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3. 異世界ってすごい



 この世界には魔法が存在する。


 魔力を持つ人間のみが扱う奇跡の技は、神からの授かりものとして古来より王侯貴族や有力者に独占されてきたのだとか。


「魔力には、属性による貴賤があります。下から土、水、風、火……」


 おっ、ゲームや漫画でよく見る概念だ。たしか四大元素とか……。


「最後に天」


 知らない概念が来た。


「異世界人はみな天の属性の魔力を持つとされます。ユウマ様もそうですね。人より量は少なめですが、一通りの魔法を扱うには十分でしょう」


 そう語る目の前の男。名はフラミスと言うらしく、ヴァリエ王国の宮廷魔法使いだ。


 年頃は自身と同じに見える。本人いわく結構な歳だそうだが、実際の数字は怖くて聞けない。

 腰まで伸びた美しい白金色の髪に、柔らかな緑の目。中性的な美貌を持つ彼だが、本人曰くシュルツと同い年の子を持つ人の親だとか。ファンタジー世界って怖い。


「……ちなみに天の属性って、何がすごいんですか?」


 一旦、諸々を置いて目の前の話に集中する。

  

「第一に希少性。『天』はこの世界でも十数年に一人産まれるか産まれないかのレアな属性です。あとは四大属性の魔法を全て同等に扱えることでしょうか」


 魔力持ちは、自身の属性の魔法を最も上手く扱えるのだという。次に自身の属性より下にある属性の魔法。逆に反対属性となる火と水、風と土はそれぞれの魔法を扱うことが出来ない。


 つまり土属性は土の魔法しか使えず、火属性は火、風、土の三属性を使えるという訳か。


「あの、俺も魔法を習ったりとかは……」

「勿論よろしいかと。調度うちの倅が魔法専門の家庭教師をしていまして、ユウマ様が望むのでしたら都合をつけます」

「ほ、本当ですか! ぜひお願いします!」


 うおおテンション上がってきた。異世界に来た以上、何かそれらしいことをしてみたいと思うのが現代人の性質。一体どんな魔法があるのか、今の時点で期待が止まらない。


「代わりに、先ほどお話しした転性の儀についても何卒ご協力頂きたく」


 にっこりと美しい顔に笑みを浮かべて、フラミスは言う。

 見るものの心を蕩かす微笑みに、それでも思わず己の顔が強張ったのを自覚した。


 転性の儀。ふんわり言うなら「性別問わず愛し合う二人の元にコウノトリが子供を運んでくる」ファンタジー魔法の意。直裁に言うなら性行為をしまくったカップルの片方を子を産める体に作り換える世にも恐ろしい人体改造魔法だ。


 ちなみに「転性」というからには性別が変わるのかと、そう聞いたところフラミスからは「違う」という返答を得た。じゃあどうやって男の身で子供を……いや、これ以上は何も考えはすまい。


「ユウマ様は天、シュルツ様は土で属性が離れています。相性次第ではありますが、最長一年は毎日性交して貰う必要がありますね」

「一年間、毎日」

「はい」


 なんとも気が遠くなりそうな話である。しかしフラミスの顔はマジだ。やるのか、本当に。


 転性の儀は水属性の最高位に位置する魔法で、扱えるのは凄腕かつ同属性への親和性が高い魔力を持つ魔法使いのみとされる


 儀のタイミングは、フラミスが定期的に俺の検診を行い、判断するそうだ。行為の有無について、この魔法のエキスパートである彼が見れば一目同然で、誤魔化す余地はないらしい。


「……あの、ぶっちゃけた話をしても?」

「ええどうぞ」

「好きあってない者同士での性行為って、その、無理があると思うんです。俺はともかくシュルツ様が、俺みたいなの相手にその気になる筈もないし」


 段々話している内に自分でも「何を言ってるんだろう」と視線が横に行き、目が泳ぐ。しかし視界の端に映るフラミスの顔は変わらず真剣だ。


「そういう時の為の媚薬があるので大丈夫です」

「媚薬」

「はい、例えオーク相手でもビンビンになる代物が……ふふ。とはいえ、私はユウマ様の懸念は最もと思いますよ」


 フラミスはふと口元を緩め、椅子に深く腰掛けなおす。

 

「心がなくともこの儀は成り立ちますが、この世に産まれてくる命は皆、愛しあう二人のもとに産まれて欲しい。私もこの儀で、愛する伴侶との間に四人の子をもうけました」

「四……エッ、それは、フラミスさんが。その」

「子は本当に可愛いものですよ、ユウマ様。でも私の場合、それは添い遂げる相手との愛があってこそと思います」


 正直、話が進みすぎてて未だ飲み込めてない部分の方が大きい。しかしだからこそ、今ここで急いではいけないのだろうと、口を開く。

 

「……それなら、儀のことは少し待って貰えませんか。まだ俺はシュルツと、まともに話も出来ていない。ちゃんと向き合いたいんです」


 フラミスはこちらの言葉を聞いた後、こくりと頷いた。


「分かりました……お二人のことでまた進展があれば、私に話してくださいね。大事なことです。焦らずゆっくり進めていきましょう」


 その温かく優しい言葉に、罪悪感が疼く。

 結婚だとか子供だとか。正直己の中では実感すらまともに湧いていない。前向きに検討するかの判断すらあいまいだ。


 何も考えずただこの異世界を楽しむことが出来たら、どれほど良かったことだろう。

 

 しかし泣き言も言ってられない。俺もいいかげん、良い歳をした大人なのだ。まずは自身の出来ることから手を付けていく。その第一の優先事項は、やはりシュルツ本人と話をすることだと思った。



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