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27. 混沌の幕開け



 フェリペ・レムール・ナダグラ。

 新レムール帝国の第四皇子にして、小国ナダグラの国王を兼任する火の魔法の名手だ。


 彼の母はナダグラ王家の最後の王子で、当代レムール皇帝の第三皇妃として輿入れし、フェリペを産んだ。ナダグラは事実上帝国の属領となり、彼も名目上は国王であるものの、政を帝国の臣下に丸投げし大陸各地を回っている。


「レムールは一夫多妻の国だ。俺はここの国の皇子に産まれて幸運だね。世界には星の数だけ美男美女がいるというのに、たった一人きりに絞るたぁ男としての人生半分損してるってもんだ」


 男の俺が聞いても最低の言い分だと思った。


 ゼルフィ王国グロース領。壮麗な湖のほとりに立つ邸の談話室で、俺たち五人は食後の歓談に興じていた。

 参加メンバーは俺とロミアス、ダミアン、フェリペとセレニケの五人。


 レムール産の葡萄酒、ゼルフィ産の新鮮な果肉の汁を加えた穀物酒の水割りと、ネーベル産の蒸留酒。各々好きな飲み物を手に取り、俺は赤葡萄酒をちまちまと口に含みながら、心なし目を伏せフェリペの話に耳を傾ける。


「それにしても酷いじゃねえかセレニケ。お前の為にありったけの宝飾をみつくろったというのに、一目見てうち捨てるなんざ薄情なことだ」

「侮るなフェリペ。ゼルフィの名匠が手がけた一級品ならまだしも、この私にあんな見掛け倒しのガラクタの山を寄越すなど、良い度胸だ」


 部屋の隅にうずたかく積まれた金銀宝石の装飾を横目に、セレニケはふんと一つ鼻を鳴らした。


 ネーベル王国の王子セレニケ。緩やかなウェーブを描く薄紫がかった銀色の髪に、紫水晶の瞳を持つ極上の美男子である。

 フェリペはどうやらこの麗しき第三王子を自らの伴侶に迎えるべく御執心のようで、事あるごとに「俺の第二夫人に」とセレニケを口説いている。


 いや、百歩譲ってなぜ「第一夫人」ではないのか。

 俺の知る範囲で、フェリペ皇子は未婚で定まった相手も居なかったはず。例え口だけでもお前が一番と、そう口説くのがこの世でも常識のはずだ。


 しかしその疑問すらかすむほど、今目の前で繰り広げられる光景は俺の想像をはるかに逸していた。


 

 あの、フェリペ様。側にロミアスを置き、あまつさえその腰を抱いて引き寄せながらなぜ視線の先のセレニケ様を口説いているんです?


 そうしてこの場にいるダミアン。彼の腕の刻印は絶えず剥き出しになっており、時折光り出しては俺の愛しい伴侶の声を発していた。


『ユウマ……これ以上其処に居る必要もあるまい。早くヴァリエに、あ、いや、アリエスの用意した邸に戻ると良い」


 背後からハラルドの叱責の声が響き、再びダミアンの刻印が光を失う。


 ああ、カオスな現状。正直シュルツの言う通り全てを投げ捨て邸に帰ってしまいたいが、流石にこの状況でロミアスを見捨てることも出来ず帰れない。なんだ? これは本当に一体、どういう状況なのだ?

 


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