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異形の冒険者  作者: まる
28/36

ドワーフに出会う

【世界編 ドワーフに出会う】


話し合いがお開きになり、それぞれの部屋に戻った後。


コンコン


「ちょっと良いかしら?」

「構わない」


アザゼルの部屋を、セッチが訪れる。


「二人の事なんだけど」

「うん?」

「彼女たちの決定を最優先で良いとして、どっちを優先させる?」

「調査の継続か、ランクアップさせるかと言う事か?」

「その通りよ」


ウォックとズウェイトの二人が、町で奴隷としての生活を選んだ場合の事である。


「私個人としては民俗学の研究のために、情報を頼りに解放の手立てを探したいわ」

「何故?」

「情報は鮮度が命よ。貴方がわざわざ、時間と労力とお金をかけて得た情報を無駄にするのは惜しいと考えているの」

「なる程」


ランクアップを優先すれば、危険から離れるだろうが情報からも離れて行く。


「私たちが不在の間は、ウハーさんに任せればいいわけだし」

「そうだな・・」


ランクアップそのものは、何時でも出来る。

情報を生かすには、出来るだけ早く行動した方が良い。


「自分たちは、情報を元に解放が可能かどうか調査しよう」


アザゼルの決定に、セッチは満足げに頷いていた。




自分たちの部屋、二段ベッドで横になっていると、上のズウェイトが声をかけてくる。


「ウォック姉さん、起きてる?」

「ええ、どうしたの?」

「さっきの話・・」

「ダメよ、話し合っちゃ」

「分かっているけど・・、でも・・」


アザゼルとセッチと別れて、自分たちの部屋に戻って、自分たちで決めた事。

お互い話し合わない、考えを明かさない、思いを分かち合わない。


命の危険がある以上、自分で答えを決める必要がある。


「アザゼル様と、セッチ様の気持ちを無駄にしちゃダメよ」

「うん・・」


お互いが木の板きれを持っている。答えを書いてアザゼルとセッチに見せるのだ。


「ズウェイトちゃん」

「何、ウォック姉さん?」

「貴女は、エルフ族の村に帰れる可能性があるわ」

「っ!?」

「私の事は考えなくて良い。自分のことだけを考えなさい・・、ね」

「ウォック・・姉さん・・」


それ以降、二人は沈黙を守り、夜は深まって行く。




翌朝、アザゼルは二人から木片を預かる。


「ウォック殿と、ズウェイト殿の気持ちは、確かに受け取った。善処しよう」


二人にはお互いの木片が見えない様に、懐に仕舞い込む。


「とは言え、どうするのよ?」


一緒に回答を見たセッチが、苦笑いをしてアザゼルに問う。


「二人ならば、困難に立ち向かえるだろう」

「ふむー、そう捉えたか。まあ良いわ」


肩をすくめると、彼の決定を受け入れ、今後の計画を頭の中で組み立てていく。




セッチはそのままアザゼルから木片を預かると、冒険者ギルドへと向かう。


「これが、ウォックちゃんとズウェイトちゃんの気持ち・・、ですか」

「そうなるわね」

「正直なところ、当然と言えば当然、以外と言えば以外でしょうか」


溜息を吐いて、少し複雑な表情を浮かべる。


「戦争している馬鹿どもに、是非とも見せてやりたいわね」

「つくづくそう思います」


やれやれとお互いに首を振って、二人で木片に書かれた文字を見つめる。


「では、何時頃から行かれますか?」

「準備が出来次第すぐね。情報は劣化が激しいから」

「そうですね」


どのギルド職員でも分かっている事だ。


状況は日々変化するのだ。

時と場所によっては、僅かな情報の差が命運を分ける事だってある。


「しかし、これは回答になっていないわね」


ウォックの木片には、ズウェイトのために、と書いてある。

ズウェイトの木片には、ウォックのために、と書いてある。


「あとでお説教かしら」


彼女達は、お互いがどんな答えにしても良い様にしてあるのだ。

結局の所、どっちなのかは書かれていない。


「お手柔らかに」


セッチの苦笑いに、ウハーはこやかに笑顔で答える。






ウォックとズウェイトは戻ってきたセッチに、いきなり正座を命じられる。


「何故正座させられるか分かっているかしら、ウォックちゃん、ズウェイトちゃん?」

「いいえ・・」

