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雑記メモ群  作者: Richard Roe
現代魔術は異世界をクロールするか? 改稿版
1/5

現代魔術は異世界をクロールするか? 没版1

『聞こえますか、迷い人よ』


 ? 聞こえますけど。

 等という無粋な言葉は胸の内に溶けて消えていった。

 と言うのも、いつの間にか自分が別の場所に連れ去られていることに気付いたからだ。


 何せ、一面がこうも真っ白だ。

 見渡す限りが白の世界。これほど白いと距離感を喪失してしまう。

 こんな不思議な空間など、俺の知る現実世界には存在しない。


 ふと気付く。声の主がどこにもいないということに。


「あの、すみません。もしかして神様ですか?」


『はい』


 神ですか、などと真っ先に口をついた質問も我ながら大概おかしなものであったが、見えない相手の返事もおかしなものだった。

 なるほど、この常識外れな超然とした返事、確かに神様っぽいというか何というか。

 しかし、その平然とした返事のせいでますます疑問が生まれてしまった。


「か、え、神様ですか? 本当ですか? でも神様っていないんじゃ――」


『迷い人よ、落ち着いてください。恐らく貴方の頭のなかにはたくさんの疑問があることでしょう。しかし、一つ一つ答えていく時間はありません』


 しかも時間がないらしい。

 あんまりにも一方的ではなかろうか。

 というか呼んだからには姿を見せるのがマナーなのでは、と思ったり。


『何故ならば、貴方にはステータスのポイントを割り振って貰わなくてはならないからです』


「……ん? ステータス?」


『はい』


 はいって。いやステータスって。色々と突っ込み所しか感じなかったのだが、あえて俺から何かを言うまい。

 ステータス。

 よくあるRPGとかにある、「能力値」「所持スキル」「ジョブ」とかの能力情報、あれらを指してステータスと言う。ゲームの登場キャラが例えばどんな能力を有しているか、どれぐらいの強さなのか、などの情報が『ステータス画面』を見る事で一発で分かるというわけだ。


 さて、ステータスのポイントとやらだが、それは目の前に展開されたポップアップ画面を見てどういうものなのか得心が行った。






  <Menu>

 ====================

 Info:あなたのステータスを決めてください


 ・種族

 ・能力値

 ・スキル

 ・装備


 ・残りポイント:6174

 ====================







 ポップアップ画面は、俺が良く見慣れたタイプの仮想モニターであった。

 脳内に自動的に生じるモニターで、他人には何が書かれているのか見えない。

 そして、選びたい項目を脳内で選択すると、その項目について詳細を開くことができる。

 何故この女神がこの技術を知っているのか、という疑問は残ったが、まあ良いとして。


 これは種族、能力値、スキル、装備の四つの項目でそれぞれ自分で調整しろということだろうか?

 試しに種族の欄を脳内でタッチすると、新しいポップアップ画面が出てきた。







  <Menu/種族>

 ====================

 ・普人族

 ・精人族

 ・獣人族

 ・竜人族

 ・魔族

 ・混血種

 ・突然変異体


 ・残りポイント:6174

 ====================






 ポップアップ画面の表示が変化して種族の説明に移った。

 種族というのは恐らく、俺がどの種族になるのかを選ぶ項目なのだろう。


 推測だが普人族というのが普通の人間という意味で問題ないだろう。

 見慣れない精人族とやらは、ポップアップ画面の説明によると「妖精族」という意味らしい。

 また魔族というのは「吸血鬼族」「屍人族」など複数の種族の集まりらしい。

 混血種、突然変異体が物凄く気になったが、とりあえず普人族を選択してみる。






  <Menu/種族/普人族>

 ====================

 普人族(消費ポイント 0)

 能力的には特筆すべき所の少ない種族。種族数は豊富で、社会の大半を占めている。

 オプション: 王族 貴族

 ・残りポイント:6174

 ====================






 なるほど、大体具合は分かってきた。恐らくだがこのステータスとやらでポイントを振り分ける事で、能力を拡張したり自己改造することができるのだろう。ではこの数字、6174は一体何なのだろうか。俺がいままで積んで来た善行のポイントかな? 確かに俺は警察だったから、善行のポイントが高くなる気はするけども、けど6174って高くないか?


 等と色々考えながらも、俺は混血種がどういう扱いになるのか気になったので試してみた。






  <Menu/種族/精人族>

 ====================

 精人族(消費ポイント エルフ = 300)

 普人族と比較し、魔術等に長け、長寿の個体が多いとされる。エルフ、フェアリー、ドワーフ、ニンフ、等の複数の種族かここに所属する。

 オプション: 高等種族

 ・残りポイント:6174

 ====================


  <Menu/種族/魔族>

 ====================

 魔族(消費ポイント 吸血種 = 1000)

 普人族と比較し、個体間の差が大きいとされる。種族は多数存在するが、幻想世界に存在する種であれば、ある程度の自由が効く。

 オプション: 魔王 貴族

 ・残りポイント:6174

 ====================


  <Menu/種族/混血種>

 ====================

 混血種(消費ポイント 精人族:エルフ + 魔族:吸血種 = 650)

 配分、オプションによりどの程度ポイントを消費するかが変動する。

 ・残りポイント:6174

 ====================






 なるほど。どうやら混血種はハーフならば半分半分の消費になるらしい。となるとクオーターであれば消費は四分の一なのだろう。

 いくつか組み合わせを試しながら、消費ポイントがどう変化するのかを調べて挙動を確認する。種族による消費ポイントはそこそこ大きくなる傾向にあるようだ。ここで1000ポイントぐらい使うのも悪くはないだろう。


「面白い。ならば能力値はどうなっているのかな」


 ポップアップ画面を操作して、今度は能力値の欄に移ってみる。






  <Menu/能力値>

 ====================

 名前:*******

 種族:普人族(初期)

 性別:男

 Lv:***

 HP:***/*** MP:***/***


 Info:情報閲覧権限のないアクセスをブロックしました。

 権限者名:Public Safety Commission/ Police Agency/ Sector: Cyber4


 ・残りポイント:6174

 ====================






 ああ、なるほど。どうやら閲覧権限がない探知魔術を、サイバー四課のファイアウォールが弾いたらしい。多分だがこの目の前のポップアップ画面が自動的に俺の能力をスキャンしようとしたが、それを俺の防壁魔術が自動的に弾いた、ということらしい。


 マジかよ。神様の魔法、俺の魔法で弾いちゃったよ。いや神様が本気を出せば弾けないのかもしれないけど、でも弾いちゃったよ。

 ちょっとだけ動揺しつつも、自らの脳内仮想モニターを操作して、情報閲覧権限について『一時的に許可』を選択する。これできっとこのポップアップ画面に情報が正確に反映されるはずだ。






  <Menu/能力値>

 ====================

 名前:*******

 種族:普人族(初期)

 性別:男

 Lv:22

 HP:21/21 MP:125.8/138


 Info:情報閲覧権限のないアクセスをブロックしました。

 権限者名:Public Safety Commission/ Police Agency/ Sector: Cyber4


 ・残りポイント:6174

 ====================






 あ、流石に名前は隠させてもらった。だっていくら神様相手とはいえ、真名がばれるとまずいだろう?

 真名が知られてしまうと、そこから俺の元まで遡られて呪われてしまう。まあ相手は神様なんだから本気を出されたらどうしようもないんだけど、でも一応念には念を、ということである。


 しかし、人間の体力と魔力を数値化するというのは面白いアプローチだ。俺もその類の魔法を研究したことはあるが、どうしても相手の体力値を推定するときに誤差が大きくなるので結果断念したものだ。数値化じゃなくて『バイオグラフ推定』として総合的な情報を可視化する方向ではそこそこ上手くいったのだが、ここまで単純に数値化することは不可能であった。しかしどうやらこの神様は同じようなことを思いつき、それも数値化を果たしたのだから恐れ入る。


『何かお困りでしょうか』


 等と色々と試している俺に対して、件の女神が様子を窺うように尋ねてきた。どうやら俺が手をこまねいているように見えたようだ。とりあえず「大丈夫です」とだけ答えて、さっさと残りのスキル、装備の欄を調べることにした。






  <Menu/スキル>

 ====================

 剣術 槍術 弓術 棒術 格闘術 暗殺術 鞭術 ......

 火魔法 水魔法 風魔法 土魔法 光魔法 闇魔法 ......

 魔力消費軽減 詠唱短縮 詠唱破棄 無詠唱 ......

 分析 暗視 鑑定 遠見 透視 魔眼 ......

 筋力増加 賢さ増加 速度増加 HP増加 MP増加 ......

 気配察知 隠密 直感 幸運 威圧 予知夢 ......

 獲得経験値増加 必要経験値減少 筋力成長増加 賢さ成長増加 ......

  .

  .

  .

  .

 火耐性 水耐性 風耐性 土耐性 光耐性 闇耐性 ......


 ・残りポイント:6174

 ====================






 項目の多さに愕然とする。

 なるほど、スキルとやらはかなりの数を用意されているようだ。


 しかし魔法の欄を見てちょっとだけ不安を覚える。

 この属性分けの方法から察するに精霊魔術エレメンタルの概念について述べているようだが、他の魔術は使えないなんてことはないよな、と思いつつ読み進める。

 すると「ルーン魔術」「陰陽術」など他の種類の見慣れた魔術が出てきてくれたので一安心。

 良かった、俺の魔術の引き出しが制限されるわけではなさそうだ。


 ちなみにスキルについては結構消費ポイントがばらついているようで、1000ポイントも使うものもあれば、1ポイントしか使わないものもあった。このことから察するに、どうにも当たり外れというやつがありそうな気がする。






  <Menu/装備品>

 ====================

 ・武具

 ・防具

 ・装飾品

 ・道具


 ・残りポイント:6174

 ====================






 装備品については「武具」「防具」「装飾品」「道具」という四項目が載っていた。

 例えば武器をちょっと見てみると、「ミスリルの剣」とか良い武器であれば1000ポイントぐらい、「青銅の剣」でも60ポイントぐらいの消費であった。存外嵩む。武器はそれだけ重要視されているということだろうか。


「……こういう時はあれだよな。アイテムボックスとかいう恒例の便利道具がないか確認しちゃうよな」


 幸い、ネット小説の知識によって俺はこの状況が『とあるシチュエーション』によく似ていることに気付いていた。

 それは異世界転移ファンタジー。

 特にステータスの振り分けなどは、異世界転移ファンタジーの中でもポピュラーなイベントとして知られる。


 現代魔術師である俺は、こういう俗な情報を調べることにあまり忌避感はない。古くさい魔術師ならば「原典から外れた、格式の低い魔術概念など」と鼻で笑うかもしれないが、生憎俺はリアリストだ。時代が徐々に迎合しつつある新しい魔術概念も学ぶのに抵抗はない。


 さて、アイテムボックスである。

 件の便利道具は「アイテムポーチ」という名前でポップアップ画面に表記されていた。

 見た目は小さな袋なのに、その見た目以上にアイテムを収容することが可能という優れものだ。

 消費ポイントも1000ぐらい。少々割高だが入手するのも吝かではない。


「……」


 そういえば。

 一つ重要なことを思い出して、神に訪ねてみることにした。


「すみません、神様。少々よろしいですか?」


『はい、答えられる限りであれば』


 あまり時間はないのですが、と少々苦笑を含んだような声音が返ってくる。

 それでも聞いておきたいことがあった。


「まず、私は死んだのですか?」


『いいえ、死んでおりません。ここは貴方の夢の中ですから』


「ありがとうございます」と礼を述べつつ、良かったと内心少し安堵する。

 何せ俺の脳内記憶ログを遡っても死んだときの記憶がないので少し不安だったのだ。

 何故こんなことを聞いたのかというと、実は「異世界転移ファンタジー小説は、主人公の死からスタートする」というジンクスが存在するからである。

 無論死なないで転移する作品もたくさんあるが、俺の知る限りでは開幕早々死ぬ作品の方が多い。

 なので、もしや自分も死んだのではと不安になったのである。


 続けて、もう一つ聞かなくてはならないことを尋ねた。


「では、私は今から異世界に転移させられてしまうのでしょうか」


『……その通りです。よくお気付きですね、それならばお話は早いでしょう』


 女神の答えは是であった。

 なるほど、どうやら俺は異世界に転移させられてしまうようだ。

 女神曰く『その世界は私の創った【命と大地の船】という世界です』とのこと。俺の住む世界【揺りかごの箱庭】に似た気候と環境を持ち、しかしこの世界と異なり神が存在するという。


