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7.お預けをくらう



「ユウマ、待ってくれ。近過ぎる」


 いいや待たない。年頃の想い合う男女……いや男二人。自分達以外には誰もいない密室で、やるコトと言えば一つしかない。


「同性同士の婚姻は、『転性の儀』が完了しなければ出来ないそうで」

「……どこでそれを」

「もっぱら最近の俺は本の虫ですからねぇー……フラミス様は、俺たちが儀を執り行えるようになるまで最長一年間毎晩。性交する必要があると言ってました」

「……」


 シュルツの目が泳ぐ。彼もきっと、フラミスから同じ話を聞いてはいるのだろう。


「なら今からでも準備をすべきでは?」

「っ〜〜、い、いや、駄目だ」


 そう言ってシュルツは上に跨る俺の体をひょいと抱えあげると、後ろ向きに自身の膝の上へと乗せる。


 背にがっしりと、筋肉に覆われた肉体の感触。腕の中に囲うよう抱えられ、身動きが取れなかった。

 クソっ。悪くない体勢ではあるものの、これじゃあ何も出来やしない。


「……ユウマの言うことは最もだ。だが私は、お前のことをもっと時間をかけて大事にしていきたい。勢い任せに事を進めたくないんだ」


 何とも初々しく、背のくすぐったくなるような台詞だ。しかし背後から響く低い声色は真剣で、仕方なしに自身の胸の内で膨らんでいた期待を押し殺す。あーあ朝からこれを楽しみにしてたのに。


「なら、これから二人で何をします?」

「二週間後の件、アリエスのことについて話そう」


 色気がない。まあしかし、話さなければいけない内容なのは確かだ。


「シュルツ様とアリエス様は、幼少からの付き合いと伺いました」

「そうだな。元々ゼルフィは我が国の友好国ではあるが、私とアリエスの父、先王同士は特に仲が良かった。良く互いの親に連れられて、親交を深めたものだ」


 振り向くと、シュルツはどこか遠い目をしている。その顔色はあまり芳しくない。


「お二人自身の、仲は」

「彼は私を良き友人だと言う。私も……そう同じく思っては、いるのだが」


 歯切れの悪い物言いの後、彼はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。


「アリエスは自由奔放な性格で、特に私達兄弟の前ではそうなる。正直、私は彼のそういう側面があまり得意でない」

「……ハラルドさんから、以前シュルツ様が彼と縁談を組まされそうになり、何なら衆目環視の城内でアリエス様に押し倒されたと聞いたんですが本当ですか」

「本当だ」


 自由過ぎるだろ。

 先ほどからずっと渋い顔をしているシュルツを前に、いくばくか考えた後、口を開く。


「……アリエス様は、名目上『農作物の関税の見直し』でこの国を訪れるんですよね」

「ああ。とはいえ私信にて既に取り決めは済んでいる。後は書面での合意だけだ」

「それが終わった後は俺とシュルツ様、アリエス様の三人で食事会と……これは、少々リスクの高い賭けにはなるのですが」

「なんだ」


「シュルツ様抜きで、俺とアリエス様の二人で話し合いをするのは、どうでしょうか」


 自身を抱く腕の力がぎゅうと強まった。


「良い筈がないだろう」

「まあ、あまり現実的ではないですよね」

「お前とアリエスを二人きりになど出来るか」

「あそっちか……でもシュルツ様。それを言ったら俺だって同じ気持ちですよ」


 シュルツの手の甲に、自らの手のひらを重ねて言う。


「食事会はともかく、その前の会談は二人で行われるのでしょう」

「それは、仕方ないだろう」

「ええ。でもどうやらアリエス様は、体格の良い年下の美丈夫に目がないのだとか」


 するすると、くすぐるようシュルツの手の甲を指先でなぞった。


「私とアリエスの間に、万が一のことなどない」

「押し倒されたんですよね?」

「…………」

「……まあそれだけでなく。シュルツ様はその日、別の用があると聞きました」

「そちらはキャンセルする予定だ」

「いけません。弟のエクス様に関わることなのでしょう」

「……ハラルドから聞いたな」

「長い時間を要するものでないと。シュルツ様、どうかあなたが不在の間の名代を、俺に務めさせてください」


 自分でも、非常識なことを言ってるのは理解している。しかしこの奇策は見た目のリスク以上に、どう転んでも一定のリターンがある。


 ハラルドには断固反対されるだろうが、この件についてはただ、シュルツの首を縦に振らせさえすれば良い。


「シュルツ様……」


 我ながらぞっとしない上目遣いで、背後にあるシュルツの胸板にすり寄るよう持たれかかる。がっしりと逞しい筋肉に覆われた体が、びくりと小さく跳ねた。



「お願いを聞いて頂けない場合、フラミス様の調合した高濃度の媚薬をあなたの食事に仕込みます」


 今しがた思いついた脅し文句だ。しかしシュルツには効果覿面だったのだろう。青灰色の瞳を見開いた後、その眉根がヴェイルセルの城から遠く臨む山岳の如く、険しく寄った。

 


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