「えーっと・・」


奴隷としては破格の高待遇であった。

若干?主人に対してフレンドリーな振舞いはあったと言う心当たりは多く、甘えていたと言えばそれまでだ。


「あなた達のお勉強について考えてこなかったのは、私たちの問題ではあるけれど・・」

「「勉強!? ・・ってそっちの方!?」」

「あの回答は、ないと思うわよ?」


二人は木片の答えについて言われている事に気付く。


セッチはウォックとズウェイトの、お互いを思いやる気持ちに免じて内容を言わない。


「答えとしては、人として120点満点をあげましょう」


二人は少し誇らしげに思う。

が、では何故正座させられているのだろうか?と疑問が浮かぶ。


「でも、こっちがどう判断して良いか分かんないでしょう、・・ね?」

「「・・あっ!?」」


にっこりとほほ笑むセッチの微笑みに、今までにない恐怖を感じる。


「これからは家事手伝いだけじゃなくて、読み書き計算、一般教養と言ったお勉強もしましょうね」

「あっ、あのー。私たち・・その、解放されるので・・」

「そっ、そこで学んだら良いかなーって思います・・」


二人は抱き合ってガクブルしながら、必死の最後の抵抗を試みる。


「尚の事、何処行っても恥ずかしくないレディになりましょうね?」


セッチの恐怖の笑顔の前に、敢え無く玉砕となった。




再び食卓に四人が揃うと、アザゼルが代表して今後の方針を伝える。


「二人の気持ちを踏まえて、これからの計画を決めて行く」

「「はい」」

「解放にしろ、西の町に残るにしろ、ランクアップはしておくべきと思う」

「そうね」


セッチが相槌を打つ。


「危険はあると思うが、当初の予定通り、四人一緒で旅をしようと思う」

「「分かりました」」


自分たちは決めている、お互いの答えを知らなくても相手のために。どの様な決定であれ。


「じゃあ、先ず何処から始める?」


ドワーフの情報を優先させるか、身近な町から始めるのか・・


「まず、ドワーフに関する情報から行くとして、北の町から大量の酒が運び込まれる村がある、と言うのは分かっているのよね?」

「うむ、普通の村らしい」

「普通って?」


何でもかんでも普通普通と言うが、普通と言うのが意外に難しい。


「誰でも受け入れている」

「住民を?」

「いや、来訪者や行商人と言った人々を」

「ふむー。無理やり隠すのではなく、オープンにする事で注意を逸らしているのか・・」


北の町から、東の村に大量の酒が運ばれている、と言う情報が無ければ、他の村々と区別が付け辛くしているのだろう。


「もしかしたら、その村自体が監視されている可能性もある訳ね」

「どう言う事だ?」

「そこから先で何かをするための、最終的な関所の役割って感じかなぁー」

「なる程。ならば一度行ってみるか」

「行ってみるって、どうやってその場所を見つけるつもりよ?」


酒が運び込まれる村があるとは聞いているが、場所や村の名前が分かっている訳ではない。


「北の町に行って、依頼をこなしながら、酒運搬の護衛の仕事を探す」

「ふむふむ、上手く潜り込めれば最高ね」


先ず四人は、北の町へと向かう事にする。






普通の戦闘職として、ランクアップを目指して依頼をこなして行く。

まあ時折、冒険者ギルドの方にも顔を出して、かなり感謝されたりもする。


そんな日々を過ごしていたある日、セッチが今までの状況や情報を整理して呟く。


「・・おかしいわ。どう言う事かしら?」

「何がか?」


アザゼルとウォック、ズウェイトはランクアップのため、依頼をこなす。

セッチは町の中を巡っては、情報を精査して行く役割を請け負っていた。


「酒運搬の護衛がない」

「いや、何度か依頼を受けているぞ?」


東、西、王都への護衛は、それはそれは沢山あって、選り取り見取りであった。


「町々への依頼は、ね」


それ以降の村々への大量の酒の運搬の護衛が無いのだ。


そもそも小さな村へ酒をわざわざ運ぶために、護衛を雇うこと自体無駄である。

その上、国絡みで秘密にしている事を、何故?と思わせるようなことをするはずが無い。


「北の町からと言う情報が間違っていたと?」

「うーん、もしかしたら定期的ルートを変えていて、今は東の町からかも・・。もしくは専属の店とか護衛が用意されているとか・・」