【命と大地の船】。

 聞くところによると、自然科学現象や魔法規則もほぼ同じ世界らしく、【揺りかごの箱庭】で使われた魔法技術をそのまま運用できるようであった。

 これはラッキーだ。

 例えばパラレルワールド理論を真剣に考慮すると、量子対称性が元の世界と対応しない場合、物理学的挙動に大きな齟齬が生じる。

 女神に聞くと『私の世界【命と大地の船】と近い世界の者を選びました。それが貴方です』とのこと。

 なるほど、確かに道理だ。

 わざわざ色々似てない世界の人間を探し当てたところで、その人間が無駄に苦労するだけだ。

 女神の目的が何なのかはまだ分からないが、少なくとも異世界から人をわざわざ呼んでおいてそいつに無駄に苦労をかけたい、訳ではないだろう。


 さて、残すは最も重要な疑問。


「異世界転移ですが、その際この身このままを貴方の世界に持ち込むことは可能ですか? また、何かしら道具を持ち込むことは可能ですか?」


『……残念ながら、不可能です』


「そんな」


『貴方の体をこちらの世界で再構築します。その際に生じる余剰なマナが、その6174ポイントなのです』


 女神の回答はにべもなかった。

「いやそんな、それは困ります」と食い下がるが『ですが、私の力では貴方をそのまま異世界に送り届けるのは難しいのです』と向こうの方が困惑していた。


 マジか。


 俺は急に気持ちが冷めていくのを自覚した。いやだって、これはヤバいでしょう。


 この女神様の言葉をお借りするならば、俺は6174ポイント分の魔術的施術を受けたオカルトサイボーグなのだ。

 肉体活性ナノマシンをインプラントし梵語呪文タトゥーを体に入れ、チタン―カーボン強化した骨格にルーン文字を刻むことで魔術的にも高い防御力を実現。

 バイオテクノロジーにより血液にはバイオスープ(万能細胞液)を流し傷口・患部を即座に直すように設計、更には眼球は有機レンズを使用し、思考拡張デバイスとしてマナマテリアルをアストラル体(精神体)に融和させている。

 俺のアストラル体には魔術アプリケーションがたくさんインストールされており、演算補助、記憶補助のみならず、身体の自動制御まで可能となっている。

 これだけ魔術的に強化されているのだ、確かに6174ポイントぐらいの価値はあるかもしれない。


 これらが、あの訳分からん「火魔法」などのスキルとかに成り下がるなど耐えられない。火魔法とか要はプラズマ制御、今の俺でも余裕で可能だ、それを取得するために今の体を手放せとか馬鹿げている。


 それに。


「マナマテリアルの持ち込みができない……?」


 これは現代魔術師である自分にとっては死刑宣告であるとも言えた。

 マナマテリアル。

 それは結晶化された魔力であり、術者の望む通りの物性を実現することができる非常に便利な物質だ。

 例えば、負の屈折率を持たせることが可能なので光路を高い自由度で操作できたり、或いは量子場に直接働きかけることが可能なので斥力場を形成することが可能なのだ。


 これさえあればどんなウェポンだってガジェットだって生成可能だというのに。


 持ち込めないなら現地で作ればいい、というのは暴論だ。

 マナマテリアル生成はかなり難しく、しかも非常にマナを食う。

 魔術アプリケーションの補助なくしてマナマテリアルを作ることは極めて困難。

 そして作れたとして、それだけのマナを集めるのにどれ程の労力が必要か。

 マナマテリアルを持ち込めるか持ち込めないかの差はあまりに大きい。


 そしてそれ以上に俺を打ちのめしたのは、「マナマテリアルが持ち込めないという事は、デルニエが持ち込めない」という事実だった。


 我が相棒デルニエはマナマテリアルで形成された情報生命体だ。

 対話可能なハイパーテクストを持つ仮想戦闘インフォモーフ。

 あいつは生まれたときからずっと一緒にいる、俺の兄弟のようなものだ。


 サイバネティクス施術とオカルティクス施術を受けた身体。

 拡張アストラル空間に格納した魔術アプリケーション。

 公安サイバー四課の給料マナで多量に蓄財してきたマナマテリアル。

 そして、かけがえない相棒デルニエ。


 これらを失えと言うのなら、それはあまりに暴論ではないか。


「どうしても、ですか」


『……。はい』


「本当にどうしても、デルニエたちを手放さなくてはならないのですか」


『……。どうしても失いたくはないですか』


「ええ。そもそも貴方の世界に転移すること自体、拒否させてもらいましょう」


『……そうですか』


 女神は明らかに落胆した口調になって、『しかし、それでは困ります』と悲しそうに呟いていた。

 困ります、と言われてもこっちが困る。

 そうだとも、空気に乗せられていたがよく考えたら異世界転移する必要など更々ないではないか。


『方法は、無くはないのです』


「? 何がですか?」


『貴方の言うそれらを残し、異世界に転移する方法です。貴方の精神体――つまりアストラル体を向こうに移すので、その中に貴方のいうアプリケーションなるものを持ち込むことは可能なのです』


「それでも、向こうの世界に渡る理由はないでしょう」


夢の続きを見れる・・・・・・・・としてもですか』


「……!」


 女神の言葉に、俺は息が詰まるのを感じた。

 夢。

 それは、俺がいつも見るあの夢・・・のことか。


『貴方の相棒の情報体デルニエは、私が何とかしましょう。その肉体は、……残念ながら叶いませんが、しかし高純度のマナマテリアルについては少しばかり融通が利くかもしれません。貴方のアストラル体に格納すれば恐らくは』


「……。何故アプリケーション、デルニエ、マナマテリアルなどを貴女が知ってるのですか。私のアストラル体をハッキングしたのですか」


『いいえ。貴方と同じ・・・・・夢を見ていた・・・・・・からです』


「……何だって」


『もう、時間がありませんね』


 同じ夢。

 見ていた。

 一際思わせ振りなことを告げた女神は、しかしそのことについて触れることはなく、何となく切なそうな雰囲気を漂わせながら『これをどうぞ』と言葉を続けていた。


「これは、欠片……?」


『歴史の復元力が込められている欠片――【史実の欠片】と呼ばれるものです。』


 俺の手元に現れたのは、とても綺麗な結晶の欠片だった。その外観は一言で表すとガラス細工のようで、角度によって反射の仕方が異なるためか、覗き込み方によってその色合いを多層的に変化させている。


 史実の欠片。

 女神曰く『この欠片には込められた事象を歴史として実現させる力があります』とのこと。

 この欠片に繁栄の史実が書き込まれていれば実際に繁栄が訪れ、破滅の史実が書き込まれていれば実際に破滅を引き起こすことが可能だというわけだ。

 さしずめ歴史の実現器、ということか。


「どうしてそんな危険なものを私に」


『貴方には、世界に散らばってしまった【史実の欠片】を回収してほしいのです』


「欠片の回収、ですか」


『はい』


 史実の欠片、ねえ。

 俺は手の中にある綺麗な欠片を転がしてみた。


 歴史の復元力とやらはとんでもない力らしい。話を聞いている限りでは世界を書き換える力という認識の方が正しいかも知れない。

 そんな大層な力が、こんな小さな欠片の中に入っているとは。

 確かにそんな力があるのならばいくらでも悪用方法は思い付く。好きなことを実現させたり、あるいはこれから起きるはずの歴史を歪めたり、とにかく色々だ。


 確かに、誰かが何とか手を講じなくてはならないだろう。


「でも、何故俺が」


 選ばれたんでしょうか、と尋ねる暇はなかった。


『――申し訳ありません、時間が来ました。これ以上は夢の中に干渉はできないようです』


 女神の残念そうな声と共に、一瞬だけ、俺の額に柔らかい感触がして。


『迷い人よ、貴方に加護を授けます。どうか、私の世界【命と大地の船/La vie et la terre】を宜しくお願いします――』


 ああ、これは口付けの感触だ、と分かる頃には白い世界が溶けて消えていって。

 誰もいなかったはずの白い世界に、誰かがようやく姿を現して、柔らかい微笑みを浮かべて立っていて。

 この人が女神なのか、と思う間もなく。


『貴方のこれからに幸あらん事を――』


 そして、俺は目が覚めて――。











「また思い出せない、か」


 ログを遡っても夢の記憶が思い出せないことに、俺は少しだけ歯痒さを感じていた。

 いつもこれだ。

 神様と出会い、何かを集めてくれと言われた、というようなあいまいな情報だけは覚えているのに、あの女神が『見覚えのある誰』だったか、というような情報は全く覚えていないのだから。


「……夢の続き」


 俺の呟きは誰にも拾われることなく、朝の薄暗い部屋の中にぽつんと取り残されたままだった。











 ◆


 昔から不思議な夢を見ている。

 それは、異世界のダンジョンを突き進んで、次々魔物を倒していくという冒険譚だ。

 その世界は剣と魔法のレトロ・ファンタジーで、いかにもそれらしい場所であった。

 夢の中で、俺は限りなく自由だった。サイバー空間に包まれた息苦しい世界を忘れて、しばらく夢中になって冒険を続けていた。











 帝国暦1038年。世界は既に『アストラルの海』という仮想世界に包まれ、夜を失って久しい頃。

 サイバネティクス技術とマイクロマシン技術が飛躍的に向上したこの世界、【揺りかごの庭】では、魔術と科学が世界を支えていた。

 それは言わば、サイバーパンクとオカルトパンクの融和する混沌社会。


 俺は、情報体の相棒・デルニエと共に『アストラルの海』をアストラルダイブ(ネットサーフィンのような行為)している最中であった。


「――デルニエ、例の特異点までは後どれぐらいだ?」


『Master、残念なことにmetric性(距離可測性)は既に失われております。境界までのρ-劣距離はナビゲートできますが、距離は正確には算出できないかと』


 光る球体デルニエの発する音声ガイドの返答は絶望的なものであった。彼にしては厳しい冗談だ。

 劣距離って。それ最悪ゼロ距離とかになるじゃねえか、しかも測る角度によっては長さも変化しうるし。

 そんなに精度悪くしか近似できないのだろうか。

 アストラルの海に潜りながら、俺は呆れ混じりに返事した。


「劣加法性の近似なんか全く当てにならないじゃないか。大まかでいい、出来る限りノルム空間で頼む」


『残念ながら、それでも近似的になるかと。既に座標はゲージ空間との対応を失っております』


「マジかよ」


『はい』


 にべもない返事に、俺はげんなりしてしまった。

 まだ特異点が目視できないのにmetric性が失われるって、そんな話聞いたこともない。

 信じられない話だ。

 どうやら我が相棒デルニエも同じ感想を抱いたらしく、『しかし【境界】の外側には何度も踏み込んだことはありますが、今回ほどの特異点となると初めての経験ですね』と驚きを露わにしていた。


