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バカな俺のスパイ伝説  作者: 白 一梅
第一章 地下組織
3/8

第三話

ボスからのメール内容はこうだった。

[久しぶりだね、新米君。 君に連絡するのは、2カ月ぶり、かな。

元気にしてるかい。 君のおかげで、人手不足だった我々も大助かりしているよ。

君に、ぜひお礼がしたい。 ということで、中国に旅行に行ってみる、というのはどうだ。

もちろん、全額我々が負担する。 安心したまえ、これはあくまでも御礼、だ。

中国に旅行中は仕事をつけないであげよう。

もちろん、君はこの旅行に行きたいよね。

断れば・・・、どうなるかは、頭のいい君ならば、きっと分かると思っているよ。]


メールを読み終えた俺は、思わず固まる。

俺に問いかけてくる形式のメールでありながらも、ひとつとしてクエスチョンマークがない。

全て、断定されている。

まぁ、これぐらいのことは何でもない。いつもの現場に比べれば、一割たりとも怖さがない。

え、本当にそう思っているのか、だって・・・?

あぁ、嘘をついてどうする。 本当だよ、本当・・・。

本当は・・・。

ものすごく怖いです、はい。 現在進行形で震えが止まりません。 誰か、助けてください・・・。

おい、弱虫だと?

しょうがないだろ、怖いもんは怖いんだ!!

俺は今まで、10回ほど仕事と言う名の、脅迫を受けてきたがな・・・。

全部、死にそうになるまで誰も助けに来てくれないんだぞ!?

そのうちの一回に、『10秒以内に姿を現さないと、コイツを殺すぜ。』って言う場面に合ったことがある。

もちろん、コイツ、とは俺のことだ。

そして、相手は暴力団。

・・・日本有数の、かなり強いお方たちでして、どちらにしろ、俺を殺す気満々でしたがね。

いつも、仕事内容は俺が囮になるだけで、それ以上の情報は一切教えてくれない。

まさに、俺はスパイというよりも、囮と言う仕事をしているようなものなのだが・・・。

そこらへんはあまりツッコまないでくれ。

命の危機なんだ。 これは真面目に何度も死ぬと思ったんだからな・・・。

あぁ、今思い出しても寒気が止まらない。

ボスが、暴力団相手に下した答えは、殺してもかまわない、というものだった。

いや、実際に口に出したわけじゃないが、10秒どころか、1分丸々、姿を現してくれませんでした。

それでもって、暴力団側も俺はただの捨て駒だと気付き、殺すのではなく人身販売しようとしたらしいです。

というか、臓器販売。

暴力団さん曰く、利用できる物は最大限利用してから捨てる、らしく・・・。

一瞬でも、主婦だ!と思った俺が、すごい。

だって、主婦は節約第一だろ?

ちがってたら・・・。

その時は、主婦さん、すみません。 勘違いしてました。

命をかけた場所でも、意外と人は一部落ち着きを持っていられるらしい、ということを俺はそのとき学んだ。

一部だけ、だがな。


ということで、俺は現在進行形、顔色真っ青なのでした。

いくらバカでも、分かります。

また使い捨てにされる俺。

あぁ、神様は相当俺のことがお嫌いらしい。


え? 暴力団の件はどうなったって?

ボスとその他のスパイさん達が、自分達の都合いい時間ときに、暴力団さん達をやっつけましたよ。

じゃなきゃ、俺、今ここにいないだろ!

死んでんじゃねーかよ!

むしろ生きている、今が奇跡なのか・・・!?

ちなみに、俺はその時、監禁室にいて、暴力団がどのようにやっつけられるのかは、全く知らない。


ガクガクブルブル震えながらも、俺はボスのメールを、正しい訳で読み返す。


[久しぶりだね、新米の囮君。 君に仕事の依頼をするのは、記憶にないが勘で言うなら2カ月ぶり、かな。

元気にしてるかい。元気じゃなくても、強制連行させてもらうよ。 君のおかげで、人手不足だった我々も大助かりしているよ。たいして、有難くは思わなかったし、そこまで役に立っているわけでもないけどね。

君に、ぜひお礼がしたい。 ということで、中国に旅行に行ってみる、というのはどうだ。

もちろん、全額我々が負担する。 安心したまえ、これはあくまでも御礼、だ。

中国に旅行中は仕事をつけないであげよう。 ハプニング、という形で仕事はつけたいと思うが、旅行にいけるのならば、構わないだろう。 旅行代が今回の報酬だ。 どうだ、いい仕事だろう。

断る権限は君にはないよ。 もし、逃げ出そうものならば君の命の保障はしない。]


あぁー、恐ろしい。 なんて内容のメールなんだ。

しかも、最後の一文がっ!!

「命の保障はできない」ではなく、「命の保障はしない」。

つまりは、俺に死ね、とおっしゃるのですね・・・。

なんて残酷な・・・。


もちろん、即刻逃げ出したいのが今の俺の心情だ。

どこに逃げるって?

ボス達に捕まらない場所に決まってるだろ!!

あぁ、無視したい。 このメールを無視したい。 誰か、助けて。

俺に救いの手を差し伸べてぇー!!


現実逃避を夢見ながらも、俺は震える手でボスからのメールに返信する。


[題名:お久しぶりです。]


俺は、この題名を打つだけでも、手が震えてしまい、何回も打ち直す羽目になった。

そして気付けばメール受信時間から、9分が経過して・・・。

経過して・・・。


はっ!!? 9分だと!!?