「なる程」


村の情報が入手できないのだから、その程度の事やって当たり前かもしれない。


「流石に王都や、南の町からは無いだろうから・・」

「東の町と言う訳だな」


北の町の大荷物を、王都や東西の町を通り過ぎて、一旦南の町に移してから、東の町に戻す事をすれば、かえって目立ってしまう。

四人は東の町へと移動し、ドワーフへの足掛かりの村を探す事にする。






東の町でも、北の町と同様に日々を過ごす内に、おかしな情報が集まってくる。


「村に行く行商は居るけど、大量に酒を運ぶ話は無ありません」

「協会にはどの村からも、討伐の依頼がありました」

「そうみたいね」


町の人や依頼からはプッツリと、ドワーフの村に続く糸が切れてしまったのだ。


「やはり巧妙に隠しているのだろうか?」

「まあ、それが当然よね」


他種族との裏取引が、一般人の目に留まる方がおかしい。


「で、細かーく調べてみると、長期間張り出されっぱなしの依頼があったのよねぇ」


協会とギルドの関係を見ると、受け手がいなければ協会から各ギルドへ再依頼される場合が多い。


「どの様な依頼なのだ?」

「誰でも受けられて、緊急性がなく、距離があり、他の村よりも依頼料が安い。村の周辺の安全確保とか、ちょっとした日用品の買い付けと言う依頼ね。」

「手を出す人物がいない様な?」

「そう。まるで依頼を受ければ、すぐに準備に取り掛かれるような感じね」

「なる程」


誰でもウェルカムの村と言いながら、来る者を選ぶようにしてあるのだ。


「黙って行ってみるか」

「依頼を受けないで?」

「準備されては、何も分からない」

「それも・・、そうね」


手ぐすね引いて待たれては、何の情報も得られないだろう。


しかし彼らが、実際に依頼を受けてから、村に行っていれば・・、運命は変わっていたかもしれない。






目的の村までは酒を運ぶためか、きちんとした道が出来ており迷う事は無い。


村の入り口では、村人が見張りとして立っている様だが、欠伸している程のどかだ。


見た目は他の村と何ら違いは無く、咎められる事も無く村の真ん中までくると、やっと村人の一人に声をかけられる。


「こんな辺鄙な村まで、何の用だ?」


好意的な親しみを込めた笑顔を向けてくる。


「冒険職協会で、依頼を受けてな」


アザゼルが代表して、村人に答える。

村人は眉をひそめ、何かを思い出すかのように視線を漂わせる。


「依頼・・、ああ! 思い出した。わざわざ来てくれたのか、助かるよ」


その言葉を受けると、アザゼルは村をぐるりと見回す。

探索能力にも違和感を感じる。


「何にもない村だから、依頼料も安くて済まない」

「その様だな、本当に何もない」

「そうだろう?」

「まあ、軍の駐屯地なのだから当然と言えば当然か」

「「「えっ!?」」」


セッチとウォックとズウェイトが、驚きの声を上げる。


「・・・ ・・・」


村人は一瞬眉を跳ね上げるが、意味ありげな笑みを浮かべる。


「へぇー、良く気がついたな」


手を上げると、それが合図だったのか、ワラワラと村人に扮した兵士たちが現れる。


「考えれば当然よね。依頼を出しておいて、あまりにものどか過ぎたわ」

「本当は依頼を受けたと言う連絡が、来る手筈だったんだけどな」


やはりあの依頼は、監視する役割があったのだ。


「あと何故村人に女性が居ないのかと・・、周囲の殺気は何なのかと思ってな」


アザゼルの探索能力に、女性の反応が無かった。

村に一人の女性もいないと言うのはあり得ない。


そして何にも増して、村全体から感じられた敵視する雰囲気・・


「まあ女性兵士も王都の方にはいるけど、この駐屯地にはな」


仕方ねぇと肩を竦める。


「もう一度聞こう。何の用だ?」

「ドワーフに会わせてもらいたい」


きっぱりとアザゼルは目的を告げる。


「あっ!? すまん、死にたいって?」


その声を聞いた周囲の兵士が剣を抜く、が体ぴたりと動かなくなる。


「えっ!?」

「なっ!?」


限りなく力を押さえ、声をかけてきた一人を除いて全員を叩きのめす。


「耳が悪いのか?」


アザゼルは大剣を肩に担いで問う。


「き、貴様・・、こんな事をしてタダで済むと思うのか!」

「たった一人に、この駐屯地の兵は打ちのめされたと言い触らしたいの?」