「……一応聞いとくけど、他人の前例は?」


『公安委員会のサーバーを調べましたが、このレベルの特異点の情報はありませんね。間違いなく前代未聞でしょう』


 なるほど。

 そいつは喜べないニュースだ。


 特異点。

 アストラル空間の奥深くは、表層部とは異なり不安定状態のままで、かなりエネルギー純度の高い空間となっている。

 そしてある一定以上に深く潜ると、その空間を距離空間で論じることが不可能になるのだ。

 俺達ダイバーは、その境目を『境界』と呼んでいる。

 そしてその『境界』の向こう側の、局所的に空間をゆがめている部分を『特異点』と呼ぶのだ。


『特異点』は放置できない。

 そのまま放置してしまうと、アストラル空間の歪みがどんどんと広がってしまい、正常なアストラル空間が境界にどんどん侵食されてしまうからだ。


 そのため、俺達ダイバーは定期的に特異点を平坦化するという仕事に就いている。


「全く、一体どんなレベルの特異点なのか想像もつかないな」


 特異点近傍では従来の物理法則や魔術法則が適応されないということは何度も体験してきた。

 だが、まだ特異点に近付いていない段階でこれほどに距離空間性が崩れるだなんて初めての経験であった。

 なるほど、これが本当の距離の崩れた世界。

 どうやら距離の崩れた世界には、まだ俺の見知らぬ先があるらしい。


 これだから。


「――全くこれだから、アストラルダイブは辞められない」


 俺は口角が持ち上がるのを抑えられなかった。


 アストラル・クローラー。

 仮想空間に潜るもの、アストラル・ダイバーの中でも、人外と呼ばれるほどに飛び抜けたウィザード級の連中をアストラル・クローラーと呼ぶ。

 そして俺は、その称号を欲しいがままにしていた。

 アストラル・クローラーにとって、特異点の一つをクロールする(掻き分ける)ことぐらい訳のない話。

 ならばこそ、今回のように近付けばどうなってしまうのか分からない特異点にこそ挑まなくてはならない。

 それこそがクロールなのだから。


 公安委員会サイバー四課所属、アストラルネット潜入捜査官、トラブルシューター兼トラブルコンサルタント。

 世界で最も仮想世界に深くダイブするクローラー達の一人。

 コードネーム:ジーニアス。

 俺のことだ。

 相棒の情報生命体【デルニエ・ヴァンクール】と共に、世界の治安のため駆けずり回る毎日を送っている。












 進むことしばらく、俺の視界に周囲の空間をゆがめている謎の黒点が確認された。

 エキゾチック物質の塊。量子渦のダイナミクスが、ドネリーグラバーソン不安定性を伴っていることが分かる。つまり眼前の黒点は、このまま放置しておくと不安定な渦糸リング状量子を連続的に放出するわけだ。

 即ち、エキゾチック物質による世界の攪拌。実に迷惑な話であった。世界に放射能物質を撒き散らすようなものだ。

 これは直ぐに止めないとまずい。


 エキゾチック物質はこの世には存在してはいけないはずの物質。『エキゾチック物質』と言ってもその指す範囲は幅広く、それこそ『とある特殊な条件化では存在が確認できている物資』から、はたまた『存在が確認されていない仮説上の粒子』までを含む。

 そして今回のケースでは、その両方に当てはまりそうであった。

 つまるところ非常に厄介。


「は、まさかこんなに大きなエキゾチック物質が出来てしまっているとはな……」


 頭の痛い話だ、と俺は思った。

 特に何が頭が痛いかというと、このエキゾチック物質を生み出している黒点の先だ。

 それは異世界。


 そう、エキゾチック物質はまるでトンネルのように向こう側へと続いているらしいことが観測データから判明したのだ。


 異世界。

 比喩でも何でもなく、その先は本当に「別の世界」なのである。


『局所的カシミール効果が観測されました。負の質量をもつエキゾチック物質で出来たワームホールですね。それが意味することはつまり』


「正の質量を持つ物質が通過した場合、その擾乱のせいでエキゾチックトンネルが崩壊してしまう、だろ? つまり一方通行ってことだ、分かりやすい」


 嘆息。

 何者なのかは分からないが、相当な魔術の技能を有するものがこの一方通行のエキゾチックトンネルを維持させて異世界とここを繋げているらしい。

 心当たりは一つしかない。

 あの女神だ。


「――夢の続き」


『夢の続き、とは何でしょうか?』


「夢、いつもここから始まるんだ。エキゾチックトンネルを潜って、その先の異世界に渡って、そして体感時間にして二年以上の長い長い旅が始まるんだ」


『……』


「ここ最近、眠る度にそんな夢を見せられてしまうものだから、どっちが現実なのか分からなくなってきてしまった。笑わせる話だよな」


『……Masterは、向こう側に渡りたいのでしょうか』


 デルニエの質問には、俺を試すような響きがあった。

 向こう側に渡りたいのか。

 よくよく考えたら変な感情だよな、と思う。

 異世界なんて、自分には縁もゆかりもない場所だ。異世界【命と大地の船】に助けを求められたからといって向こうに渡る義理はない、はずだ。


 何せ、その異世界に渡るにはワームホールを通過するという危険を犯さねばならない。

 身の安全の保証は全くない。

 そう、命を懸ける理由はどこにも存在しない。


「……デルニエ」


『はい』


 だが。


「もし俺が行くと言えば、着いて来てくれるか?」


『……』


 全く頭が痛い話だ。

 馬鹿は死なないと治らないらしい。

 そしてきっと俺は、死ぬまでずっとこうやって進むことを躊躇わないだろう。

 何故ならば俺はクローラーだから。


「――何十回もその二年間をやり直してきたんだ。そして何十回も、今度こそは助けるって悔しい思いをしてきたんだ。関係ない異世界であっても、俺が命を懸ける理由には十分すぎる」


『……はい』


「俺はクローラーだ、デルニエ。躊躇う理由はない」


 一歩前に踏み出す。

 先の見通せない黒点は、頭から突っ込めば俺一人のアストラル体が潜り抜けられそうなほどには大きい。


「デルニエ、賭けないか? 現代魔術は異世界を|クロール(席巻)するか。今の俺には出来そうな気がしてならない」


『――同感です、Master。私も出来そうな気がしますので』


「……。デルニエ、その台詞はつまり」


『ええ。私は仮想戦闘インフォモーフ、デルニエ・ヴァンクールです、返事は決まっていますとも』


 心強いデルニエの言葉。

 俺は心の底から、こいつが相棒で良かったと思う。


『――All Right, My Master. それが私とMasterの約束の言葉です』


「……。そうかい、それじゃ」


 頼りにしてるぜ。


 そんな俺の言葉が終わるか終わらないかの内に、俺の意識は、デルニエと共に黒いエキゾチック空間の中へと溶けていった。











 ◆


 異世界【命と大地の船】には五つの大国が存在する。

 王が治める【王国】reglandon。

 帝が治める【帝国】imperio。

 市民が治める【共和国】respubliko。

 大公が治める【公国】princlando。

 教皇が治める【教国】religia lando。

 それぞれの国には固有名詞はなく、現地の言葉で「王国」「帝国」などにあたる言葉、reglandon、imperio、などの言葉があてられている。


 その五大国の内【王国】では今現在、勇者召喚の儀が執り行われており、王家の血を引く姫たちが勇者を召喚しようとこぞって奮闘していた。




 勇者召喚。それは異世界から勇者と呼ばれる存在を呼び出す御業である。五大国それぞれに秘伝の技術として継承されているその召喚魔法は、この【王国】では王家の血を引く王子、姫にしか発動することが出来ない。裏を返すと、勇者召喚の儀は王子、姫の大きな仕事であり、当然その召喚には大きな責任が伴う。


 その極めて重要な儀式はもちろん、獣人の血を半分引き継ぐこの第五王女アイリーンであっても同じである。例え獣人の血を引くからといって重責から逃れられるわけではなく、いやむしろ獣人の血を引くという特異性があるからこそ失敗は許されないのであった。


 大丈夫、いける。

 アイリーンは高鳴る心臓を胸の上から抑え、そう自分に言い聞かせていた。深呼吸をひとつ、そして正面をまっすぐ見据える。


 アイリーンは己の実力に確たる自信を持っていた。獣人の血を引く身でありながら、勉学に明るく魔術にも冴えている。それは並みならぬ努力の賜物ではあったが、アイリーンには人並み以上の能力があった。優秀な自分ならいける、という自負が彼女の不安を落ち着かせていた。


 目の前の魔方陣は彼女自身が設計し引いたものだ。魔術的意味の調整は完璧。自分より上位の存在を卸す魔術/invocationの構文を踏まえながら、ゴエティアの魔法円と三角形をモチーフに散りばめている。魔法三角に描かれている聖霊・天使・聖者の名には召喚体を従わせる霊力が存在する。何より、自分が呼び出すのは所詮は・・・人間だ。人間ならば聖霊の名前による束縛は効く。不意打ちに一方的に召喚されながら聖霊の名などで行動を縛られてしまっては、例えどれほど強い勇者が召喚されようとも、自分に反抗ができるはずがない。


 無論、アイリーンは楽観しない。上位の存在を卸す魔術というのはあくまで勇者召喚の儀に最低限必要だから組み込んだだけの魔術であり、本質的には自分と同等程度・・・・・・・の魔力の持ち主が呼び出されることになっている。つまり、相手が自分より圧倒的に魔術の知識に長けた存在でない限りは大丈夫なのである。


 大丈夫。自分の魔力を強化するための魔道具も大量に備えている。結界魔法も万全。万が一があれば、呼び出した存在を魔法陣の外側に並んでいる三十名あまりの兵士たちに殺してもらえばいい。


 周りの姫たちよりも人一倍慎重に手間をかけたアイリーンは、さらに周りの姫たちよりも慎重に手順を進め、そしていよいよ召喚魔法陣に魔力を捧げた。


 まずは宣名。「アイリーン・ラ・ニーニャ・リーグランドンが名において――」と言葉を紡ぐ。周囲に漂う香は魔払いの効果をもつ。相手の精神体を拘束する魔術を魔道具に込めながら、降霊の呪文を並べる。


「――来たれ! 勇者の資格を有する異世界の者よ! 我、汝との魂の契りを望む!」


 そして、契約が結ばれる。

 ……はずであった。











 ◆


 どうも、ジーニアスです。

 異世界転移、成功したみたいです。


 だなどとふざけてみたものの、俺にも少しばかり状況が上手く掴めていない。

 正直展開が急すぎて、いろいろと飲み込むのに苦労しているのだから。


 順番に説明するとして。


 一つ目。ここは異世界【命と大地の船】の国の一つ【王国/reglandon】だということ。

 どうやらこの世界で主要な国は五つ(王国、帝国、公国、教国、共和国)しか存在しないらしく、【王国】もまたその主要な五ヶ国の一つだとか。

 主要じゃない国は存在するのかと人に聞いてみたところ「存在するけども属国のような扱い」だそうだ。

 となれば実質この五国のみしか存在しないものと見なして良いだろう。


 二つ目。俺がこの世界に召喚されたのは「勇者召喚の儀」によるものだということ。

 勇者召喚の儀。

 この世界【命と大地の船】には異世界の人間を召喚する技術が確立しているらしく、今回俺も「勇者としての適性、素質あり」ということで晴れて呼び出されたということだ。

 勇者召喚の儀と呼ぶだけあって、呼び出されるのは勇者。

 勇者はこの世界に召喚される際に何らかの影響(一説によると神の加護だとか)によって強化されるらしい。

 結果、勇者は人並み外れた強さをもつ存在になる。

 なるほど、強力な能力を持つ存在が欲しいから人は勇者召喚をするってわけだ。


 三つ目。俺を召喚した者は第五王女アイリーンだということ。

 王女に召喚されるなんてと面食らったものだが、この王国では王子や王女のように王家の血を引くものにしか勇者召喚の儀を行えないらしい。

 第五王女アイリーン。

 獣人族の血を引いているらしい彼女は手足が獣っぽい外見で、そして顔のつくりも少しばかり犬のような特徴がみられる。例えば犬のような耳であったり、犬歯が発達していたり、などだ。

