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24.無礼講だってよ



 宴が始まり、俺たち五人は王家の別邸にて、同じ卓に座りながらゼルフィ王国自慢の美食と美酒を存分に楽しんだ。


 酒についてはヴァリエも負けてはいないとは思ったが、料理については完全にゼルフィ王国へと軍配が上がる。

 

 食材の質もそうだが、何より各種の皿にかかったソースの味が繊細で、格段に美味かった。

 ヴァリエは質実剛健を地でいくお国柄で、王族の食事でも茹でた芋や保存食として作られたハムやソーセージがそのまま皿に盛られてることがザラにある中、ここは次元が違う。


 特にこの中で最も年若いリオナは、すっかりゼルフィ王国の美食に夢中のようであった。目を輝かせ、余すことなく机上の料理を一つ一つを自らの皿によそい、その美味に満面の笑みで舌鼓を打つ。

 

 途中からニコニコと笑うアリエスが、彼の皿に肉をはじめ様々な料理を盛って差し出していることにさえ気付いていない様子だった。


 ああ、これはダメだ……終わったな。色々な意味で。


「ユウマ様」


 そう思う最中、ダミアンが小声で、こちらへと耳打ちする。


「先程、シュルツ様より連絡がありました」

「急ぎ?」

「いえ、ですが宴席は日が沈む前に切り上げた方がよろしいかと」


 ダミアンは『伝達』の魔法の使い手だ。流石に遠く離れた異国の地にて、王子からの伝言を直接聞くことは出来ないが。中継地点に伝達持ちを配備することで、遠方での情報交換を可能にしている。


「アリエス様、この後のご予定は」

「特に決めてないかなぁ。たらふく飲み食いした後だ、休む場所も用意してるし良ければ泊まっていきなよ」

「お心遣い、感謝いたします」

「さっきから固いんだよなぁ〜〜ユウマも。ほらキミの従者を見習いたまえ。すっかり打ち解けて私に心を許している。かわいいじゃないか」

「ア、アリエスさまぁ。いけません、私なんかの為に手ずから料理を差し出すなど……むぐ、うぅ、美味しいぃ」


 うーん、完全に餌付けされている。


「アリエス、あまりハラルド殿の甥御をいじめないでやってくれ」


 ロミアスはすっかり敬語を崩し、グラスに注がれた白葡萄酒を口に運んでいる。彼の父……いや母フラミスは元グロース家の人間であり、アリエスの叔父にあたる。親戚同士、昔から親交はあったのだろう。


「人聞きが悪い。俺はただ愛でたいものを好きに愛でてるだけさ。なあユウマ、この従者を少しの間俺に貸してくれないか。けして悪いようにはしないから」


 ちらと、リオナの方を見る。心底困り果てた顔をしていた。忠義と食欲の間で心が揺れているのだろう。


「何日ほどですか?」

「ユ、ユウマさまぁ……!」

「ああ日はとらせないさ。側仕えがいなければユウマも何かと不自由だろう。今晩だけで良い」

「アリエス」

「止めてくれるなロミアス、俺は真剣なんだ」


 こんなことで真剣になられても困る。しかしロミアスは彼の返しに閉口し、こちらを見て首を横に振る。あ、これダメなやつなんだ……。


「……お手柔らかに願います」

「う、うそですよね? ユウマ様?」

「リオナ、悪いが今日はアリエス様の相手をしてさしあげてくれ。安心しろ、陛下は心のお優しい方だ。お前が本当に嫌がっていれば無理強いはしないさ」


 念の為アリエスに向けて釘を刺しておく。ただまあ、どうだろうな。リオナは歳の割に優れてはいるものの、どこかチョロい一面がある。アリエス様も中身がアレとはいえ、めちゃくちゃ美人だしなぁ。どうだろうなぁ。


 結局その後の酒宴は夕方まで続き、リオナはアリエスに腕を引かれそのまま連行されていく。俺たちもまた彼の言葉に甘え、今日はこの邸に泊まる運びとなった。


 通された私室には、ロミアスとダミアンの姿。袖を捲くったダミアンの腕は太くも逞しく、その肌には紋様のようなものが刻まれていた。ダミアンが呪文を唱え杖をかざすと腕の紋様が光りはじめ、そうして部屋の中に、愛しい男の声が響く。


『ダミアン、そこにユウマはいるか』

「はい、シュルツ様」

「ロミアスさん、これって……」

「伝達魔法の応用になります。少々ラグは生じますが、遠方の者と直接言葉を交わすことができるのです」


 つまり電話のようなものか。ダミアンに促され、腕の紋様に向けて語りかける。


「お久しぶりです、シュルツ様」

『……! ああ、ユウマ。今日そちらに着いたばかりだろう。体の方は何ともないか』

「はい。実は先ほどゼルフィの美食を堪能しまして、なんなら国を出る前より元気ですよ」

『それは良かった……今日連絡したのは他でもない、いの一番にユウマへと伝えたいことがあってな』

「なんでしょう」


『私も一週間後ゼルフィに向かう。仕事の都合がつきそうなんだ。着いたら、お前と二人きりでゆっくり過ごしたい』

 

 シュルツの言葉の意味を遅れて理解する。

 胸中に込み上げたのは、ただただ純粋な喜びの感情であった。


 

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