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19.血の清算



 結局、あの後俺は翌日のマンティコア討伐に参加することなく、ヴェイルセルの城へと送り返された。


 夜半血相を変えたリオナとロミアスの両名が天幕を訪れ、火急の用が生じた為俺を即刻ヴァリエに返して欲しいとゲランに嘆願したのだ。


 そうして俺の代わりにロミアスが討伐隊として残り、自分はリオナと二人疾馬でヴァリエへと戻った後、待ち構えていたシュルツに骨が折れるほどの力で抱き締められていた。


「ユウマ、お前が無事で本当に良かった……!」

「い、痛い」

「おやめくださいシュルツ様! このままではユウマ様が折れてしまいます!」


 リオナの声かけに、シュルツはようやく腕の力を緩める。しかしこちらの身を解放する様子はなく、何なら姫抱きで抱え上げられた。え、ひょっとしてこのまま城内に戻ろうとしてる? 流石にそれはちょっと恥ずかしい。


「もうお前を片時も離したくない」


 そうかぁ。じゃあ恥ずかしくてもちょっとだけ我慢しちゃおうかなぁ。


「いけませんよ。この後シュルツ様とユウマ様には、この度の不祥事を起こした者への処分を下して頂かねばなりません」


 処分という仰々しい言葉に、思わずシュルツの方を見上げる。


 彼は、どこか苦々しい顔をして遠くを見つめていた。

 そうして俺も思い当たる。そもそもなぜ、単なるオーク討伐に行く筈だった俺が、あんなおぞましい死地へ突如放り込まれる羽目になったのかを。




「マンティコア討伐の増員には元々、エリク・リベイジが赴く予定であった」


 ヴェイルセル城の謁見の間。首裏に槍を突きつけられ項垂れているのは、中立派貴族であるリベイジ家の三男エリク。


「彼は王命に背き、約束の刻限を過ぎてもなお『牡鹿の庭園』に来る事は無かった。それ故、場所を誤って案内されたユウマ殿がスーデン南部に赴くこととなり、ヴァリエ王国はここ百年現れなかった異世界の同胞を、危うく失う羽目に成りかねなかった」


 ハラルドが、淡々とした口調で語りながら男の姿を見下す。


「その蛮行は我がヴァリエ王国への利敵行為に他ならず、故にエリク・リベイジを国家反逆罪にて極刑に処すのが望ましいと思うが……どうお考えでしょうか、シュルツ殿下」


 おいおい極刑だってよ。冷や汗をかきながら、思わず縋るようシュルツの方を見る。


 彼の眉間には深い皺が刻まれ、その美貌の上に浮かぶ表情には、見るものを威圧する凄まじさがあった。


「エリク・リベイジ。なぜ刻限に遅れた」

「恐れながら殿下。私めの口からそれを申し上げることは出来ないのです」

「そうか」


 シュルツがハラルドの方へと向き直る。


「ハラルドよ。処分の決定はフラミスが戻るまで待て。彼はたしか人心を操る薬さえ調合できたはず、こやつの口を割らせるのだ」

「ですがあの薬の調合には、希少な材料がいくつも必要であったはず。よろしいのですか」

「構わん、それまでは牢に繋いで……」


 不意に、シュルツがこちらの目を大きな手で覆い隠す。ざわめく周囲の声の中、どさりと重いものが地面に落ちる音。そうして嗅ぎ覚えのある、生臭い鉄の匂いが鼻孔をくすぐった。


「ここはお下がりください。ユウマ殿、シュルツ殿下」


 切迫したハラルドの声に、シュルツが目隠しをしたまま俺の肩を抱いて、きびすを返す。


 一体今、目の前で何が起きたのか。つい先ほどまで死地に居たためか、おのずとその答えが分かった。


「……シュルツ様」

「なんだ」

「あの日貴方からの言伝だといって、ポルコと名乗る少年が私を牡鹿の庭園まで案内しました。彼は一体、どうなったのでしょうか」


 数秒の沈黙の後、シュルツが口を開く。


「……そのポルコとやらは、事が露見した時にはもう城に居なかったそうだ。今は兵達が行方を追ってるだろう」


 それは固くも、どこか白々しい声色だった。


 後にハラルドから聞いて知る。ポルコと呼ばれた平民出の少年は、俺がスーデンへと連れられた日の昼にはすでに、城下の裏路地にて変わり果てた姿で発見されたこと。


 そうして今回の件でリベイジ家は貴族の地位を剥奪され、エリクの兄達や両親もろとも国家反逆の罪で極刑に処されたということを。

 


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