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異形の冒険者  作者: まる
30/36

獣人に出会う

【世界編 獣人に出会う】


西の砦は、当然の事ながら軍の駐屯地ではある。

しかし兵士たちの暮らしを支える人々だって生活する、一つの町でもある。


砦の司令官は、町長の役割を果たさなくてはならない。

軍属であれば、命令一つで何とでもなるが、町の人々にはそうも行かない。


「(ふぅー、誰かに町のことを任せたいものだ・・)」


精神的に疲れた体に鞭打って自分の執務室に戻ると、普段とは僅かに違いを感じ取る。


「(何だ?)」


次の瞬間、自分に数本のレイピアが突き付けられ、エルフたちに取り囲まれる。


「エルフ族か・・、どうやって忍びこんだ?」


ギリッと歯を食いしばり、問いかける。


砦の、しかも司令官たる自分の執務室に、よもや侵入を許すとは・・。

軍に身を置く者として、油断では許されぬ失態である。


あまりの怒りに、顔が真っ赤になる。


「アザゼルと言う人間を探している」

「・・アザゼル?」

「情報を素直に寄こせば、命だけは助けてやる」


エルフたちはこの時、大きな過ちを犯していた。

正に閉じられた世界に居るため、人間との接点がないと言う事に起因する。


どれ程有能な人間であっても、全ての自分の配下の者の顔と名前を一致させるのは難しい。

それを何の条件も無く、名前だけで答えろと言うのは無理である事を知らない。


エルフ族が当たり前のように出来る事は、人間にも出来ると考えてしまった。


「ふん。待ってろ、調べてやる」


エルフに囲まれたまま、引き出しから名簿を取り出し調べ始める。


「むっ!? こいつの事か?」


砦は軍の施設であり、司令官の部屋にはそれ相応の備えがある事を知らない。


司令官は偽の資料を指し示し、エルフたちの油断を誘う。


「司令官!」


扉をブチ破って兵士たちが雪崩れ込む。

エルフたちの注意がそれた隙に、司令官はエルフ二人を抱え込んで兵士たちに突っ込む。


「ちっ!? 引け!」


このような乱戦となっては、エルフには分が悪い。

撤退できる者は、窓から飛び降りて脱出する。


抑えられたエルフに魔法を使わせない様に、兵士たちによって首を切り落とされる。

遂には身体は城壁に逆さ吊りにされ、首は城壁の上にレイピアで串刺しにされた。


司令官はエルフを抑え込む際に、レイピアに刺し貫かれ絶命していた。


すぐさま早馬が立てられ、国王の元へエルフによる司令官の暗殺の知らせが届けられる。


エルフ攻撃の機会を待っていた人間たちは、これ幸いと民衆を扇動し戦争へと仕向ける。




生き残ったエルフたちは、すぐに大森林の長老の元へと戻り事態の報告をする。


「町の有力者を殺してしまったと!?」

「仲間も二人戻りません」

「おぉ・・、何と言う事か・・」


人間たちが黙っているはずがなく、アザゼルも出てくる可能性が高い。


「もはや戦争は避けられぬだろう・・」

「長老・・」


精霊の加護を失ったエルフ族の末路を、誰もが想像してしまう。






アザゼル達はこの話を、砦の一つ前の村で聞く事になった。


「自分たちが森へ侵入した事への報復って訳?」

「そんなに森に入る事は許せないのですか!?」


女性陣、特にズウェイトはあまりのショックに、自分の心の殻に閉じこもってしまう。




西の町についた頃には、すでに挙兵の話題で持ちきりだった。


森に入る事が、これ程の大事になるとはだれも想像だにしなかった。


「私が? 私が自由を求めたばかりに・・?」

「それは絶対に違うわ。絶対に」


思いつめるズウェイトを、セッチとウォックが何とか励まし支えている状況だった。


「あなた達は随分と自分たちを買い被っているのですね」

「「「えっ!?」」」


一緒に食事をしていたウハーが、女性陣を冷たくあしらう。


「高々四人程度の人間を仕留めそこなったからって、戦争に踏み切るはずないでしょう」

「とは言え実際に・・」


一番ショックを受けているズウェイトの言葉に被せる様に言ってくる。


「良いですか? エルフ族は長寿で、子供が出来にくい種族でしたよね?」

「うむ、その通りだ」


以前にアザゼルから共有された情報を、もう一度確認する。


「それで守りを固めているのに、わざわざ戦争に持っていく必要性が無いんですよ」

「確かに・・ね」


エルフの一族にとって、同胞の命は何にも代えがたい物である。

それなのに、わざわざ城であり、砦であり、盾である森を捨ててまで攻める必要はあるのか?


