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異形の冒険者  作者: まる
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天界では

【過去編 天界】


ここは人間たちに神々と呼ばれる、世界を創造した天使たちが存在する世界がある。




その世界に天使が一柱誕生する。


天使は自分が無から生み出される際、あの方 が人間をこよなく愛していると言う強い感情を受け取る。


自分が働く様に召された世界は、エデンの園と呼ばれる。


光に満ち溢れた世界で、人間たちは死ぬ事も無く、寒さで凍える事も無く、食べ物で飢える事も無く、豊かに恵まれ、楽しく暮らしていた。


天使も最初は喜んでいた。人々の喜びは、あの方 の喜びであると。




この世界には食べて良い生命の木の実と、食べてはいけない善悪を知る木の実があった。




天使はある時、この世界の人間たちの生き方に疑問が湧きあがる。

この人間たちは心を縛られ、人形のような存在になっているのではないか?


善悪を知る木の実の真価・・・


自分の考えで行動する事が出来る。

自分の思い通りに生きる様になる。


即ちこの世界の人間たちは、選択の意思が取り上げられている。


人間たちはこの世界の管理者、自分の上位に当たる天使の言いなりなのではないか?




自分たち天使を創られた あの方 は、決してこの様な人間の姿を望んでいないと思って・・


天使は人間に直接干渉する事を禁じられていた。

しかし人間に善悪を知る木の実を食べる様に誘った。


人間は天使から離れ、喜びだけではなく、怒りも悲しみも生まれた。

しかし人間たちは、自分たちの意思に従って行動する様になる。




天使は、これこそが人間であると喜ぶ。




しかし罪は罪・・

上位天使の前に呼び出される天使。


天使は人間に直接干渉すると言う大罪。

人間に食べてはならないと言ってあった、善悪を知る木の実を食べさせた罪。


上位天使の羽一枚より生み出された13本の剣の内、12本で四肢、3対の翼、心臓、額を貫かれることで力を封じられ、暗黒の空間に閉じ込められる。


天使は人間を人間にしたと言う誇りを胸に、罰を快く受け入れた。




しばらくして封印されていると、暗黒の空間の自分の目の前に、人間たちの姿が見えるようになる。


そこには善悪を知る木の実を与えた後の、人間たちの様子が映し出されていた。


そう自分が人間に行った事の結果・・、人間と人間が争っている姿が。


「どうして! 何故こうなった!?」


天使は罪なき人々が、お互いに武器を振い傷つき倒れて行く姿を見せつけられる。


それは一度ではない。何度も何度も繰り返されている。


悔恨と絶望の最中、暗黒の空間から突然解放され、世界の管理者たる上位天使の前に連れ出される。


「私はこの世界の人間が、人間らしくない事を知っていた。


人間は弱い。

故に善悪を知る木の実を与えず見守っていた。


あの方 は人間の愚かさ故に愛しさを感じられ、弱さ故に憐れまれる。

あの方 は人間を救いたいと悩み苦しまれる。


ならば人形でも平和で楽しい世界があっても良いのではないか」


天使は、この世界の管理者・・、世界のあり方を創った上位天使の告白をを聞いた。




天使も自分の行動の結果が、人間同士争う世界にしてしまった事に悩み苦しんでいた。




上位天使は、天使の大罪の裁きとして、人間に封じ、この人間同士の争う世界を未来永劫見守り続ける様にと言う罰を与えられた。


簡単に壊れて天使として復活しない様に、幾重にもプロテクトをかけられた寄り代。

天使の多くは金髪碧眼。しかし罪故に黒として黒髪黒眼の『人間の器』と名づけられた仮初に肉体に封じられ、地上へと落とされる。




地上に達する直前、『人間の器』に封じられた天使の周囲に魔方陣が描かれる。


「何だ?」


突如、魔方陣と一緒にその姿が消えさる。

上位天使は、あまりに突然の出来事に、驚き戸惑いの声を上げる。


「・・何が起こった?」


人間となったはずの天使が、忽然と自分の管理する世界から消え失せてしまう。






−Bar 堕天使−


渋めの扉を開けて中に入ると、既に先客が2人いた。


「いつものを」

「畏まりました」


柔らかな笑顔の Mephistopheles と言う名の店員に声をかける。


先客たちの話声が所々聞こえてくる。


「しかし、とんでもない事をしでかしてくれた物だ・・」

「上司である貴方の判断を仰がずですから」


上司と呼ばれた人物は、手の中で弄んでいたグラスの中身を、一気に口に流し込む。


「何の準備もしていない状況では、全て後手に回らざろう得ない」

「とは言え、既に次の段階に進んでおります。左程時間は・・」

「君に言われなくても分かっている」

「申し訳ありません」


上司の怒りのこもった言葉に、身を小さくしている。


何やら深刻そうな話である。




ここは悩み多き紳士淑女が集まり、いつの間にか導きを得られると言う都市伝説を持ったBARである。


かく言う自分もその一人である。

自分の管轄するエリアには、5種族が暮らし、日々種族間のトラブルに見舞われている。




少し離れた所で、2人の話を聞いていた。

誰も彼も、私と同じね・・と。


「しかし、あの者の処遇はどうなりますか?」

「計画的実行では無いとはいえ、明らかな命令違反である以上・・」


漏れ聞こえた命令違反の言葉に興味を魅かれる。

コッソリと店員に尋ねてしまう。


「ねぇ、あちらさんたちって、何の話か知っている?」


聞こえるか聞こえないかの小声で話しかける。

相手もこちらの意を汲んで、小声で答えてくれる。


「何でも部下のお一人が・・」

「うん」

「勝手に・・」

「うん」

「禁断の実を与えたとか?」

「うん・・?」


言葉の意味を理解すると、目を見開いて固まり、手からグラスが滑り落ちる。

店員のナイスなキャッチで、事無きを得る。


「・・とっても不味いじゃない!?」

「そう何ですか?」


直接介入の禁止。 あの方 からの絶対の命令である・・


「ええ、ヤバ過ぎるわ・・」


先客の2人がコソコソ話している訳である。

下手をすれば管理責任を問われかねない。


「じゃあ、その方は解雇されるのですか?」

「解雇・・、そうなるのかしら」


天使の解雇は・・、存在の消滅だろう。

・・もし最悪のケースを辿らなければどうなる?