 俺からすれば可愛らしい見た目のお姫様なのだが、どうやら第五王女アイリーンはかなり微妙・・な立場にいるらしい。

 獣人族の血を引くせいでか、偏見の目にさらされることも少なくないのだとか。

 アイリーンは第五女王という比較的上位の立場であることや、なまじ魔術や学問などに能力があるだけに、彼女は周囲から妬みを少なからず買っているようでもある。

 何とも複雑な人に召喚されたものだな、と俺は思った。


 そして四つ目。

 どうやら俺の召喚は失敗に終わったらしい。

 本来ならば俺とアイリーン王女の間に契約が結ばれ、俺は加護により強化されるはずだったのだが、それが起きなかったという。











「――どれもこれも私が不甲斐ないせいです。申し訳ございません」


「え、いや、まさか」


 俺の召喚主であるアイリーン王女はどことなく落ち込んでいる様子で、その獣人族特有の獣耳をうなだれさせていた。俺の召喚に失敗してしまったことを未だに引きずっているらしく、少女っぽさの残るその声音にも元気がない。多分いつもであれば快活な少女なのだろうなと思うのだが、そんな一面は今はめっきり影を潜めている。

 責任感が強い性格なのだろうか。

 それも少しはあるかもしれないが、俺から見るにどちらかというと「自分の魔術には何の間違いもなかったはずなのに、周りの人間は勇者召喚に成功して、自分はというとよりによってこんなタイミングで失敗してしまった」という周囲に対しての情けなさに打ちひしがれているように写った。

 傷付いているのかな、とちょっと心配になる。


 アイリーン王女の心情を推し量ってみるならば、彼女は今ちょっとショックを受けているに違いなかった。

 獣人族の血を引くせいで「これだから獣は」「獣人に魔法や学問が出来るはずがない」という偏見に晒されてきた彼女にしてみれば、自分で努力して培ってきた魔術の能力や学問の才知などは心の拠り所であったはずだ。

 自分は獣人族の血を引くけれども、自分にだって頑張ったら出来る、というように。

 それが今回の失敗ときた。

 しかも勇者召喚という、絶対に失敗出来ない儀式での失敗。

 きっと偏見に傷付きながらも気丈に耐えてきた彼女の心に堪えたはずであった。


 え、何でこんなことを知っているかって? 集音デバイスを王宮の各地に設置することで、侍女さんから色んな噂を盗聴させてもらったのだ。

 まあそれは置いておくとして。


「私が魔術に失敗しなければ、貴方と私は正式に『勇者』と『導き手』になっていたはずなのです。加護だって得られて貴方は強くなっていたはずなのです。そして、王宮からこのように追い出されることもなかったでしょう……」


「いやあ、その、そんなに落ち込まないで下さい。折角の可愛らしい顔が台無しですよ」


 とりあえず慰めておく。これは重症だ、と俺は思った。


 今俺とアイリーン王女は高級宿の同じ部屋に泊まっている。一国の王女様と同じ部屋に宿泊っておかしいだろと思うのだが、どうやら「『勇者』と『導き手』ならばそこまでおかしなことではございません」と意外にもOKらしい。アイリーン王女本人が言ってたのだから間違いない。

 で、まあ何故か年頃の女の子(しかも王女)と同じ部屋に泊まっちゃうっていう。

 何だこれ。

 自分で言うのもあれだけど、これってやっぱり色々とおかしいんじゃ。


「ジーニアス殿はお優しいのですね」


 ふ、と自嘲気味の笑みを浮かべる彼女。


「本来ならば貴方のほうこそ憤慨してもよいのです。普通であれば『加護』を授かって強い存在になるはずだったものを、私が失敗したせいで『加護』もなくなりました。加えて、普通であれば王宮からこの世界の知識を教えてもらったり王国騎士から護身術を習ったりすることだって出来たのに、私が失敗したせいで王宮は何も手助けしてくれないのです。装備すら用意してくれないのです。勝手に異世界に呼び寄せておいてこの仕打ち、怒ってもおかしくはありません」


「えーと、まあ、王国の判断ですので、私からは何とも」


「……申し訳ございません」


 物凄く申し訳なさそうに頭を下げるアイリーン王女を見て、俺の方が申し訳なくなってきた。

 いやだって、これ俺の責任だと思うんだが。


 とりあえず、王国の仕打ちは酷く見えるけど正しい。

 勇者に契約魔法が効かなかった、というのはつまり『いざというときに王国に刃向かう可能性がある』ということを意味する。

 異世界から勇者を呼び寄せる際に、万が一の保険として『自分の国に刃向かわないように』と契約魔法で行動を縛るのだ。

 それが効かなかったというのはかなり危険だ。

 腐っても勇者、素質は人並み以上に存在するわけで。

 そんな人間に『この世界の知識をタダで教える』『護身術を教えて強くしてあげる』『良い装備を提供してあげる』だなんてことをするはずがない。

 恨まれないように穏便に、かつ事務的に事を済ませるだけだ。


「まあ、王国は自分の国のことを考えてこう判断したわけです。私はその判断になんら恨みをもっておりません。まあ思うところはありますが」


「そうですか……」


 俺が恨んでいない理由は他にもある。

 そもそも自分の意思でここに転移してきたのだから、無理矢理連れてこられた訳ではない。

 そしてしかも、契約魔法が効かなかったお陰で王国に縛られることなく好き勝手することが出来る。

 というわけで、正直王宮から追い出されようが「あ、ラッキー」ぐらいの感想しか湧かないのだ。


 加護? 欲しくないですねえ。効果の程度にもよるが、自分で制御できないくせに、凡百の効果しかないバフ魔術とかない方がましだ。感覚が狂う。


 というわけで、俺はむしろ王宮から追い出されて「自由にしてもいいよ」と解放された今の状況に喜んですらいたのである。


 まあ何故かアイリーン王女も一緒に追い出されたわけですけど。しかも従者も無しに一人で。おかしくない? この国王族の扱い軽すぎじゃない? 第五王女ってそんなに大したことない存在じゃないよな?


「いえ、勇者を召喚した王族は導く者となって勇者と共に旅に出る義務があるのです」


「導く者、ですか」


「はい、勇者の旅する先を案内する者にして夢のお告げを聞くもの。それが導く者です」


 彼女は語る、導く者と勇者の伝承を。

 曰く、王家の血を引くものにしか使えない魔法があるらしい。

 曰く、王家の者が持つ紋章がないと各地の封印を解くことが出来ないらしい。

 曰く、今の王家の血には勇者の血が混ざっているようで、だからこそ勇者と王家には密接な繋がりがあるとかないとか。


 話半分に聞きながら俺は、いやそれでも第五王女を追い出すのはどうかと思うけどなあと思ったり。第五王女とか政治的道具としてもかなり有用性がありそうなんだが。こんな簡単に旅に出してもいいのかよ。やっぱり獣人族の姫じゃ政治相手に失礼なのかな?


 それに、彼女は王宮から追い出されたくなかったんじゃないか、とふと思ってしまう。

 いや勇者召喚をした時点で一緒に旅に出る覚悟は出来ているのかもしれないけど。

 それでも理想としては、ごく普通に勇者召喚を成功させて、正式な勇者と導く者として王宮を旅立ちたかっただろう。

 決して今回のように、厄介払いのように王宮から追い出される形で出ていきたかったはずではないだろう。


「……」


 ほら、こんな風に塞ぎ混んでるし。

 これ絶対ショックを受けてるやつだ。勇者召喚を無事成功させて、自分にだってやれば出来るんだと思いながら旅立ちたかったのに、という様子がありありと伝わってくる。


 どんどん申し訳なくなってきた。

 何故ならば、今回勇者召喚を失敗したのは他ならない俺のせいなのに。

 俺が常時展開型防壁魔術ファイアウォールで契約魔術を弾かなければ、はれて彼女は勇者召喚に成功してたに違いないのだ。

 あの契約魔術は決してレベルの低いものではなかった。

 確かに用いられている魔術は古いタイプのものだったが、しかしそれは彼女の魔術師としての腕前の問題というよりはこの世界の魔術理論の未熟さの問題だと思われる。

 むしろノタリコン化された呪文の装飾の配置などを見るに、古典魔術の運用法としてみれば及第点以上。

 それが俺のアイリーン王女への評価であった。


 はい、完全に俺のせいですね。

 こればかりは運がない。呼び出したのが俺でさえなければ普通に勇者召喚に成功して、彼女はちゃんとした導く者として冒険に出ていただろうに。


「……。まずはご飯にしましょう。その後準備を色々としなくてはなりません」


「そうですね、王女様」


 いつまでも落ち込んでいても仕方ない、まずはご飯を食べて気分を入れ換えよう、と思ったのかもしれない。

 いいことだ。

 俺も丁度お腹が空いていたところだ。











 ◆


 流石に高級な宿だけあって、料理は美味しかった。

 よく分からないスープによく分からない肉とよく分からない野菜が入っており、よく分からないパンと共によく分からないソースの掛かったよく分からない魚が出されたが、とにかく美味しかった。

 色々よくわからなかったけどまあ大丈夫だろ、しっかり殺菌されてたし。


 食事をとり終わった俺とアイリーン王女は、「まずは準備をしなくてはなりませんね」ということで、冒険者としての装備を整えることになった。

 防具、武器、背負子と背嚢、その他細々した道具をたくさん。

 買い物には合計で金貨が三十枚ほど必要で、冒険者ってお金がかかるなあと暢気な感想を抱く俺であった。

 必要だったものは、ざっと以下の通り。


 身分証明証

 肌着の着替え

 ローブ(汚れよけ)、帽子(日よけ)、雨具(雨よけ)

 地図帳

 洗濯ロープ複数

 小型ナイフ、剃刀

 飲み薬、塗り薬

 大量のタオル

 鍋、食器

 コンパス

 照明魔道具、火打石、水筒

 裁縫セット

 折りたたみ可能の大きな背嚢

 毛布

 携帯食

 等


 意外と嵩張ったものの、いずれも必要なものなので仕方がない。

「何が必要なのか分からないですけど、こんなところでしょうか」と苦笑していたアイリーン王女であったが、このリストの物品を見る限り大きな問題はなさそうだ。

 素人目にもかなりしっかりしているように思う。

 俺のアストラル体にインストールされたサバイバル用アプリケーション【きっとサバイバル】を立ち上げて調べてみても、冒険の必需品が軒並みカバーされていた。


 実際、地図とコンパスがなくちゃ何も出来ないし、ロープも洗濯物を干すだけでなく命綱代わりとしてもかなり重用される。

 どうやらアイリーン王女、冒険に向けての予備知識を結構勉強してきたようだ。

 頼もしい限りである。


「もうこれで全て終わりでしょうかね。ぱっと思いつくものは全て揃えましたが……」


「いいえ、まだ一つしなくてはならないことが残っております」


「おや」


「冒険者ギルドへの登録ですよ、ジーニアス殿」


 そう言いつつ冒険者用の服装に身を包みながらこちらを振り返るアイリーンは、ちょっとだけ可愛く見えた。











 残すは冒険者ギルドへの登録。

 なのだが、そこでちょっとした・・・・・・事件が起きた。

 というのも、かなり間が悪いタイミングで冒険者ギルドに入ってしまったというべきか。


「……なーにがいっぺん抱かれてみないか、よ、この豚頭!」


 響く罵声。

 声の発生源は正面に鎮座するカウンター側から。そこに立っているエルフの気の強そうな女が「豚は黙って豚でも相手してな!」とこれまた強烈な一言を投げつけて、そのまま入口の方へ――即ち俺たちの方へとダッシュしてそのまま通りすぎていった。

