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異形の冒険者  作者: まる
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奴隷を見る

【奴隷編 奴隷を見る】


怒れるウハーの経済講義によれば、ランクDを目指し、旅をする資金は十分であった。


アザゼルは協会の依頼で、北か南の町の護衛の仕事を探す事にする。


「なる程。考えましたね」

「うむ」


アザゼルは、不慣れな自分が争ってまで依頼を得るのは厳しいと考えた。

そこで思い付いたのが、キャンセル待ちで並ぶ事である。


「少しずつと考えてな」

「良いと思います」


協会の職員も、アザゼルの成長に目頭が熱くなる。

とは言え、そう簡単に望みの依頼があるとは限らない。


しばらくは近場の護衛や、討伐、採取、ダンジョンクリアを繰り返す。




そんなある日、待望の依頼を手に入れる事が出来る。

魔族の住む砂漠に近い、南の町へ向かう商隊の護衛として雇われたのである。


町を離れる事を、ウハーに連絡する。


「近々、商隊の護衛として、南の町へ行く事になった」

「そうですか」

「合せて依頼を幾つかこなす予定だ」

「分かりました」


いずれはこの日が来るのは知っていたので・・、いや、この日のために色々と、引っ掻き回してくれた。


「そうそう。以前お話ししましたが、改めてお願いしておきます」

「何か?」

「他の町にも当然、冒険者ギルドが存在します」

「それは、そうだな」


食い詰め者たちのセーフティネットなのだ、何処にでも存在するだろう。


「可能であれば、依頼を受けてあげて下さい」

「うむ、分かった」

「では、ご武運を」


ウハーはいつもと変わらず冷たい反応で、アザゼルを送り出す。






アザゼルは西の町では、特に自分の成果を誇る事は無かった。

協会の職員から伝え聞く驚きの成果を、他の戦闘職は殆ど信じていなかった。


「ランクEの奴が、そんな働きを出来る訳が無い」

「あんなこけおどしの姿でしか、やっていけない奴」

「ソロ? 仲間から見放された無能だろう」


他の町でも同様に、ランク、容姿、ソロに対して色々と言われる事になる。


また我関せずと言う態度を貫く者が居た。


「自分は自分、相手は相手。キッチリ仕事が出来れば良い」

「あの容姿には何かしらの事情があるのだろう」


そうかと思えば、好意的に捉え一定の評価をする者もいる。


「実力にしろ運が良かったにしろ、成果は成果だ」

「どんな容姿であっても、良い方に転がるなら歓迎すべきだ」


何処へ行っても、その人の価値観に基づく否定的、無関心、好意的はある。


正しく評価できる者は、アザゼルの恩恵を受ける。

評価できない者は、彼の能力の高さに驚愕する。


南の町へ向かう護衛たちも、ランクと容姿とソロとアザゼルの能力のギャップに驚く者たちの仲間入りする事となってしまう。






南の町へ到着し、戦闘職協会の報告を済ませると、冒険者ギルドへと向かう。


何故かウハーとは全く違う女性なのに、既視感を覚えさせる雰囲気だった。


「仕事中に失礼、依頼はあるか?」

「身分証明書のご提示を」


また期待を裏切る新人の登場に、少しウンザリぎみに対応する。


「・・・えっ!?」

「何か?」

「本気・・ですか?」

「聞かれている事が、良く分からないのだが?」


身分証明書には、戦闘職協会のランクEの文字が刻まれている。

初心者のランクGだって1日で来なくなるのに、ランクEが依頼を求めに来るとは・・


「結構ありますが・・?」

「分かった。では、先ずお勧めの宿を教えて欲しい」

「何故ですか?」

「ん? 勿論時間がかかるからだ」

「何の時間がかかるのでしょうか?」

「勿論、依頼をこなすための時間だが?」


受付嬢も、もしかしたらと頭の片隅に引っかかりながらも、信じられない事態である。

そのため自分で何を聞いているのだろうと、思ってしまう程の間抜けな質問だった。


アザゼルは腰を据えて、片っぱしからギルドの依頼を片づけていく。




後日、ウハーは南の町の受付嬢から手紙を受け取る。


「『アザゼルさんって、何者なの?』」


彼女からの手紙には、アザゼルの奇特な行動の数々が羅列されていた。


「(向こうでも、馬鹿正直に依頼をこなしているのか・・)」


感慨深く手紙を読み、返信をしたためる。


「(深く考えずに接すれば大丈夫、面倒な奴ですが・・無害です、多分。っと)」


書き終えた手紙を読み直して、何となく一文を付け足す。


「(P.S. 余計な手出ししたら・・、殺します)」


何故こんな事書いたんだろう思いながら、その一文を消して封を閉じる。