俺は、自分の命をかけて、ボスへの返信メールを打っていました。


  


 ***




・・・間に合った。


俺は冷や汗を流しながらも、盛大にため息をつく。

あぁ、よかった。 間に合った。 助かった。 神は俺を見捨ててはいなかったぁー!!

俺は安堵しながらも、疲労感を抱えてベッドに倒れこむ。

俺のメールの返信内容は極単純かつ短文なので間に合ったのは当たり前なのだが、いかんせん俺は頭の回らない高校生なので、そのことには気付かない。

いくらなんでもバカすぎ?

もう、ほっといてくれ! 俺は疲れた!!

え? 返信の内容?

承知いたしました、に決まってるだろ! 断れるわけねーじゃんか!!


俺は、疲労感にさいなまれて、そのまま眠りにつこうとしたのだが・・・。


俺の右手が振動し始めたため、俺は安らかな眠りには辿り着けなかった。

詳しく言うと、俺の右手に握られていた携帯が振動し始めたのだ。


俺は、恐る恐るもメールボックスを開くと。


[ボス]


・・・やっぱりですか。 はい、もういいんです。 俺はこうなる運命なんです。


[題名:よかった。]


ん? 何が良かったんだ?

疑問に思いながら、俺はボスからのメールの内容に目を通す。


[君なら、うなずいてくれると思ったよ。 よかったよ、君がうなずいてくれて。 ほかのスパイには任せられない仕事だからね。 君の働きぶりに期待しているよ。 それと、先ほどのメールとこのメールの削除、忘れたらどうなるかな。]


・・・、はい、今すぐに全力でもって削除させていただきます。


ちなみに今のメールの訳はこの通り。


[君はうなずくしかないからね。 よかったよ、君がうなずいてくれて。 ほかの優秀なれっきとしたスパイには、囮なんて任せられないからね。 君の囮ぶりに期待しているよ。 それと、先ほどのメールとこのメールの削除、忘れたら君は二度と口を開くことができなくなるだろうね。 ]


俺は、震える手で必死にメールを消去させていただきました。



 ***



後日、学校から家に帰って見ると、俺のパソコンの方にメールが入っていた。

送信者名は、ボス。

俺の背中に冷や汗が流れた。

・・・今度は一体なんなんだ!?

俺は、心のなかでものすごく慌てふためきながらも、のろのろと、恐る恐るメールボックスを開く。

だが、内容は俺の想像したものとは違い、いたって質素かつ脅しの言葉はどこにも入っていなかった。

まぁ、俺の恐怖の対象であるメールには変わりないないようなのだがな・・・。


メールの内容は、簡単なものだった。


来週の月曜日から、1週間中国に渡る。


この一文だけだった。

あぁ、俺の命を懸けた戦いは、すでに来週に迫っているのか。

俺は、ただただ気を重くしながらメールを読み返す。

さぁて、親になんて言い訳すればいいんだ!?


俺はその夜、ベッドの中で一人憂鬱感に浸りながら、中国に行く様々な理由を考えていた。



 ***



藤城誠人ふじきまこと

題名:お久しぶりです。

内容:承知いたしました。]


インコミと呼ばれる電子機器を用いた、メールシステム。

黒いスーツを着たサングラスの男は、最新の受信メールを確認して密かにほくそえむ。


「面白い。」


男の呟きは、おそらく男の耳にしか届かないであろう、小さなものだった。

男のいる部屋は、高級ホテルの一室。

大きな窓ガラス、いや、窓ガラスというには大きすぎる、壁の代わりのようにあるガラスから見下ろす

東京は、夕焼けに照らされ、ビルの陰が長く伸びていた。

高く伸びるビルの数々、そして、たくさんの車が地上を行き交う。

車は、地上を走っているものがほとんどだが、空を飛んでいるものも少なくはない。

今の世の中、空・陸・海、どこでも車ひとつあれば事足りる。

但し、やはり空・海は道路がないため、事故に会いやすい。

そのため、空・海を車で通りたいのならば、国に申請するしかない。

そして、許可を取って、限られた時間帯の中で空・海の中を運転する。



そんな光景を、ホテルの最上階から見下ろす男。

その顔には表情は読み取れない。

一番の原因はサングラスが邪魔なため、その表情が見えないのだろうが、その凛とした雰囲気から

サングラスの下にある彼の目も笑ってはいないことが感じ取れる。


「面白い少年だ。」

男はもう一度だけ、呟く。

そして、表情には微かな笑みがのせられた。

しかし、それもほんの僅かな時間で消えうせ、男の顔は、また無に戻る。


藤城誠人。

スパイ養成学校を卒業していないどころか、その存在さえ知らない、表側の住民。

平々凡々とした、一般市民の高校生。

使い捨てるつもりで、無理やり囮をやらせたのが始まりだった。

見ていて実に面白かった、彼は。

私が今まで見てきた、使い捨てられた囮の数々とは違い、彼は生き延びた。

10回も窮地に立たせたというのに、見事に生き延びてきた。


我々スパイは、役に立たないスパイを一番生存率の低い囮として利用してきた。

だが、近年、全体的にスパイの割合が減ってきてしまったのである。

囮は、スパイ活動において、大事な存在だ。

相手が、本気で人を殺すものなのか、それともそれなりに人の心を持ち合わせているのかを判断できる。

その囮を殺すか殺さないかで、ね。

そのほかにも、囮は相手の様々な情報を得るのに役立つ。

だから、人手不足だったときに、その場にいた少年に声をかけた。


私達スパイとは、相手から情報を奪う。依頼されれば、殺しをするときもある。

それは、世の条理として仕方のないことだ。

私達も命をかけているのだからね。


―――とにかく、彼は更に利用できる。

   私には、そんな予感がしていた。

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