「(使えるかも!)」


いきなり立ち上がると、店を飛び出していく。


しかし店員は驚くでもなく、彼女の後姿を、グラスに移る別人と微笑で見送る。






自分の持ちうるすべての伝手を総動員して、その世界の事を徹底的に調べ上げる。


自分の上司の元へ駆けこんで行くのである。


「ちょっとよろしいですが?」

「ん? 何だ、珍しい事もあるもんだ。お前さんの方から呼ばれもせずに来るなんて」

「−−の世界の事でお聞きしたい事があります」


その言葉に、上司の表情が固く厳しい物に変わる。


「聞きたい事ってぇのは・・、何だ?」


注意深く、本心を探るかのように尋ねる。


「勿論、命令違反の天使についてです」


上司の警戒心を全く無視しての直球勝負に、上司の表情が呆れ顔に変わり、更に渋い顔へと変化する。


「おまえさん、少しは空気を読むとか、オブラートに包むとかしろよ」

「時間が無いので」


上司の言葉をスッパリと切り捨てる。


「一体、何処でその話を・・」

「じ・か・ん・が・な・い」


一言一言区切って、話を進めようとする。


「ふん。で、聞きたい事って?」

「その天使の処遇がどうなったのか?」

「はぁ・・。あのなぁ、身内の恥を堂々と聞くもんじゃねぇぞ?」


もう無言で、手に持っていた紙でパンパンと時間がない事を再アピールして話を催促する。


「ぜーったいに漏らすなよ」

「分かっています」


念押しの上に、念押しを重ねる。


「あの方 の命に逆らうって言う、前代未聞の大事件だ。全天使が消滅と思っていたよ」

「と言う事は、違ったのですね?」


此処で消滅ともなれば、計画が水の泡と化してしまう。


「あの方 は、誰にでも過ちや間違いはある。

『先ずは己が犯した罪を十分に理解した上で、己で償いの方法を見つけさせよ』

と仰られたらしい」

「では、どの様な処遇に?」


此処が重要である。この部分の情報だけ、まだ手に入っていないのだ。


「あっちの管理者は悩みに悩んで、人間に封印して人間界に落とす事にした様だ」

「仕出かした事を肌で感じられる様に、と言う訳ですね」

「ああ。無期限で、自分の犯した罪を見つめ、償い続けるようにとな」

「願ったり叶ったりです」

「・・はぁ? おめぇ、幾らなんでも・・ん?」


怒れる上司の言葉をさえぎる様に、手にしていた資料を目の前に差し出す。


「何々・・? 天使再利用は計画的に? ネーミングセンスねぇな・・」


資料の内容にざっと目を通して行く内に、驚きの表情に変わる。


「おいおい、おまえ・・。これは本気か?」

「勿論です。今の私の管理する世界の状況をご存じのはずですよね?」

「5種族間戦争・・。封印されたとはいえ、世界に影響を及ぼすには十分な存在・・」


上司がニヤァーと笑みを浮かべる。


「資料の空欄の部分がそれか?」

「はい。元天使の・・」

「良いだろう。尻は拭ってやる。キッチリと準備を進めな」

「ありがとうございます」


上司の了承を得ると、急いで最終調整に取り掛かる。






そこは真っ白な空間・・、天使と呼ばれる存在へ個々に与えられた場所である。


一柱の天使が右手を一振りすると、そこは・・何と言うか・・SFに良くある宇宙戦艦の艦首に良く似た場所に変わった。


「マジックサークル、エナジー充填完了!」

「ターゲット ロックオン!」

「マジックサークル スタンバイ!」

