【番外編】とある男の末路
「全てお前の言う通りにした!」
夜のハイランツァ山の中腹。シェルフ山岳に隣接する其処の山道にて、目の前の男にむけ声を張り上げる。
自らの臣下や領民を使い、警備が手薄なタイミングを狙い他国の王族に刺客を放った。
王国の監視部隊を欺くため。あえて駐在兵の一人を生き残らせて脅し、定期的にのろし火を焚かせ、フレイムリザードの異常繁殖の知らせを遅らせた。
そうして屋敷を出る前、あらかじめ薬を盛って眠らせた邪魔な息子や臣下の者どもを、皆。
国どころか、人類そのものにすら背を向ける利敵行為。自身がその悪魔の所業に手を染めたのは、ひとえに目の前の彼。女神の如く美しいその男ただ一人を手に入れるためであった。
「フォルガイ卿。貴殿の働きは私もしかとこの目で見届けた」
「な、ならば約束通り、私をお前の伴侶として迎えてくれるのだな!? 我が妻として、そなたの美しく芳しい肉体の全てをこの私に委ねてくれると」
「戯言を。お前が仕損じたせいで、私はとんだ要らぬ手間を強いられることになった」
こちらへと振り向く美しい面立ちが、月の光に照らされ仄かに白く輝く。
やはり何度見ても美しいと、そう思った。
我が国の色呆けた年増の王と違い、その瑞々しい若さの何と眩いことか!
全てはあの男が悪いのだ。私にあんな色目を使っておいて、いざその気になったこちらが夜半忍び込めば途端騒ぎ立て、我が領地を不当に奪い去りおった。
私はただ、あの悪辣な王に騙された純粋な被害者にすぎない。だというのに、私をよってたかって責め立てた無能な臣下どもめ。
特に息子は最悪だった。大して気立ても容色も良くない、年増男の妻に生き写しの見目をした冴えない小者。私から当主の座を奪い、あまつさえ寂れた田舎の屋敷にこの父を追いやろうとした。
どいつもこいつも皆、恥知らずの恩知らずだ。そんな絶望の最中、ただ目の前の男だけが私を理解し手を差し伸べてくれた。だからこそ、己は悪魔に魂を売り渡しここまでやってきたのだ。ああ、だというのに。
「お前も……お前も私を裏切るのか! この売女め!」
「その薄汚い口を閉じろ。自らの行いを顧みることもせず、裏切りなどとよくもそんな言葉を人前で抜かせたものだ。……だが、まあいい」
男が一つ指を鳴らす。途端、自身の腹に焼けるような熱と共に激痛が走った。
「ッ、ギャぁあああああ!!!!」
「亡き妻や息子と同じ場所に逝けると思うなよ? 想像の中だけにせよ、お前のような醜男がこの私を後妻にしようなどと思い上がったその罪を、未来永劫地の底で贖い続けるがいい」
生きながら体を食われる痛みと苦しみ。いつの間にか背後ににじり寄っていた魔物が、自身の肉に齧り付き腸を食らう。
「……ふむ、さすがフラミスからくすねた品だ。グリフォンだけでなく、フレイムリザード相手にも良く効く」
男はそう口にした後、華美な短杖を構えて呪文を詠唱する。そうだ、早く私を助けろこの愚図が。
「何を勘違いしてるのか知らんが、お前を楽に死なせてやる気など微塵もない。私は優秀故にな、緊急治療の魔法も使えるのだ。その身に無駄に溜め込んだ肉をもって、せいぜい永く魔物の腹を満たしてやるといい」




