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「自己紹介」

この教室はまるで白けきっていた。


私ならできる。

私ならできる。


私はそう、心の中で何度も唱えていた。


「はい、じゃあ次〜」


ーーそんな気の抜けた先生の声が教室に響き渡る。


「はい!」

私は勢いよく席を立った。

やっと自分の番が来た。

周りからのクスッとした笑い声が聞こえてきたが、気にせず歩き出し私は教壇の上に立った。

パッと周りを見渡すと一度自分の方に視線が集まってきたが、その大半はすぐに下を向いた。

しかし、そんな事はどうでも良かった。

私には失敗できない理由があったから。


私は一度一呼吸置き、頭の中に仕舞ってある台本の一ページをめくった。


「初めまして。」

その瞬間、私は後ろへ振り向き白いチョークで黒板に大きく自分の名前を書いた。


「私の名前は猪戸 怜美(ししどれみ)です。」

黒板には名字と名前のを間を大きく離して書いた。

ここをくっつけて発音されるのは非常に厄介なのだ。

だから、万が一の為にも指差しをしながら説明した。


そして次に、自分の話を始めた。

「私は中学では特に部活動はやっていませんでした。いわゆる、帰宅部っていうやつです。好きな食べ物は甘い物で、洋菓子ならレモンパイとチョコレートケーキ。和菓子ならおしること苺大福。苦手なものは辛いもの全般です。家族は4人で父、母、妹、そして私。妹は6歳になるんですが、最近ワガママになってきて・・・」

気づいたら、そんなどうでも良いような話を長ったらしく続けてしまっていた。


まずい・・・

私の顔をちゃんと見て話を聞いてくれてる人は4分の1くらいかな・・・。

そんな事を思いながらクラス全体を見渡していた。

あとの人達は自分の机に向かって思い思いの世界に浸っていた。


化粧をする人、スマホをいじる人、教科書を立てて何か怪しげに口を頬張らせている人、大口開けてあくびをしている人それはもう様々だ。


何で注意しないんだろう・・・

そんな事を考えながらふと先生の方を見ると明日開かれる新入生歓迎会の準備で疲れが溜まっているのか、かなり眠たそうにウトウトしていた。


そして、再び一呼吸置いてからこう言った。

「今まで周りからは「ししどっち」と呼ばれてました。なので皆さんもそう呼んでください。」


そうは言ったが、実はほとんど「ししどっち」なんて呼ばれていたことはなかった。本当のあだ名は別にあった。しかしそれは私にとって頭から消してしまいたい記憶だった。

だからそのことについて触れる事は一切ない。


沈みきった空気の中再び大きく息を吸い込むとさっきより声のトーンを上げてこう言った。

「とにかく、楽しい学校生活が送れるようみんなで一緒に盛り上げていきましょう!よろしくお願いします!」

そう言って軽く一礼するとそれまでの静けさとは何か違うシラーッとした様な空気が流れた。


なんか嫌な予感・・・


私は恐る恐る顔を上げると、ボーッとどこか眠たげな表情をしている人と机に突っ伏して全く話を聞いていない人そして、小さく拍手をしてくれている人に分かれていた。


良かった・・・


私の前に自己紹介してた人より幾らか拍手が少なかったが、何とか無事に終わってくれたことに胸を撫で下ろし、教卓の下で小さくガッツポーズをした。


そして手に付いていた粉を払いどこか涼しげな表情をして席に戻ろうとしていた。

するとその時、ある一人の男が不満げな顔でボソッこう言った。


「長ぇんだよ。」


その男は見るからに自己紹介なんかやってられねぇといった顔付きで机の上で大胆に足を絡ませ、かったるそうにしていた。


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