 通りすぎ様に「邪魔よ!」と俺たちにも文句を飛ばして、である。


 なんだこれ。

 いきなりすぎて訳がわからんのだが。


「豚頭……」


 思わず呟いたその台詞を、俺は聞き咎められていたようであった。


「……おいてめえ! お前も俺のことを豚頭って言ったか? ああ?」


 怒鳴り声がしてはっとする。カウンターの方を振り向けば、肩を怒らせている豚頭の亜人が一人立っていた。顔を見なくたって声と様子で分かる、彼は相当頭に来ているようだ。

 なるほど、俺が思わず漏らした一言を「馬鹿にされた」と捉えたらしい。


 いやまあ言いましたけど。

 ちょっと待ってくれ、俺は無関係だろ、と思わなくもない。どう考えてもとばっちりでは。


「ちょっと待って下さい、豚頭が云々については」


「うるせえ、てめえただじゃおかねえ!」


 言うなり、俺の方へと襲いかかってくる豚頭の男。俺よりも頭二つ分は高い身長から繰り出される高速のパンチは、周囲の冒険者たちを「すげえ」「流石は『鉄腕』ブーバ」みたいに湧かせるのに十分であった。

 これはまずい。


「――cast(shield);」


 咄嗟に展開する防壁魔術。続けて響く強烈な衝突音。

 マナマテリアルによる展開シールドの形成に間に合ったらしい。

 表面はハニカム構造、曲率はアーチ構造、厚さはトラス構造と力学的に衝撃を散らしているこの不可視マナマテリアルバリアは、並大抵の攻撃では破壊することは不可能。

 当然、『鉄腕』ブーバだとかいう亜人の冒険者の拳を受け止めるのに十分以上なわけで。


 その奇妙な光景に周囲は唖然としているようであった。

 先程までまるで俺の頭を弾け飛ばさんばかりの速さで振るわれていた拳が、空中でぴたりと制止したのだから。


「な、何だと!?」


 明らかに狼狽えている豚頭だったが、無理もない、自分の渾身の一撃が突然謎の力で受け切られたのだからそりゃ慌てるだろう。

 しかしまあ面倒事に巻き込まれるのはごめんなので「すまない、通らせてもらおう」と間を通り抜けることにする。

 その際「嘘……」と暫く呆けていたアイリーン王女を「早くしましょう」と促すことを忘れずに、だ。


「な、おい、てめえ、待ちやがれ!」


「ブーバさん、でしたか」


 尚も俺を呼び止めようとする声に、俺は振り向きもせずに言った。


「先程の発言は失礼致しました。件の喧嘩の台詞を思わず呟いただけで、特別意図はございません。何卒お許し下さい」


「な、おい!」


 そのまま受付へと進む。

 目を合わせないなんてちょっと慇懃無礼かも知れないが、顔を覚えられるよりはこっちの方がいいと判断した。

 第一弁解も待たずにいきなり殴りかかるような相手に礼を尽くしたところで、という話だ。


 向こうも向こうで、一発殴れば少し頭が冷えたらしく「……くそっ!」と吐き捨てながらも冒険者ギルドを立ち去ったようであった。

 懸命な判断だろう。

 一度拳が通用しなかった相手なのだ、二度目が通用する可能性は相当低い。

 この辺り『鉄腕』ブーバはただ単に暴れるだけの馬鹿とは少し違うように見えた。


 ただ、周囲からの視線が痛い。「嘘だろ、今の」「魔術か? でも無詠唱だろあれ」「腐ってもB級冒険者の一撃を受け止めるなんざ只者じゃねえな」と噂声がひそひそと聞こえる。

 どれも俺に聞こえないように声を落としているつもりらしいが、知覚拡張アプリケーション【six_sensor】を持つ俺にはくっきりと聞こえていた。

 まずいな、悪目立ちしたかも。


「……あの、ジーニアス殿」


「早く用件を済ませましょう。申し訳ございませんが、先程の件で変に注目を集めてしまったようです」


 一言詫び入れると「別に構いませんが……」と微妙な反応が返ってきた。

 なるほど、彼女もちょっと事態を受け止められずに困惑しているようだ。

 これは後で面倒臭くなるかも。


 嫌な予感に嘆息しながらも、俺は冒険者ギルドの受付に「新規登録の申請手続きに来ました」と端的に用件だけを伝えた。












 冒険者ギルド。

 そもそもギルドというのは同業者組合のことであり、組合員の相互扶助を目的に発足した組織である。

 この王国の冒険者ギルドもまた、冒険者を手助けするという理念から経営がなされている。

 冒険者ギルドは冒険者に「依頼」「採集品の売買」「情報」の三つのサービスを提供する。

 引き換えに、「登録料」「依頼達成報酬の一部」をギルド運営費として徴収する。

 このシステムは長い歴史を経て洗練されてきたようで――というよりはこのシステムの存在が前提で長い年月が経ってしまったためか、今や人々は冒険者ギルドなくしては生活できない程になってしまった。


 何ともスケールの大きな話だ。


「……という次第ですので、冒険者の皆様には受注した依頼に責任を持っていただく必要がございます。依頼を受けるというのはギルド、冒険者の二者の間だけでの契約ではなく、依頼人も含めた三者の契約になるのです。ですので、勝手にご依頼の破棄をなされた場合はその違約金が発生しますのでご了承ください」


「分かりました」


「続いてですが……」


 などと職員の終わりの訪れない長々した説明に困惑しつつも、記憶補助アプリケーションを用いて要項だけメモした俺は、何とか冒険者ギルドの概要をつかむことが出来ていた。


 なるほど、すげえ便利だ。

 これは冒険者は必ず登録しておくべきだ、と俺は思った。

 何がどう便利なのかと言うと、例えばこの冒険者ギルド、一度登録すればギルドカードが配布される。

 そのカードは身分証明書としても扱うことが可能なのだとか。


 こんな風に冒険者のために色々と便利なサービスが提供されているわけである。

 これはかなり嬉しい誤算だ。

 何分俺はこの世界を「ああ、まだ機械化もされてないのか」というようにかなり後進的に見積もっていたため、これほどの厚生福祉制度が整っているとは思わなかったのだ。


「以上になりますが、何か質問はございますか?」


「あ、ではギルドの仕組みについてはまた尋ね直すことは可能ですか?」


「はい、お問い合わせ窓口で受け付けております」


「後ですけど……」


 等、とりあえず細かい点について質問をして詰めていく。

 こういうシステムに登録する前に予め色々と知っておくことが後々の無用なトラブルを減らすのだ。

 とは言え細かく尋ねすぎるのも考え物なので、あくまで気になった点のみに留めておく。


「質問は以上でよろしいですか?」


「はい。質問にお付き合い下さいまして誠にありがとうございます」


「いえいえ、職務ですので」


 職務ですのでって。その言い回しはどうなんだろうか、と俺は一瞬だけ首を傾げたくなったがまあ納得することにした。

 もう他に質問がないかをアイリーン王女に尋ね、「大丈夫です」との言葉を賜ったのでそのまま次に進む。


 いよいよ冒険者登録も終わりである。

「こちらがカードとなります。魔力を流していただけましたら、その魔力紋を本人確認の照合に使わせていただきますので、魔力の登録をお願いします」と説明を受けたので魔力を流してみる。


 途端、カードが変質して魔力紋によって形質を変化させたことが何となく感じ取れた。


「はい、登録されました。こちらがジーニアス様、そしてこちらがアイリーン様のカードとなっております。お確かめ下さい」


「ありがとうございます」


「それでは以上で冒険者登録の手続きを終わらせていただきます。E級冒険者としてのご活躍を陰ながら応援しております」


 という具合に受付嬢に深々と頭を下げられる。

 サービス行き届きすぎてないか? ここ異世界だよな?

 などとそのあまりの丁寧さにこちらのほうが萎縮しながらも、俺とアイリーンは冒険者登録を終えたのであった。










 ◆


「最初ですので、近場の森の薬草採集かもしくはホーンラビットの討伐を受諾しましょう。町の外の世界に慣れることが目的です」


 ギルドの登録手続きを終えて早々、アイリーンの提案により俺達はホーンラビットの討伐依頼を受けることにした。

 依頼掲示板には数々の依頼書が貼られていたが、めぼしい依頼や美味しい依頼はうかうかしていると他人にはがされてしまう。

 かといってE級冒険者が受けられる依頼にはランク制限があるので、そもそも受けられる依頼は限られてくるわけで。

「幸い私達はそこまでお金に困窮しているわけではありませんので、依頼の簡単さを優先しましょう」という太っ腹なアイリーンの意向により、報酬は少ないが楽な依頼を見繕ってそれを引き受けることにした。


 町の外に出るときは、町の門に控えている兵士に身分証明証を見せる必要がある。

 ギルドカードはその身分証明証の代わりになるわけだ。

 おかげで、一々「王族の紋章」(アイリーンのもの)だとか「特定査証」(俺に発行されたもの)だとかを取り出す必要がなくなった。

 というか「王家の紋章」にせよ「特定査証」にせよ大事な物すぎておいそれと人目に晒せない。

 なのでそういう意味でもギルドカードを発行しておいてよかったなと思うばかりである。


「まずはこの森で経験を積み、そうやって冒険に慣れてきたら次はこの『王都』からちょっと足を伸ばして『音の街』に向かいましょう。それから……」


「あの、アイリーン王女。敬語、やめませんか?」


「? どうしてでしょうか」


 町の外に出て早々、アイリーンに一応提案しておく。


「先程ギルドの人もですが、とにかく私達は奇異な目で見られているのですよ。なぜお互いに敬語を使っているのか、と。普通冒険者は敬語なんか使わないものだと風の便りで聞きました。せめてアイリーン王女には敬語を抜いていただきたく存じます」


「……。では、ジーニアス殿が敬語をお止め下さいませ。私はあくまで勇者様の導き手に過ぎませんので、敬語をやめるなど恐れ多いのです」


「いいえ、私は平民ですが貴方は高貴な家筋のお方です。どうか私に意地悪なさらないでください。王族の貴方に無礼を働くなど、もし他人にでも見られてみたらいかがでしょうか。命がいくつあっても足りません」


「まさか。……私が許可します。勇者様には既に取り返しの付かないほどに迷惑をかけている身分、どうして私が貴方を呼び捨てに出来るでしょうか」


 議論は全くの平行線であった。

 敬語、正直ない方が気が楽だ。それにこれから冒険者としてやっていく上でお互い敬語、というのはちょっと見るからに奇異だ。

 しかし王族にため口なんて利けたものじゃない。

 なので向こうに敬語を廃してほしいのだが、向こうも頑と譲らなかった。


「じゃあこうしましょう。どちらの方がホーンラビットを早く規定数しとめられるかで決めませんか?」


「いいでしょう。ホーンラビットを早く五体しとめた方に決定権があるということでいきましょう」


 結局、こうやって分かりやすい形で勝負することに。あれアイリーンって意外と勝負好きなタイプなのか?

