「嫌なヤツ」
「お前、空気も読めないの?もっと手短に終わらせようよ。楽しい学校生活?バカなこと抜かしてんじゃねーよ。お前一人で盛り上がってろよ。」
何だこいつ・・・
そうは思ったが、これも想定内だった。
クラスには必ず一人は人をバカにすることを趣味としている奴がいる。
だから私は、そんな奴の話は無視をすると最初から決めていた。
そして私は再び歩き出した。
すると男は続けてこう言った。
「俺はお前みたいに自分の事しか考えてねぇ鈍感な奴が一番嫌いなんだよ。」
それはお前だろ。
私は内心そう思った。
しかし男は何の悪びれる様子はなく、机に乗り上げていた足を下ろしどこか神妙な面持ちでこう切り返してきた。
「そういえばお前、ししどっちって呼ばれてたんだよなぁ?」
それはどこか脅しにも似たような口調だったが私はあくまで冷静を装っていた。
しかし次の瞬間、男の口からはそれはまるで嫌味を言う女子の様な皮肉めいた言葉が飛んできた。
「センスねぇな。」
・・・はぁ?
「確かに一昔前のネーミングセンスって感じ。」
「「っち」はねぇよな「っち」は!」
「ていうか、呼んでくださいって命令してんじゃねぇよ!」
あははははははは!
周りからも一部声が湧き上がる。
すると怠そうに机に突っ伏してた人やスマホに熱中していた人達が一斉に私の方を見た。
「そうだ、ちょうどいい・・・こんなみんなから注目が集まる機会は滅多にねぇ。そこでだーーー。」
男はそう言うと何か思いついたかのようにクイッと口角を上げた。
もう、なんなの・・・
そんな只ならぬ気配を感じさせる空気に私の背筋は凍った。
すると次の瞬間男はこう言った。
「俺が特別に新しいあだ名を考えてやるよ。」
・・・そういうことか。
私が一番最初に感じていた嫌な予感は見事に的中した。
男は私の書いた黒板の文字を見つめながらこう続けた。
「そういやなんか音階みたいな名前だよなぁ。」
それは、私が一番気付いて欲しくない配列だった。
黒板に書いて説明したのが逆に仇になったのか・・・。
私は小中共にそれと同じようなことをよく言われていた。
「お前の名前、なんか音階みたいだな!あははははは!」
確かその後・・・
最悪のシナリオが頭に浮かんだ。
「ししどれみ・・・シシドレミ・・・」
すると周りからは女子がコソコソ話す声が聞こえてきた。
「よく考えたら変な名前・・・」
「なんか芸名みたいだな!」
ハハハハハッ
男は舐め回すかのように私を見てきた。
「そうだなぁ・・・」
やめて・・・!
思わずその言葉に耳を塞いでしまいたくなった。
「それ以上言ったら殺す」私はそんな様な目つきで男を睨みつけた。
お願いだからあの「あだ名」だけは言わないで!
しかし、そんな私の願いとは裏腹に男は天から神様が舞い降りてきたかのようなそんな顔をしてこう言った。
「ドレミちゃん・・・ってのはどうだ?」
男はそう言うと、私の方を見てニヤッと笑った。
「あっそれ、さっき私も思った!」
「なんかアニメに出てきそうな名前だな!」
「流石にそれは可哀相だって!」
あはははははは!
周りからは様々な意見が飛び交い、それまで静かだった教室が一気に笑いで溢れかえった。
「終わった・・・」
私にはもう、言い返す気力はなかった。
クラスから向けられる蔑んだ目線と乾ききった笑い声はまるで、これからの高校生活に終わりを告げられているかのようだった。
目立ったことはするもんじゃない・・・
絶え間のない後悔の波が容赦なく私に押し寄せる。