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21.困ったな



 非常に、困ったことになった。


「やはり難しいですか」

「うう、面目ない」

「ユウマ様が気にすることではありません。ただそうですね……一度、父上に相談してみます」


 ロミアスもまた腕を組みつつ、難しい顔をしている。


 マンティコアの討伐以降、俺は今まで上手く使えていた魔法が、からっきし駄目になってしまった。


 一応、魔力自体には問題がないというのがロミアスの見立てだ。詠唱時の魔力の練り上げも申し分ない。ただ魔力を放出し、発動する段階で制御が不安定になっているとのことだ。


「……魔法が使えないと俺、ひょっとして用済みになっちゃったりします?」

「まさか! 魔力自体が消えてしまったり、先天的に魔法を扱えないならまだしも、後天的な要因であれば遺伝には影響しません。それに、まだ正式な見立てではありませんが、ユウマ様の場合は一時的なスランプでしょう」

 

 あ、魔法にもそういうのってあるんだ。

 

「決して珍しいことではありません。特に初めて戦場に出た魔力持ちが、過度なストレスや精神的ショックにより魔法を扱えなくなることはままありまして……」


 そこまで言って、ロミアスはハッとした顔で口を噤む。

 まあ自分でも、原因はそこしかないだろうと思っていた。


 ひっ迫した戦場での命のやり取り。数多の人間が目の前で死に、また俺が殺した魔物はみな人間と同等の知能を持っていた。


 姿形は違えど、もし彼らにも人間と同じ感情があったなら。魔法を打つ刹那、自らがトドメを刺した幼いマンティコアの最期の姿が脳裏をよぎり、自身の集中力が乱れるのを自覚していた。


 あの時の自分の行動が、間違ってるとは思ってない。しかしきっと、今はまだ俺の感情が追いついていないのだろう。


 午後になり、自らの研究室へと戻ったフラミスの元を訪れる。


「ロミアスから事情は聞いていますよ」

「じょ、情報が早いですね」

「我々は『伝達』の魔法を使えますから、城内程度の広さであれば造作もありません。それで先ほどロミアスとも話をしたのですが、ユウマ様にはそろそろ戦闘で使用する以外の魔法を覚えて頂くのがよろしいかと」


 フラミスは短杖を取り出すと、短い呪文を唱え魔力を解き放つ。するとフラミスの杖先から、ぶわりと無数の花弁が生じて辺りをひらひらと舞った。おお、手品みたいだ。

 

「最近では宴の余興などで使われる魔法ですね。水と土の魔力を組み合わせています。ユウマ様は火と水の複合魔法を使いこなしていましたので、きっとすぐに習得できるでしょう。試してみますか?」


 フラミスの言葉に頷き、早速呪文の練習にとりかかる。十数分後、彼ほどではないものの、自身の杖先から数枚の花弁を生じさせることに成功した。飲み込みが早いと、フラミスは白くたおやかな手でこちらに拍手を送る。


「やはり種類によっては、問題なく魔法を使えるようですね。どうでしょうユウマ様。ここは一度、こういった系統の魔法を覚える方向にシフトしてみるというのは」

「うーん、それなんですけど……出来れば前に使っていた魔法を、また使えるようになりたいんです」

「理由をお聞きしても?」

「近々ランバル家のドミニク様にお会いする予定があるんですが、そこでその。討伐で使用した魔法を披露する機会が訪れそうでして」

「ああ……」


 フラミスが納得のいった様子で頷く。


 ドミニク・ランバル。この国の第二王子エクス・ヴァリエ・ランバルの母方の叔父にして、国一番の火の魔法の使い手だ。


「確かに彼は、ユウマ様の魔法に並々ならぬ関心を示すでしょう」

「ハハ、ですよねぇ……ハァ」

「……でしたらユウマ様。ここは一つ私に任せて頂けないでしょうか」


 フラミスが顎に当てていた手を離し、澄みわたるような緑の瞳でこちらを見やる。

 

「こういったことは結局、時間が解決するのを待つ他なかったりするものです」

「……つまりは」

「ドミニク様との予定以外で、明後日から二週間の内に外せない用事はおありですか? ユウマ様」


 二週間という言葉に、嫌な予感が胸中を過ぎる。確かシュルツに当てられた私信にて、俺もその文言を目の当たりにした気がする。そう、記憶が確かであれば……。


「アリエス様に掛け合って『第629回ゼルフィ王国美人コンテスト』に、あなたを特別ゲストとして招く手紙を出します。他国の王直々の招待とあれば、ドミニク様とて譲らざるを得ないでしょうから」

 

 

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