 なんか結構ノリノリだし。

 それともあれだろうか、自分の狩りの能力に自信があるのかもしれない。腐ってもワードッグの獣人族、聴覚や嗅覚は普人族より鋭いし、その上彼女は魔法も結構使える。

 俺に先んじて魔物を狩ることぐらい容易いと思っているのかもしれない。


 それはちょっと見過ごせない。公安サイバー四課のプライドにかけて勝たねばなるまい。


「……でも、危ないので一緒に行動しましょうか」


「ですね」


 とまあここで別行動になって競い合うのならば格好いいのだが、何とも締まらないけどもここは一緒に行動するべきなのである。

 二人とも冒険者としては初心者なのだから。

 いくらこの森に凶暴な魔物が少ないからと言って、いきなり単独行動するほど俺達は無謀ではない。

 彼女も俺と同じことを思っているに違いない。

 ちょっと間抜けな構図に二人して苦笑することとなった。











 ◆


 ホーンラビット。

 名前通り頭に角が生えただけのウサギで、狩ることも結構簡単である。罠に嵌めたら子供でも狩れる。

 また、ウサギ取りの罠を作れなくても真っ向から狩ることは可能。

 たまに野に下って畑の野菜を食い荒らす程度の可愛い害獣、というのが正しい認識だ。


 そんなホーンラビットだから、討伐報酬も買い取り価格も決して高くない。

 これだけで生計を立てていこうと思ったら相当しんどいだろう。

 だがまあ、駆け出し冒険者はよくお世話になる魔物でもある。

 ホーンラビット討伐と薬草採集。

 駆け出しのうちはこの二つの依頼から離れることは出来ないだろう。


「cast(Fire_Bullet);」


 詠唱を一言。飛び出る火の弾丸。ホーンラビットのこめかみを過つことなく打ち叩いたそれは、そのまま貫通してホーンラビットを死に至らしめる。ヘッドショットってやつだ。自動制御アプリケーションによって身体を制御している俺にとっては造作もない行為。


 無属性魔術Mana_Bulletに火属性を印可しただけのこの魔術は、たったそれだけなのに威力と消費マナのコストパフォーマンスに優れている。

 おかげで先程から一発ずつしか発砲していない。

 これで五体目を狩ることに成功した。


「これで五対〇ですね、王女様」


「……ずるくないですか」


「敬語」


「……ずるい」


 ずるいって言われても。


「約束ですよ、王女様。私が勝った暁は敬語を抜いてもらうと。そしてその約束通り、私は勝ちましたので」


「……。肉眼で目視できるか怪しい範囲まで感知魔法が使えて、しかも向こうの茂みに潜んでいるホーンラビットを狙撃することが出来るなんて、ずるじゃないですか」


「敬語」


「やです」


 やですって。


「第一、一時間に二匹ペースだなんて早すぎませんか? それも皮剥ぎとか下処理をする時間や休憩時間を含めてですよ」


「敬語。……三時間弱、まあこれだけの探査範囲でホーンラビットを感知してるのですから、達成不可能ではありませんよ」


「何ですか敬語敬語って! こんなのずるです!」


 いやいや、勝負は勝負だから。悔しかったらお前も知覚拡張アプリケーション【six_sensor】をインストールしてみろって話だ。 彼女の見せる少女らしい可愛さにちょっと呆れながら、でも可愛いなあと思いつつホーンラビットを回収する。「何ですかその顔」とジト目で見られたので「敬語」とまた指摘しておく。

 かなり悔しそうだ。

 可愛い。


「王女様。機嫌を直して下さい」


「貴方のせいです、意地悪な勇者様」


 あ、そのセリフ可愛い。貴方のせいですってあたりが凄く可愛い。何これ。

 と思ってたら口に出てたみたいで「な、何がですか」とちょっと狼狽えていた。その反応まで含めて可愛い。


「とにかく、あんなのずるです。認められません。勝負は公平でないと成り立たないものです。あれはどちらかというと、暴力です。大人げなさすぎます」


「公平だったではありませんか。どっちも早く五匹を倒す。ほら」


「違います! そうじゃありません! 何でそんなにホーンラビットの場所が分かるのですか! そして何でそんなに簡単に弱点を突いて倒せるのですか! 何か手品の種があるはずですよね!」


「魔術ですよ、王女様」


「知ってます! 問題はどうやってなのかです!」


「守秘項目ですので」


「王女命令でもですか」


「それこそずるなのでは」


 思わず突っ込んでしまったよ。それってナシだろナシ。そんな反則認められるはずがない。

 頑として拒否すると「……はあ、ずるいです」と不機嫌そうな表情になる始末。可愛い。けどアイリーン王女ってこんな子だっけ? と不安になる。


「はあ、次は何ですか。ホーンラビット五体勝負で今度は服を脱げとかですかそうですか、ずるくないですね公平ですね」


「投げやりな態度すぎませんか」


「先に脱いどけばいいんですよねそうですね」


「やめて下さい、そんな姿が人目についたら私はどうなることか」


「じゃあ私の服の中に顔でも何でも突っ込めばいいじゃないですか!」


「何故に逆切れ」


「お得意の感知魔法で人がいないタイミングぐらい分かるくせに何が人目に付くですか!」


「そもそも何故脱がす前提」


 あーこれ面倒臭いパターンだ、と思いながら俺は受け答える。だって脱がす前提っておかしくないか。

 というかこの逆切れ、なまじ身分が高い人間にされると相当面倒臭いし質が悪い。

 だって下手したら言質一つで死刑もあり得るわけで。

 厄介にも程がある。


「……分かりましたか、つまり貴方は今後公平の名の下に勝負をけしかけて私を好き勝手出来ちゃうんですよ。何が公平でしょうか」


「いや、じゃあ勝負を受けなければ良いのでは」


「……」


「都合が悪くなったら黙るのもやめましょうか」


「……ドS」


「言うに事欠いてその台詞とは」


 何故かは知らないが彼女の中では「理屈で追い詰めるタイプの意地悪さんなのですね、それも敬語系の」と謎キャラ認定をなされる始末であった。

 あれこの子もしかして少女漫画大好きっ子なのかな? まあ少女漫画なんかこの時代にはないだろうけど。でもそのキャラ設定もろに少女漫画だよね?


「両方敬語をやめましょう。王女命令です、いいですね」


「私が敬語をやめる理由はありません、わがままはだめですよ王女様」


「……狙ってますよね、そのわがままはだめですよとかいう台詞とか」


「何がですか」


 本当、何が狙ってるなのだろうか。聞いてみたところ「わがままはだめですよという言い回しが意地悪な感じなのに王女様と優しく諭すのがちょっと愛あるっぽくて」とか何とか仰っていた。

 やばいこいつ恋愛脳すぎるだろ。


「あの、王女様? ちょっとテンション高くないですか?」


「何ですか? その意地悪な敬語と苦笑いはあれですね、普段はわがままを聞いてくれる年上ヘタレお兄さんをからかい過ぎたら急に手を捕まれて意地悪な本性を出された感――」


「! 王女様、足元噛まれてませんか!」


「?」


 だめだ気付いていない、足元に蛇に噛まれたかのような跡があるのに。

 多分蛇の毒だ。

 幻覚作用なのかそれとも躁作用なのか分からないが、彼女がややハイになっていることだけは確定的に明らか。

 しかしこんな蛇がいるだなんて、流石ファンタジーの世界である。


「ちょっと失礼、座らせますよ、抵抗しないで下さいね」


「え!? ちょ、何するんですか!? え、これ、嘘!?」


「ちょ、だから、抵抗しないでって」


「ぐ、嘘、え、私獣人族なんだけど、負けてるとか、え、何これ襲われる!?」


 何か勘違いされてるんだが。

 しかし事が事なので急を要する。人命に関わる事態だ。とっととアイリーンを押し倒さないといけない。

 ということで組み付いて相手を地面に伏せさせ、足に手を伸ばそうとして「!? ちょ、え、待って、嘘、え、ええ!?」と抵抗が激しくなった。

 しかし何故だろう、力があまりないような。


「いや落ち着けって、足を怪我してるので治すだけだからマジで」


「いや、嘘! 怪我なんてしてない! ちょっと、ねえ!」


 きゃあきゃあうるさいのでさっさと足を掴んで、患部を口に付けた。血を吸い出すためだ。同時にポーション霊薬を口に含み、魔術を一言念じて患部に塗り付ける。

 彼女は「!?」と凄く動揺しているようではあったが、突然の事態になされるがままとなっている。

 何故か分からないが足に驚いているようだ。何故足? みたいな表情を浮かべている。

 いや、足に怪我してるっつってるだろうに。


「……多分毒だ。といっても一番恐れていた神経性の毒としての作用は薄く、興奮作用が強い奴だろうな。筋弛緩性があるみたいだから、力が入りにくくなったのもそれが原因だろう」


「……毒?」


「ああ。一応ポーションに魔術を施した奴を患部に入れたから大丈夫だとは思うが」


「……はー、びっくりした……」


 心底安心したみたいな表情。

 どうやらものすごい勘違いをされていたみたいで、「普通女性を押し倒しといてこんな風に足を開かせるなんてないって」と厳しい言葉を頂いた。


 確かに。俺女の子にすげえ格好をさせてるじゃねえか。

 急いで手を離して「本当ごめん、そんなつもりじゃなくて」と思い切り頭を下げる。

 その点については後で猛省しないと。


「……あ、敬語」


「あ」


 敬語が抜けてる。

 お互いテンパって忘れてたみたいだ。












「ねえジーニアス。ホーンラビットを五体も狩ったし、そろそろレベルが上がったんじゃない?」


 体に付いた土を払いながら、少し赤みの残る顔で尋ねるアイリーン。

 興奮作用は抜けきったか聞くと「少しくらくらする、お酒に酔ったみたい」とのことで、まだちょっとテンション高めらしい。

 あ、敬語はもうお互いになくすことにした。何かさっきの事でどうでも良くなったと言うべきか。


 ちなみに「意地悪なお兄さん云々は?」と聞いてみると「語る? 敬語は個人的にポイント高かったのになあ」と割とノリノリだったので、多分まだ毒にあてられてテンション高くなってるらしい。普段なら多分深く恥じ入って「忘れて下さい……」となっているに違いないのに。


「おい、ふらついてるぞ」


「ごめん、ちょっと休んでもいい? 自覚したら急に回ってきちゃったかも」


「大丈夫かよ。ポーション飲むか?」


「うん、平気。でもポーションは頂こうかな」


 取りあえずその辺で一旦休憩に入る。

 今度は蛇を見逃すなんて事の無いように知覚拡張アプリケーション【six_sensor】を強化しておくとして。

 彼女は「で、レベルの話だね」と話を本題に戻した。


「魔物をたくさん狩るとレベルが上がってポイントが手に入るって話、知らない?」


「何だそれは? いや心当たりはちょっとあるけど」


「あー、知らないみたいだね。一応説明すると……」


 彼女曰く、この世界にはとある創造神の恩寵が働いているそうで、それが「レベル」と「ステータス」だそうだ。

 レベル。

 聞くところによるとそれは魂の器の強度、みたいなものらしい。アストラル体の強さ、保有魔力、とかその辺に対応するのだろう。

 一概には言えないが、一般的にはレベルが高いほどステータス(体力、筋力などの能力値)が高くなるとのこと。

 つまり、レベルを高めること――即ちアストラル体を強化することこそが強くなるための早道だという。


「レベルを上げるには、他の魔物を狩ってその魂を吸収すること――経験値の獲得(魂の経験を広げること)が必要なんだ。そうやって成長した魂の器(レベル)魂核(ポイント)を伸ばしたい才能に割り当てて、私達は能力を伸ばすんだ」


「伸ばしたい才能、ねえ」


「そうさ、これを見て。――ステータスオープン」



 ====================

 名前:アイリーン・ラ・ニーニャ・リーグランドン

 種族:混血(獣人族/普人族)

 性別:女

 Lv:11

 HP:35.2/36 MP:74.1/77

 STR:12.1 DEF:11.4

 IMG:9.0 AGL:11.3

 DEX:6.2 LUK:6.1


 スキル / ギフト

 ***秘匿***


 ・残りポイント:3

 ====================



 ああ、見慣れた画面だと俺は思った。

 これはかつて、あの女神との夢で見たような画面だ。


 ただSTR、並びにそれ以降の表記は自分の知らない記述方法によっている。恐らくSTR(攻撃力)DEF(防御力)IMG(想像力)AGL(俊敏さ)DEX(器用さ)LUK(幸運さ)、という対応関係になっているんだろう。

 何故分かったのかというと、それは前の世界でよく遊んでいたロールプレイングゲームの知識によるものである。

 HP、MPときてSTR、DEF、IMG、AGL、DEX、LUKと続くのだからほぼ間違いないはずだ。


「ほら、下のところに残りポイントって書かれているだろう? 魂核(ポイント)は好きなように割り当てることができるんだ。STR等の能力を伸ばすか、もしくはポイントを貯めて新しい技能(スキル)加護(ギフト)を取るか、ね」