セッチの挑発に、一人残され怒りの形相で叫けぶ兵士の目が見開かれる。


「彼らの非礼はやむを得んのだ。それでワシ等に何の用かな?」


背後から野太い声が、背後から掛けられる。


アザゼルとセッチは探索能力で、ウォックとズウェイトは鍛えた上げた能力で、誰かが近づくのは気が付いていた。


「ドワーフに会いに」


四人が振り返ると、立派なひげを蓄え、ずんぐりむっくりの子供ほどの背丈の人物がいた。


「我らがそのドワーフだ」


しかも三人。


「もう一度聞く、それで何の用だ?」

「ちょっと待て! そいつら・・っ!?」


何かを言い募ろうとする兵士を、視線で制する。


ウォックとずウィエイトを前に出すと、この村に来た目的を伝える。


「この二人を奴隷から解放したい」

「「なっ!?」」


その言葉に、ドワーフだけではなく兵士も驚く。


「そのために受け入れてくれる所を探しているの」


セッチが続ける。


「ふむ、嘘偽りはない様だが・・、はてさてどうしたものかのぉ」


四人をしばらく見ていたドワーフが言葉を発する。


「付いてこい」

「ま、待て!」


ドワーフの言葉に、兵士が止めに入る。


「どうせ貴様らは、ドワーフ族のアイテムが欲しいだけだろう! ・・いや、秘伝の業と言うのを得るためじゃないのか!」

「そんな物は要らん。二人の解放が出来ればそれで良い」

「この娘たちの自由以上に勝る宝は、今の所知らないんだけど?」


叫ぶ兵士に、アザゼルとセッチは事もなげに答える。


「クックックックッ、ワッハッハッハァ。面白い連中だ」


愕然とする兵士を余所に、大笑いするドワーフ。


四人の先を歩き、道案内をする。残りの二人は四人の後ろから付いて来る。




村から小一時間ほど山間を入ると、非常に巧みに隠された坑道の入り口が現れる。


チラリと後ろの四人を見て、カンテラを点け坑道の中へと入って行く。

アザゼル達は全く怯える事も、疑う事も、躊躇う事もなく付いて行く。




坑道の中の入り組んだ道を進む。


ドワーフたちに置いてけぼり、見捨てられれば地上に戻れないだろう。


そんな坑道を進むと、先の方に灯りが見える。

やがて幾つものカンテラに囲まれた、休憩所の様な所にでる。


「大したもてなしもできんが、まあ座れ」


示されたイスとテーブルに、興味深々のセッチ。


「これ・・、石で出来ている?」

「ん? まあ、こうした来客もあるのでな。準備だけはしてある」


石から削り組み上げたであろう、イスとテーブルには入念な細工が施されていた。

ただ石であるため、かなりの重量があり、女性の細腕で動かすのは一苦労である。


「で、聞きたい事は、そのエルフの娘と獣人の娘の受け入れと言う事だったか?」

「その他にもう一つ」

「どんな事だ?」


三人のドワーフの気配が、穏やかな物から険呑な雰囲気に変わる。


「エルフ族や獣人族は、彼女たちを受け入れてくれるか?と言う事だ」

「出来る事なら、自分たちの種族の元に帰してあげたいからね」

「ふむ・・」


殺伐とした雰囲気に躊躇う事も無くアザゼルとセッチが答えると、再び柔らかい物となる。


ここに来た目的は、やはり別の意図があると考えたのだろう。

しかしアザゼル達が、本当に奴隷からの解放しか考えていない事に安心したようだ。


「はっきり言おう。他の種族の事は全く分からん」


今の今まで戦いか無関心のどちらかを貫いてきた以上、交流なんてものは無いと言う。


「またワシ一人の意見であって、ドワーフ族全体の意見では無いぞ」

「構いません」


ドワーフの言葉に、セッチが応える。


「まずドワーフ族は戦争を好む訳でも無ければ、奴隷も好まん」


ウォックとズウェイトの状況に、一定の理解を示してくれる。


「己が技量を生かして、色々なアイテムを作るのを何よりも好む。素材の取れる鉱山があれば十分満足で、素材のある山に籠るだけだ」

「つまり、素材は他の種族も欲しがる。故に奪い合いの戦争になると?」

「他の種族の事情の事は知らんと言ったはずだ。素材を生み出す場所はドワーフ族の物だ。それ以上でもそれ以下でも無い」

「なる程・・」


これは色々とダメダメな考えである。


「ドワーフ同士はどうなのですか?」


より良い品質の素材が出る場所、奪い合いは無いのだろうか?


