第五話
数々の高層ビルが立ち並ぶ北京。
その中の、とある町の地下。
一人の少年が、静かに歩いていく。
・・・・・・・・。
怖いです。
誰か助けてください。
俺は祈りながらも、地下通路を歩いていく。
にしても、広い。
どこまでも続く地下通路を進みながら、俺は疑問に思った。
明かりは、地下通路にそってランプがあるため、そんなに心配する必要はないのだが、
この道がどこまで続くのか。
それが、俺の今の一番の心配事だった。
***
「新米スパイ君、頑張りたまえよ。」
この一言を合図に、俺は地獄へと送り込まれた。
そう、中国についてから早々、リムジンから下ろされてしまった。
そして、発せられた一言である。
今回は、中国の企業秘密を暴くとか何とか。
そういうことで、俺はいくつも立ち並ぶうちのビルのひとつに入った。
それは、世界でも、とっても有名な会社である。
囮の俺は、何をすればいいのか、というと、相手の目を俺にひきつけなければいけない。
俺は、たまたまそこらへんにいた会社員に声を掛ける。
もちろん、中国語で、だ。
学年主席の俺をなめるな!
え、なめてました?
まぁ、俺のすごさを思い知るがいい。
「あのー、すみません。」
俺が、さわやかな好青年のふりをして、会社員の男に近づく。
すると、男は俺を見かけてやさしく微笑む。
「どうしましたか?」
ラッキー♪
こういうタイプの偽善者は引っ掛けやすい。
俺も、伊達にスパイの囮生活をやってきたわけじゃない。
だんだん腹も黒くなってきたしなー。
純粋な俺はどこに消えたのやら。
あぁ、一年前が懐かしすぎる。
まぁ、そんなことはほおっておいて。
「俺、北京に旅行にきたんですけど、友達とはぐれてしまって。」
所謂迷子だな、うん。
我ながら古くさい・・・。
まぁ、仕方ないさ。
おい、そこ!
ダサいって言うな!!
あくまでこれは演技なんだからな!
「そうなんですか。 インコミとかで連絡は取れないのですか?」
・・・あいにく俺は携帯なんだよ。
悪かったな、時代遅れで・・・。
「はい、日本に忘れてしまって。」
「日本人なんですか。 中国語、うまいですね。 公衆電話、あちらにありますから、どうぞお使いください。」
ほら、中国語うまいだとさ!
俺、すげー♪
え、なに?
うぬぼれんな?
・・・すんません、うぬぼれてました!
それは、さておき、公衆電話があちらにあります、といって、こういう偽善者人間は道案内してくれるんだが・・・
俺は会社員の後ろについていきながら、ハンカチを取り出す。
そして、それを使って会社員の口をふさぐ。
「・・・? どうし・・・。」
―――バタッ
会社員はその場に崩れ落ちる。
これも古い手だが、睡眠薬を付けたハンカチを男にかぐわせたのだ。
なに? 古すぎ?
悪いな、ボスたちが何にもスパイアイテムをくれないんだよ!!
俺、スパイになったとき、すげー、楽しみにしてたのにっ。
だから、俺は全部自前なんだ!
なんか文句あるか!!
「ふぅ・・・。」
俺は、安堵した。
この睡眠薬、弱いらしくて、たまに効かないんだよね。
でも、これが一番安いし・・・。
え?貧乏?
あぁ、貧乏だよ!!
あたりを見渡してから、俺は会社員を人気のないビルの間の路地裏に連れ込む。
さいわい、誰にも見られていなかったらしい。
俺は、会社員の服を脱がせ始めた。
・・・え? 変態?
ちげーよ!! ただ単に、俺がこいつの服借りて、ビルの中潜入ってわけ!
かくして、服を着替えた俺は(会社員の偽善者さんは、ただいま服を着ていないのだが、許せ。)ビルの中へと入っていく。
ビルに入るときに、会社員カードを確認された。
この会社、顔写真はないのなー。
セーフ!
顔写真ありだったら、一発でノックアウトだもんなー。
俺は、嬉々としてビルの中に入っていった。
ビルの中は、凄かった。
あちらこちらにドアがあり、セキュリティーシステムが厳しい。
俺は、どうしよう、何をしよう、と迷った挙句、囮だったということを思い出す。
どっかのセキュリティーシステムに引っかかればいいのか。
そうしたら、みんなの注目が俺に集まる。
俺は、いやいやながらも、どこか重要そうな場所を探す。
会社というものは、来客のために、必ず窓口付近に会社の案内板みたいなものがある。
俺が、窓口付近で案内板を探していると・・・。
めっけ☆
俺は、自分では極力抑えているつもりだが、はたからみればニヤニヤしているだろう
笑いを浮かべながら、案内板を一通りみる。
勿論、案内板に企業秘密のありかなど書いてあるわけないが、それはボスたちの獲物。
俺が狙うのは、小物をとりにいく間にどれだけ敵の目を集められるか。
俺は、一通り案内板を見た後に、地下に行くことにした。
地下には、ここの企業の研究所があるらしい。
俺は、ボス達が研究所を狙っているかもしれない可能性を考慮に含め、早めにセキュリティに引っかかることにした。
・・・もとから、引っかかる以外何もできないんだけどね。