「へえ」


「君のステータスは?」


 ……。

 やはりそうやって聞くだろうな、とは思っていた。

 俺はちょっとだけ躊躇いを覚えざるを得なかった。

 何せ、俺のステータスには突っ込みどころが満載だからだ。


 LvとHP、MP以外は隠匿されており。

 Public Safety Commission/ Police Agency/ Sector: Cyber4という厳しい文字が躍り。

 残りポイントは6174も貯まっている。


 こんな画面、絶対に見せることはできないだろう。

 異世界人の自分でも嫌というほどに分かる、この特異性。

 ちょっと神様に会って来ましたと弁明したところで、そうなんだ凄いね程度では看過できないだろう。


「なあ、見せたくない情報は隠せるのか? アイリーンの場合スキルとかは隠されているけどさ」


「ん? ああ、隠すことはできるよ。でもまあ、他ならない勇者と導き手の間柄だから、なるべく隠し事はして欲しくないんだけどね」


「そうか……」


 俺はしばらく沈黙しながら、自分で脳内仮想モニターを操作して一部だけ修正を施した。

 とはいえ、本当にごく一部だけだが。

 ふと思ったことだが、アイリーン王女のようにこの世界の人間は脳内仮想モニターという概念を持っているわけではないはずだ、どうやってステータスを隠す隠さないの操作をしているのだろうか。

 それとも案外、俺と同じように仮想現実に対応する魔術でもあるのだろうか。


 等と思いながら「はい、これ」とステータスオープンの魔法(さっき見て術式を覚えた)を発動してステータスを見せる。




 ====================

 名前:*******

 種族:普人族

 性別:男

 Lv:22

 HP:21/21 MP:107.2/138


 Info:情報閲覧権限のないアクセスをブロックしました。

 権限者名:Public Safety Commission/ Police Agency/ Sector: Cyber4


 ・残りポイント:***

 ====================




「んん? 色々と隠されてない? それに何これ、Public Safety Commission……Cyber4?」


「ああ、まあ色々とな」


 正直あまり詳しく探られるとちょっと困るというか何というか。権限者名も隠したほうが良かったかもしれないなと思いつつ、俺はアイリーンの反応を窺った。「へえ、レベル22って私より随分上なんだね……でも体力が」と面白そうに俺のステータスをのぞき込んでいる。


「ねえ、攻撃力とか残りポイントは教えてくれないの?」


「あー、まあちょっとな。……というか、魂核(ポイント)の使い方を教えてほしいんだけど」


「あ、それなら増やしたい能力値か手に入れたい技能とかを選べばいいだけだよ」


「そうか……、それじゃあ」


 俺は早速、そのポイントを実際に割り振ってみようと思いステータスを弄った。

 こんなの一択に決まっている。

 さっと仮想モニターを操作すると「あ」とアイリーンが声を上げたのが分かった。




 ====================

 名前:*******

 種族:普人族

 性別:男

 Lv:22

 HP:21/21 MP:12455.2/12486


 Info:情報閲覧権限のないアクセスをブロックしました。

 権限者名:Public Safety Commission/ Police Agency/ Sector: Cyber4


 ・残りポイント:0

 ====================




 ごく当然のMP全振りである。こんなの当たり前だ。

 アストラル体(MP量)が魔法の全てだとも。それこそが力、それこそが体力、それこそが全てにつながる命綱だ。

 現代魔術的に考えると、足りない能力はバフ魔術で補うことが可能なのでこれが最適解――。


「え」


「? どうしたアイリーン?」


「え、え」


「急に固まったけど、何か面白いものでも見つけたか?」


「え、え、え、――ええええええっ!?」


 絶叫。

 鼓膜が破れんばかりの大音量。

 つられて俺も「のわっ!?」と驚く。


「え!? え、ちょ、え!? えええ!?」


「え、どうしたの」


「な、え、嘘! 6000ぐらい!? そんなに魂核(ポイント)があったの!? そして、え、ええ!? 何で!? 何でなの!?」


「え、あ、見えてた? もしかしてステータスオープンした画面って閉じないと見えっぱなしなのか?」


「うん、そうだけど……じゃなくて、えっ、嘘!? 何でMPなの!? 何でそんな勿体ないことしたの!?」


「勿体ないって……」


 彼女の顔は全くもって余裕がなさそうであった。どうやら大真面目な意見らしい。冗談でも何でもなくて、本当にこれを勿体ないと思っている様子。


 聞くに、

「普通はまず技能だよ!? 剣術とか棒術とか、或いは火魔術とかを取得して自分の戦闘スタイルを幅広くするんだよ!?」

「それにこれだけあったらレアな加護も取れたよね!? 獲得経験値(魂の経験の)増加とか成長率増加とか! 幸運とかも望めば1000ポイントぐらいでレベル10を取得できたし! 予知夢だって手に入ったはずだよ!」

「例え能力値にいきなり割り振ったとしても、それはAGI(素早さ)極振りとかSTR(攻撃力)極振りで、MPは一番有り得ない! 魔法の威力を高めたかったらまず間違いなくIMG(想像力)だし、せめてIMG(想像力)とMPをバランスよく振るよね!? MPだけあっても魔法の威力は別に強くないよね!?」

 とのこと。


 凄く元気だなあと思う。

 俺? 聞き流してるだけですが何か。

 というか俺からすると、MP以外に割り振るのが頭がおかしいと言うべきか。

 いや、だってそんなの全部MPがあればどうにでもなるだろうに。


「何でそんな頭のおかしなことをしちゃったの……? MPとか1000もあったらそれ以上はほぼ無用だし死蔵しちゃうだけだよ……? それならこう、伝説のアイテムとかと交換した方が絶対に良かったはず……」


「あの、アイリーン?」


「ああ、嘘だ……。私凄い人を召喚したのに……魂核が6000とか前代未聞だっていうのに……。使い道がまさかのMP……。せめて八つに満遍なく750ずつぐらいならまだ何とでもなったしそれでも十分伝説の勇者になってお釣りまできたはずなのに……」


「おーい、聞いてるー?」


 だめだ、宝くじ一等の換金期限を過ぎちゃった人みたいな感じの虚無感あふれる表情で硬直している。いわゆる後の祭りってやつだ。本来なら手に入るはずだった望外な希望を不意にしてしまったみたいな顔付きだ。可哀想に。


 打ちひしがれてるという方が正しいかもしれない。

 何でこんなに悲しんでるのだろう。

「よく分からんけど元気出せよ」と肩をたたいておく。

 そしたらなんか物言いたげな表情でこちらをじっと見据えてくる始末。


「……」


「いや何故俺を睨むし」


「何で他人事なのさ……君の事じゃないか……」


 涙目なのがちょっと何か庇護欲的な何かをそそる、可愛い。

 とまあふざけるのはこの辺にしておいて。

 この反応を見るに、彼女は本気でショックを受けているように見える。何故。

「……もしかして他の能力は1000とか行くレベルですごく高くてMPしか振るものがなかったパターン、というかねえそうだよね」とすがるような発言(というか現実逃避)にまで走る始末。


「じゃあ見てみるか?」


 アクセス権限を少しだけ弄って、ステータス値までなら開示されるようにして彼女に情報開示する。


 というかステータスを見るのは俺も初めてである。

 ステータスを見ることとはつまりステータスという(・・・・・・・・)魔法に(・・・)我が身を晒す(・・・・・・)、ということだから躊躇っていたのだ。俺の身体能力を数値化するということは即ち俺を詳らかに(・・・・・・)暴き立てる(・・・・・)ということに他ならない。だから嫌だったのだ。


 しかし考えてみると、自分の能力を数値化したところで名前さえ特定されなければ呪術などが出来るはずもない。

 ということで、この際身体能力は俺も気になるところだったので公開してみることにする。




 ====================

 名前:*******

 種族:普人族

 性別:男

 Lv:22

 HP:21/21 MP:12455.2/12486

 STR:11.2 DEF:11.6

 IMG:0.0 AGL:10.6

 DEX:9.2 LUK:7.7


 Info:情報閲覧権限のないアクセスをブロックしました。

 権限者名:Public Safety Commission/ Police Agency/ Sector: Cyber4


 ・残りポイント:0

 ====================




「――低い!?」


「ひでえ!?」


 物凄くすぱっと言われた。そして実際俺も同じ感想を抱いてしまっていた。低い、何故かは知らないがレベルが半分のアイリーンといい勝負。特にIMG(想像力)が0ってひどくないか。

 いや冗談抜きで本気で傷ついているのだが。


「え、何? 何でこんななの!? 何でこんな貧弱なステータスなのにMPなんかに振っちゃったの!?」


「……」


「……? ジーニアス?」


「……想像力って何だ……」


 IMG(想像力) 0。

 その言葉から少しだけ目を離せなかった俺は、声を掛けられたことにもついぞ反応が遅れてしまった。


「……ねえ、ジーニアス、凄い顔してるよ」


「……。人にとって、想像力って大事なのか……?」


「……ジーニアス」


 沈黙。

 俺の耳には心配そうなアイリーンの声が聞こえていたが、彼女の言葉はうまく聞き取ることが出来なかった。頭の中がもっと別のことで占められていたからだ。

 想像力、ゼロ。

 それはまるで、俺を詳らかに暴き立てられたかのような情報。

 ほらやっぱり、ステータスなんかに身を晒すとろくな事になりはしない。


「大丈夫、俺はバイオモーフ(生物生命体)だ、人間だ」と自分に言い聞かせつつ、アイリーンの方を見た。

 彼女はやっちゃった、みたいな表情で落ち込んでいた。


「……貧弱って言ってごめんなさい。私、ひどいこと言ったよね」


「……いや。まさか」


「……ごめんなさい」


「何でお前が泣きそうな顔してるんだよ」


「泣いてないよ。でもごめん」


 彼女は叱られた子供のようになっていた。否、どちらかというと意図せずしてひどい発言をして相手を傷つけてしまい、そのことに言葉を失っている子供のような顔か。

 どちらにせよ、分かりやすかった。

 正直、彼女にそんな顔をさせてしまった自分に苦笑いするほかない。


 自己嫌悪。

 何も上手い言葉が思い付かず、ため息しか出てこない。

 何だ、やっぱり想像力ゼロじゃないか、気の利いた言葉一つも出ないなんて、とわずかに苦笑。


「……心配するなよ、MPに注ぐのが一番効率がいいんだ。MPは増やせるなら増やした方がいい」


「……ごめんね」


「いいっていいって。な、話を続けるぞ」


「うん……」


 若干彼女の元気がなかったのが気になったが、まあその辺は話し続けてたら消え失せるだろう。


 何の関係もない一般人を異世界に呼びつけといて。

 自分のミスで普通なら手に入ったはずの加護や待遇を失わさせておいて。

 挙げ句その人間に思わずひどいことを言ってしまう。

「馬鹿だ、私」とぽつりと漏れた自己嫌悪の台詞は、多分そういう意味なのだろう。


 よし、ならばMPがいかにすばらしいかを説明して彼女の塞ぎ込んだ気持ちを払拭させようではないか。

 そうすれば彼女も気が晴れるだろう。











「まずMPがあれば能力を引き上げることが出来る。バフ魔法(支援魔法)さ」


「バフ魔法……」


「元気出せって。そう、バフ魔法。バッファーって聞いたことあるんじゃないか?」


 とりあえず説明を続ける。

 バフ魔法。

 それは味方の筋力を高めたり、治癒回復を促進させたり、魔法の威力を高めるような支援魔法のことである。

 逆に相手の能力を落としたりバッドステータス(混乱、毒、麻痺など)を付与したりするのをデバフと言ったりする。


 このバフ魔法、実は現代魔術ではかなりのメインストリームとして発展しており、いかに多数のコンテクスト(伝承/信仰)を織り交ぜてバフ魔法を作れるかという方向で研究が盛んになっている分野でもある。


