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異形の冒険者  作者: まる
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プロローグ

【プロローグ】


この世界には、人間以外にも数種類の種族が存在する。

姿形は違えど仲良くして欲しいと神様は思っていた。


そんな神様の思いにも拘らず、愚かにもお互いが傷つけあう戦争に明け暮れている。




人間たちの王都、この大陸の中心へ向かう2台の荷車。

二台目の荷車の御者台に、商人が座っている。


人間たちの領域であっても、狙うのは人間ばかりでは無い。

人間たちを憎む種族が、山から森から草原から虎視眈々と狙っているのだ。



故に護衛と言う仕事が存在し得る。



先頭に一人。

一台目と二台目の間の所で、左右に分かれて2人。

二台目の少し後ろに、やはり左右に分かれて2人。


先頭の一人だけに警戒を任せるのではなく、全員が周囲に気を配る。


商隊を組む商人は、2組の護衛を雇っていた。




1組目は、傭兵ギルドのランクCをリーダーに、ランクD3名のパーティ。

傭兵ギルド、つまりは軍隊上がりのギルドであり、護衛には定評がある。


2組目・・、こちらはソロのためパーティではなく、冒険者ギルドでランクD。

しかし容姿が少し・・、いやかなり変わっている。


目に見えるのは黒髪のみ。護衛なのに普通の服屋で買える布の服しか身に着けていない。

これではいざ戦闘となった時に、役に立たない。金がないのか、自信の表れか・・


四肢には鋼の様な・・、しかし金属では無い、話ではメタルバグと言う魔物の殻で作られた、腕は指先から肩まで、足はつま先から太腿まで覆う部分鎧。


ここまでならまだ良い。


顔には目の所が丸く穴が開き、黒い瞳が覗く、ほうれい線から下をカットされた真っ白な仮面である。


そして背中には鞘の無い身長程の長さの大剣が括り付けられている。

しかもその大剣には刃が付いていない。


何から何まで胡散臭い人物で、何でこんなのを雇ったんだ?と言われるような風貌だ。




商人は当初、最初の1組目だけを護衛にして旅立とうと考えていた。

まあダメ元でと、出来高制で護衛を求めたのである。


何も無ければ余計な支払いは無い商人、手ぶらで王都へ戻るのは無駄と考える戦闘職と、

Win−Winの関係での雇い入れを考えていた。


この護衛に名乗りを上げたのが、この風変わりの人物であった。




突然、その風変わりな護衛から声がかかる。


「依頼主殿」

「は、はいっ!? どうかしましたか、アザゼルさん?」


殆ど自分から話しかける事が無く、無駄口一つ叩かない彼からの言葉に少し驚く。


「前方に20名程の気配がある。・・人間の様だが」

「なっ!?」


もう一つのパーティからは何の反応もない。

この変人が、先に気付くとは思わなかった。


本当かどうか分からないが、隣に居るもう一方の護衛に声をかける。


「すみません」

「どうした?」

「お隣のアザゼルさんが、この先に人の気配があると言っていますが・・」

「何だと!?」


パーティは護衛のプロ、万が一を考え仲間に合図をする。

