30. ロミアスとフェリペ
「おお! 中々見れる顔になったじゃないか」
フェリペがそう言って歓声をあげる。うう、今自分どんな姿になっているか。鏡がないため確かめる術もないが、何だか無性に気恥ずかしい。
引き続きフェリペの邸の談話室にて、俺は他国の王族二人の着せ替え人形として弄ばれていた。比喩ではなく、文字通りのそれである。どうしてこうなった。
「しかし派手だなぁ……まぁお前らしくはあるが」
「あの中では一等マシなものを選んだつもりだ。ハナからのお前の見立てが悪い」
確かにフェリペの言うよう、今の俺は赤青緑と多色の宝石を散りばめ、大きな金の蔦と葉を模して造られた豪華な花冠。それに劣らず手首と腰にじゃらじゃらと色とりどりの宝石をあしらった装飾を纏っている。衣装に着られているとはまさにこのことだろう。ああ、恥ずかしい。
こちらを見るロミアスの目が、こころなし憐憫の色を帯びている。そうだよな、お互いに可哀想な状況だよな。これで少しでもお前の気が晴れてくれたら嬉しいよ、俺。
しばらく品評が続いた後、再び控室へと引っ張られる。これが最低、あと3セット続くのだと思うと気が滅入った。
「今度は随分と趣向を変えたな」
「銀の地金に白真珠、小粒の水晶を散りばめた装飾で揃えた。面白みはないが中々に悪くないだろう」
「ああ、先ほどよりもずっと俺好みだ。特に銀の小花をあしらった髪飾りが、お前の黒髪の部分によく映えている。中々似合ってるぜ、ユウマ殿」
「ハハ、どうも……」
もはや引き攣り笑いを浮かべるほかなかった。33歳にもなって何をやっているんだろう。俺は。
「今度は奇をてらってみた。数多の美男美女の中で抜きん出るには、こういった意外性も時には必要だろうよ」
「ハハハハ! 本当に俺が持ってきた宝飾の中にあったのか!? これが……フ、ふふ。兎の耳を模した髪飾り。野いちごを象った宝石の腰紐のアクセントも悪くない。どれ後ろ姿は……ハハハ! 尻尾の装飾まで付いているのか! 随分かわいらしい姿になったじゃないかユウマ殿。持って帰ってシュルツにも見せてやると良い」
もういっそ殺してくれ。
だが、これでようやくあと一つだ。屈辱的な装いを外し、最後に俺が選んだ宝飾を元に、セレニケが選んだ宝飾を身に纏う。表に出ると、フェリペがほうと一つ息を吐いた。
「お前が選んだにしてはずいぶんと見すぼらしい」
「言葉を選びたまえよ、フェリペ。ユウマ殿が選んだ宝飾に合わせようとして、これしか道がなかったのだ。何度も言うが、お前が安物ばかり見立ててくるのが悪い」
ずいぶんと辛辣だが、まあ先ほどまでの絢爛な宝飾と比べれば、彼らの言うことも最もだ。
灰色の絹布に黒の刺繍を施した腰紐。その先には深く暗い色をした青の飾り石が一つぶら下げられている。
セレニケいわく、これは間違えて持ってきた品の一つなのだという。一度談話室まで他の宝飾を取りに戻り、そうして今自身の手首や髪を飾っているのは、いぶし銀にも似た材質の装飾。乳白色の珊瑚玉と青の飾り石を要所にあしらったそれは、王侯貴族の宝飾品というよりは庶民のそれに近い。
まあただ、俺としては先ほどの装いよりずっと、こちらの方が落ち着くのも事実であった。だって根っからの庶民だもの俺。コンテストの本番もこれで良いんじゃなかろうか、衣装に着られる心配もないことだし。
「まあだが……流石に少々見栄えが悪いか」
「いや、俺は気に入った。装飾が控えめな分、本人の容色が際立って好ましいじゃないか。俺の側に寄れ、ユウマ殿。もっとお前の顔を近くで見てみたい」
フェリペの目つきと声色がガラッと変わったのをみて、ぞわぞわと自身の背筋に震えが走った。いや、ちょっと、本当に困る。俺にはシュルツという心に決めた相手がいるのだ。本当に節操がないなこの男。
「フェリペ様」
ロミアスの言葉と共に、今目の前で起きた出来事に思わず「えっ」と呆気にとられた声が漏れた。
「……ハハ。どうしたロミアス、妬いたのか? それとも、もう待ちきれないか」
「…………」
「まあ良い。セレニケ、ユウマ殿。ここらで一旦お開きとしようじゃないか。今日は夜も遅い。部屋を用意してあるから、後で供のものに案内をさせる。ああそれと、衣合わせに使った宝飾は全て持ち帰ると良い。俺たちだけで楽しんだとあっちゃあ、シュルツ王子が黙っちゃいないだろうからな。ハハハ!」
そう上機嫌なまま、フェリペはロミアスの体を片腕でひょいと抱き上げ、颯爽と部屋と去る。残された俺とセレニケ、先ほどからずっと壁際にいるダミアンの3人の間に、一瞬気まずい沈黙が流れる。
「……あの、セレニケ様」
「気にするな、ユウマ殿。いつものことだ」
いつものことなんだ、あれ。衝撃から立ち直れないまま、おずおずと再び口を開く。
「……見間違いでなければ、ロミアスからフェリペ殿下に口付けをしていましたが。その、二人はそういった仲で?」
「知らん。あれとロミアスの考えていることなど、詮索するにも値しない。私はフェリペとの腐れ縁も長く、ロミアスとも戦地で度々顔を合わせることがあるが。当人同士のことだ。ユウマ殿もあまり深入りしない方が良い」
ええー……いや、ええぇ。
そう言われましてもという心境と同時、確かにセレニケの言う通りだと思う自身もいた。
一つ確かに言えるのは。今俺にフェリペとロミアスの後を追い、彼らの真意を問いただす度胸も、そうするだけの無神経さも持ち合わせていないという事実だった。




