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38. 麗しのナルシス



 ああ癒された。


 正直やや億劫であったグロース邸への訪問だったが、あの愛らしい子供と親交を深められたのは良い息抜きになった。シュルツもすっかりアリエラ姫に懐かれた様で、慣れない子供遊びに翻弄している様も微笑ましく思えた。


「アリエスから至急の連絡が入った。ユウマは先に邸へ戻っていてくれ」


 そう心なしげんなりした顔で、シュルツはグロース邸を後にした。俺も次いで邸を出る。別れ際の、今にも泣きだしそうな顔でこちらを見るアリエラの顔が忘れられない。ごめんねお姫様、たぶん三日後また会えるからね。


 俺たちが滞在する邸への道中。二人の少年が自身らの前に立ち塞がる。


「……ナルシス」

「お久しぶりです、ロミアス兄上」

「ユウマ様はこれから邸に戻られる。道を空けよ」


 目の前にいるのは、白金の髪を肩まで伸ばした絶世の美少年。ナルシスの姿だ。その隣にいるのはグロースの三男アドニスか。


「そういう訳には参りません、兄上。俺はユウマ殿に用があるのですから」


 え? 俺? そう驚いていると、ナルシスはふんとその小さな鼻を鳴らして、こちらを向く。

 

「自己紹介が遅れましたね、ユウマ殿。我が名はナルシス・ペーリエ。宮廷魔法使いフラミスの息子にして、貴方と同じく『天』の魔力を持つ者です」


 天の属性。異世界に召喚された人間か、この世界でもごく一握りの人間しか持ち得ない希少な魔法属性だ。

 そうか、理屈上は俺以外に一人や二人いてもおかしくないのか。


「ユウマ殿。スーデンでの武勇はかねがね伺っております。俺は貴方に手合わせを申し入れたい。そうして勝った暁にはシュルツ様を……」


 そこまで言いかけて、突如ナルシスの足元から植物の蔦が伸び、彼の口を塞ぐ。唖然として隣を見ると、アドニスが地面に杖を向けて、ナルシスの方を大層呆れた目で見ていた。


「やっぱり付いてきて正解だ。ユウマ様、皆様方。この場をお騒がせたしたことを、お詫びいたします。彼の言ったことは、どうか聞かなかったことにして頂ければと」


 そう言って杖を振ると、蔦が地面から抜け出てナルシスの体を這い、口は塞いだままその両腕も後ろ手に拘束した。むー! と抗議するナルシスを他所目に、手の端の余った蔦を握りしめ、アドニスは彼を連行するようその場を去った。


「ユウマ様、私の弟めがとんだ失礼を」

「さっきの魔法便利そうだなぁ……」

「あ、ええ。……今のは水と土の複合魔法ですね。アドニス様が得意にされている分野です」


 地面からしゅるしゅるっと蔦伸ばして、それを自在に操るんだぜ? カッコ良いなぁ。そんな少年心に突き動かされるまま、自分も覚えてみたいとロミアスに頼み込む。


「ユウマ様。私の属性は『風』のため、以前火や土の魔法を教えた時と同じよう、呪文のみしかお伝え出来ませんがよろしいですか?」

「それで大丈夫です。あとは自分で練習しますから」


 戦闘魔法が使えなくなり、あれから一度も魔法の練習をしていなかったのを思い出す。

 フラミスは時間が解決するやもと言っていたが、ここに来てそろそろ一週間以上が経つ。リハビリを始めるにもちょうど良い頃合いだろう。


「ユウマ様は勉強熱心ですね」


 リオナが感心したように言う。


「そういえばリオナの属性は『水』だっけか。使えるんじゃないか?」

「あー俺は土の魔法をほとんど訓練したことがなく、からっきしで……」

「ならちょうど良い機会です。貴方もユウマ様と共に励んでみてはどうでしょう」

「えええ」

「リオナ」

「う、ダミアン様まで」


 多勢に無勢の状況に、リオナは一つ唸ったのちがくりと俯いた。なんか悪いな。でもまあ皆が言うよう良い機会ではあると思う。一緒に頑張ろう。


 

 その後俺たちは帰路へと着き、中庭でリオナと共に魔法の練習をする。

 俺は一時間ほどで習得できたが、リオナの方は本人も言うようからっきしであった。落ち込む彼に、代わりにフラミスから教わった花弁を出す魔法を教えると、微かな苦笑いを浮かべつつもそちらの練習にとりかかる。


 そうして、ただただ四人平和に過ごす時間も。そう長くは続かなかった。


 ダミアンの腕に刻まれた伝達の魔法により、届いた知らせ。

 

 それはアリエスの元からこの邸に戻る道中、シュルツが何者かに襲われた後に攫われ、現在行方不明だというものだった。



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