セッチもその意見には同意できる。


「だとしたら何故かしら?」

「流石にそこまでは分かりませんが・・」

「戦争してまで何かしなくてはならない理由や事情、タイミングと重なったと?」

「さあ・・」


可能性を上げていっても切りがなく、あくまでも推測の域を出ない。


「何にせよ、西の大森林に近づくべきでは無いな」

「そうね」


人間とエルフの戦争が始まる以上、西の町でさえ危険かもしれない。




それならば一人苦しむズウェイトの心のケアに、しばらく専念すべきだろう。


皆がそう考える中、アザゼル一人だけ違う意見を皆に提示する。


「獣人族には、何時会いに行く?」

「・・へぇっ?」


こっちはズウェイトのケアで手一杯の所へである。


「あのねぇ、今は獣人族よりズウェイトちゃんの方を心配してあげなさい」

「何故だ?」

「・・・何故? 貴方本気でそれを言ってるの?」


自分の種族から死を宣告され、また人間とエルフの戦争のきっかけが自分では、と責める少女を差し置いて、次の旅の話をしようとする精神が信じられない。


「セッチ様、私なら大丈夫ですから・・」


ズウェイトがセッチの袖を引き、アザゼルの執り成しをしようとする。


「その可能性は分かっていたはずだ」

「ええ、分かっていたわ。でも受け入れてくれる可能性もあったはずよ!」


分かっていた。奴隷解放の旅を始める時点で、何らかの問題や壁にぶち当たる事は。


「しかし傷ついた彼女を・・」

「待っているのは一人では無い」

「そ、それは・・」


セッチはウォックの方をちらりと見る。彼女だって待っている。


「今は思い悩む前に行動すべきではないのか?」

「・・・」

「万策尽きるまで、抗うべきではないのか?」

「アザゼルさん。皆貴方のように出来る訳じゃないのよ?」


彼が言っている事は、出来る人間の言い分であり、全員が同じ様に出来る訳ではない。


ウハーは、この時いつものアザゼルとは違うと感じていた。


「アザゼルさん、何かあるの?」


ふと口から出た言葉に、三人はハッとする。

いつもの彼ではない・・、まるで急いでいるかのような・・


「分からない。分からないが、この戦争はウォック殿とズウェイト殿から、皆から色々な物を奪い取って行く様な気がする・・」


例えば、これから二人を受け入れてくれる種族・・

更には今受けれてくれている、この西の町でさえ・・


これから得られる物だけでは無く、今ある物さえも失う可能性。


アザゼルの言葉に、全員が冷や水を浴びせられた気がする。


「急いだ方が・・、良いのかしら?」

「そうですね・・。出来る事は早めにやるべきかと・・」


他種族との戦争・・、何時こちらにその矛先が向くか分からない。

ましてやエルフ族との戦争に、目の前の西の町にエルフであるズウェイトが居るのは危険極まりない。


「ウォック殿、ズウェイト殿。嘆き悲しんでいる余裕はない、すぐに出立したい」

「「分かりました」」


二人にも分かる、予断を許さない状況である事に。


「チョイ待ち。何も決めずに行動するのもどうかと思う訳よ?」

「西側は戦争状態なのだから除外すべきでは?」

「そうね」

「獣人族は獲物を求めてテリトリを巡る民。南か北の町から東の町を経由するルートを往復するのはどうだろうか?」

「接触するまでひたすら? キツイ旅になるわねぇ・・」


何処何処に行けば会えるという物でも無い以上、仕方がないだろう。


「それから・・」


アザゼルはマジックバックに手を入れる。


「お金ならまだある・・ん!? それって・・」


お金の入った革袋では無く、有り余っているマジックバックを取り出す。


「万が一の時のために一人一つずつ渡す。それぞれに必要な物を分けておいた方が良い」

「私にも・・ですか?」


ウハーにも手渡される。売れば一財産になる物をである。


「万が一、だ」


そう言って無理やり押し付ける。


「もう少し早くってか、私にはこのマジックポーチと言う大切な・・」


セッチは何やら悶々と、マジックバックについて自問自答している。


