~新たなる出会い(はじまり)~第四話
「はい」
「…………」
シェルはアクアオーラ領の諜報部員の屋敷に戻っていた。
ムーカイトで“やるべき事”は既に終了している。
“森”も“神殿”も正常に機能していた。
現在、調査出来得る最大限の範囲内で――という限定的なものではあるが、とりあえず今はムーカイトへ戻る必要はない。
最終的な決断は“此処”でしようとシェルは思っていた。
全てはクンツァイトの動向次第。
しかし……
「上陸を許してしまったのなら、今更過ぎた事をどうこう言っても仕方ない。俺は一度ムーカイトに戻る。セラフィナイト、お前も来い!」
「私も、ですか?」
「ああ。行くぞ!」
「御意!」
そう答えたものの、セラフィナイトは困惑を禁じ得なかった。
(シェルタイト様は我ら四天王や諜報部員のムーカイトへの上陸は極力避けるようにと仰っておられた。島の人々にこれ以上の不安感を与えない為に……というご配慮だったが。あの『泳いで帰って来た』と仰ってズブ濡れで戻られて以来、ムーカイトにはお出ましにはなられなかったし……。一体、ムーカイトで何があったんだ?)
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あれが、そうか?」
気づかれないように遠巻きにその男を観察していたシェルとセラフィナイトだったが
「……似てるな」
「カルセドニー様に、ですね?」
「ああ」
褐色の髪と黒い瞳。
男は、その面差しがセレスとシェルの実父である前族長カルセドニーに似ていた。
それが余計にシェルを不安にさせる。
二週間ぶりに西の浜辺のアクアオーラの別邸に帰って来たシェルは、セラフィナイトに……
「兎に角、あの男の身許を探れ! 特にクンツァイトとの関係を徹底的に調べるんだ」
「御意!」
「俺は島に残って、あの男を監視する。奴がクンツァイトのスパイという事もあり得るからな。何か事が起こったら、島の人々を護らなければならないし」
(あの男はカルセドニーに似すぎてる。もしクンツァイトがセレスたちを油断させる為にカルセドニーに似た男を使ってるとしたら……)