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18.エクスという男



 一体俺になんの用があるのか。そう問いかける前に、エクスはその美しい顔を笑みの形に歪め、口を開く。


「いっそ、そのままマンティコアの餌にでもなってしまった方が楽だったろうに」


 二人きりになって早々、とんでもない暴言を吐かれた。

 

 何なんだコイツ、という感情がそのまま顔に出てしまっていたのだろう。エクスは嫌らしげに笑うその顔に、今度はごく自然な苦笑いを浮かべ、俺の隣へと座り込んだ。


「……というのは冗談だ。気分がほぐれたろう?」

「思いっきり逆効果ですね。怖いです、エクス様」

「ユウマ殿は正直だな。まあ安心したまえ。すぐそばに人がいる状況で、私も事を荒立てる気はないさ」


 まるで人が居なければ、今すぐにでもこちらを害さんと言わんばかりの物言いだ。わずかにでも距離を置きつつ、口を開く。


「やはりエクス様は、俺の事を気に入りませんか」

「なぜそう思う」

「あなたは王の地位に対して、シュルツ様より野心的だと伺っています。私がシュルツ様の手によってこの世界に召喚されたことで、エクス様の立場は玉座から大きく遠のいた」

「ふむ……どうやら、自分の立場を弁えるだけの頭はあるようだ。いかにも、私は兄上より己の方がヴァリエの王に相応しいと思っている。お前の存在は、はっきり言って邪魔だ」

「……エクス様こそ、ずいぶん正直な物言いで」

「お前相手に腹芸をする必要もなかろう。だが今回の件で、少なくとも兄上よりはお前のことを見直したよ」


 エクスの口から漏れた意外な言葉に、目を見はる。


「知能持ちかつ高ランクの魔物を相手に、一歩も引くことなく立ち向かう武勇。流石は腐っても伝説に名高い異邦の民といえよう。土魔法すらロクに扱えず、城に篭りっぱなしの腰抜けの愚兄よりは余程上等だ」


 きっと、紛れもない本音なのだろうエクスの言葉に。以前フラミスが言っていたことが脳裏に浮かぶ。


『エクス様は勇猛果敢で決断力のあるお方だ。しかしそれ故、弱きものの心を解さぬところがある。何より彼は、実の兄であるシュルツ様すらも軽んじている』


 確かに彼のいう通りだった。これを自分達の、俺とシュルツの上に立つ王として据えるには余りにも不安材料が大きい。


「……エクス様が、俺をそう評価してくれること自体は嬉しく思います」

「そうか、ならば私の下に付くか?」

「ええ。ただその際は俺だけでなく、シュルツ様と彼を支持する者達にもどうか慈悲の心をお与えください」

「……ほう」

「それが叶わぬまま、あなたの庇護を求めれば俺はシュルツ様を裏切ることになる。どうか分かって頂けないでしょうか」

「分からんな。あんな男などハナから切り捨ててしまえば良かろうに」


 やはり、この場は平行線になるか。

 今の俺には、エクスの考えを変えさせるだけの材料がない。もっと入念な準備と根回しが必要なのだろう。彼をただの情でなく、理屈で納得させる状況を作らなければ。


「おおい、エクスぅ。抜けがけなんて隅におけねえなあ」


 遠くからフェリペの声がする。視線を向けると、天幕の隅から顔を出す赤毛の青年が、ニヤニヤとした顔でこちらを見つめていた。


「早く戻ってこねえと、ゲランのおっさんがおかんむりだぜ」

「私の知ったことじゃないな。だが……まあ良い。もう用は済んだ」


 エクスは立ち上がると、俺の姿を見下ろしたままあの歪な笑みを浮かべ、言葉を紡いだ。


「お前も共に来い。自分が置かれている立場はもう分かった筈だ。いつ命を狙われるやもしれぬ状況で、供も付けずうかつに一人きりになるものではないぞ、異邦人殿」

 


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