43. 成すべきこと
「どうして自ら危険に飛び込むような真似をした」
賊に襲撃され、弟に連行されるまま魔物との過酷な戦闘を強いられ、その顔には明らかな疲労の色が残っていた。それでもなお、言わずにはいれなかったのだろう。
ここはグロリース湖の自身らに与えられた別邸。あの後シェルフ山岳から離脱した俺達は、疾馬でこの地に戻り、諸々の連絡や報告を済ませた後に邸へと帰還した。
シュルツの問いに、俺はふいと顔を背けぼそぼそと呟く。
「シュルツさまはぁ〜……見てらっしゃらなかったんですかぁ。俺がグリフォン6体を爆殺する光景」
「そ……それとこれとは、話が別だ」
流石に彼も言葉に詰まった様子だった。
まあ、あれはダミアンとロミアスらの援護があってこそ成り立つパワープレイといえる。
敵の攻撃を一切気にせず、詠唱と共に魔力を練り上げグリフォンの急所めがけ魔法を撃ち込む。
これが「知能持ち」ならそう簡単には行かなかったろうが、通常の魔物であれば行動パターンは分かりやすい。先読みし、時に短杖の蔦魔法で動きを封じ、一体一体確実に仕留めた。
途中、兵士の一人がまるで魔王か何かを見るかの様な目でこちらを見ていたのを思い出す。全くもって心外でだ。
「それにロミアスさんも言ってたでしょう。どちらの命が狙われるやもしれぬ状況で、戦力を分散させるのは得策でない。結果それで上手くいったのですから、俺が責められる道理はありませ……」
ふとシュルツの顔を振り返り、ひゅっと息を呑む。か、顔怖ぁ。
しかし彼は、しばらくして大きく息を吐くと、自身の相貌を片手で覆い呟いた。
「そんなことは、私とて分かっている。分かっているのだ……」
葛藤に苛まれるシュルツの様子。その姿は、自身も今までに何度か覚えのあるものだった。
ああ、あの時彼は俺に、一体どんな言葉をかけてくれたか。
「シュルツ様」
俺はシュルツの方へと進み寄り、その背に腕を回す。拒絶することなく、こちらを受け入れる彼の身をぎゅうと抱きしめ言葉を紡いだ。
「貴方が襲われ行方不明になったと聞いて、シュルツ様の顔を一目見るまでずっと、血の気の引く心地で時を過ごしておりました」
「…………」
「俺だってシュルツ様のことをもう一時も離したくない。貴方の指先から心臓まで、全部俺のものなんです。勝手に居なくなられては困ります」
「……ユウマ」
シュルツの声が目に見えて柔らかく解ける。ああ、本当にチョロい。何だかんだで、俺たちは似た者同士だったのだと今日初めて実感する。
「ずっと、シュルツ様は俺のおそばに居てください」
「ああ」
「ふふ。ではまず、今俺たちが成すべきことを果たしましょうか」
その言葉に、シュルツが微かに首を傾げる。
「成すべきこと」
「……転性の儀のことをお忘れですか、殿下? 少し日が空いてしまいましたが、準備は抜かりありませんので。さぁ♡」




