~新たなる出会い(はじまり)~第二話
何度呼んでも返事はなかった。
しかし、女の子と別れたシェルは真っ直ぐに西の浜辺に向かっていた。
あれからどれ程も経ってはいない。
玄関の鍵はかかっていなかった。
セレスは一瞬、躊躇ったが……そのまま中へと入って行った。
普段のセレスからは信じられないほど大胆な行動だった。
「君はあまり此処には居ないようだと思ってたけど……居ても、今みたいに居留守を使ってたんですね。そんなに僕やみんなに会うのが嫌ですか?」
「俺は、お前たちと情を交わす為に此処に居る訳じゃないからな」
「復讐の為だから、そんな必要はないと言いたいんですか? 違いますよね? 君はノンマルタスの“次代の王”なんでしょう? 君がその気になれば世界を手中に治める事だって出来る。アクアオーラに復讐する事なんて赤子の手を捻るよりも簡単な筈だ!」
「…………」
「君の本当の目的は何なんですか? 君が憎んでるのはアクアオーラではなく……」
セレスの脳裏にさっき見たシェルの笑顔が過ぎる。
自分には一度も向けられた事のない優しい笑顔。
(ひょっとしたら、シェルが憎んでるのは一族ではなく自分だけなのではないか……?)
「余計な詮索はするなと言った筈だ! お前が俺をどう思おうが、俺には関係ない!!」
シェルの態度はあくまで変わらない。
何時もと同じ、冷たい……全てを拒絶しているような瞳。
「関係ない? 何時だって君は、そうやって僕を拒絶する! 君は僕のたった一人の“弟”なんだ。僕は……」
「“弟”だから何だって言うんだ? “弟”だから、大切なのか? “弟”だったら全てをお前に話さなきゃならないのか!? 血が繋がってる“兄弟”だったら、昨日や今日会った人間でもお前は愛せるのかっ!?」
「シェル?」
「お前が俺の何を知ってる? 何も知らないくせに、分かったような口を利くな!! お前は俺が“弟”だから、お前の望む“弟”であってほしいだけだ! お前は決して“俺”を見てる訳じゃない!!」
「違う! 僕は……っ!!」
そう否定しながら、確かにシェルの言う通りかもしれない――とセレスは思った。
(僕の君への想いは……弟への想いとは少し違うのかもしれない)
「いや、君の言う通りかもしれない。僕は君の事は何も知らない。でも、だからこそ僕は、君の事が知りたいんだ!」
初めて会った時から、自分とは正反対の……凍てついた冬の海のような、冷たく美しい瞳の奥に見え隠れする、深い深い哀しみの色に惹かれていた。
その哀しみの原因が自分だとしたら、それを償いたい!
その哀しみを癒したい……と思う。
予期しなかった意外なセレスの言葉に、シェルは動揺を隠せなかった。
疎まれて当然だと思っていた。
自分は憎まれる為に此処に居るのだと……。