メッセージ
ギターの弦が切れた。余りに唐突で不思議なくらい軽く切れた。換えの弦は買ってない。夜中、眠れなくて弾いていたギターに見放されたような気がした。一昨日から何も進んでいない。夕方作ることも出来ず、今も出来ない。恐ろしい程に、今の僕に音楽はない。目の前にあるはずなのに、いつもの音楽はない。昨日は彼女は来なかった。陽だまりの様な笑顔を見せに来ることは無かった。いつも来る訳では無いから当たり前な筈なのに、何故かそれが寂しい。物凄く、寂しい。そういえば、今日彼女は何かを言いかけていた気がする。彼女の友人に遮られて聞くことは出来なかったけれど、少しばかり悲しそうにも見えた。僕は携帯を手に取ると、メッセージアプリを開いて、彼女とのトーク画面に行った。前話したのは、もう2ヶ月も前。小さい頃から仲が良くて、家が近いから携帯でなんて話すことがない。前話をしたのも、学校の時間割を聞かれただけ。そっけないその会話は彼女の好きなキャラクタースタンプで終わっていた。
どうしようか、と不意に迷う。変に思われるだろうか。もしかしたら、彼女にとっては何でもないことだったのかもしれないし。実際、彼女は昨日来なかった。深くため息を吐くと、携帯を机の上に置いた。少し気に障るところもあるけれど、今日学校で聞けばいい。もう一時を回っているし、今メッセージを送ったら迷惑だろう。
僕はギターをスタンドに立て掛けると、布団の中に潜り込んだ。眠れなかったのが嘘のように、すぐに僕は眠りについた。
何も変わらない朝がまたやってきた。学校に行く支度をして、家を出る。いつも通りイヤホンで耳を塞ごうと思って、鞄の中を見てもそこにイヤホンはなかった。ガサゴソと探って見ても何処にそのシルエットはなかった。いつも、がない。嫌だと思い家に戻って探そうとも思ったけれど、そんな時間に余裕はなく、仕方なく学校へと足を運んだ。
小学生の大きな声、車が道路を走る音。同じ学校の生徒が話している会話が、今日は鮮明に聞こえる。こんな日が一日も続くのかと、考えただけでため息がこぼれた。音を体に受けながら、歩いていると学校にはすぐに着いた。いつもよりうるさく感じる。すぐさま靴を履きかえて、教室の自分の席に座った。しょうがないから、机の中にずっと置いたまま一度も読んだことのない本を開いた。彼女から借りた本だった。執拗におすすめされて、借りてはみたもののまだ一度も読んでいなかった。いい機会だと思って、僕はその本を読むことにした。
「あれ~、今日色葉来なくない?」
本をめくり始めたところで、彼女がいつも一緒に居る女子たちの会話が耳に入ってきた。彼女とは違って、甲高い声が耳に障る。確かに、今日彼女をまだ学校で見かけていない。
「遅刻じゃない。ほっとけば来るでしょ」
「まあ、それもそうだね」
「来ないとかありえないし」
まだ学校を休んだことのない彼女だったから、僕もそう感じていた。僕は気にしないで、音を遮断するように本の世界に入り込んでいった。
だけど結局、彼女は学校には来なかった。