ギルドの依頼をこなしながら、戦闘職協会の依頼をこなしていく。


西の町の経験から、依頼達成の最短方法は所持しているダンジョン品を渡す事である。


ダンジョンに入れるのはランクEからであるため、購入品だろうが何だろうが、ランクE以上の依頼済みと判断される。


コツコツと貯めたアイテムを使ってランクアップするのも手段の一つだ。

財力があれば、ランクを金で買う事だってできる。

地道に依頼を受けて行くのもありだろう。


何に自分の価値を置くのか、ここでも問われていた。




アザゼルは地道に依頼をこなす事を選択する。


ランクEに見合った、護衛や討伐、無ければ採取やダンジョンへと向かう。

依頼の内容は、西の町と殆ど変らず、地域によって違う薬草の種類、出現するモンスター程度であった。


ダンジョンに関しては、モンスターは元より、特性も特色も同じであった。


つまり一階層の壁の中に埋まっている宝箱の事も・・


「(地域ごとの特性では無いのか? もしかしたら中身が違う?)」


期待を胸に壁を壊し、宝箱を開けるが、何時も通りのマジックバック、大剣、小手、ブーツの4種類しか出てこなかった。


「(ソロでは、これ以上の試しが出来ない・・か)」


流石のアザゼルも、同じ物が続けて出ると意気消沈である。

『倉庫』の中にも、魔族スミナユテからもらった予備と合わせ、100セット近い量が貯まってきており尚更であった。


約一カ月程、南の町で協会やギルドの依頼をこなして、護衛として西の町へと戻る。






溜まったギルドの依頼や、時折協会の依頼をこなしながら、今度は北の町への護衛を待つ。

しばらくして北の町への護衛として雇われ、その力を遺憾なく発揮する。


アザゼルへの人々の対応も、北の町周辺の依頼やモンスターも大きな変化はなかった。


大陸において北側は、湖沼や湿地が多く、水に恵まれた環境である。

人間の領土としては広く、北の町から更に北へ進み海に面した町までである。


今までになかった依頼として、釣りや漁と言った水に関係する仕事であった。




北の町で、協会の依頼を幾つかこなすと、職員からランクアップの話がでる。


「アザゼルさん、ランクDへの条件がクリアされました」

「そうか」

「お手数ですが、拠点である西の町の戦闘職協会で手続きをして下さい」

「分かった」


ランクDの条件は、2つ以上の町で依頼をこなす事であり、北の町で終了であった。


「ここまで来られたんですから、海の町まで足を伸ばしてみては如何ですか?」

「海の町か・・、ふむ」


この世界に来てから、この世界の海と言うものは見た事はなく、その町に暮らす人々と言うのに惹かれる物がある。


運良く海の町までの護衛の仕事を得られたため、西の町へ戻らず行ってみる。




この一件は西の町に戻ってから、ウハーのお怒りに触れる事になる。


「アザゼルさん、ランクDおめでとうございます」

「うむ」


ウハーの珍しく感情を込めたお祝いの言葉に、アザゼルは気にした様子もなく何時ものように頷く。

その感情は喜びとは違った別の、そう負の感情を凝縮したような・・


「一つお伺いしたい事があるのですが?」

「何か?」

「他の町に行かれる際は、一度戻ってきて下さいとお願いしましたよね?」

「確かにその通りだ」

「何故、海の町へ?」


彼は絶対に約束を守ると言う思いへのの裏切り。

正直この事はウハーの思い込みであった。


ランクDの条件は、2つの町のため、3つ目の海の町へは行かないと踏んでいた。

北の町から海の町、再び北の町と、結局3カ月近く西の町に戻って来なかった。


「・・すまん。護衛の仕事を見つけて」

「ついでですし、依頼も得られて行きたい気持ちは分かります。次回からは、その辺も踏まえて計画していただけますか?」

「うむ、承知した」


2人のやり取りを後で聞いたギルドマスターや、他の職員は心で叫んでいた。


「「(えぇーっ、全然アザゼルさん悪くないじゃん?)」」


そして澄ました顔でそれをやり遂げるウハーに、皆が皆戦慄を覚える。




更にこの一件で、静かなる怒りから片っぱしから依頼を押し付けようとする。


「・・最初に、ランクアップの手続きをしても良いだろうか?」

「はい、最高の依頼をご用意してお待ちしています」


全く目が笑っていない、満面の笑みで送り出されたのだ。






ウハーに断って、一旦西の町の戦闘職協会へ行き、職員に声をかける。


「北の町でランクアップの手続きをするように言われたのだが?」

「畏まりました。身分証明書をお預かりします」


職員はプレートを受け取ると、所定の手続きに回す。


「では身分証明書の変更の間、ランクCへの条件を説明いたします」

「頼む」

「ランクDの時と左程条件は変わりません」

