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~すれ違う想い~

「西の浜辺にある、今は使っていないアクアオーラの別邸に少し手を加えました。僕と一緒に暮らすのに抵抗があるのなら、そっちを使ってもらおうと思って」

「…………」

「君はどう思ってるか分からないけど、僕にとって君はただ一人の肉親。たった一人の“弟”なんだ! 父上と母上が残してくれた、かけがえのない僕の……。一緒に暮らしたいと思って当然でしょう?」

「だからっ! 俺はアクアオーラの人間じゃないって言ってるだろう! 俺はお前の弟として此処(・・)にいる訳じゃないんだ!」

「……なら何故、何の為にこの島に帰って来たんですか? 何を“見極めて”何を“決断する”んです?」

「そんな事、今のお前が知る必要はない! その時が来たら……」


 そこまで言ってシェルは口を噤んだ。


(その時? ……その時が来たら、俺は……)


「兎に角、俺はこの島で暮らす気はない!」


 そう吐き捨てるように言って背を向けるシェルに


「じゃあ、君は何処に住んでるんですか? ノンマルタスの都から此処に来てる訳ではない……ですよね?」


「余計な詮索はするな! お前には関係のない事だ!」


 振り向きもせずに、シェルはそう言い放った。


 シェルは何時も(ムーカイト)に居る訳ではなかった。

 何処に居て、一体何をしているのか?

 しかも島に居る時は、島の人々との接触をあからさまに避けていた。

 それがセレスの不安を一層掻き立てる。


(関係ない? 何故、君は……?)


「なら、僕の気持ちを正直に言います」


 意を決したようにセレスは口を開いた。


「君は僕を、僕の一族を憎んでるんですよね? 君が僕たちに復讐する為に帰って来たんだとしても、それは仕方のない事だと思います」


(復讐っ!?)


 予期せぬセレスの言葉に思わずシェルは振り返った。


「君の気持ちは分かる。いえ、分かるつもりです! 立場が逆なら、僕も同じ事をするかもしれない。だからこそ、僕は君に謝りたいんだ! 父や一族の過ちを!! その為になら何でもする。でも、それでもっ! どうしても君が僕たちを許せないと言うのなら、僕には一族を護る責任がある。もし君が、僕の一族に害をなすのなら、僕は……」


 セレスはその後の言葉を口にする事は出来なかった。


(そんな事、考えた事もなかった。確かに、俺を捨てたアクアオーラを恨んだ事もある。でも、それは仕方のない事だと思ってた。俺は一族を滅ぼす運命を背負ってるんだから、捨てられて当然なんだと……)


「お前は俺が、一族を滅ぼすという予言の為に捨てられた事は知ってるな?」

「はい」



    挿絵(By みてみん)



(俺が見極めて、決断する! それ次第では、俺はお前たちに死ぬよりも辛い想いをさせる事になるかもしれない。それは“復讐”する為に帰って来たのと本質的には何ら変わらない。でも……)


「お前が俺の復讐を阻止する為に手許に置いて監視したいと言うのなら、下手に“弟”だから一緒に暮らしたいなんて言われるよりは説得力がある。……分かった! お前の申し出を受ける事にする。西の浜辺の別邸を借り受ける事にしよう。俺もお前たちを監視してるからな。これでお相子だ」


 そう言うと、シェルは踵を返した。


「待って下さい!!」


 だが、シェルはもう振り返らなかった。


(俺の存在がお前を不安にしてる事は分かってる。俺を手許に置く事で、お前の不安が少しでも軽減されるなら、俺は……)



  ☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 セレスにはシェルの言葉が信じられなかった。


『お前がそう思ってるなら、それで構わない!』


 あのシェルの言葉は、そのまま『復讐する為に帰って来た!』と受け取るべきなのか?


 冷たい……

 何処までも冷たく美しいシェルの瞳の奥に見え隠れする深い深い哀しみの色にセレスは気づいていた。

 だからこそ余計にシェルの心が分からない。

 あれは彼の本心ではないと信じたい。

 けれど……


 アクアオーラ領主・クンツァイトとの確執が深まりつつある中で、一族の中にはシェルとクンツァイトとの関係を危惧する者までいた。

 本心を語れないが故に、接すれば接するほどすれ違っていく二人の心。


 それはオニキスが島を訪れるふた月ほど前の事だった――

 セレスとシェルを会話させてあげたいなあ~と思って書いた話ですが、話せば話すほど離れていく……って哀しいですよね。

 まあ、この頃は仕方ないんですけどね。

 でも、シェルは本当に不器用だなあ~って思います。

 自分がアクアオーラの一員として帰れば、アクアオーラは滅びるんだと頑なに信じてるから、絶対にセレスと情を交わそうとはしないし、逆に自分を憎んでくれた方がセレスは楽だろうと思っているので言葉を飾りませんしね。

 けれど、やっぱり仮面を被りきれなくて……時々、言葉や態度に本心が見え隠れしちゃうのでセレスとしては余計に混乱する。

 シェルの心が分からない……って事になるんですよね。

 本当に困ったものです。


 アクアオーラの別邸に住むようになる前、シェルは何処に居たかと言うと、実はアクアオーラ領の諜報部員の屋敷に居ました。

 地上の人々の動向を常に監視してる諜報部員たちの活動拠点が各地に点在してるんですよね、それぞれの職業で。(商人とか、諜報活動のし易い職業が多いですけど)

 シェル的にはそちらにいた方が情報収集もし易かったんですが、セレスの為にアクアオーラの別邸に住む事にしたんですね。

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