ウォックとズウェイトは、初めて触るマジックバックに興味深々である。






無用な混乱を避けるために、アザゼルとセッチで買い出しに出かける。


ウォックとズウェイトは、ウハーとお留守番である。


「やばいわねぇ」

「何かありましたか?」


買い物から戻ったセッチの言葉に、ウハーが心配して尋ねる。


「物価が値上がっているのよ。便乗値上げだと思うけど・・」

「エルフ族との戦争になれば、この町は補給の要でしょうからね」


軍による物資の買い上げは勿論、住民の買い溜めもある。

そこへ商人たちが、買い占めて供給を絞るのは考えられる事だ。


「あと町の雰囲気も変わったわね」

「どの様な感じにですか?」

「ピリピリした雰囲気・・、見かけない人たちも増えた感じ・・」

「兵士の募集を当て込んでの戦闘職たちや、傭兵たちの可能性がありますね」


見知らぬ乱暴者たちの流入は、町の治安を悪化させるだろう。


「奴隷とはいえ、他種族が居るのは危険かもね」

「確かに良い傾向とは言えません」


アザゼルが危惧した通りの状況に、事態が進みつつあった。

ウハーに後を託して、四人はすぐに旅に出る。






四人が最初に向かったのは南の町。


「西の町程じゃなかったわね」


アザゼルとウォック、ズウェイトは宿で待機し、セッチが情報集めを行う。


「そうなのか?」

「うん。どちらかと言うと、我関せずみたいな感じ」


兵士や傭兵などは出て行く一方だし、戦火は及ばないと考えているのだろう。


「物価も雰囲気も前回来た時と、大して変わっていないと思う」

「ふむ」

「多分、東の町も大して変わらないと思うけど・・」

「北の町は分からないか・・」


北側は人間たちの領域であり、兵士たちの移動が多いと考えての事である。


南の町を選んだ最大の理由がこれである。


「これからどうするの?」

「南と東の町を往復する、ひたすら」

「北の町は除外する訳ね」

「兵士が多いなら、獣人族との接触も少ないと考えられる。エルフ族との戦争の最中に、ズウェイト殿を兵士の中を連れ回すのは避けたい」

「それはそうね」


わざわざ危険に飛びこむ必要はないし、確実な方により時間をかけるべきだろう。


四人は揃って、南と東の町の往復を始める。







獣人族と接触するための旅は、別の意味で大変だった。


流石に街道を歩いては、中々接触できないだろうと少し離れて移動する事しばし・・


「反応がある」

「・・またぁ? 今度は何人?」

「10・・だな」

「獣人かしらね」

「多分そうだろう」


アザゼルの探索能力に引っ掛かると、やがて獣人たちに囲まれる。


「よぉ、人間。荷物も命も、ぜーんぶ置いて行けや。な?」

「一つ尋ねたい」

「ん? 何だ?」


この状況下で、自分たちに何を聞いて来るのか興味が湧いて来る。


「この娘を奴隷から解放したいのだが、そちらで受け入れてはもらえないか?」

「はぁ!? そんなのそいつの部族に言えや!」


ウォックを前に出して目的を伝えるが、まったく聞き入れてもらえない。


「ならばもう一つ」

「うるせぇ奴だな。一体何が聞きたい?」

「お前たちのボスの名前を」

「ボス? クックックッ。良いぜ、冥土の土産に教えてやる・・」


ボスの名前を聞いた後、きっちりと獣人たちを仕留める。




ズウェイトはウォックを慰め、ウォックも健気に大丈夫と言って支え合っている。


「はぁー・・。何回目かしら、これで?」

「流石に数えていない」


南の町を出て街道から外れるとすぐに、獣人族からの接触があった。

その後も東の町に着くまでに数回襲われ、南の町に戻るまでにやはり数回襲われる。


「でもこの辺りのボスは分かったわね」

「うむ」


襲われる度にボスの名前を確認したのだが、必ず一人の名前となっていた。

東と南の間で、人間を襲う様な部族は、かなり大きな群れとなっていると予想できる。


そのため、ウォックに対する回答は全て同じであった。


「まだ往復する?」

「出来る事ならボスと接触しておきたいのだが・・」


ボスの群のなかに、ウォックの部族がある可能性が残されている。


「なら期限を決めない?」