「ん? そうなのか」


1ランク上がる以上、何らかの条件が追加されると考えていたのだ。


「ランクDになるための条件は、二つの町で依頼を達成するです」

「知っている」


覚えていますか?の顔に、勿論と頷き返す。


「ランクCになるためには、全ての町でバランス良く依頼を達成する事です」

「確かに範囲が広くなるだけで、大きな違いは無いか」


大きな違い・・、範囲が広くなると言う事は時間がかかると言う事である。

時間と言う投資に、どれだけの損得を感じるかはその人その人だろう。







ランクアップの手続きから戻っても、ウハーの笑顔に全く変化が見られない。


「お待たせした」

「いいえ、選りすぐりの依頼をご用意しました。かなりの依頼量がありますので、終わったらすぐに戻ってきて下さい」

「うむ、承知した」


少し意地悪をして、時間がたーぷり掛かる依頼を次々に押し付ける。

残念ながら、ウハーの思惑は外れ、ぶっちぎっりの速度で依頼をこなされてしまう。


文句も言わず、黙々と依頼をこなす姿に、ギルマスも他の職員も感動する。


「チッ!」

「「(そりゃねーよ!)」」


逆にアザゼルが戻ってくる度に、これ見よがしに舌打ちするウハー。

職員達は恐怖を植えつけられ、アザゼルに憐れみの気持ちが湧いて来る。




流石に見かねたギルドマスターから、ウハーがお小言を貰う。


「ちょっと余所様で、浮気したからって・・、やり過ぎじゃねぇか?」

「浮気? そんな物はありません」


とは言え、些か?公平且つ公正さに賭けていた事は自覚する。


「アザゼルさん、お疲れ様でした。溜まりに溜まった依頼に目処がつきましたので、明日は協会の方へ」

「分かった」


何でそこまで恩着せがましいんだと、ギルマス他職員たちは心の中で叫んでいた。


「ランクDになりましたので、各町を回る依頼が増えるでしょう。それだけではなく、出来る限り活動の連絡をお願いします」

「承知している」


先の失敗から、必ず約束は守らなければならないと固く誓っていた。


「ちなみに、どんな感じで回られる予定ですか?」

「護衛の依頼優先で、はっきりした事は何も言えん」


ランクCになるための条件は、全ての町を回る事である。

その町その町で得られた、他の町への護衛の依頼は受けた方が合理的だ。


「済まないが、予定通りに戻らない可能性がある」

「そうですね・・。可能であれば手紙を送っていただければ助かります」

「手紙・・なる程、分かった」


確かに事情により予定が変更するのであれば、手紙は良いアイデアである。


「ああ、あと冒険者ギルドの連絡便に乗せてもらうのも手です」

「連絡便?」

「当然、他の町とも新しい人の登録や、町々の状況を伝えあう必要があります」

「尤もだ」

「その情報のやり取りをするのが連絡便で、役場も協会もどのギルドも持っています」

「なる程、利用させてもらおう」


この方法があるならば、頻繁に連絡を取り合う事が出来る。


「それから老婆心ですが、王都は戦闘職も多く、かなり厳しい依頼の取り合いと聞きます」

「ふむ」

「王都は避けて、仕方なく王都へ行くなら、無理せず、他の町への移動は無駄と思っても、依頼を待つのではなく、別の手段を使った方が良いでしょう」

「助言、感謝する」


これは協会の方でも聞いていた話であるが、初耳であるかのように振舞う。




何の因果か、初っ端から王都行きの護衛の依頼を引き当ててしまう。


「まあ、何と言うか・・、頑張って下さい?」

「うむ」


ウハーは遠くを見つめる様な目で、アザゼルにそう声掛けするしか出来なかった。






アザゼルが王都へ旅立って1週間を越えた頃。


ウハーは事務仕事で、凝り固まった首を伸ばしながら呟く。


「ギルドの方は良いとしても、協会の方の依頼受けられましたかね」


彼の出ていた扉に目をやった瞬間、その扉が開け放たれてアザゼルが飛び込んでくる。


「はぁ!?・・アザゼルさん? 一体どうして? 王都に行ったのでは?」

「あれは・・、あれは一体何なのだ!?」


珍しい、いや初めてであろう怒気を含む彼の言葉に目を丸くする。


「あれ、とは?」


いきなり、あれ、と言われても答えようがない。


「何かありましたか?」


怒れる彼も初めてなら、これ程取り乱すのも初めてである。


「何故、奴隷が存在する・・。 何故、王都に奴隷が居るのだ・・」


アザゼルは重い言葉を吐き出すように告げる。


「ああ、奴隷を見たのですか」


ウハーはアザゼルの一言で、彼の有り様の原因を理解する。




アザゼルはこの日、更に深い闇へと身を投じる事になる。





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