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6.頑張りますか



 恋って素晴らしい。

 俺ことカネナリユウマは、年甲斐もなく盛大に浮かれたまま、目の前の筆記版に無数の文字を書き連ねていた。


「……ユウマ様、ここの綴りが間違っています」

「おっと」


 ありがとうリオナ。そう礼を述べると、リオナは青色の瞳をぱちりと瞬かせ、次いで年相応の、はにかむよう微笑みを見せた。


 ヴァリエ王国第一王子。シュルツ・ヴァリエ・ローエン。彼と想いを確かめ合った日から数日、自身は引き続きこの世界に慣れるための勉学に励んでいた。


 目下の課題は言語である。一応、異世界召喚の恩恵か普段使用する話し言葉や、この世界の共通文字は一通り頭の中に入っていた。


 しかし、この世界の王族貴族は正式な文書をしたためる際「古レムール語」という特殊な言語を用いる。元いた世界でいうラテン語と似たようなものか。

 

 ついでにこれもインプットしてくれれば良いものを、全くもって気が利かない。誰に文句を言えば良いかも分からぬまま、その他貴族の一般教養と合わせ、こうしてリオナから教えを請うている。


「ユウマ様はとても物覚えが良い。元いた世界で、学者か聖職者様をされてたのでしょうか」

「そんな大層なものじゃないよ。学校を卒業してからは、親の小さな会社……店を引き継いで商いをしてた」

「なるほど、それで読み書きや算術の心得があるのですね」


 まあその仕事については途中で人に丸投げし、つい最近までぶらぶらしていた身なのだが。本当に誇れることではない。


「そういえばユウマ様。魔法のレッスンについて、近日中には手配が出来るそうです」

「本当か! ぜひお願いしたい」

「ええ、これからは座学の時間をいくらか減らして、魔法の訓練もしていきましょう」

「いや時間はこのままでいい」

「えっ」


 リオナの口から、小さく驚きの声が上がる。何かおかしなことを言っただろうか。


「ユウマ様、そのスケジュールですといつか倒れます」

「ああ……根を詰めすぎるつもりはないよ。無理が来そうならすぐに休みを入れる。体を壊したら元も子もないからな」


 半分は本音である。だがもう半分、自身には時間が足りないと感じているのもまた事実だ。


 

 この異世界で、俺はシュルツと共に生きる決意を固めた。第一王子、国政を担う男の伴侶として、自身が覚えなければいけないことは多い。


 直近で重要なのが、おそらく四ヶ月後。建国祭の日に行われる王位継承の儀だ。


 シュルツはああ言っていたが、実際彼が王位継承権の放棄を訴えたところで、周囲がそれを受け入れるとは思えない。少なくともこの短期間で臣下の六割、いや七割の賛同が得られる状況を整えなければ、無用な混乱を招くだけだろう。


 彼は普段、国の政務に打ち込みあまりそういった時間を取ろうとしない。周囲がシュルツの真面目な仕事ぶりを評価しているのは確かだが、今必要なのは信頼を積み上げる日頃の行いでなく、周りへの迅速な根回しだ。その役割を、代わりに自身が担わなければならない。


「隣国のアリエス王がここに来るのは、確か二週間後だっけか」 

「ええ。それまでに一通りの作法と礼節を学べるよう、ハラルド様からスケジュールを組んで頂いてます」


 アリエス・ゼルフィ・グロース。隣国ゼルフィの若き国王であり、この度は百年ぶりに召喚された異世界人の俺を一目見るべく、この国を訪れるとのことだ。


 絶好のチャンスである。ここで上手い事彼とのパイプを繋げられれば、王位継承の件において大きな切り札となるだろう。


「(味方は多ければ多いほど良い。シュルツ……いや、俺の幸福な未来のために、今こそが正念場だ)」


 軽く頬を叩き、気合を入れ直す。

 そうしなければ、また浮かれてしまいそうな己を戒める為だ。



 今夜、シュルツがまた自室を訪れる。

 俺と彼は現状、両想いではあるもののそれをまだ周囲に打ち明けてはいない。


 数日に一度、表向きはお互いの親交を深めるための交流。しかし自身にとっては付き合いたての恋人との逢瀬に他ならず、逸る胸の内を抑えるのに精一杯であった。



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