「スタートポイント グリーン!」

「エンドポイント グリーン!」


先程手を振った艦長役?の天使が、部下の天使たちの報告を腕を組んで聞いている。


「バックドアは?」

「未だレッド!」

「チャンスは一瞬だ、見逃すな!」

「イエス マム!」


表玄関と言うのは、誰から見られても良い様に、往々にしてきちんとしてある。

裏口とは、まあ表では出来ない色々な事をする場合に使われる。


自分の管理する世界でも、表向きは世界をきちんと見守っている様に見せる。

裏側では、ちょっと困ったちゃんたちをどうこうするのに使われるのだ。


「バックドア アンロック! グリーン!」


人間の体に封じられた天使が、裏口からポイされる一瞬・・


「強制召喚 発動!」

「マジックサークルの発動を確認!」

「ターゲット確保!」

「ターゲット目標地点へ転送確認!」

「強制召喚完了!」

「システムオールグリーン!」


その場に居た天使たちが、緊張から解放され安堵する。


「諸君、ミッションコンプリート。ご苦労だった!」


もう一度天使の一柱が手を振ると、真っ白い空間に戻る。


「こういうのは雰囲気が大事だよね」


隣に居た天使は、冷めた目で自分の上司である天使を見下ろす。


「何馬鹿な事をやっているのですか・・、本当に全く・・」

「でもこちらの思い通りになった訳だしね」


眉を潜めている天使に、にこやかに話しかける。


「あとは折角いただいた天使を、有効に使わせてもらうわね」


誰もいない虚空、いやその先の誰かに語りかける。






−Bar 堕天使−


何時もの扉を開ける・・


ゴンッ!


中に入ると目の前に飛んできた空き瓶を、顔面で受け止める。


「おいおい、いきなりな挨拶だな」

「ほぉ? いきなり? そっちだろうが! いきなり天使をかっさらったのは!」

「元、な」


再び空き瓶が飛んでくるが、よけず律義に顔面で受け止める。


「こう言うのは、サプライズが大切だと思う訳だ」

「何がサプライズだ。このクソ爺が」


先に来ていたのは女性なのだが、喧々囂々である。

とは言え、助けられたのも事実である。


「もう少し事前に情報を寄こしておけ。そうすればもう少し上手く・・」

「その方が下々は気を使わなくて済むからな」


その言葉に黙り込んでしまう。

あの方 の命を破った身内の報告に来た、あの天使の呟きを思い起こす。


『私が消えてしまいたい・・ と』


「でも・・」


不意に店員が珍しく、しかも探る様に聞いて来る。


「上の方の命とはいえ失敗した方を、左遷するだけで解決する物ですか?」

「分からないわ。何にしろ、初めての事だから・・。でも」

「そいつが戻れる事は無いかもしれん。しかし人として悩み苦しみ、そこから得られたモノは、本人だけではなく周囲の者にも、何かしらの影響を与えるはずだ・・。きっと」


2人の天使は、この失敗からより多くの天使が学ぶ事を期待する。


「何はともあれ、我らは−−の世界への援助は惜しまんよ」

「ふん、そこんとこは頼むぞ」


2人は瓶を軽く打ちならす。


「なる程・・」


店員は2人の様子を見て、柔らかい雰囲気に戻りグラスを磨き始める。

そこに映った誰かと、会話をするかの様に。





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