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17.ちょっと疲れたな



 この一日で、あまりに色々なことが起こり過ぎた。


「ユウマ殿の魔法は、いささか変わっているな。あれは火の詠唱と、水の詠唱も混じっているのか」

「あ、はい。俺の属性は『天』なので、普通なら扱えない反対属性の火と水を同時に扱ったらどうなるか。試した結果があれでして……」

「実に凄まじい威力であった。そこにおられるフェリペ殿は火の魔法を扱うのだが、どうかね。私の水の魔法と組み合わせたら、同じことが出来るであろうか」

「おい、勝手なこと言うんじゃねえよゲラン。組むならアンタみたいなむさ苦しい大男じゃなく、セレニケと組むね。何せ別嬪だしなぁ」

「お前こそ勝手なことを言うな、見ろ、鳥肌が立ってる」


 そうわいわいと賑やかな酒宴の席の中、俺は目の前の取り分けられた肉をフォークで突きながら、ひたすらに愛想笑いを浮かべていた。


 スーデン王国南部で発生したマンティコアの討伐隊。各国から集まった二十にのぼる魔力持ちのうち、王族もしくはそれに準ずる貴族の大家出身は全部で五人。


 スーデン王国の王弟ゲラン。新レムール帝国の第四皇子フェリペ。ネーベル王国の第三王子セレニケ。ゼルフィ王国グロース家当主の弟ラケシス。そうしてヴァリエ王国からは。


「フェリペの好色は相変わらずだな。お前のとこの王様と良い勝負だ。なぁラケシス」


 その男に名を呼ばれた彼、ラケシスはなんとも曖昧な笑みをその美しい顔に浮かべる。


 エクス・ヴァリエ・ランバル。傲慢不遜な物言いは、今この場でフェリペに次いで威丈高で、また目が眩むほどに誰よりも美しかった。


 輝く黄金の巻き毛に、透き通る青い双眸。抜けるような白い肌の上に形作られる美貌は、誰よりも磨き抜かれていながら、どこか男らしい精悍さを残している。


 アリエスの美しさを月や星で例えるなら、エクスはまさに宙に輝く太陽のような美を持っている。なるほど、これは見た目だけでもシュルツが臆する訳だと。妙に納得した心地のままちびちびと酒を煽る。


「はは、なんだぁエクス? 除け者にされたからって拗ねてるのか。可愛いやつめ。俺はお前ならいつだって歓迎だぜ」

「見ろ、節操がない」

「全くだな」

「まあまあ、英雄色を好むと言うじゃないか」

「ゲランのおっさんもこう見えて大概だからな。ほら、今もヴァリエの長子殿の奥方に色目を使ってやがる」


 唐突に話題の矛先がこちらへと向く。そうか、やはりこれは気のせいじゃないのか。何だかやたら隣に座るゲランの体が近いし、時折肩を抱かれたり妙な気はしていた。


「ははは! 聞けばユウマ殿は私と年も近い。これを機に、もっと気安く深い仲になれればと思ってな」

「粒揃いの美人が居並ぶ中でまあ、イイ趣味してんな」

「フェリペ。いい加減そのふざけた態度を改める気がないなら、私は席を立つぞ」

「へいへい分かったよセレニケ。まったく冗談の通じないやつだ」

「お前のは冗談じゃないからタチが悪いんだろう……さて、それよりユウマ殿。貴殿には初めてお目にかかる」


 慇懃無礼な物言いで、エクスがこちらへと話題を振る。


「先ほどから料理に手を付けていないが、食欲がない様に思う。どうだ? 今まで深められなかった親交を深めるべく、私とここを抜け出さないか」

「その役目は私が慎んで引き受けさせて頂こう、エクス殿」

「アンタは慎む気ないだろゲラン……あー、ユウマ殿。確かに顔色が良くないな。少し外で休んだ方が良いぜ」


 気遣わしげなフェリペの言葉に、平時であれば「こんなお偉方が集まる滅多にない機会! 決して逃してなるものか!」と強引に机に齧り付いてる所だったろうが。今は本当に具合が良くない。


「ありがとうございます、フェリペ様。お言葉に甘えて、少し席を外させて頂きます」


 

 ここはスーデン王国南端の野戦地。豪華にしつらえた天幕を抜け、山中の冷えた空気を胸いっぱいに吸い込む。


 無性に、今はシュルツの顔が見たくて仕方が無かった。


 万全の体制を整えた上でのオーク討伐の筈が、気付けば見知らぬ地で、いきなり過酷な戦場へと放り込まれ命の危機に晒されている。


 戦いが始まった時は、まるで何かのスイッチが入ったかのよう深く考える事はしなかった。しかし今は違う。


 ひょっとしたら、自分もまたあの兵士達のように命を落としていたかもしれない。そう思うと恐怖で手の震えが止まらず、思わずその場にうずくまった。


 ゲランはマンティコアの個体数について残り二十弱と言っていた。ということは、またあの戦場に出なければいけないのだろう。嫌だなぁ。帰りたいなぁ。


「気分が優れぬようだな、異邦者殿」


 男の声にも関わらず、まるで小鳥のさえずるような響きを持って耳をくすぐるそれ。


 声の方へ振り向くと、そこには夜空の下でも輝く様な美貌を持つ青年、エクスの姿があった。



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