「それは勝手に人の坑道に入る方が悪い」

「どの様な解決方法がとられるのですか?」

「大抵は決闘かのぉ」


同族での土地を巡る争いがある事を認める。


「もし人間の王都の地下に、良質な素材の宝庫があれば? あくまでも仮定です」

「勿論、ワシらドワーフ族の物じゃ」

「例え戦争になっても?」

「ワシらの土地を奪っているのだから、当然取り返す。黙って返還せん方が悪い」

「・・はぁ」


種族の差、価値観の違いだろうが、セッチもあきれるほどの理論である。

セッチに変わって、アザゼルがドワーフに問う。


「では奴隷についてどう考えている?」


先程、一定の理解を示してくれたとは言え、実際にはどのように考えているのだろうか。


「同胞の場合か? 勿論、奪われた物は奪い返す」


これも坑道の時と同じ考え方の様だ。


「では、他種族を受け入れてもらえるだろうか?」

「ふむ・・」


アザゼルの言葉は、ドワーフも流石に無碍に答える事も出来なかったようだ。


「同族意識があるとはいえ、基本一人で坑道に潜り、素材を集め、アイテムを作る。それを他の種族が、受け入れられていると感じるかどうか・・」

「なる程・・ね」


多分、ウォックとズウェイトが居ても居なくても、ドワーフ族は変わらないだろう。

結局の所、同族意識と言うのも、自分への益かどうかが基準の様だ。


「ありがとう、とても参考になったわ」

「・・・本当にそれでだけなのか?」

「ん? 当たり前でしょう」

「・・・そうか、では村まで送るとしよう」

「その前に、僅かだが」


アザゼルが声をかけ、マジックバック経由で『倉庫』から、酒樽を取り出す。

ドワーフ族には何よりの土産だろうと、北の町で購入しておいた物だ。


「感謝の気持ちだ」

「クックックッ、ありがたいわい」


本当の意味での警戒心が拭えた様で、にこやかな笑顔を浮かべる。






ドワーフたちに、再び案内され村まで戻る。

村では、兵士(村人)たちにも見送られる。


「他種族のために・・。信じられんほどの大馬鹿者たちじゃな」


四人の後ろ姿に、ドワーフがポツリと呟く。


「何故、生かして坑道から戻した?」

「本当に、あの娘たちの奴隷の解放だけだったからな」


坑道に案内した時点では、アザゼル達を殺す可能性があったのだろう。


「本当か?」

「信じられんか? ならば追って・・」

「その様な事は・・ない」


ドワーフの言葉に、何故か兵士たちは黙り込んでしまう。


「人間とは愚かじゃのう」

「いきなり何を・・!?」

「もしあの男を、お主たちの味方に付けておけば、ワシらに勝てたかもしれんのに」

「な、何だとぉ・・・」

「プライドが邪魔して、下々の声を聞かんから、大切な事がその手から零れ落ちる」

「何が言いたい・・」


ドワーフは、馬鹿にしたような笑みに、兵士は苦々しげに問う。


「ふん。幾らでも強がった所で無駄じゃて。この村はドワーフを守るためでも、人間を守るための駐屯地でも無い。先の大敗という秘密を守るための、同族殺しの呪われた砦じゃろうが」


(ギリッ)


図星だったのか、兵士たちの歯を食いしばる音が聞こえる。


「先の大戦で、ボロ負けして、身代金の代わりに酒と食糧を差し出す約状をもう忘れたか? 己れらのプライドを守るために、ワシらの失敗作で喜んでおるのを?」

「ドワーフの分際で・・」

「ん? 何か言ったか? 構わんぞ? 何時でも相手になってやるわい」


ガッハッハッと大笑いしながら、自分たちの坑道へと引き上げて行く。


苦々しげにドワーフたちを、睨みつけるしかなかった。




先の大戦・・


人間たちは、ドワーフの武器や防具、アクセサリーと言ったアイテムを奪うため、職人や戦士を奴隷にするため、東の山脈にあるドワーフの坑道を攻めた。


地の利はドワーフ。

大軍で攻めるには適さず、薄暗い坑道を彷徨い、奇襲を受け、殆どが囚われの身となる。

囚われた者たちは、火と土の魔法で呪いをかけられ解放される。


莫大な身代金を支払わなければ、他の種族との戦いに影響を及ぼしてしまう。


ドワーフに人間の金など不要。定期的に酒や食料を持ってくるように要求される。




大敗したにも関わらず人間たちは、愚かな提案をする。ドワーフ作のアイテムが欲しいと。

ドワーフとの戦いは勝ったのだ、友好の約定を交わしたのだと知らしめるために。


ドワーフたちは、人間たちのあまりの強欲さに冷笑を浮かべ、酒との交換で呪いから解放するか、アイテムを渡すかどうかを決めるように選択させた。


欲深い上に大敗を隠したい人間たちが、愚かにも呪いの解放を後回しにして今に至る。




人間とドワーフとの関係はは決して友好的では無い。

自分で自分の首を絞め続けている、人間たちが苦しい状況であった。


そしてその秘密を守るために、この村が存在する。

侵入者は誰一人として生かして帰す事のない、処刑場としてのこの村が・・





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