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【番外編】とある男の独白



 一貴族の当主と、卑しい身分にあった母との間に生まれた俺は、奥方や兄達を初め屋敷上の人間から酷くうとまれていた。


 汚らわしい罪人の女の息子。自分に優れた魔法の才が無ければ、こうして屋敷に引き取られることもなかっただろう。その方がずっと幸せだったかもしれない。粗末なあばら屋から連れ出されたあの日、泣き叫ぶ母の顔がいまだ脳裏に焼き付いて離れない。


 俺は半ば虐待に近いかたちで、日夜魔法の訓練を強いられた。その最中で奥方や兄達をはじめ、多くの嫌がらせも受けてきた。地獄の日々を乗り越え、成人した俺を待ち受けていたのはあくなき魔物達との戦いであった。


 魔法使いとしてそれなりの腕前に育った俺を、父はいたく便利に扱った。他の貴族に顔を売る為、文字通り国中を、時には遠い異国の地にまで足を運び、多くの魔物をその手で殺した。


 戦場はいつだって命がけだ。それでも、屋敷で過ごしたあの日々に比べればずっとマシである。何なら、自分を毎度死地に送り込む父に感謝の念すら抱いていたほどだ。


 それになにより、父のおかげで俺はあの女神に出会うことが出来た。


 一目見た時からずっと、彼の美しさに心を奪われていた。灰色によどんだ己の人生が、一瞬にして極彩色に変わったかのような心地。何より俺の幸運はそこで終わらず、あの女神は自らに微笑み、なんと一夜の慈悲を己にもたらしてくれたのだ。


「お前は少し、私の叶わぬ想い人に似ている」


 そう寂しげに笑う彼の顔と、あの素晴らしい一夜の記憶を俺は生涯忘れることはないだろう。


 彼はこんなにも汚らわしい俺を、その女神の如く美しい身一つで受け入れてくれた。空が白むまで愛し合い、まるで小鳥がさえずるかのよう、甘く優しい睦言を俺の耳もとで囁き続けてくれたのだ。

 

 紛れもなく、人生で一番幸福な時であった。もう、いつ死んだって良い。彼のためなら己の命など幾らでも投げ打てる。心からそう思った。だから。



「処分の決定はフラミスが戻るまで待て。彼はたしか人心を操る薬さえ調合できたはず、こやつの口を割らせるのだ」


 その言葉を聞いて、俺はためらいもなく自らの奥歯に仕込んだ毒薬を噛み砕いた。


 ああ、なんて素晴らしい! 彼は幸福な一夜の記憶だけでなく、俺のつまらない人生に対する極上の復讐の機会すらも与えて下さったのだ。


 国家反逆罪。俺の家族もまず無事ではすまないだろう。ダメ押しで、足が付くよう家の名を使って平民の子供を雇い入れた。あえて自身らが疑われるよう、子供の亡骸の傍らに偽造した証拠すらも残した。死人に口なし。きっとあいつらも極刑に処される。ざまあみろ。


 魔法で作られた即効性の毒が回り、喉の奥からごふりと血が溢れ口から零れ落ちる。


 苦痛と共に途切れる意識の最中。最期に自らの脳裏へ浮かんだのは、やはり愛しいあの人の顔であった。



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