ナイフを取り出し、荷車を一定の間隔で叩き始める。


「良し。ここいらで小休憩をするぞ!」


先頭を歩いていたパーティのリーダーが、商隊に声をかける。


商隊が止まり、思い思いに休みを取る中で、情報の共有がされる。


「一体何があった?」


先程のナイフの合図は、話し合いたい事があるなのだろう。


「アザゼルさんが・・な」


全員を集めたメンバーが、商人に言われた事をリーダーに伝える。


「その話は本当か?」


リーダーは、風変わりな人物に話しかける。


「嘘を吐くメリットが無い。真偽はともかく、警戒は必要だと思うが?」


アザゼルの言う通り、嘘か真か、敵か味方かに関係なく、誰かが居る居ないに関わらず、常に警戒は必要である。


ただ敵が居ると考えるなら、遠回りや戻る事を考えなくてはいけない。

しかし商人は確たる証拠もなく無駄に時間をかけるのを受け入れる事はないし、いざと言う時のための護衛である。


「どうするか?」


自分のパーティの面々に確認をすると、アザゼルが追加の情報を出す。


「街道に対して、左右に10人。10人は更に5人ずつに分かれて、左手前が5人、その先にに左右で10人、更に右奥手に5人と言う形で待っている」

「明らかに囲い込む形か」


一旦、商隊をやり過ごし、5人ずつで前後左右を囲い込むベーシックな陣形である。


「提案があるのだが?」

「ん? 何かあるのか?」


珍しくアザゼルの方から、意見を言ってくる。


「自分が森を進んで、右か左の一団を倒す」


4人で10名を相手にして、おっつけアザゼルが援護に駆けつけると言う算段のようだ。

しかしこいつが負ければ、いや逃げてしまえば・・、そもそも野盗が存在する保証はない。


「ダメだ。悪いがお前がどれだけ強いか知らんし、4対20と5対20では後者を選ぶ」

「分かった」


あっさりと自分の提案を下げるが、彼には全く気にした様子は無い。


「あと確認だが、彼らはどうする?」

「どうするとは?」

「生かすのか、それとも殺すかどうかだ?」

「はあ? 先ずは俺たちが生き延びる事が優先だぞ!?」


まるで殺さなくても捕えられるような言い方である。


「殺さなくて済んだとしても、町までの距離を考えると、その場で殺さざろう得ない。

逃げる者は追わないが・・」

「分かった」


護衛という任務を優先しつつ、仲間を守る事を考えるリーダーの指示に従う。


「じゃあ、さっきと同じ陣形で進むぞ」

「「「おう!」」」


休憩を終え、再び王都への道を進み始める。


居ると分かっての警戒である。リーダーは確実に、ランクDのメンバーでさえ気付く。

こちらの予想通り、商隊が通り過ぎるまでじっとしている様子が伺える。


「(くっ!? あの変人の言った通りか! 罠・・なら自分でばらす意味が無い)」


実際に戦うとなれば、5対20・・勝つには厳しい。


傭兵ギルドの5人が同じ様な事を考えていると、前方から5人が現れ立ち塞がる。


「待ちな! 通行料を納めてもらわねえとな。ここを通りたきゃな」


その言葉を待っていたのか、周囲からワラワラと野盗の仲間が出てくる。


ストッ・・ どさっ


・・が、そんな音と共に、後方の5人の野盗が次々と倒れていく。


ドゴッ! グズッ! ガシュッ!


