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20. もどかしい



 あのマンティコア討伐の件以降、俺の生活はがらっと一変した。


 まず俺のそばには、護衛が片時も離れず付くようになった。シュルツの元側近でありハラルドの娘婿だという男、ダミアン・ローエンだ。


 そうして俺の寝所も、以前の部屋からシュルツの居室へと変わった。


「最初からこうしておくべきだった。これでお前を害そうとする輩も、うかつに手を出せなくなるだろう」


 それはまあ、そうかもしれない。


 我ながら不謹慎な考えではあるものの、正直この件でシュルツとの距離がぐっと縮まったのが浅ましくも嬉しい。なにせ彼と毎日、同じ寝床を共にできるのだ。夢のようである。


 しかしその幸福を享受する最中、いささか小さな問題も同時に生じていた。


 一人の時間がない。具体的に言えば、転性の儀に向けて身体の準備をするタイミングが無いのだ。


 何せ自身のそばには常に人の気配がある。以前のよう自室で一人ゆっくりという訳にもいかなかった。

 俺は懸命に頭を働かせ考える。そうして悩んで、諦め、開き直った末の答えがこれだった。


「今日からシュルツ様の隣で毎晩。この道具を使って儀に向けての前準備をしようと思うのですが、構いませんか?」

「…………まあ、そうする他ないだろう」


 案の定渋い顔で、シュルツは俺の提案を飲む。物分かりが良いのはありがたい事だ。


 シュルツの居室は思いの外簡素で、広いベッドにも飾り気が少ない。安全の都合上、彼は定期的に部屋を転々としており、その状況では中を飾り立てる気にもならないというのが彼の弁だ。まあシュルツらしいといえばそうであろう。


 広々とした寝所の上、普段だったら身を寄せ合って眠る所を、少し距離を取る。流石の俺にも若干の羞恥心というものがあるからだ。懐から道具を取り出して、自らの身体に取り付けた。


大丈夫.....これはほら、医療行為の一環みたいなものだから。別にやましいこととかは何もないからぁ.....今のところ。

 

しかしそう平常心を取り繕おうとすればするほど、心身ともに意識してしまう。なんかさ、一周回ってもうこういうプレイなんじゃないかとすら思えてくる。ああ、隣でシュルツが身動ぐ気配にすらビクついてしまう……。


「ユウマ」

「は、はいっ」

「ああ、すまない。驚かせるつもりはなかった……お前には、迷惑をかけるな」


 思いの外真剣なシュルツの声色に、後ろを振り返る。


 彼の深く青い、灰色がかった色の瞳と視線がかちあう。その目には、ある種の後悔のような色が滲んでいた。


「……ユウマ、お前が生きて帰って来てくれて、本当に良かった。ユウマが城から行方不明になり、そうしてスーデンのマンティコア討伐に参加させられていると聞いた時、私はまさしく血の気の引く思いがしたよ」


 いやあ今回のことは普通にビビったけど、そうかぁ。心配かけさせちゃったよな、シュルツにも。元はと言えば俺の不注意が原因だし、悪いことしたな。


「……俺も、次からは気を付けます」

「そうだな。少なくとも見知らぬ人間にはうかつに着いて行かない方が良い。それがお前の身の為だ、ユウマ」


 幼児に対する注意か何かか? いや今回は俺にも非があるのだ。神妙な顔で頷こう。


 シュルツは一瞬こちらに手を伸ばす素振りを見せるが、すぐさま躊躇したように自らの手を引き、寝返りと共に背を向けた。


「シュルツ様?」

「許せ、今お前に触れたら歯止めがきかなくなりそうだ」


 シュルツの言葉に、一拍置いてその理由を理解する。


 あっ…………そっかぁ、うん。


 俺もまた小さく言葉を返した後、頭のてっぺんまでシーツを被り、シュルツの方に背を向ける。自身の顔が、耳の先まで熱を帯び赤くなっているだろうことを知覚していた。


 く、口惜しい。早くシュルツとはばかることなく愛し合えるようになりたい……。


 そう悔しさと同時、悶々とした感情を胸の内に抱えたまま、ただ俺とシュルツの夜は更けていくのであった。


 

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