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47. 花女神への祝福



 ナルシスの訪問から数時間の後、俺とシュルツはアリエスの邸を訪れた。


「わが王国内において、ヴァリエのシュルツ王子が害される事態を容認してしまったのは王たる俺の責だ。改めてここに謝罪する」


 そう言って深く頭を下げるアリエスに、俺は慌てて言葉を紡ぐ。


「い、いえ! 結果的にはシュルツ様も無事でしたし、何よりあの時は非常事態でしたからアリエス陛下がお気に病むことじゃ」

「アリエス。招かれたユウマの事ならともかく、私の事でお前が責任を感じることはない……下手人の身元は割れたか?」

「ああ……嘆かわしい事に、皆我が国の民であった。いずれもグロースに隣接するポーネン領の出だ。関所の記録もある」


 アリエスは眉間の皺を揉みながら、手に持った書類を机に広げる。


「……随分と小さな領地だな」

「あー……まあ、色々とあって。近々取り潰す予定だったんだが、ホントしてやられたなぁ」

「身柄は確保したのか」

「当主は現在も逃走中……彼の息子と、臣下は兵を差し向けた時にはもう」


 アリエスのしばしの無言に、俺たちもまた事の顛末を察する。なんだか前にも、こう言う血生臭い出来事があったなぁ。


「……誰かの差し金か」

「そう考えるのが妥当だろう。ゼルフィでも引き続き調査を進めるが、今回叔父上、フラミス殿にも協力を依頼している。俺の庭内でここまで好き放題してくれたんだ、必ず尻尾を掴んでやるさ」


 いや本当、ぜひともお願いします。

 

 マンティコア討伐の際はいまいち実感が湧かなかったが。俺とシュルツは、間違いなく自身の命を狙われる立場にあるのだと改めて自覚した。これも王位継承を先延ばしにしている影響なのだろうか。


「……アリエス陛下。この後のことでお話が」

「ああ、国に戻るにせよここに滞在するにせよ。貴殿らには身元の確かな護衛を数人付けるとしよう。ゼルフィに居る間は、我が国の威信をかけ必ずやユウマ殿とシュルツ王子の身の安全を保証する」


 あ、すみません陛下。そこまで仰々しい話ではなくて……。


「……この度の祝祭は、安全を鑑みて来賓として参加させて頂きたく」

「それが良いだろう」

「あとはアリエラ様の誕生日祭も、何かがあってはいけないので、今回は参加を辞退させて頂きたく存じます」


 その言葉に、アリエスがやや複雑そうな表情を浮かべる。いや、俺も参加したいのは山々ですよ。でもあの愛らしく幼い子供を、万が一にも血生臭い出来事に巻き込むなど決してあってはならない。


「……承知した。貴殿の心遣いに感謝する。シュルツもそれで良いんだな?」

「ああ」

「うーん……じゃあ、よし。ちょっと待っていてくれ」


 そう言ってアリエスは側付きの者を呼び寄せ耳打ちする。そこから十数分、彼の膝にはふわふわとした赤毛の愛らしい少女、アリエラがちょんと座っていた。


「ゆーしゃさま!」

「おお、もうユウマの名前を覚えたのか」


 思いっきり間違えてるんだよなぁ。しかし膝の上の我が子を見つめるアリエスの目は、親の慈愛に満ち溢れている。とても水を差す雰囲気ではなかった。


「アリエラ。この二人は今日、ゼルフィの山に住む悪いグリフォンをなんと6体も倒してみせたのだ」

「ぐりふぉん……マルタのよむえほんにでてきました」

「そう、ヴァリエの勇者も倒したというあの魔物だ。この勇者二人が、今日おまえの誕生日を祝ってくれるんだよ」

「ははうえ、アリエラのたんじょうびは今日じゃありません」

「ふふ、そうだな。でも今年は特別。なんとアリエラの誕生日会を二回もやるんだからな!」


 アリエスの言葉に、幼い少女の顔がみるみると明るくなる。


「……という訳でだ、付き合ってくれるかい? お二方ども」


 悪戯げな笑みをこちらに向け、アリエスはそう言って腕の中の子供を抱きしめた。

 

 おいおい、いきなり決まっていきなり始まるなぁ。


 だが俺としては特段、異論はなかった。唯一隣に座るシュルツは流れについて行けないのだろう。困惑した表情をその顔に浮かべていたが、俺が軽く小突くと青灰色の瞳に諦めの色を浮かべ、一つ首を縦に振った。

 


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