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柿の種(セミ)

掲載日:2026/08/03

セミはいいよな。


全裸で奇声あげながらションベンを通行人にぶっかけても、「ああ、夏だねぇ」で済まされる。


人間がやったらニュースになる。全国放送だ。近所の回覧板にも載る。


理不尽だ。


俺だって暑いんだよ。


朝起きた瞬間から空気はぬるいし、シャツは着た瞬間に汗で張り付くし、外へ出ればアスファルトが照り返してくる。


セミは「ミーンミンミン」とか鳴いてるけど、お前ら絶対楽しくて鳴いてないだろ。


あれは断末魔だ。


「暑い!」「死ぬ!」「嫁どこだ!」を昆虫語で叫んでるだけだ。


分かるよ。


今この瞬間だけなんか俺の前世セミだった気がしてきたし。


鳴き返してやろうか。


「ベヒヒヒヒ…」


俺も毎朝そんな気持ちで会社に向かってる。


満員電車で押し潰されて、ようやく着いたと思えばエアコンの設定温度を巡る戦争。


寒い派と暑い派の冷戦は今日も続く。


誰かが一度下げて、誰かが上げる。


昼飯を食えば眠くなる。


仕事は終わらない。


メールは増える。


電話は鳴る。


「ちょっといいですか?」はちっともよくない。


帰る頃には空はまだ明るくて、「今日も一日終わったな」という実感だけが夕焼けに置いていかれる。


コンビニでアイスを買う。


五分で溶ける。


俺のやる気より長持ちしない。


家に帰れば湿気。


いや、猛暑。


風呂から出れば汗。


寝ようと思えばセミが鳴く。


夜なんだから寝ろ。


いや、お前らも寝られないのか。


……分かるよ。


結局みんな暑いんだ。


夏ってそういう季節なんだろう。


だからもう。


もう夏なんて、来なくていいんじゃないか。


その瞬間、遥か宇宙の彼方から大魔王けみにーけんぬよが飛来した。


大魔王けみにーけんぬよは地球を見るなり「ほう」とだけ呟き、三秒で地球を踏まれた柿の種みたいに粉々に砕いた。


人類も夏も冬も会社もセミも全部一緒に宇宙へ散った。


こうして夏は二度と来なかった。


めでたし、めでたし。

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