25.二度寝しようぜ
一週間後、シュルツがグロリース湖へと来る。彼は俺と二人きりで過ごしたいと確かにそう言っていた。つまりこれは実質の旅行デート。は、初めての、シュルツとのデートになるのか……!?
「落ち着かない様子ですね、ユウマ様」
リオナがどこかげんなりとした声でそう言う。まだ昨晩の疲れが残っているのだろう。今更ながらに、可哀想なことをしたと思う。
「……今日は無理せず寝てても良いぞ? 目の下に隈が出来てる」
「結構です。たしかに昨晩は一睡も出来ませんでしたが、ユウマ様には関係のないことでしょう」
「そんな悲しいこと言うなよぉ……本当に悪かったって、お前をアリエス陛下に売るような真似をしたのは」
早朝、アリエスは生き生きとした笑顔でリオナの肩を抱き、彼を俺の部屋まで送り届けにきた。アリエスは白い素肌の上に薄緑のガウンを纏ったしどけない姿をしていて。その時隣にいたリオナの、俺に向けられる恨みがましげな目をまだ忘れていない。
「ちなみに何があったかは、その、聞かない方が良いよな」
「何もなかったから寝れてないんですよ」
「あ、成程……」
リオナ、お前も一応男なんだな。そしてアリエスは思っていたより節操があるな。と、そんなことを考えつつ口を開く。
「ところで俺は今日、部屋で休むからさ。リオナも一緒に居てくれ」
「観光はよろしいので?」
「ここには二週間弱滞在するわけだし、別に今じゃなくても良いだろう。俺も久しぶりにアリエス陛下と話してまあ、緊張した訳で。少し疲れが残ってる」
「……豪胆なユウマ様でも、緊張することがあるのですか」
「当たり前だろ、俺を何だと思ってるんだ。ついこの間まで元商人のしがないプー太郎してた奴だぞ」
自分で言ってて切なくなってくる。親に代わり経営していた会社を弟に譲り渡し、その後は本当にアテもなくぷらぷらしていた。
もし異世界召喚されてなかったら、今頃は適当な日雇い労働か、手切れ金を食い潰しつつ六畳一間のボロアパートでごろごろスマホでも弄っていたことだろう。
現世を思い出し、目を細めて遠くを見つめていると、リオナが沈黙を破り口を開く。
「ユウマ様、申し訳ありませんでした」
「え、いや謝る……というか謝ってたのは俺のほうだろ」
「寝不足の俺を気を遣って、部屋で休まれることにしたのでしょう? ユウマ様はいつだってお優しい。あなたこそ慣れない環境の中、さぞ孤独と不安に苛まれていたでしょうに、それでも周りへの気遣いを忘れなかった。それに比べて、俺は狭量でした。八つ当たりをしてしまい申し訳ごさいません」
いや明らかに俺が悪いのだから、リオナのそれは八つ当たりでなく正当な怒りで……。
しかしいつまでも頭を上げようとしないリオナに、仕方なく「もういいから」と声をかける。
「とりあえずさ、このまま二度寝と洒落込もうじゃないの。リオナはそこのソファを使ってくれ。外はダミアンが見張ってくれてるから、気負う必要もないし」
「ふふ、ありがとうございますユウマ様。ですが俺はこの椅子で十分。本格的に寝入ってしまえば、もし万が一のことがあった時にユウマ様をお守り出来ませんから」
そう言ってリオナは部屋の隅から、背もたれの付いた椅子を持ってくる。本当に気を遣わなくて良いのに。そう思いつつも、俺は自らの言ったそれを有言実行すべく部屋のカーテンを閉め切り、そうして灯りを消した。




