31. 良かったな
ロミアスと顔を合わせるのが、気まずい。流石に昨晩のことを、無かったことのように振る舞えるほど自身のスルースキルは高くないからだ。
そんな俺の心境を悟ってくれたのか、翌朝部屋を訪れたロミアスは開口一番、謝罪の後に二人の間の事情を俺に説明してくれた。
「昨晩はユウマ様のそばに居れず、また見苦しい姿を晒してしまい誠に申し訳ございません。フェリペ殿下と私は、魔物討伐で幾度か顔を合わせる内に懇ろの仲となりまして、時折フェリペ殿下の方からああいった戯れがあるのです。どうかお許しを」
「ねんごろ……つまりは恋仲ってことですか?」
「まさか! 戦場においては、命のやり取りを経て昂る御仁の多いこと。女や男娼を伴うこともないので、あくまで私など殿下にとって、その代わりにしか過ぎません」
生々しいな事情が。それにしても、昨日のフェリペの言動を見るにそんな関係性には見えなかったが……流石にこれ以上は踏み込まない方が良いだろうか。
「そうですか……すみません、俺知らなくて。昨日ロミアスさんが体調が悪いと言った時に、休むよう言っていれば」
「ああ、本当にお気になさらずとも良いのです。あの時は私も、年甲斐のない真似をして申し訳ありませんでした」
そう言って、ロミアスはその顔に普段通りの笑みを浮かべる。
……うーん。リオナぐらい分かりやすければ話が早いのだが。ロミアスはどうもダミアンに次いで、その感情が読みづらい。恐らく俺の失態に思う所はあるだろうに、それを覆い隠されてしまえば埋め合わせのしようもなかった。
「……あ! そうだ。話は変わりますが、昨日俺が着せられた宝飾を初め、いくらか品を譲り受けたんです」
そう言って、部屋の隅にある袋を指差す。今朝、フェリペの邸を出る際に使用人から渡されたものだ。
「ああ、セレニケ様も受け取りを拒否されましたからね……」
「さっき中を見たのですが、ロミアスさんに似合いそうなものがあったので、良ければお譲りします」
俺は袋の方へと歩み寄り、目当てのものを取り出す。そう、これこれ。
「この布地の青、ロミアスさんの目の色に似てるなと思って。とてもお似合いになると思います。散りばめた宝石の色も良いアクセントになっていて……」
「ユウマ様」
薄手の淡く青い絹布を幾重にも重ね、赤、白、黄の三色の宝石を散りばめた優美な帯をロミアスに向けてかざす。彼の笑顔が、微かに引き攣っていた。え、あれか。お下がりの更にお下がりは普通に嫌だったか。
「す、すみませんやっぱり大丈夫です……あ、そういえば帯はもう新調してますね。気が利かず失礼を、とてもロミアスさんに似合って……」
「私めに気を遣ってくださる、ユウマ様のお優しさはまこと心に痛み入ります。ですがええ……私の気持ちの慰みになるのは、主たるユウマ様とシュルツ殿下が仲睦まじくあること。ただそれだけに御座います」
なんで急にシュルツの名が?
「ユウマ様こそ、先日の兎を模した身飾りは大層愛らしくお似合いで。ぜひシュルツ殿下にも見て頂くのがよろしいでしょう。私の方から、王城のものに伝達を送ります。ああ、ついでに白絹も昨晩の厚手のものでなく、より相応しいものを用意させましょう」
う、うわあ! やめろロミアス! しかしそう薄ら笑いで語る彼の声色はどこか愉しげに見えなくもない。これでロミアスの中の、俺に対する鬱憤が少しでも晴れるなら甘んじて受け入れる方が良いのか?
「おねがい、します……」
「ではその様に」
そう言ってロミアスは一つ礼をした後、部屋を下がる。入れ替わりではいってきたリオナが、後ろをしばらく気にした様に言葉を紡ぐ。
「ユウマ様、昨晩は一体何があったのです? ロミアス様もダミアン様も、何も教えてくれなくて」
「……リオナ、お前昨日あの場に居なくて本当に良かったな」
もしあそこにリオナが居たら、間違いなく俺より見栄えのする着せ替え人形として弄ばれていたことだろう。
俺の顔色を見て、リオナもいよいよ察したのだろう。その幼さの残る面立ちに気まずそうな色を浮かべ、ただ沈黙した。