危険な音が響く度に、野盗の仲間が倒れて行く。


「な、何だ? 何が起きて・・?」


野盗のリーダーと思しき人物の言葉は、自分の左手、商隊から見て右手の仲間5人が、大剣を振う変な格好の男に一瞬で倒されたのを見て、途中で止められる。


商隊の他の護衛もそれを見て、既に他の仲間に切りかかって倒していた。


「ゆ、夢でも見ているのか・・?」


不意に振り抜かれた大剣によって、その呟きが野盗の最後の言葉となった。






夕食の際、商人がホクホク顔でアザゼルに話しかけてくる。


「いやぁー、アザゼルさんがこれほどお強いとは思いませんでしたな」

「役に立ったのであれば何よりだ」


保険で雇っておいた結果、命も荷物も守られた。


「確かにその通りだ」


護衛パーティーのリーダーも、変な格好の男の力を認める所ではある。


アザゼルは野盗に囲まれると、自分より遠い敵にナイフを投擲し、戦闘不能にしながら味方を支援する。

傍に居た野盗がそれに気付いたが、動く前に大剣でねじ伏せ、計10名の野盗を倒していた。


何が何だか分からず混乱した野盗では、準備万端の護衛の前に勝負にならなかった。


彼らは思う。

多分、ナイフでは無く石などであれば、野盗を殺さずに無力化する事も・・。


リーダーは、変人の最初の提案に従って居れば、もっと容易に片付いただろうと考えつつも、彼の強さを知らなければ、やむを得ないとも考える。


「しかしアザゼルさんよ、あれだけの強さがあれば、何処のパーティでも引っ張りだこじゃねぇのか?」


他のメンバーが語りかける。


戦闘職に限らず、相手の事を根掘り葉掘り聞き出す事はタブーである。

まあ煙に巻かれるつもりで、食事の際に軽い気持ちで聞く位は許されはする。


「・・・」


アザゼルは徐に左腕の部分鎧を外す。

下から現れたのは、文字のような文様のような痣でびっしりと埋まった肌であった。


「そう言う事か・・、悪かったな」


話しかけたメンバーと違う者が、アザゼルに謝罪する。


「何か知っているのか?」

「地方によってだが、ああいった痣を呪いとか称して、忌み嫌う風習がある。呪い子とか呪い持ちと言ってな・・。正直な所、良く分かっていないんだが」


アザゼルは、そそくさと左腕を装着する。


今まで言葉を発していなかったメンバーが、思い出したかの様に話し始める。


「うーん、ある部族じゃあ勇気の証明、強さの証とかで、わざわざ文様のような刺青したり、魔除けと称して入れてるって話なんだがなぁ」

「それは初耳だ」


アザゼルが感心した様子で頷く。


「まあ、地域や文化によって、価値観が変わってくるからな」

「価値観か・・」


感慨深そうに、その言葉を舌の上で転がす。


「ただ・・、地方の依頼も多いし、仲間同士で結構もめる原因にもなる」

「ああ、依頼に失敗すれば難癖付けられる。お前のせいだってな」

「ジンクスって言うのもあるぐらいだから」


慰めるつもりなのだろうが、慰めになっていない会話だたアザゼルは気にした様子は無い。


しかし、そんな彼の視線がふと、遠くを見つめる物に変わる。

やはり気に障っていたのかと、メンバーたちが心配して声をかける。


「ん? どうした?」

「・・・モンスターだ」

「「なっ!?」」


全員の緊張が高まる。

彼の索敵能力の高さは、既に証明済みである。


「こっちを狙っているのか、別の得物を狙っているのかまでは分からない」

「近づいてこない、と言う事か?」

「・・ゆっくりと回っている様な感じだ」


ここは草原であり、遮蔽物が少なく、辺りは見通しが良い。

とは言え、真っ平らではなく、草木もあり、月明かり星明りでは見つけ難い。


「リーダー、どう思う?」

「分からんが、俺たちが寝付くのを待っている可能性が高いな」

「ならば先に休もう」


アザゼルは、さっさと眠りに行ってしまう。


「うお!? マジか?」

「いや正しい判断だ。俺たちも最少メンバーを警戒に残して休もう」

「・・了解」


何時来るかある程度予想を付けられるなら、準備に専念すべきである。


しかもアザゼルは寝に行ったのではなく、休むふりをして索敵を続けていた。




夜半過ぎ、三人目の見張りの時に、アザゼルが起きてくる。


「どうしたんだ?」

「モンスターが半分の距離まで縮めて来ている」

「そうか・・」


他のメンバーに声をかけようとすると、アザゼルが動く。


「どこへ行くんだ?」

「出来るか分からんが、背後を取って見る」


