29. 淑男の装い
「コンテストで使用するものと似た白絹がある。使い方はわかるか?」
「白絹……ええと、すみません。よく分からなくて」
「セレニケ殿下、ユウマ様のお召し替えは私が」
「無駄だぜロミアス。今俺のそばから離れたら、もう戻ってこないつもりだろう? 俺から逃げられると思うな」
ロミアスが前に乗り出すも、フェリペに抱き止められる。その間にセレニケに腕を引かれ、俺は隣の控室へと連れ込まれた。なんなんだ、さっきから一体。
「あの、何が何やら」
「聞いてないのか? コンテストでは白絹一枚に宝飾を纏うと規定で決まっている」
そう言ってセレニケが一枚の大きな布を広げて見せる。白く滑らかで、見るからに高価そうだ。
「着方も分かるまい。脱げ、私が特別に着付けてやる」
「え、いやそんな悪いです……!」
「悪いと思うなら大人しくしてろ。ふふ、ついでに化粧も施してやろうか。異邦人の顔を弄る機会など、そうそう無いからなぁ」
セレニケが腰に吊るした袋から、いくつかの小瓶と筆を取り出す。マジか。だがよく見れば、彼の麗しい顔にもいくらか艶やかな化粧が施されていた。
「あの、ネーベル王国では珍しくないのですか? 男性が化粧をするというのは」
「ネーベルに限った話ではない。むしろヴァリエやスーデンが異例ともいえよう。王侯貴族の、特に子を産む側はこうして身なりを整えるのが通例だ」
顔に液体を塗された後、粉をはたかれる。
「そ、そうなんですか」
「ただ、アリエス王などの例外もいるにはいる。彼は自らの容姿に絶対の自信がある故、素の顔こそが一番美しいと、公の場でも装うことはない。それを誰も咎めぬのだから、彼の言い分もあながち間違いではないのだろう」
あー言ってそう。確かにアリエスは化粧など必要ないほどに美しいが、成る程。あれがスタンダードだと思ってはいけないのか。
「まあ美しさであれば、私もけして引けはとらぬと思っているが」
おお、中々強気な発言だ。セレニケにはアリエスとまた違った妖艶な魅力がある。きっと良い勝負にはなるのだろう。俺と違って。
「ユウマ殿も中々悪くはない」
心にも無いお世辞はやめてくれよ、惨めさのあまり泣きそうになる。
「異邦人の顔形は我々と異なるというが、成る程。鼻は低く顔立ちも幼い。しかしそれゆえ独特の愛嬌がある。スーデンのゲラン殿がお前に執心していたろう。万人受けこそしないが、一定数には刺さる容姿だ」
ううん、本当にそうかなぁ。確かにシュルツも一目見て俺に惚れたと言っていたけれど。いまいち実感が湧かない。
「……顔はこれで良いだろう。後ろを向け。厚手のものを選んだので、腰布までは変える必要もなかろう」
そう言って慣れた手付きでセレニケが一枚の布を俺に巻きつけていく。この布は白絹と呼ばれ、古レムールの時代の貴族の装いなのだとか。
「白もしくは染色されていない絹であれば、織りや装飾は問わない。前回アリエスは肌の色も透ける白絹を纏いコンテストに参加し、優勝した」
「ウオ……それはまた」
「ユウマ殿の場合は、このぐらい重みのある生地が良かろう。体の線も出にくい。あまり過激な装いをしては、伴侶殿が黙ってはいないだろうからな」
背後から語るセレニケの声は楽しそうだ。腰のあたりで白絹の帯を締め、ついで先ほどみつくろった宝飾のいくらかを机に並べる。
「初めはどれにするか」
「あの……セレニケ様」
「此処にあるのは、あやつが寄越したガラクタの中でもまだいくらかマシなものだ。ユウマ殿の髪色や肌に合うのは……」
セレニケは宝飾の中から髪飾り、腰紐や腕輪をひょいひょいと選り分け、三つの組みに分ける。
「ふむ、もう少し組み合わせが欲しいが致し方ないだろう。フェリペを待たせるのもあまり得策ではない。下手をすれば、もうおっ始めているやも……」
「セレニケ様、実はその。試してみたい宝飾が一つ」
「ん? ああ、良いだろう。申してみよ」
セレニケの言葉に、俺はおずおずと机の端に置いやられた紐飾りを指差した。品を確かめると、彼はニヤリと口角を上げ、目を細めた表情でこちらを見返した。