「期限?」


以前にアザゼルにしてやられた方法を提案する。


「それなら西の町や戦争の状況を、ウハー殿に確認してからで良いか?」

「グッ・・。そ、それもそうね」


どうして間抜けで大馬鹿のこいつに言い負かされるのだろうと、自分に腹を立てる。




南も東の町も割と安定している上、アザゼルは過去に冒険者ギルドの依頼を全てこなしていた。

そのためどちらの職員もアザゼルには好意的で、手紙を快く引き受けてくれる。


獣人族との接触の傍ら、情報収集にも余念がなかった。


「ふう・・。人間側は群を挙兵したらしいわ。タイムラグがあるから、すでに開戦しているかもね・・」

「そうか」

「手紙の方は?」

「冒険者ギルドの定期便で届けてもらえる」

「早くて二週間位かしらねぇ」

「職員もそのくらいだろうとは言っていたが」

「どうする?」

「二週間であれば、もう一往復するのが丁度良いと思う」

「なる程。ならちゃっちゃとやっちゃいますか」


僅かな望みを賭けて、ウォックの部族を探すために動き出す。




相変わらずと言うか、わざと出会う様に旅をしているのだから、獣人族に何度も襲撃されるのは当然である。


「人の反応がある」

「10名ぐらい?」

「良く分かったな。10名だ」

「獣人は10人1組が行動単位なのかしらねぇ」


誰かに聞きたいが、ウォックは小さい頃に、奴隷となっているので詳しくない。


「獲物から向かって来てくれたぜ」


しばらくして獣人族が現れると、いつもの質問を繰り返す。


「二つ尋ねたいのだが?」

「・・・あン?」

「一つ目は、この娘を奴隷から解放するので、受け入れて欲しい」

「はぁ? そんな奴しらねぇし、偽物みたいに元奴隷なんか信用できるか!」

「そうか・・、残念だ」

「今一つ、お前たちのボスの名前は?」

「おっ!? 聞きてえか? 良いぜ教えてやる・・」


ボスの名前を確認すると、九人を一瞬で片付ける。

最初から両手を上にあげていた獣人を残して。


「何故、手を挙げている?」


獣人は大剣を突き付けられても、怯える様子も無く真っ直ぐと見てくる。


「知り合いの人間に、降参を表すのはこうだと聞いていてな」

「・・知り合いの・・人間?」

「ちょ、ちょっと、それどういう事よ!?」

「話を聞きたいか? 俺も話を聞いて欲しい事がある」


人間と知り合いの獣人とは、一体どう言う事なのだろうか。


「聞いて欲しい? 頼みと言う事か?」

「その前に一つ。最近獣人たちを葬っているのはお前か?」


戦士として、弔う形で置かれる遺体について、アザゼルに問う。


「この娘を奴隷から解放した後の、受け入れ先を探しているだけだ」

「まあ断られて殺されそうになってるんだから、その事にどうこう言うつもりはねぇ。ただ弔いの気持ちを持って、遺体を整えてくれたんだろう。お前は?」

「戦士と聞いていたのでな。伝わるかどうか分からなかったが」

「感謝する」


アザゼルに一礼すると、とんでもない事を言いだす。


「その力で、うちらの群のボスを倒してくれ」

「お前の群のか? 仲間では無いのか?」

「仲間・・ね」


獣人が自嘲気味に笑いを浮かべる。


「俺たちの群・・というか、村は特殊でな。その村を守るために、俺はボスに従っているのさ」

「特殊な事情ねぇ・・」

「俺たちの村に来てくれ。そうすればお前たちの聞きたい事も分かるだろう」


セッチは罠という言葉が脳裏に浮かぶが、このまま手を拱いても進展はしない。


「行ってみましょう」

「良いのか?」

「何ならその娘、うちの村で受け入れられると思うぞ」

「「なっ!?」」


獣人の唐突な発言に二人は驚き、真意を測りかねる。


「嘘か本当か分からないわね・・」

「行ってみる他はないか・・」


セッチの言葉に、アザゼルが獣人に付いて行く事を提案する。


「罠だとしても、ボスには会えるだろう」

「なる程・・ね」


四人は獣人によって、行く末を変える出会いへと導かれて行く。





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