モンスターの動きを指で指示し、少し方向を変えて出て行く。


見張り役はすぐに、その事をリーダーに伝える。


「全員を起こして、そのまま待機させろ」


リーダーは短くそう伝えると、全員に準備をさせる。


やがて全員が気付く程、モンスターが近づいて来た。


「上手くバックを取れれば良いんだが・・。何時戦闘が始まっても良い様にしておけ」

「「「了解」」」


静かに時が来るのを、待ち続ける。




アザゼルは完全にモンスターの背後を取っていた。


しかし何かに気付いたのか、突如向きを変えて、お互いが正面で向き合ってしまう。

四つん這いだったモンスターは、二本足で立ちあがり、諸手を挙げ威嚇してくる。


が、大剣はモンスターの頭上に、スムーズに叩きこまれ倒れる。

それっきり動かなくなった。


おかしい、異常、異様とも言える状況だ。

モンスターはの感覚は、人間など遥かに凌駕するのに、背後までの接近を許している。

そもそも野獣より、耐久力や生命力が遥かに高いモンスターを、一撃で戦闘不能にする事は難しい。

何よりも威嚇の後、ぴたりと動きが止まり、アザゼルの一撃に対応しなかったのは何故か?




パーティのメンバーは、突如始まった戦闘音を頼りに援助に向かう。


「急げ!」


しかし現場は既に片付いていた。


「おいおい・・、一人でって、マジか!?」


カンテラの灯りによって照らし出されたモンスターを見て驚く。


「こいつぁ・・、レッドベアじゃねぇか!?」

「死んでいるのか?」


モンスターはしぶとい。死んだと油断させての一撃が恐ろしい。


「確実に仕留めている」


野獣にしろモンスターにしろ、確実なのは首を跳ねる事であるが、傷ついて素材の値を下げないため、リスクを覚悟して最小限のダメージで済ませる場合がある。


「悪いが、念のためだ」


仲間を守るために、モンスターの首を跳ねる。


「これで良い。あとはこいつをどうするか・・、やはり焼くか?」


一応倒した当人である、アザゼルの方を見る。


「依頼主に聞こう」

「・・えっ!? 持って帰るのか?」


護衛の依頼中に倒したモンスターは、原則依頼主の物である。

売れるものは売って、は護衛終了時に、何らかのボーナスが出るのだ。


「持ち難いが何とかなる」


そう言うと、自分より二回りは大きいレッドベアをアザゼル一人で背負ってしまう。


「・・マジかよ」


何度目かの驚きを声にする。


「すまないが、頭だけ持ってもらえるか?」

「ああ、任せておけ・・」


異様な装備で、レッドベアを背負う姿を茫然と見守る。






その後の時間の火の番を、前半を休んでいたアザゼルが買って出る。


メンバーは翌朝まで休み、商人がレッドベアを見て驚きの悲鳴で起こされる。


「い、一体・・、こ、これは? な、何が何だか・・」

「昨晩、俺たちを襲おうとしていたモンスターの頭だ」

「お、襲う?」


護衛リーダーの言葉に、商人は呆然とする。


「護衛中だから、依頼人殿の判断を仰ぎたくて持って帰ってきた」

「持って帰って・・?」


ごく当たり前の事だと言うアザゼルの言葉に、二の句が継げない。


獲物には、肉や角、牙、爪、皮、場合によっては内臓や骨、更にモンスターから魔石といった物が得れらる事がある。


「そ、そうでしたか・・。でしたら他の素材は?」

「痛みやすい肉や内臓類は焼却した。その他は別の所に置いてある」


血抜きや解体すれば、他の野獣やモンスターを呼び寄せてしまう。

少し離れた所に置いておいたのを、依頼主が起きるタイミングで持ってきたのだ。






以降の旅は滞りなく、目的の町へと到着する。


アザゼルは約束通り、野盗とモンスターの討伐の手柄の分だけ報酬を受けとる。

一緒だったパーティや商人に別れを告げ、今日の宿を探しに行く。


傭兵ギルドの護衛パーティは、アザゼルの能力を高く評価していた。


「良いのか? アザゼルを誘わなくて」

「仕方あるまい」


これから先の依頼を考えると、容易には勧誘する訳にはいかない。

地域の風習とは、それほど根深い問題なのである。


アザゼルもそれを知っていて、あっさりと別れを告げたのだ。




アザゼルは宿で割り当てられた部屋で、今回の依頼で得られた事を思い返しながら、昔の約束を思い起こしていた。





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