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46. 恋は燃えるもの



 応接室に着いて数分。自身の目の前には、花女神もかくやの麗しき美少年ナルシスが、神妙な面持ちで来客用の椅子に腰掛けていた。


 ナルシス・ペーリエ。フラミスの末子だという彼と会うのは、何だかんだこれで4度目になるだろうか。


「あれ? アドニスさんは何処に?」

「なぜそこでアドニスの名前が出てくるのです」


 ごめん「保護者どこ?」とつい同じノリで聞いてしまった。何せ彼とまともに一対一で話す機会は、これが初めてになるのだから。


「今日はどういった用件で」

「まずは、今までの非礼に対するお詫びを。戦場で、ユウマ殿が落馬した私を助けて下さったのだと周りから聞きました。貴方にはこれまで散々と無礼を働いた身にも関わらず、私めに慈悲と情けをかけ、命を救って頂きありがとうございます」


 そう言うとナルシスはその白金色の整えられた前髪を揺らし、深く頭を下げる。意外だ。傍若無人な子供と思いきや、こうして礼節を弁える一面もあるのか。


「いや、そんなに畏まらないでくださいナルシスさん。俺はただ人として当然のことをしたまでです。それより、怪我の方はもう大丈夫ですか?」

「ああ、俺の母……フラミスが傷の治療をしたため、今はすっかり元通りです」

「フラミスさんが此処に?」


 あれ。フラミスは確か実家と絶縁中で、自由にこちらに来れないからこそ末子の様子を見るよう俺に頼んでた筈じゃ。


「今回はアリエス陛下の要請で、正式にこちらに来る事になったそうです。ああ、もう一つの用件ですが、ユウマ殿、シュルツ様に今日の夕方邸に来るようにと、アリエス陛下から言伝を預かっています」


 ちょっ……ちょっと待って、そっちが一番重要な用件じゃない??


「とは言え、昨日の今日ですから。陛下もお二方の都合が合わねば日を改めよとおっしゃっていました」

「いやそんな、も、勿論行きますとも。陛下にもそうお伝え下さい」

「承知しました。では最後手短に……ユウマ殿、改めてこの度は誠にありがとうございました。貴方に救われたこの命、今後必ずやヴァリエとゼルフィ両国の為に役立たせて頂きます」


 ナルシスは再び自身に一礼した。何だか仰々しいな。今までの彼の、年相応の自由な振る舞いと言動を思い起こすと、少し物寂しい心地すら覚える。

 

「後、どうかシュルツ殿下にもよろしくお伝えください。ユウマ殿を第一の伴侶とし、俺はいずれ第二夫人として貴方のお側にお仕えさせて頂ければと……」


 前言撤回。表に出ろクソガキ。


「ナ、ナルシス様! 誠に恐れながら、ユウマ様は朝から少し気分がすぐれぬ様子……夕方の謁見のこともありますし、ここは一つ」

「ああ……そうですね。急な来訪にも関わらず、本日は時間を取って頂きありがとうございました。それでは俺はこれにて」


 そう言って、ナルシスはリオナに促されるまま応接室を後にする。

 くそぅ、不意打ちの戦線布告に、大人気なく本気でキレそうになってしまった……それにしても諦めの悪い子供だ。


「失礼します」


 次いでロミアスが部屋に入ってくる。そうして早々、俺に対して深く頭を下げると共に謝罪した。


「重ね重ね、弟がとんだ失礼を致しました」

「ああ、いや。ロミアスさんが謝ることじゃ……子供の言う事です。俺も、いい加減慣れなければいけませんね」


 俺の言葉に、ロミアスはその目を柔らかく細めた後、言葉を紡ぐ。


「ユウマ様は本当にお優しい……誠、皆がそうであれば別の道もあったのでしょうが」

「ロミアスさん?」

「弟は希少な天の魔力を持つゆえ、本人も周りもその才に振り回されてきました。ユウマ様のよう、彼をただ一人の子供として扱って頂けるその事が、私どもにとってはとても有り難く思えるのです」


 うーん。良く分からないが、ナルシス自身やその周りも色々苦労してきたんだな。


「……まあ、それでもシュルツ様は渡しませんし、分けてやる気もありませんがね」

「ぜひそのように。……私からナルシスに言って聞かせるのも父上、フラミスに禁じられておりますので」

「そうなんですか?」

「父曰く、『恋』は周りから禁じられ反対されるほど燃えるそうです」


 何故か説得力があるなと思った。

 そういえばフラミスの姓、ペーリエは元々ヴァリエの弱小貴族で、本来彼が輿入れするには到底釣り合わない家柄だったのだとか。


 ……これ以上、深く考えるのはやめよう。

 そう思いながら、俺は未だ痛む自身の腰をさすった。


 

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