39. エクスとシュルツ
「ロクな供一人付けぬとは感心しないな、兄上殿」
風になびく目の前の金色の髪を眺めながら、自身は口を開く。
「……何も殺すことは無かった筈だ」
「相変わらずお優しいことで」
「違う。生け捕りにした上で口を割らせねば、誰の差し金かも分からぬだろう」
アリエスの元から戻る途中。自身と護衛は数人のならず者に囲まれ、命を狙われた。
護衛は勇敢に立ち向かったものの、途中自身を刺客の攻撃から庇い重傷を負った。私も二人ほど切り捨て、疲労の中それでもあと一人と、自らの剣を構え直した所だった。
突如頭上から現れた男が、風の魔法で下手人共の体を文字通りズタズタに引き裂いたのだ。地面に倒れ伏しながらも、いまだこちらを狙っていたのだろう。短剣を構えていた賊の手が吹き飛び、ついで首を切断される。
文字通り、その場はまさしく地獄絵図のような様へと化した。血の海に沈む、死にていの護衛を横目にふんと鼻を鳴らしながら、その男は私の手を引き、瞬馬の後ろへと自身を乗せ空に飛び立った。
男の名はエクス・ヴァリエ・ランバル。私の腹違いの兄弟にして、ヴァリエの王たるに相応しき自慢の弟。そうであった筈だ。しかし。
「なぜここに。お前はフォルツァ山岳のグリフォン討伐に出向いていた筈じゃ」
「グリフォンの個体数が思いの外多くてね、二十数体の群れがシェルフ山岳の山頂へと逃れた。それで急ぎアリエス国王陛下の元にご報告に馳せ参じた次第だ」
「……入れ違いであったか」
アリエスからは何も言われなかったが。まあ、彼の考えることは私にも分かりかねる。それよりも。
「シェルフ山岳に向かうか」
「ああ、アリエスから討伐の許可を得ている」
「何故私を伴う」
「うかつに兄上殿を放置し、もし死なれでもしたら目覚めが悪いからなぁ。この非常事態が落ち着くまでは私の傍にいると良い、シュルツ兄上」
そう笑うエクスの表情を、こちらから伺うことは出来ない。
ゼルフィ王国グロース領上空。瞬馬は、疾馬の三倍の速さで空を駆ける。
腕輪の刻印には、先ほどから魔力を通し続けている。今の所、自身の命に危険はないと皆に伝えなければ。
「ユウマ……」
彼のそばにはダミアンとロミアスが着いてる。どうか間違っても、彼らの側から離れて無茶はしてくれるなと。そんな祈りを天の神に捧げつつ、弟の駆る瞬馬に揺られ、自身の身は死の山岳へと運ばれていった。




