9 失われた日常
「かくかくしかじか、そーいうわけで…。
こいつは、天野原。」
「「「「「ほほーう。」」」」」
え?
何すか、この反応?!
驚きもせず、俺たちへの心配も無く、質問も無く…。
「つまり、中二病かー。
のん公母さんは、納得した。」
は?
何言ってんの、この人。
「いいんだぞ、二人で
暗黒の竜がッ!!
…とか言っても。
母さんは許そう。
お前も、現実逃避したいのだろう?
そういう時期なんだろ?」
あ、こいつ。
信じてなーい。
「なるほど、だからですか。
笹原先輩がこんな美少女連れてくるから、何事かと思いましたが…。
中二病ですか!」
おいおいおいおい、おーーいっ!!
俺らを中二病と判断するのもおかしいが、何だよ!!
俺が黒髪美少女連れてきたら駄目なのか?!
「と、ところで…、落ちただろう?
その、大丈夫なのか?
ほんとは下にクッションでも用意していたのか?」
あ。
心配してくれる人いたー。
ちょっと幸せだー。
でも、やっぱ信じてない……。
しかも、巫女様…様子おかしくね?
も、もしや!!
これが、これがツンデレ?!
いやいや。
そんなわけない。
何を考えてるんだ俺は…。
「巫女様、のん公。
やっぱり、この二人が言ってること、ほんとなんじゃないかな?」
真理まじ天使ーーーーっ!!!
さすが、真理!
わかってるな!
「あ、ありがとうございます!
えっと、その、よろしくお願いします!」
「私は米澤美子。
ドロップ同好会にはよくいるけど、一応料理研究会だから!
巫女様と呼んでくれてもいいけど?」
上から?!
さっき会ったばっかだよ?
同い年だけどさあ。
「私は木村真理。
よろしくね!」
普通!
模範的!
えらいぞ、真理!
巫女様とは大違いだ!
「ああ、私花宮野乃。
よろしくー。」
やる気の無さがダダ漏れだぞお?!
「俺、戸田和弥ね?
よろしくー。
とりま、メアド教えて?」
おいこらっー!!
お前は何言ってる?!
女子高生のメアドを「とりま」とか言って聞くとか?!
許せんな?
「僕は七海勇斗、放送部に入ってるよ。
これからよろしくね。」
く、くそう!!
か、かっこいい……!
ずるいぞ、ななさん!
何で普通の自己紹介なのに、そんなにかっこよくなるんだ?!
「皆さん、よろしくおね」
バリイイィィィィィィィン!!!!!!
―――――――――――へ?
「皆様、伏せてください!
と、海風は叫ばせていただきます!!」
「海風、貴方も気を付けなさい!
と、陸風は叫ぶ!!」
「ごめんなさい!
筴果、神風たち、ココ・ティナにやられた!!」
な、何だ?!
さっき俺が落ちた窓がいきなり割れて、三つの人影が…!!
赤いリボンの付いた深緑色の半そでワンピースを着て、ワンピースに付いているリボンと同じ赤いリボンでボブのエメラルドグリーンの髪を束ね、両足に包帯を巻いた海風と名乗る奴。
海風と格好は同じで、エメラルドグリーンの髪の長さが海風より少し長め、両腕に包帯を巻いた陸風と名乗る奴。
海風と陸風と同じデザインのノースリーブワンピースを着ていて、エメラルドグリーンの髪が陸風より少し長め、両足と両腕に包帯を巻いた神風と名乗る奴らだった。
って、俺また冷静に分析してる?!
三人は、窓ガラスが散っていく中、無傷で華麗に両手をついて着地していた。
こいつら、何があったんだよ…?
「風使い《ウィンドレア》を追い込みました。
ついでに、落下精も発見。」
ココ・ティナ?!
もう追いつかれた?!
速すぎるだろ……。
こんなにも速いなんて、聞いてないぞ!!
「今日は、遅かったと思えば…。
神風たちと私、合計四人を一気に捕まえようとしてたなんて。
無謀だと思うけど、ココ・ティナ。」
嘘だよね?!
いつもより遅いの?!
十分速いよ?!
「四人一気に捕まえようなどと、馬鹿げた考えは私は持っていない。
簡潔に言おう。
これを、見ろ。」
ココ・ティナは、立ち上がってもうすでに戦闘体勢にある神風たち三人の方を指差した。
「ドロップ。」
ココ・ティナが呟くように言った。
そして、ココ・ティナの指差した神風の方を、見る…と…………っ?!
―――――――――――嘘、だろ。
「チッ。」