「バフ魔法を常時展開しておけば、足りない筋力とかを補うことが可能ってわけだ」


「常時展開……え?」


「そうそう、例えば体にこうやって魔法陣を刻み込むとかな」


「刻み込む……え、え、何してるの!?」


 腕を捲った俺は、早速梵字で知恵を司る文殊菩薩を意味する(man)の文字を刻み込んだ。俺のアストラル体(残りMP)からマナマテリアルを形成し皮膚にインプラント。これでマナを流すだけで知力の加護を付与する刻印デバイスへと早変わりだ。


 続けて梵字で生を意味する(ja)を刻むことで「ほら、おれの体力が21から21.2になっただろ?」と説明する。

 アイリーンはそれを「な、な」と目を丸くして見ていた。


「ほら、身体能力なんてたくさんコンテクストを身に纏えば何とでもなるものさ。数々のミソロジー(神話、伝承)がモチーフとなって人を強化してくれる」


「な、え、嘘、え、ええ!?」


「? どうしたアイリーン? あ、この文字は梵字と言って……」


「違っ、その! ――ねえ! ねえ! 凄い! 凄いよジーニアス!」


「ちょ、近」


 近過ぎ、と注意する間もなくアイリーンは「凄い、これはもう滅茶苦茶だ!」とはしゃいで俺の手を握っていた。いや、刻印デバイスの施された腕に食いついていた。

「これは歴史を変えるよ!」とか言いながら、続けてぶつぶつと色々何かを呟いている。


「常時展開ってことはジーニアスは今まで(・・・)支援魔法を常時展開してきたってことだ。確かMP100ぐらいだったはずなのに」

「たくさんコンテクストを身に纏うって発言はきっと、ジーニアスはたくさんコンテクストを知ってる神秘学者だってことだ。多分異世界の知識に違いない」

「あんなに質のいい刻印があんなに簡単に。しかも多分永続性がある。きっと彼は刻印系の象徴魔術の大魔術師に違いない」


 何か言ってた。

 別に刻印系魔術が得意な大魔術師って訳じゃないのだが。


刻印(シール)魔術って別にデバイス印刷すればいいだけだぞ? こうやって魔法陣シールを空中で書いて貼り付けることも簡単だし」


「えええ!? 何それ! 凄い! 凄いよ!」


 うわあ。

 そんなに素直に感動してもらえるとか物凄く新鮮で楽しいんだが。

 ちょっとだけ調子に乗って「ほーれ光のアート」とかで光の蝶を表現してみせる。それだけなのに「ええ、凄い!」と喜んでくれるという。

 楽しい。これ癖になりそう。驚いてもらえるのって凄い楽しい、お兄ちゃんもっと頑張っちゃうぞ。


「ねえジーニアス、君って一体何者なの? もしかして君って『夢』の……」


「俺? 俺は史実の……」


 言葉は続かなかった。

 突如森の奥から「誰かっ! 早く助けてっ!」という叫びが木霊して、俺とアイリーンはそちらの方に気を取られてしまったからだ。


 ◆











 声のした先には声を荒げているゴブリンが八体、そしてそれに囲まれて逃げ場を失っているエルフが一人いた。

 所詮は下等生物のゴブリンかと思いきや、彼ら八体は有機的に動いて細かく一撃離脱を繰り返しており、中央で応戦を続けるエルフの女を追い詰めている。

 槍と斧。槍で肩や太腿を痛め付けるように突き攻めて、隙を見せれば斧を一閃振りかぶる。

 斧による致命的な攻撃を避けるために神経を割く分、幾ばくか槍に攻撃を許してしまっており、少しずつ彼女は傷付けられているようであった。

 このままでは囲まれているエルフが殺されてしまうのは時間の問題だ。

 介入するなら今しかない。


「応戦する! あんたは逃げろ!」


「! アンタは……」


 言葉短く俺は叫ぶ。放たれるファイアバレットの魔術。

 注意を引き付けられて動きが止まったゴブリン二体の胸部を貫き、そのまま物言わぬ肉塊へと変える。

 続けて「recast();」と短く再現魔術。再び放たれる火の弾丸。しかし今度は上手くいなされる。対応が早い。


「いいから早く!」


 問答をしている時間も惜しい。

 ゴブリンの内二体がこちらに飛び込んだ。体重を乗せて振るわれる斧。唸りを上げて肉薄する刃。濃密な殺意。

 読み通りだ。爪先で地を蹴り回避。体を掠める刃の軌道は演算補助アプリケーション【Ph.D.Engine】の提示した予測軌道から寸分も違わない。後は自動制御アプリケーション【オートラン】に体を預けるだけの簡単な仕事。

 無駄のない躱しで生まれた僅かな時間。ゴブリン一体に気功を込めた掌底突きをし、立て続けに側頭蹴りを浴びせて斃す。


「近接格闘は現代魔術の基礎、っ!」


 気配を感じ取った俺は後ろに跳ねた。と同時に今しがた身体が存在した空間を走る斜め一閃の斧。振り払われた斧の勢いのまま地面が削れ、土埃が舞う。

 今のは死んでいた、本来ならば。【オートラン】の性能に感謝しながらも、俺は指の照準を今襲ってきたばかりのゴブリンに合わせファイアバレットの一撃を放つ。一発。斧の勢いに身体がつんのめったそいつは回避できず胸に穴を開けて地に伏した。

 残すは四体。


「!」


 ここで黒い腕のゴブリンが躍り出た。両手に斧を持った二つの斧使い。乱舞めいた攻め方に俺は逃げ場をなくし、咄嗟に防壁魔術を展開して何とか防ぐ。一撃が重い。

 こいつがリーダーか、と思う隙もなく脇から槍先が飛んできて、俺は一旦後ろに跳びすさった。

 大股一歩半ほどの距離が開く。


 黒腕のゴブリンは速かった。俺が離れるなり斧をこちらに投げ捨て、続けざまに土魔法のつぶてをこちらにとばしてきたのだから。「魔法!?」と驚く間に、奴は既に森の奥に逃げていた。

 判断が速い。


 つられて残りのゴブリンたちも逃げ出す。リーダーがいなくなった以上戦いには勝てないと踏んだのだろう。

 ただ、逃げ方が単調に過ぎる。その背中目掛け冷静に一発。不幸にも一番後ろのゴブリンが後頭部を撃たれて、そのまま地面に崩れていた。


 倒せたのは八体中五体か。

 その戦果にどれぐらい満足していいのか分からないまま、俺は後ろを振り返った。


 呆けているアイリーンと、立ち尽くしているエルフがそこにいた。

 割とあっさり片付いたことに驚きを隠せない様子で、間抜けな表情を浮かべたまま固まっている様子。

 ああ、そう言えば無手で応戦したんだっけ。二人の視線が素手の俺の両手に集まっているのが何となく分かった。

 武器を取り出す暇もなかった。ちょっと雑な戦い方だったかもと少し反省。











「ゴブリン・レア達相手にやるじゃないの。B級かしら?」


 エルフの女、キキは傷を手当しながらそう窺ってきた。槍の傷が沁みるらしく、少し顔をしかめながら包帯を巻いている。

 ゴブリン・レア、という言葉から察するにあのゴブリンたちは普通のゴブリンではなくて上位種族なのだろう。確かに妙に動きのキレも良かった。


「いや、冒険者になってばかりだ。E級冒険者さ」


「嘘! あれだけ無詠唱魔術と格闘術が使えるんだったら、普通にC級冒険者ぐらいはありそうだけど」


「早くそれぐらいに昇進したいね。でもまあE級はE級さ」


「そう言えば妙に装備が新しいのね。嘘じゃないってことかしら……。本当、凄いE級冒険者が現れたものね」


 苦笑いを浮かべるキキは、どうやらC級冒険者になったばかりらしい。冒険者歴もそれなりにありそうで、聞くところでは五年ぐらいだとか。

 なるほど、冒険にこなれてきた頃だろう。

 それぐらい冒険をしていると、単身で冒険に出掛けることもあるのかもしれない。


「でも、何であんな風にゴブリン・レアたちに囲まれていたんだ?」


「ああ、それは……」


 ちょっと表情を曇らせる所から察するに、彼女はあまりその辺を言いたくないらしい。

 そんなに後ろ暗い何かでもあるのか。

 少しばかり気にかかったが、あまり深入りせずにそのまま話を流しておいた。


「キキ。取りあえず襲われていた冒険者への手助けの謝礼としてゴブリン・レア達の素材は全て貰うがいいか」


「ええ、どうぞご自由に。て言っても大した金にはならないわよ、所詮ゴブリンだし」


「あと、素材を持って帰るのも手伝ってくれ。キキも帰り掛け護衛が欲しかったところだろうし、win-winのはずだ」


「うぃん……? まあいいけど」


手当てが一通り終わったらしいキキは、こちらの狩ってきたホーンラビットを背負いながら「本当に初心者なのね……」と微妙な面持ちになっていた。

まあ、ホーンラビットなんて普通は初心者ぐらいしか狩らないらしいしな。

それ全部俺が狩ったんだぜ、みたいなことを言ってアイリーンを煽ってやろうかと思ったが、彼女と目があって先に注意された。何故ばれた。読心術かよ。


帰り道を歩く。特に意味はないが、ちょっといたずら心が湧いたので聞いてみる。


「なあキキ。一回抱かれてみないか」


「は!?」


「ちょ、ジーニアス!?」


二人ともちょっと慌てていた。面白い反応だ。アイリーンは「それはちょっと笑えないよ」と割と真面目に俺を止めているし、キキは「あんたねえ……」と呆れている。

俺はこういう意味のないジョークが大好きである。「俺人頭だけど人だけしか抱けない訳じゃないしな」と風刺を込めてもう一言。豚頭は豚でも、というあの痛烈な一言をちょっと揶揄するように。


「……どうしても?」


「何その反応。……取りあえずお前さん、ブーバって冒険者に酷すぎたんじゃないかい?」


「もう、お説教なら聞かないわよ。冒険者ってのはこんなもんでしょうが、魔物さえ狩れれば言葉遣いなんてどうでもいいわ」


「それもそうだな、冒険者っていったらこんなもんかもしれん」


「……。帰ったら食事でもおごるわ」


「おう」


そいつは実にありがたい。お金は節約するに越したことはないし、それに一般的な冒険者がよく利用するお店の情報が手に入るのは嬉しいものだ。












『迷い人よ。この世界【命と大地の船】に来て、体調不良などはございませんか?』


「特にない。それにしても久しぶりだな、女神様」


いつもの白い夢の中で、俺は珍しく焦りを覚えていた。

焦り。

王宮に召喚されたのは一週間ほど前。王女アイリーンと共に王宮から追い出されて高級宿に泊まったのが三日前。武器や防具その他諸々を買い揃えたのが二日前。そして昨日は、あの冒険者キキに食事をおごって貰った。

この間、何か重要なことを忘れている気がしてならないのだ。


――All Right, My Master. それが私とMasterの約束の言葉です。

Master、という言葉が何となく胸に引っかかる。

約束。

一体誰と交わした約束だろうか。


「……なあ。何か隠してないか?」


『何をでしょうか?』


「とぼけないでくれ。俺にとっては大事な問題なんだ」


『立場上隠さねばならないことはありますが、しかし私は極力、貴方達に協力を惜しまない積もりです』


「貴方()?」


『……。はい』


言葉の綾かもしれないが、一番引っかかった「立場上隠さねばならないこと」という発言は一旦保留にして「貴方達」という表現を指摘しておく。

つまり俺以外にも迷い人がいて、彼らも恐らく【史実の欠片】を集めているのだろう。


「なあ、俺は女神様を信頼していいのか?」


『……』


「夢の続きを見れるとか言ってたが、だとするとお前は一体誰なんだ?」


『……私は』


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