44. 抱いてダーリン
正直にぶっちゃけると、今俺は目の前の伴侶に抱かれたくて抱かれたくて、ただ仕方がなかった。
ロミアスがかつて、戦場では戦いの後に昂る者が多いと口にしていたが、どうやら自身もその一人であったようだ。さきほどまでのシリアスな空気もなんのその。先程からずっと、俺はシュルツとエッチなことがしたくて堪らない。
もう仲直りは終わったとばかりのこちらの態度に、流石の彼も複雑そうな表情をその顔に浮かべていた。
「……お前の期待に応えてやりたいのは、山々だが。私も少々疲れている」
まあそれは事実なのだろう。ご安心を、そういう時の為の媚薬が……というのも流石に風情がない。いっそ素直に休ませてやりたい気持ちと、抗いがたい欲が拮抗した末、俺の頭に普段なら思い浮かばないであろう妙案が浮かぶ。
「シュルツ様、すこし目を閉じて待っていて頂けますか?」
彼は言われた通り目を瞑る。ハァ……伏せた睫毛の長さもまた美しい……と見惚れそうになるのを堪え、急ぎ準備をする。これはもう、羞恥が追いつく前の時間との勝負だ。
「良いですよ」
数分して、シュルツに目を開けるよう促す。目の前に俺の姿はなく、少し困惑した様子で彼は後ろの、ベッドの方を振り返った。
「え、へへ。ロミアスさんから、話は聞いていると思いますが」
着付けは、もう諦めた。どうせこの後脱ぐのだから構いはしないだろう。
今自身が身につけているのは、ふわふわと軽い素材で出来た薄い白絹。コンテスト用に持ってきたのだろう、シュルツの荷物にあったものの一つだ。
腕と腰には、ホワイトゴールドとでもいうのだろう。白っぽく艶の抑えられた貴金属と、果物と葉を宝石で模した可憐かつ華美な装飾品。
そうして頭には、兎の耳を模った同じく白金の材質の髪飾り。元の世界でいうカチューシャに近い作りで、自身でも簡単に身に付けることが出来た。
フェリペの邸において辱め……比較的健全な意味でのそれを受けた際、纏っていた衣装だ。白絹は先日着ていた厚手のものや透けるものと違い、こちらは柔らかいシルエットで体の線を丸く優美に見せる。改めて33歳のおっさんが身に纏って良いものではないなと、頭の片隅の冷静な部分が告げた。
この場違いな装いに、萎えるのならば素直に寝かせてやるもよし。しかし俺のやる気と献身を汲んで、少しでもその気になって貰えれば御の字というつもりで突発的に出た奇行……いや行動。
シュルツはしばし固まっていたが。やがておずおずとこちらに歩み出て隣に腰掛け、そうして俺の体を抱きしめた。昂る欲が、間近に感じる男の体温でより熱く滾るのを感じた。だ、抱いてぇ。いますぐに。広義の意味ですでに抱かれているのは一旦隅に置いておく。
「……どうして」
低く掠れたシュルツの声が、耳元にかかる。
「どうしてそんなにも、可愛らしいことを……」
あともう一押しで落ちるなと。33年生きた長年の勘が告げる。
「似合ってますか?」
「とても似合ってる……なあ、ユウマ。私はもうこの間のよう、お前に無理をさせたくないんだ。あまり私を煽らないでくれ。今日疲れているのは本当だが、それ以上に気も昂っている」
なんだ、シュルツも俺と同じだったのかと。少し嬉しい気持ちになる。ならば尚更、遠慮する理由はどこにもない筈だ。
こちらを抱く男の手をとり、そのまま自身の頬に当てさせる。上目遣いにシュルツの方を見つめると、その身体が見るからに大きく強張った。
そんな伴侶の愛らしい反応を前に、俺は微かに笑い声を上げた後、言葉を紡いだ。
「今日は一度と言わず何度でも……貴方の気の済むようになさってください、シュルツさま」




