」

「故に、その者しか出来ない技術は持ち込まない。持ち込んではならない」

「どう言う事だ?」


アザゼルが村長の言葉に横槍を入れると、セッチに睨まれてしまう。


「もしその人物が居なくなって、村が成り立たなくなるような技術ということだ」

「例えばどんな事かしら?」

「お主ら人間なら、買い物じゃな。他の村や町からの売買は、うちらには出来ん」

「なる程ね」


その人しか持っていない技術に、村人が依存しないようにするための方法のようだ。


「誰か一人に頼らなければならない生活は、遅かれ早かれ破綻する」

「尤もだわ」


衣食住の全てを一人に頼ったら、その生活は遠からず終わりを告げるだろう。


「しかし、そうすると村の発展がしないと思うんだけど?」

「もう一つルールが存在する」

「どんなのかしら?」

「己が持てる技術や知識を惜しみなく、村人たちに分かち合うと言う事だ」

「何となく、最初のルールと矛盾しているみたいに感じるんだけど?」


買い物の技術を教わった所で、出来る者出来ない者がはっきりしている。


「誰が買い物だけの話をしておる」

「違うの?」

「女性が、料理、裁縫、掃除を男性に教える。男性が鍛冶などを女性に教える。

村の誰もが、その人の代わりになる事が出来る様にする事じゃ」

「あぁーあ、そう言う事ね」


その人しか出来ない技術に頼らず、全ての人が身に付けられる技術を共有する。

同じ能力を持っている人が、抜けた村人の穴を埋め、補い合える状況にする。


この二つが、村の根幹となるルールなのだろう。


「まあ、例外的な事もあるがな・・」

「例外って?」

「皆が身に付けられる技術とは言え、得手不得手があろう?」

「そりゃ、当然でしょう」

「狩りが不得手なら、町で同等品を買ってくるのはありじゃし、鍛冶が不得手なら、同じように買ってくるのはありじゃ」

「買い物ができない種族は?」

「さっきのは例外と言ったじゃろう。本来は・・努力あるのみ」

「うわぁー・・」


流石ドワーフ、根性論に皆の顔に苦笑いが浮かぶ。


「では、村長殿」

「何かな?」

「村人にはそれぞれの役割があると言うが、自分たちに構っていて良いのか?」

「若い者、新しい者に教え合うと言うのも、分かち合うと言うルールに含まれると思うがね」

「では自分たちがただ与えられているだけと言うのも心苦しい。町に入れる者として、何か買ってくるとしよう」

「依存しないルールがあるんじゃ、気遣いは無用にして貰いたい」


意外にこの二つのルール、部外者こそ厳しいかもしれない。


「狩りなどで、極たまに豊かな実りの時と言うのはないか?」

「勿論ある」

「そう思ってもらいたい」


アザゼルが町などから持ち込む珍しい物は、彼が居なくなった時に困る場合がある。

しかし僅かに多い実りであれば、その場限りと納得して貰えると考えたのだ。


「分かった。そこまで言うなら、住人たちと話し合おう」


ちょっと待ってくれと、村人たちと相談に行ってしまう。


「独断はしないのね」

「村全体の益を考えての事だろう」


しばらくして、これらの物を頼めるかと言ってくる。

薬草や干し肉といった、村に幾らあっても困らず、必ず村人で入手できる物であった。


「堅実なのねぇ」

「本当の必需品を良く理解していると言う事だろう」

「思ったんだけど・・」


セッチはふと思いついた事を、アザゼルに告げる。


「今後だけど、保存食とか、薬草とか、そう言った本があると良いかもね」

「本・・か」


製紙や印刷と言う技術が未発達の世界では、本は非常に貴重品となる。

しかし技術を伝える上では、この上ない程確かな物で、村のルールに抵触しない。


「大きな町に行ったついでに、ギルドに確認してみるか」


セッチにあとの事を託すと、村の存在を目立たせない様に、距離のある東の町へと向かう。





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